3日間 車中泊 壊れた自宅の一部で過ごす人も【避難の今 4日】

被災した人たちが過酷な条件のなかで生活を続けています。

自宅が大きく壊れ、残った一部で生活する人や車中泊をする人も。

避難生活の現状と、災害関連死を防ぐ注意点をまとめています。

断水 電気も止められ…壊れた自宅の一部で

震度5強を観測した富山県の氷見市宇波に住む井山孝幸さん(72)は自宅の半分ほどが壊れました。

現在は、2人の息子と、自宅の壊れていない部分で生活を続けていますが、地震発生から断水が続き、3日午後からは、屋根に引っ掛かった電線が切れると火災につながるおそれがあるなどとして電気も止められたということです。

井山さんは「ずっと顔も洗えないし、お風呂も入れていないです。ろうそくで明かりをとり、石油ストーブで暖を取って過ごしていますが、これからどうしたらいいか分からないです」と不安そうに話していました。

住宅には、30年ほど前に病気で15歳で亡くなった長男の孝和さんと妻の和子さんの仏壇があり、位はいと遺影だけは持ち出せたということです。

井山さんは「亡くなった長男の勉強机や教科書など思い出の品はまだ残されたままです。仏壇に供え物をして正月を迎えていたら被災し『一寸先は闇』とはこういうことかと思いました。家の修理を業者に頼んでもいつ来てもらえるか分からないので、みずから修理しています。雨が降る前にシートを張りましたが、これからは雪も降る時期なので心配です」と話していました。

3日間 エンジンかけずに車中泊「燃料ほしい」 74歳女性

石川県の輪島市内では震度6強の揺れを観測した3日前から車中泊を続けている人もいて、「ガソリンが足りず届けてほしい」と支援を求める声があがっています。

輪島市鳳至町に住む佐渡妙子さん(74)は、98歳の母親と息子と3人暮らしで、自宅は倒壊はまぬがれましたが、壁が壊れ窓ガラスが割れたほか室内では家具などが散乱しました。

高齢の母親は近くの小学校に避難し、息子は片づけることができた自宅の部屋で過ごしていて、佐渡さんは母親がなるべく早く自宅に戻れるよう片づけに専念するため自宅の駐車場で車中泊を続けているということです。

自宅は4日朝の時点でも家具などが散乱したままで、佐渡さんはしばらくは車中泊を続けるつもりでいますが、車の燃料が不足しているためエンジンをかけずにスキーウェアなどを重ね着して夜を過ごしているということです。

佐渡さんは「みなさん大変なのでなるべく自分たちで身の回りの片づけは進めたいと思っています。なんとか重ね着をして寒さをしのいでいますが母親の様子も見に行かないといけません。少しでも早くガソリンを届けてほしいです」と支援を求めていました。

避難生活での「低体温症」 最悪の場合は死に至るおそれ

今回の能登半島地震では気温が低く、各地で停電や断水が相次ぐなかでの避難生活を余儀なくされています。

気温の低下などによる「低体温症」に特に注意が必要で、専門家は避難所の生活環境をできるだけ改善する必要があると指摘しています。

避難所・避難生活学会の代表理事を務める宮城県の石巻赤十字病院の植田信策副院長によりますと、避難所になることの多い体育館などは床が冷たく、体温を奪われて低体温症になるリスクが高まるということです。

体の内側の体温が35度以下になると、体の震えや判断力の低下などが起こり、重症化すると意識を失い、最悪の場合は死に至るおそれがあります。

このため体を暖めてゆっくり休む環境を整えることが重要ですが、避難所では暖房が十分でないケースも多いと言います。

対策としては床の上で直接過ごさず、段ボール素材のベッドを使うなどすると効果的ですが、これらが無い場合、毛布や段ボールを床に重ねるだけでも効果が得られるということです。

ほかにも、服のなかに新聞紙を詰めたり重ね着したりするほか、ペットボトルにお湯を入れタオルをまいて作る簡易的な湯たんぽを使用するのも効果的だとしています。

また、自家用車などで避難する、いわゆる「車中泊」をする場合、暖房を消すと車内の温度が急速に下がるため、低体温症のリスクがあると指摘しています。

植田副院長
「高齢者は体の筋肉量が少ないため体温を維持しにくいうえ、避難所では体を動かす機会も少ないため、特に注意が必要だ。返事の声が小さいとか反応が悪い場合には低体温症のおそれあり、急いで体を温めるか、場合によっては病院に搬送する必要がある。避難所ではお互いに声をかけあったり、様子を見たりして助け合ってほしい」

