「記憶なくても」語り継ぐ29歳も 阪神・淡路大震災 語り部の今

6434人が犠牲となった阪神・淡路大震災の発生から今月17日で29年ですが、神戸大学の調査で兵庫県内を拠点に震災の記憶や体験を伝えてきた団体では「語り部」の半数余りが70代以上となっていることがわかりました。
一方、10代や20代が中心となる団体も新たに設立されているということで、継続的な活動の支援が課題となっています。

1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、神戸市など都市直下を襲った最大震度7の揺れによって住宅の倒壊や火災などが相次ぎ、その後の避難生活などで命を落とす「災害関連死」も含めて6434人が亡くなりました。

神戸大学地域連携推進本部の山地久美子特命准教授は、去年12月、阪神・淡路大震災の語り部活動に10年以上にわたって取り組む兵庫県内の13の施設や団体を対象に語り部の年齢構成などを調査しました。

それによりますと、各施設や団体に所属する語り部はあわせて158人で、このうち70代以上が全体の半数余りにあたる84人でした。次いで50代が26人、60代が24人、40代が11人、30代が10人、20代が3人となっています。

調査に対して「後継者がおらずこのままでは活動の継続が難しい」とか、「働く世代が参加するための社会的な支援が必要だ」といった意見が寄せられたということです。

一方、山地特命准教授による別の調査によりますと、阪神・淡路大震災の経験が無い10代や20代の若い世代が中心に活動する「語り部」の団体がこの4年間で新たに2つ設立されています。

また、個人によるライブ配信での語り部活動も行われているということで、今後どのようにして次世代の育成や継続的な活動の支援を行っていくのかが課題となっています。

山地久美子特命准教授は「みずからのことばで語る震災の記憶や教訓は説得力があり、新たな災害への備えを考える上でも重要だ。学生や働く世代にも語り部の活動に参加してもらえるよう、支援のあり方を社会で考えていく必要がある」と話しています。

講演依頼の半数を80歳の語り部1人で

「語り部」の高齢化が進み担い手の確保が課題となる中、今後の継続的な活動に危機感を募らせている語り部団体もあります。

阪神・淡路大震災を経験した自治体の元職員などでつくる神戸市のNPO法人「神戸の絆2005」は、行政の立場から当時の経験を語り継ぐ活動を続けています。

最も多い時で30人ほどの語り部が所属していましたが、高齢化などを背景に年々、減少し、実際に活動している語り部は現在8人だということです。

NPOで19年にわたって語り部の活動を行っている大濱義弘さん(80)は、当時、神戸市の小学校で校長を務めていたことから、避難所運営の対応にあたった経験などを各地の講演会で語ってきました。

今年度は兵庫県を訪れる修学旅行生などを対象にした講演会の依頼が20件ほど寄せられていますが、このうち10件余りを大濱さん1人で対応しているということです。

団体で活動する8人の語り部の平均年齢は80歳近くと年々、高齢化が進んでいて、大濱さんも体力が続くかぎり、語り部の活動を続けていきたいと考えていますが、今後の継続的な活動のためには新たな語り部の確保が大きな課題となっています。

大濱さんは「語り部の数は設立当初の多かった時期に比べて今はかなり減ってしまっていて、団体を継続できるかどうか強い危機感を持っています。新型コロナウイルスによる影響で減少していた講演の依頼が最近になって戻ってきているので、震災から30年となるのを前に改めて団体の活動を積極的に発信するなど有効な手立てを考えていきたい」と話していました。

「記憶がなくても」語り継ぐ若い世代も

阪神・淡路大震災の記憶がなくても、新たな災害に備えて語り継いでいこうとする若い世代の動きも出てきています。

兵庫県淡路市出身の会社員、米山未来さん(29)は、生後2か月の時に阪神・淡路大震災に遭いましたが、当時の状況や街の被害の様子などについて記憶は全くありません。

しかし、淡路市の施設で19年にわたって語り部の活動を続けている父の正幸さんの思いを継いでいきたいと、5年前にみずからも語り部の活動を始めました。

特に同じ若い世代に関心を持ってもらおうと、スマートフォンのアプリを使ったライブ配信で当時の被害規模や防災に役立つ情報などをクイズ形式で伝えるなど、独自に工夫してきました。

活動を始めた当初の心境について米山さんは「記憶のない自分が震災のことを語ってもよいのだろうかと考えることもありましたが、相談した父親が『記憶がなくても語っていい』と言って背中を押してくれました。その後は自分だからこそ震災を経験していない若い世代の気持ちを理解できると思い、独自の方法で語り継ぎを続けてきました」と振り返ります。

最近はライブ配信の経験などから講演会の依頼が寄せられるようになったということです。

「悲しい思いする人を減らしたい」

米山さんは14日、東日本大震災と東京電力福島第一原発の事故で大きな被害を受けた福島県双葉町にある県の施設を訪れ、東日本大震災の語り部の活動に取り組む人たちを前に講演しました。

米山さんはまず今月1日に起きた能登半島地震に触れ「個人として被災地に入って支援することが難しい中、ひとりの語り部として何ができるのか考える日々です」と心境を語りました。

そして阪神・淡路大震災では、建物の倒壊が相次いだほか各地で大規模な火災が発生したことも被害が広がった要因の1つだと指摘したうえで「地震では激しい揺れだけでなく火災などが引き起こされる可能性もあるため、ふだんからあらゆる危険に備えておくことが重要です。私には震災の記憶がありませんが災害によって悲しい思いをする人を減らしたいという思いを大切にして、今後も伝える活動を続けたいです」と話していました。