米英軍 イエメンのフーシ派拠点攻撃 フーシ派側“5人死亡”

アメリカ政府は11日、アメリカ軍とイギリス軍がイエメンの反政府勢力フーシ派の拠点に対し攻撃を行ったと発表しました。紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返すフーシ派への報復措置だとしています。

また、今回の攻撃を受け、フーシ派は12日、SNSにビデオ声明を投稿し「アメリカとイギリスはイエメンの首都サヌアやホデイダなどを目標に73回攻撃を行い、イエメンに対する侵略を行った。わが軍で5人が死亡し、6人がけがをした」と明らかにしました。フーシ派の報道官は「今後さらに、厳しい軍事的報復を行う」と明らかにし、対抗する姿勢を強調しました。

アメリカのバイデン大統領は11日、アメリカ軍とイギリス軍が合同でイエメンの反政府勢力フーシ派の複数の拠点に攻撃を行い、成功したと声明で明らかにしました。

フーシ派が紅海を航行する船舶に対し弾道ミサイルなどで攻撃を繰り返していることへの直接の対応だとしていて、報復措置として軍事行動に踏み切った形です。

バイデン政権の高官は記者団に対し「今回の攻撃はフーシ派の船舶に対する攻撃能力の破壊が目的で、目標はミサイルやレーダー、無人機の関連施設だ」と述べました。

CNNテレビは戦闘機による空爆が行われたり、潜水艦から巡航ミサイル「トマホーク」が発射されたりしたと報じました。

フーシ派はイスラエルと軍事衝突を続けるイスラム組織ハマスとの連帯を掲げて、船舶への攻撃を繰り返しています。

アメリカ中央軍は11日にも弾道ミサイルによる攻撃があったとしたうえで、去年11月19日以降、攻撃はこれまでに27回に上るとしています。

アメリカ軍がフーシ派の拠点を攻撃するのは、船舶への攻撃が始まって以降、初めてです。

アメリカ政府は今月3日、日本やイギリスなど12か国と共同で声明を発表し、フーシ派に対して「責任を負うことになる」などと警告したほか、国連安全保障理事会も10日、攻撃を非難し、直ちにやめるよう求める決議案を賛成多数で採択しました。

また、今回攻撃を行ったアメリカとイギリスに加え、オーストラリアや韓国など10か国は12日、共同で声明を発表しました。

それによりますと、アメリカ軍とイギリス軍はオランダやカナダ、バーレーン、そしてオーストラリアの支援を得て、共同で攻撃を実施したとしています。

また、去年11月中旬以降、フーシ派による商船への攻撃は20回を超え、国際的な課題となっているとして「この行動は、航行の自由や国際通商、船員の生命を守るという共通の決意を示したものだ」としています。そして「われわれは、継続的な脅威に直面しても、人命を守り、世界で最も重要な水路のひとつにおける自由な通商の流れを守ることをためらわない」としてフーシ派の動きをけん制しました。

バイデン大統領 “さらなる措置もちゅうちょせず”

アメリカのバイデン大統領はイエメンの反政府勢力フーシ派への攻撃について、声明を発表しました。

それによりますと、バイデン大統領は「攻撃はフーシ派が紅海を航行する船舶に対し前例のない攻撃を繰り返していることへの直接の対応だ」として、報復措置として軍事行動に踏み切ったとしています。また、フーシ派がこれまでに紅海で27回、船舶への攻撃を行って50以上の国が被害を受けたとしています。

そのうえで、バイデン大統領は「今回の攻撃は航行の自由を脅かす行為は許さないという明確なメッセージだ。必要であればさらなる措置を命じることもちゅうちょしない」と強調しました。

英スナク首相 “世界の海運を守る必要かつ適切な自衛行動”

イエメンの反政府勢力フーシ派の拠点に対する攻撃にはイギリス軍も参加しています。

スナク首相は12日声明を発表し「国際社会のたび重なる警告にもかかわらず、フーシ派は紅海で攻撃を続けてきた。これは堪え難い」としたうえで、イギリスはフーシ派の攻撃力を低下させ、世界の海運を守るために限定的で必要かつ適切な自衛行動をとったとしています。

一方、攻撃の内容についてイギリス国防省は、空軍のタイフーン戦闘機4機で
▽イエメン北西部にある偵察・攻撃用の無人機の拠点と
▽北西部アブスにある巡航ミサイルや無人機の拠点となっている飛行場に対し、
誘導爆弾による精密爆撃を行ったと明らかにしました。

