名護市辺野古沖 大浦湾側での代執行に伴う工事 着手

沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設先となっている名護市辺野古沖の代執行に伴う大浦湾側での工事について、防衛省は必要な準備が整ったとして、10日、着手しました。

普天間基地の名護市辺野古への移設をめぐっては、沖縄県が軟弱地盤がある大浦湾側での改良工事を承認しないことから、先月28日、国土交通省が代わって承認する代執行を行い、防衛省沖縄防衛局は着手に向けて準備を進めてきました。

そして、10日午前10時半ごろから、船の上で複数の作業員が重機の点検や海面の状況を確認するなどし、正午すぎ、ショベルカーから海中への石材の投入が始まり、工事に着手しました。

防衛省によりますと、10日行われたのは護岸の造成工事に向けた作業の一環で、今後、地盤を改良するため、およそ7万1000本のくいを海底に打ち込む工事も進めることにしています。

防衛省はすべての工事や手続きが終わり、普天間基地の移設が可能になるまでには12年ほどかかるとしています。

岸田首相「1日も早い全面返還に向けて努力」

岸田総理大臣は記者団に対し、「準備が整ったため、防衛省で工事に着手したと承知している。世界で最も危険と言われる普天間飛行場の固定化は絶対に避けなければならず、1日も早い全面返還に向けて努力を続けていく。これからも丁寧な説明を続けていきたい」と述べました。

その上で、記者から、「政府が示した9年3か月の工期の間に工事を終えると約束できるか」と質問が出たのに対し、「工程は防衛省で必要な検討を行った上で作成したものであり、これに従って工事を進めるべく全力で取り組んでいきたい」と述べました。

林官房長官「工期9年3か月の起点」

林官房長官は記者会見で、「所要の準備が整ったことから、きょう、大浦湾側の工事に着手するという報告を防衛省から受けている。工事完了までの工期を9年3か月と示してきているが、きょうの着手がこの起点にあたる」と明らかにしました。

その上で、工事に関する沖縄県側との協議をめぐり、「工事の実施設計については沖縄防衛局が沖縄県と協議を行っていて、引き続き、適切に対応していくと承知しているが、今般、着手する整備はこの協議の対象外だと認識している」と述べました。

また、沖縄県側から反発も予想される中での工事の必要性を問われ、「辺野古移設が唯一の解決策であるとの方針に基づき、着実に工事を進めていくことが、普天間飛行場の1日も早い全面返還を実現し、危険性を除去することにつながる。今後とも地元への丁寧な説明を行いながら、基地負担の軽減を図るために全力で取り組んでいく」と述べました。

沖縄 玉城知事「誠に遺憾だ」

沖縄県の玉城知事は10日夕方、報道各社の取材に応じ、工事が始まったことについて、「平成25年に工事の施工や環境保全対策などについて協議するよう定められている。去年12月に国土交通大臣によって大浦湾側の工事が承認されたことから、県は協議を開始することとしたが、協議が整っていない中で工事が着手されたことは誠に遺憾だ」と述べ、不快感を示しました。

また、林官房長官や木原防衛大臣が地元に丁寧な説明を行うと発言していることについて、「私はこれまで辺野古新基地建設問題を含む基地問題について、1度たりとも林官房長官とも木原防衛大臣とも面会する機会をいただいていない。一方的な文書の送付が重ねられ、工事の着手が強行されたことは『丁寧な説明』とは到底真逆の、極めて乱暴で粗雑な対応がなされたものと言わざるをえない。たたみかけるように工事を進めることで、『あきらめ感』をかもし出そうとしているのであれば大きな間違いだ。県民の民意を軽んじていては、日米安保体制にも大きな影響が及び続ける」と述べ、政府の対応を批判しました。

そして、「政府においては、埋め立て工事の強行がもたらしている甚大な問題を直視したうえで、沖縄の苦難の歴史に一層の苦難を加える辺野古新基地建設を直ちに中止するよう求める」と述べ、対話による解決を求める考えを重ねて示しました。

名護市長「国と協議していく手段について検討していく」

軍普天間基地の移設先になっている名護市の渡具知武豊市長は「工事が進んでいくという状況の中で、近隣住民の不安を払拭(ふっしょく)し、環境を守ることが私の責務だと思っている。これまでも基地や工事に伴って派生する諸問題について地元の声を国に伝えてきた。今後のことも含めて、国と協議していく手段について検討していく」と述べました。