避難生活の負担 「震災関連死」の原因に

地震や津波などから逃れて助かったものの、その後の避難生活による体調の悪化などが原因で亡くなる「災害関連死」が過去の災害で相次いでいます。

このうち、2011年の東日本大震災では復興庁のまとめで去年(R5)3月の時点で3794人にのぼっています。また、各自治体への取材や総務省消防庁の資料から、▽2016年の熊本地震では221人、▽2018年の西日本豪雨で82人、▽翌2019年の東日本台風と前線による大雨の災害で31人などとなっています。

「震災関連死」の原因は、避難生活や水道、電気などのインフラがないことによる肉体的、精神的な負担が大きいとされ、復興庁や熊本県によりますと、3か月以内に亡くなった人は、▽東日本大震災でおよそ78%、▽熊本地震でおよそ81%となっています。

また、「災害関連死」は70歳以上の占める割合が高く、▽東日本大震災ではおよそ87%、▽熊本地震ではおよそ78%となっています。

広域で甚大な被害が出ることで、被災者が求めていることと支援が食い違うと「災害関連死」が増えるとされていて、避難所だけでなく自家用車や自宅で避難する人など被災者の事情に応じたきめ細かな支援が必要となっています。

石川県内 3万3500人余が避難所に (4日午後3時時点)

石川県によりますと、4日午後3時時点で県内ではおよそ370か所で避難所が開設され、3万3500人あまりが避難しているということです。

自治体別にみると
▼輪島市が151か所で1万2440人
▼珠洲市が21か所で6981人
▼能登町が63か所で5505人
▼穴水町が46か所で3794人
▼七尾市が32か所で2637人
▼志賀町が14か所で1328人
▼中能登町が10か所で329人
▼羽咋市が7か所で174人
▼内灘町が6か所で110人
▼宝達志水町が2か所で82人
▼かほく市が4か所で67人
▼金沢市が9か所で48人
▼津幡町が3か所で19人
▼加賀市が2か所で16人
などとなっています。

防ぐには「トイレ・キッチン・ベッド」そして「ウォーム」

過去の災害で避難生活が原因で亡くなる災害関連死が相次いだことを受けて、避難所・避難生活学会の医師や専門家たちが掲げているのが「TKB+W」です。

トイレ・キッチン・ベッド」そして、「ウォーム(暖房)」の頭文字をとったもので、避難所運営の質を高めるためのキーワードとされています。

T=トイレ

災害時には断水でトイレが使えなかったり、衛生的でなかったりするほか、外に設置された仮設トイレに行くのを避けるケースが報告されています。

しかし、トイレに行くのを控えたり、水分や食事を取る量を減らしたりしてしまうとさまざまな病気の原因となることが指摘されています。このため安心して利用できるトイレの環境を確保することが大切です。

体育館など屋内の便器に紙おむつなどの凝固剤をいれた袋をかぶせると用を足したあと一回ずつ縛って捨てることができ、水を使わず、トイレを汚さずに使うことが出来ます。

K=キッチン:温かい食事の提供を

次に、キッチン=食事です。炊き出しが行われていない避難所では、「冷たい食事」が続くことが多くなります。

特に高齢者にとっては冷たい食べものはなかなか飲み込めず食欲が減退してしまうので、体力が低下して病気のリスクが高まるということです。

効果的なのは炊き出しによる食事の提供ですが、避難所の運営者がキッチンカーを手配するなどして温かい食事を確保することも対策としてあげられていて、キッチンカーを運営する業者と災害時の協定を結ぶ自治体も増える傾向にあります。

B=ベッド:冷たい床から守る効果

避難所の冷たい床で過ごすと体温が奪われて低体温症となったり、ほこりなどを吸って肺炎にかかったりするリスクがあります。

さらに固い床では熟睡できずにストレスがたまるだけでなく、血圧の上昇によって循環器系の疾患のリスクも高まるということです。

例えば、段ボールで出来たベッドを使用したり、床に毛布やマットを敷いたりして暖かくして過ごすことが大切です。

W=ウォーム(暖房)

特に冬の避難生活では低体温症などの危険性があり、暖房機器の確保が欠かせません。避難所が寒いと眠れなくなったり眠りが浅くなったりするため、体力が低下してさまざまな病気のリスクが高まるとしています。

植田副院長
「自治体の人口の半数近くが避難所で生活しているとの話も聞いている。関連死を防ぐために避難所の生活環境を整えることとあわせて、被害の少ない地域の宿泊施設を活用するなどより安全な場所へ移っていく広域避難も検討したほうがよい」