国防省は「市民へのリスクを最小化するよう特に配慮した。空爆の詳しい結果は評価中だが、初期段階では商船の運航を脅かすフーシ派の攻撃能力はそいだとみられる」としています。

また、攻撃についてイギリスの国防相は12日に「ただちに計画されているものはない」として、現時点ではさらなる攻撃は予定していないとしています。そのうえで「攻撃は、限定的で、適切かつ必要な対応だった」と強調しました。

ロシア外務省報道官「米と同盟国の無責任な行動強く非難」

ロシア外務省のザハロワ報道官は12日、記者会見のなかで「アメリカと同盟国による無責任な行動を強く非難する。中東全体の不安定化を引き起こす可能性がある。われわれは、国連安全保障理事会の緊急招集を要求している」と述べ、アメリカとイギリスを非難しました。ロシアとしては中東情勢を注視するとともに、ウクライナ侵攻などを巡り激しく対立するアメリカやイギリスの軍事的な動きをけん制するねらいとみられます。

フーシ派とは

フーシ派はイランの支援を受けるイエメンの反政府勢力で、2015年以降、首都サヌアを武力で掌握しています。

イランの協力によって巡航ミサイルや弾道ミサイル、それに無人機など、軍備を増強してきたとされ、近年、海上での活動も活発化させていると指摘されています。

イエメンの内戦では敵対する政権側を支援するサウジアラビアやUAE=アラブ首長国連邦などに対し、ミサイルや無人機で石油施設や軍の基地を攻撃してきました。

去年10月にイスラエルとイスラム組織ハマスの一連の衝突が始まってからは、ハマスとの連帯を掲げ、イスラエルに向けてミサイル攻撃などを行うとともに、紅海を航行する船舶への攻撃を繰り返しています。

ハマスも声明「露骨な侵略で地域の安全保障への脅威だ」

イスラム組織ハマスは12日、声明を出し「アメリカとイギリスによるイエメンへの爆撃を最も強いことばで非難する。われわれはこれを犯罪で、イエメンの主権に対する露骨な侵略で、地域の安全保障への脅威だと受け止めている。イスラエルの影響のもとで行われたこのテロ行為は地域の怒りと緊張を高めるだけで、アメリカとイギリスはその責任を負うことになる」として、フーシ派との連帯を強調しました。

その上で「イスラエルがパレスチナとアラブの土地に対する占領を終わらせ、アメリカとイギリスが国家の主権とアラブの人々の利益を尊重しない植民地政策を見直さないかぎり、この地域に安全と安定がもたらされることはないと断言する」として、全面的な対決姿勢を改めて打ち出しました。

フーシ派の幹部 “複数都市に攻撃行われた”

イエメンの反政府勢力フーシ派の幹部の1人は12日、SNSに「アメリカ、イスラエル、イギリス主導の攻撃が、首都のサヌア、ホデイダ、サアダ、ダマールで行われた」と投稿し、イエメンの複数の都市に対して攻撃が行われたと明らかにしました。

イラン外務省 「イエメンの主権への明らかな侵害」

アメリカ軍とイギリス軍がフーシ派の拠点に対し攻撃を行ったことを受けて、フーシ派を支援してきたイランの外務省のキャンアニ報道官は声明を出し「イエメンの主権に対する明らかな侵害だ。アメリカやイギリスは、イスラエルがパレスチナで続ける戦争犯罪から世界の人々の注意をそらそうとしている」と強く非難しました。

そのうえで「こうした攻撃は地域の不安定化を助長するだけだ」と懸念を示しました。

国連安保理の緊急会合 日本時間13日午前開催で調整

アメリカ軍とイギリス軍がイエメンの反政府勢力、フーシ派の拠点に対して攻撃を行ったことを受けて、国連の安全保障理事会では、対応を協議する緊急会合の開催をロシアが要請し、1月の議長国フランスは日本時間の13日午前に開催する方向で調整しています。

これまでの攻撃 推計257隻に影響

イエメンの反政府勢力、フーシ派による船舶への攻撃は去年11月から繰り返されています。

去年11月19日、アラビア半島の南端、イエメン近くの紅海を航行中だった日本企業が運航する貨物船がフーシ派に乗っ取られました。

貨物船には乗組員25人がいて、アメリカや日本など12か国が共同で船舶や乗組員の解放を求めています。

去年12月3日には、フーシ派は紅海につながるバーブルマンデブ海峡でイスラエルの船舶2隻に対する攻撃を行ったと発表しました。

去年12月26日にはスイスの海運大手MSCのサウジアラビアからパキスタンに向かっていたコンテナ船が、紅海を航行中に攻撃を受けたと発表し、フーシ派の報道官も巡航ミサイルでこの商船に攻撃を行ったことを認めました。