宜野湾市長「返還のめどがたったと考えている」

普天間基地を抱える宜野湾市の松川正則市長は「すでに代執行によって承認されていたので、普通の流れとして受け止めている。これまでの裁判の経緯もしっかり踏まえてきょうに至り、普天間飛行場返還のめどがたったと考えている」と述べました。

移設が完了するまで12年かかるとされていることについては、「固定化に近いのではないかと言う人もいるが、返還合意からは28年に至っている。跡地の開発に向けての取り組みもあるし、騒音などの負担軽減はしっかり要請していきたい。1日も早い返還に向けて何ができるかが一番だ」と述べました。

木原防衛相「基地負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく」

木原防衛大臣は防衛省で記者団に対し、「辺野古移設が唯一の解決策であるという方針に基づいて、着実に工事を進めていくことが、普天間基地の1日も早い全面返還を実現し、その危険性を除去することにつながると考えており、準備が整った本日、大浦湾側での工事に着手したことは適切だったと考えている。今後も地元の皆さまに丁寧な説明を行いながら、基地負担の軽減を図るため全力で取り組んでいく」と述べました。

その上で、「防衛省としては移設までの間に普天間基地の危険性除去というのが極めて重要な課題だと認識しており、引き続き、オスプレイの訓練移転などを通じて、全力で取り組んでいかなければならないと思っている」と述べました。

また、記者団から、防衛省が能登半島地震に対応しているさなかでの着手は適切だったか問われたのに対し、「あらゆることを同時に並行してやっていくということであり、必要なことは着実にやっていく。普天間基地の移設は必要なことだ」と述べました。

自民 森山総務会長「普天間基地の危険排除が大事」

自民党の森山総務会長は記者会見で、「世界の中でも非常に厳しいアメリカ軍普天間基地の危険をどう排除していくかということが大事だ。そのために工事を始めさせていただいたということに尽きる」と述べました。

自民沖縄県連 座波政調会長「これ以上協議するものないのでは」

自民党沖縄県連の座波一政務調査会長は「代執行が決まった中で予想できることだったので特段驚くことはなかった」と述べました。

そのうえで、「この代執行は本当は望ましいものではないが、残念ながらそのような形になったことは、沖縄県としても受け入れざるをえない状況だということを認識するべきだ。もう、これ以上、協議するものはないのではないかと考えている」と述べました。

県議会 照屋議員「非常に怒りを持って受け止めている」

玉城知事を支える県議会の与党会派「てぃーだ平和ネット」の照屋大河議員はNHKの取材に対し、「暴力的に事業を開始し、土砂を投入するということについて、非常に怒りを持って受け止めている」と述べました。

そのうえで、代執行訴訟の判決で、国と県とが相互理解に向け対話を重ねることで、抜本的解決が図られることが強く望まれていると指摘があったことに触れ、「裁判として普天間問題、辺野古の問題が解決したわけではないと受け止めている。そういう中で、強硬に進めることは全く県民の理解を得ることはできない」と述べました。

宜野湾市の住民「住んでいて危険性を感じます」

普天間基地を抱える宜野湾市の住民からは、速やかな返還を求める声や県内への移設に反対する声が聞かれました。

80代の男性は「住んでいて危険性を感じます。普天間基地は返還してほしいですが、工事には時間も予算もかかります。返還に時間がかかって工事にも時間がかかるとなるとあまりにも中途半端だ」と話していました。

普天間基地の近くに住む70代の女性は「普天間基地はなくしてほしいのですが、県内への移設は反対です。きょうの着工は国の横暴で、地方自治体の権利が無視されていると思います。国は一方的で、話し合いの場が全然ないと感じるので、もっと話し合いをして、そこから道を見つけてほしい」と話していました。

辺野古ゲート前で抗議

名護市辺野古にあるアメリカ軍キャンプシュワブの工事車両が出入りするゲートの前では、10日午後3時ごろから移設に反対する人たちが、「県民は諦めない」などと書かれたプラカードを持って、抗議の声をあげていました。

およそ10分後、警察官が座り込む人たちを抱えるなどしてゲートの脇に移動させると、石材や土砂を積んだダンプカーなどが次々と中に入っていきました。

抗議活動に参加していた読谷村の73歳の男性は「県民が反対している中で工事をやることは絶対に許せないし、玉城知事も『話し合いを』と言っていたので、国には県民の意思を尊重してほしかったです」と話していました。

那覇市の78歳の女性は「民主主義や地方自治も関係なく、工事を強引に進める政府の姿勢はよくないと思う」と話していました。