ゼレンスキー大統領 ウクライナ軍の総司令官交代を発表

ウクライナのゼレンスキー大統領は8日、国民に人気の高いザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官を任命しました。発表を前にゼレンスキー大統領とザルジニー氏は一緒にうつった写真をSNSに同時に投稿するなど、互いを尊重している姿勢を示し、解任に対する国民の反発や混乱が広がるのを防ぎたい思惑があるとみられます。

ゼレンスキー大統領は8日、公表した動画で、「きょうから、新たな指導部が軍を引き継ぐ」と述べ、ザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官に陸軍のシルスキー司令官を任命したと発表しました。

発表を前にゼレンスキー大統領は、Vサインをみせるザルジニー氏との2人の写真を感謝のことばとともにSNSに投稿し、ザルジニー氏も同じ時間に、ゼレンスキー大統領らへの謝意を添えて同じ写真をSNSに投稿しました。

ザルジニー氏は国民に人気が高いことで知られていますが、ゼレンスキー大統領とのあつれきが指摘され、先月下旬以降、解任されるという見方が相次いで伝えられていました。

そろって写真を投稿した背景には、双方が互いを尊重している姿勢を示し、解任に対して国民の反発や混乱が広がるのを防ぎたい思惑があるとみられます。

発表を受けて、アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は8日の記者会見で、「われわれはゼレンスキー大統領が軍の責任者に任命したいかなる人物とも協力する」と強調しました。

また、フランスのルコルニュ国防相は「われわれのビュルカール統合参謀総長はザルジニー総司令官と、この2年間、強い信頼関係を維持してきたが、後任の総司令官とも、同じように関係を築いている」と述べました。

ただ、後任のシルスキー氏をめぐっては、欧米メディアが旧ソビエト式の司令官で、東部バフムトの戦闘で多くの兵士の命を失わせたなどとして、兵士の反発を招く可能性もあると指摘しています。

2人の写真を投稿 “交代は対立なく行われた”と強調か

ゼレンスキー大統領は8日、解任の発表を前に笑顔でVサインを送るザルジニー氏との2人の写真をSNSに投稿し、「2年間、国を守ってくれてありがとう」と感謝のことばを添えました。

そのうえで、「チームに残るよう要請した。われわれは絶対に勝利する」などと述べ、国民からの人気が高いザルジニー氏への配慮を示しました。

また、ザルジニー氏もゼレンスキー大統領と同じ時間に同じ写真をSNSに投稿し、「戦争初期の最も困難な日々に卑劣で強力な敵にともに立ち向かい、ともに耐えてきた。われわれの戦いは続き、日々変化している。2022年の任務は2024年の任務とは異なる。それゆえに、誰もが変化し、新たな現実に適応しなければならない」と述べました。

そのうえで、「私とともにいるすべての人に感謝している。参謀本部や国防省、ウクライナ大統領」などと述べ、ゼレンスキー大統領への謝意を示しました。

ゼレンスキー大統領とザルジニー氏の間にはあつれきが生じているという指摘も相次いでいましたが、双方がお互いを尊重している姿勢を示し、総司令官の交代は対立なく行われたと強調して、解任に対する国民の反発や混乱が広がるのを防ぎたい思惑もあるとみられます。

林官房長官「ウクライナ支援を強力に推進」

林官房長官は閣議のあとの記者会見で、「他国の内政に関わる事項について、政府の立場でコメントすることは適切ではない」と述べました。

その上で、「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序全体の根幹を揺るがす暴挙であるというのがわが国の一貫した立場であり、1日も早い、公正かつ永続的な平和を実現すべく、対ロ制裁とウクライナ支援を強力に推進していく必要がある。引き続き、G7を含む同志国などと緊密に連携しつつ、ウクライナに寄り添った取り組みを継続していく」と述べました。

米 戦略広報調整官「いかなる人物とも協力する」

アメリカ・ホワイトハウスのカービー戦略広報調整官は8日、記者会見で、ゼレンスキー大統領がザルジニー総司令官を解任し、新しい総司令官を任命したことについて、「われわれはゼレンスキー大統領が軍の責任者に任命したいかなる人物とも協力する」と述べて、今後もウクライナと連携していく考えを示しました。

仏 国防相「後任の総司令官とも同じように関係築いている」

フランスのルコルニュ国防相は8日、フランス南東部の基地で、記者団の取材に応じ、ザルジニー総司令官の解任について、「われわれのビュルカール統合参謀総長はザルジニー総司令官と、この2年間、強い信頼関係を維持してきたが、後任の総司令官とも同じように関係を築いている」と述べ、これまでと変わらず、ウクライナ側との信頼関係を築いていけるという考えを示しました。

解任されたザルジニー氏とは

ザルジニー氏は1973年生まれの50歳。

1997年に軍人としてのキャリアをスタートさせたザルジニー氏は、陸軍で要職を歴任した後、ロシアによる軍事侵攻が始まる前の2021年7月にウクライナ軍の総司令官に就任しました。

ロシアによる侵攻開始後はたびたび最前線にも赴くなどして、軍事作戦の指揮をとり続けてきました。

国民からの人気も高く、去年12月にキーウ国際社会学研究所が発表した世論調査では、総司令官のザルジニー氏を「信頼している」と回答した人が88%にのぼり、ゼレンスキー大統領を「信頼している」と答えた62%を上回りました。

ザルジニー氏は去年11月には、イギリスの経済誌「エコノミスト」に「現代の陣地戦とその勝ち方」と題する論考を寄稿するなど、理論派としても知られていました。

また、解任の可能性が報じられる中、今月にはアメリカのCNNテレビに寄稿し、欧米からの軍事支援について、各国の不安定な政治情勢が支援の縮小につながっているとした上で、今後は無人機など安くて効果的な技術をさらに活用する必要性があると強調するなど、独自の分析を発信していました。

一方で、去年6月に始まった反転攻勢が当初の想定より進んでいないと伝えられる中、戦況の認識や動員などを巡ってザルジニー氏とゼレンスキー大統領との間で意見が対立するなど、あつれきも生じていると指摘されていました。

去年12月、ウクライナのメディア「ウクラインスカ・プラウダ」は大統領の側近の話として、ゼレンスキー大統領が直接、一部の司令官とやりとりしているため軍の指揮系統が乱れ、ザルジニー氏が軍全体を統率できなくなっているとの見方を伝えていました。

そして、先月下旬からウクライナや欧米のメディアが、ザルジニー氏が解任されるのではないかという見方を相次いで伝えていました。

新たな総司令官 シルスキー氏とは

新たに総司令官に任命されたシルスキー氏は58歳。

2019年からウクライナ陸軍の司令官を務めています。

ゼレンスキー大統領は8日に公開した動画のなかで、シルスキー氏について、「首都キーウの防衛や東部ハルキウ州の解放で作戦を指揮し、成功を収めた。最も経験豊富な司令官だ」と述べ、これまでの功績を強調しました。

一方、アメリカの有力紙、ワシントン・ポストは8日、「シルスキー氏はウクライナ東部ドネツク州のバフムトで兵士たちをあまりにも長く敵の攻撃にさらし続けた指揮官で、戦略的価値に乏しい町を守るために多くのウクライナ兵が犠牲となった」とした上で、「シルスキー氏を総司令官に任命する決定は現場の部隊の反発を招くことが予想される」と指摘しています。