ガザ地区 少なくとも10の墓地で一帯破壊など被害 衛星画像分析

イスラエル軍が攻撃を続けるガザ地区で、少なくとも10の墓地で一帯が破壊されるなどの被害が出ていることがNHKの衛星画像の分析で分かりました。人権団体は墓地へのこうした行為は、国際人道法に違反しているとして強く非難しています。

NHKは、ガザ地区の各地を撮影した衛星画像を入手し、地区内にある墓地の被害の実態を独自に分析しました。

その結果、確認できた28の墓地のうち、少なくとも10の墓地で墓が壊され一帯がさら地に変わっていたり、クレーターができたりするなどの被害が出ていることが分かりました。

中には複数の被害の痕跡が確認できた墓地もあり、被害は合わせて12か所に上っています。

このうち、南部ハンユニスの中心部から1.7キロほど東に位置する墓地では、今月6日時点で被害の痕跡は見られませんが、22日に撮影された衛星画像では2500平方メートルほどの区画がまるごとなくなっていて、多数の車両が止められているのが確認できます。

さらにそのすぐ南側には、南西方向に太いわだちのようなものが確認でき、地面が削り取られているのが分かります。

また、北部のジャバリアで10日に撮影された画像では、墓地に面する道路脇から南東方向に向かって線状の濃い茶色の痕跡が複数地面についているのが見てとれます。

ロイター通信が13日に地上で撮影した現場の映像でも、地面が広く削られ、車両が通った跡がある複数の場所が確認でき、土砂とがれきの山とともに壊れた墓石が辺りに散乱しています。

スイスに本部がある人権団体「ユーロ地中海人権モニター」は14日、イスラエル軍による墓地を標的にしたたび重なる攻撃で多くの墓が破壊されていると発表していて「イスラエルは死者と墓地の神聖さを組織的に侵害していて、国際人道法の原則に著しく違反している」として、死者を埋葬する墓地を尊重し、適切に維持されることを定めるジュネーブ条約などに違反していると指摘しています。

一方、イスラエル軍は、NHKの取材に対して「ハマスはモスクや学校、病院、墓地といった場所からも行動している。軍事目標に対する攻撃は、実行できる予防措置を講じ、民間人や民間財産に予想される偶発的な損害が攻撃によって予想される軍事的利益との関係で過大でないことを評価したうえで行うなど、国際法の関連規定に従っている」とコメントし、あくまで国際法を守って軍事作戦を進めていると主張しました。

専門家「イスラエルへの憎しみ再拡大 問題長引く結果も」

防衛大学校の立山良司名誉教授は「『ハマスのせん滅』という政治的スローガンを達成しようとイスラエル軍はこれまでにないレベルの攻撃を続けていて、その現れの一つが墓地への攻撃だ。ただ、宗教上の施設への攻撃を最大限避けるための配慮がされているようには見えない。アメリカのバイデン政権からも戦闘のレベルを下げるよう圧力がかかっていて、残された時間も限られていることからその焦りが出ているとも言える」と述べました。

また、ガザ市やハンユニス近くの墓地がさら地にされ、車両が集まる場所になっていることについて「ガザ市もハンユニス周辺ももともと非常に人口が多い。車両をとめるスペースがある病院の敷地なども避難する人たちが殺到していて適当な空き地がない。このため墓地をならして拠点のようにしているのではないか」としたうえで「これだけ多くの墓地が攻撃され、車両の陣地のように使われる場所があるのは、国際法に違反する可能性がある」と指摘しました。

また、こうした墓地への行為につながった背景について「イスラエルはここ20年ほどで右傾化が進み、極端なナショナリズムが主流になっている。イスラエル軍にとってパレスチナ人は徹底的にたたく、憎しみの対象になってしまっている」と分析しています。

多くの人がイスラム教やキリスト教を信仰するガザ地区では、死者を土に埋葬する土葬が一般的で、立山名誉教授は「お墓は代々きちんと守っていく神聖なもので、そこを車両で壊されたら死者を冒とくされたと思うだろう。イスラエルへの憎しみを再拡大させてしまい、ガザ問題が一層長引く結果を生むと思う」として、長期的にも影響が出る可能性があるという見方を示しました。