フーシ派はイスラム組織ハマスとの連帯を掲げていて、「イスラエルがガザ地区への侵攻をやめないかぎり、イスラエルの船舶による紅海などでの航行を阻止し続ける」などとしています。

相次ぐ攻撃を受け、海運大手各社は紅海やスエズ運河を経由した輸送を避けてう回する対応を余儀なくされています。

アメリカの物流調査会社プロジェクト44によりますと、1月9日時点で、影響を受けた船の数は推計で262隻に上るということです。

このうち、257隻がアフリカの喜望峰を回るルートに変更し、大多数の船は輸送の日数が7日から20日ほど追加でかかるとしています。

この調査会社によりますと、スエズ運河を通る船の数は12月31日から1月7日の週で、1日当たり61%減少しており、例えば東南アジアとヨーロッパを結ぶ航路ではおよそ4倍も時間がかかると分析していて、物流の混乱や運賃の値上がりを通じた物価上昇への懸念も出ています。

コンテナ船の運賃 今後の状況次第でさらなる上昇を懸念

コンテナ船の運賃は、イスラエルとイスラム組織ハマスの軍事衝突が始まった去年10月以降、急激に値上がりしています。

イギリスの物流調査会社、「ドリューリー」によりますと、40フィートのコンテナ1個当たりの運賃は、今月11日の時点で3072ドルで、衝突が始まる直前の10月5日時点と比べた運賃は2.2倍となっています。

航路別にみますと中国の上海からオランダのロッテルダムに向かう航路で4.2倍、上海からイタリアのジェノバに向かう航路で3.5倍。また、スエズ運河を通らない上海からニューヨークに向かう航路でも1.5倍に上昇しました。

物流調査会社は、今後の運賃の動向について、来月の中国の旧正月の春節を前に例年、海運の需要が高まる傾向にあることや、紅海やスエズ運河の状況次第でさらなる上昇も懸念されるとしています。

林官房長官「関係国の決意を支持 必要な対応行う」

林官房長官は、記者会見で「わが国としては、フーシ派が紅海をはじめとするアラビア半島周辺海域における航行の権利や自由を妨害し続けていることを非難し、船舶の自由かつ安全な航行を確保するために責任を果たそうとするアメリカをはじめ関係国の決意を支持する」と述べました。

そのうえで「今回の行動は、これ以上の事態の悪化を防ぐための措置と理解している。引き続きアメリカをはじめとする関係国と緊密に連携しながら、航行の権利や自由の確保のために役割をしっかりと果たし、必要な対応を行っていく」と述べました。

木原防衛相「周辺海域の安定化へ関係国と緊密に連携」

木原防衛大臣は、閣議のあとの記者会見で「引き続きソマリア沖アデン湾での海賊対処行動を適切に実施し、紅海を含む周辺海域の安定化に貢献すべく、関係国と緊密に連携していく」と述べました。

フーシ派「5人死亡 6人けが」

今回の攻撃を受け、フーシ派は12日、SNSにビデオ声明を投稿し「アメリカとイギリスはイエメンの首都サヌアやホデイダなどを目標に73回攻撃を行い、イエメンに対する侵略を行った。わが軍で5人が死亡し、6人がけがをした」と明らかにしました。

フーシ派報道官「今後さらに厳しい軍事的報復を行う」

アメリカ軍とイギリス軍による攻撃を受け、フーシ派のアベド・トール報道官が12日NHKのオンラインインタビューに応じ「イエメンに対するアメリカの攻撃は愚かな行いで 地域の緊張感を高めるだけだ」と非難しました。

そのうえで「われわれは攻撃から10分以内に、アメリカの戦艦に対して弾道ミサイルや無人機での攻撃を行った。今後さらに、厳しい軍事的報復を行う」と明らかにし、対抗する姿勢を強調しました。

また、「われわれの立場は変わらない。 イスラエルなどへの攻撃は今後も続く」として、ガザ地区への攻撃が終わらないかぎり、今後もイスラエルやアメリカへの攻撃を続けると主張しました。

一方で、去年11月からフーシ派がだ捕している日本企業が運航していた貨物船やその乗組員の解放については「アメリカの攻撃で状況は複雑化した。解放のための条件はさらに厳しくなるだろう」として、解放の見通しは立っていないと述べました。

アメリカ軍などの攻撃で、フーシ派が対抗姿勢をさらに鮮明にしたことで、世界的な海上輸送への影響に加え、戦闘が中東地域でさらに拡大することも懸念されます。