不正輸出疑いで逮捕 長期勾留も無実 国賠訴訟 きょう判決

不正輸出の疑いで逮捕されて1年間近く勾留されたあと、無実が明らかになった会社の社長などが「違法な捜査だった」として、国と東京都に5億円余りの賠償を求めた裁判の判決が27日、東京地方裁判所で言い渡されます。裁判は、現役の捜査員が事件について「ねつ造」と証言するなど、異例の展開をたどっていて、判断が注目されます。

捜査が違法だったのかどうか 裁判所の判断 注目

横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長など幹部3人は、2020年に、軍事転用が可能な機械を中国などに不正に輸出した疑いで逮捕、起訴されました。

しかし、その後、輸出規制の対象にあたらない可能性があることがわかり、起訴が取り消され、無罪にあたるとして刑事補償の手続きが取られました。

幹部3人のうち、1人は勾留中に見つかったがんで亡くなりました。

▽社長や遺族などは「不当な捜査で苦痛を受け、会社も損害を被った」として、国と東京都に5億円余りの賠償を求めて裁判を起こし
▽国や都は「違法な捜査はなかった」と反論しています。

裁判では、捜査を担当した警視庁の現役の捜査員が事件について「ねつ造ですね」と証言し、都が、その証言について「具体的な根拠はない」と否定するなど、異例の展開をたどっています。

判決を前に、大川原社長は「裁判で事実を明らかにし、今後、このようなことが起こらないようにしてほしいという思いで提訴した。『推定有罪』で完全に決め打ちの捜査だった。裁判官から警察や検察に意見してほしい」と話していました。

判決は27日午後2時に東京地方裁判所で言い渡され、捜査が違法だったのかどうか、裁判所の判断が注目されます。

◆事件の経緯

2020年3月、横浜市の化学機械メーカー「大川原化工機」の大川原正明社長、海外営業担当の取締役だった島田順司さん、それに、顧問だった相嶋静夫さんの3人が警視庁公安部に逮捕されました。

会社の主力商品だった「噴霧乾燥機」を、国の許可を受けずに中国に不正に輸出したという容疑でした。

この機械は、熱風で液体を急速に乾燥させて粉状に加工するもので、医薬品やインスタントコーヒー、粉ミルクなどの製造に使われますが、生物兵器の製造など軍事目的に転用されるおそれがあるとして、輸出規制の対象にあたるとされたのです。

3人は「生物兵器を作ることはできず、規制の対象にあたらない」と無実を主張しましたが、その結果
▽大川原社長と島田さんは「口裏合わせをする疑いがある」などとして1年近く勾留され
▽会社の顧問だった相嶋さんは、勾留中にがんが見つかっても保釈が認められず、無実が証明される前に亡くなりました。

その後、起訴されたあとの再捜査で、機械が規制の対象に当たらない可能性が浮上し、検察は初公判を4日後に控えた2021年7月、一転して起訴を取り消すという異例の対応を取りました。

起訴の取り消しを受けて、東京地方裁判所は「仮に起訴された内容で審理が続いても無罪だった」として、大川原社長などに対し逮捕・勾留されていた期間の刑事補償として、合わせて1100万円余りの支払いを決定しました。

◆裁判の主な争点

警視庁と検察の捜査が違法だったのかどうか、判断するうえで重要となる3つのポイントについて整理しました。

1.大川原化工機の製品を輸出規制の対象だと判断した経緯

規制の対象ではなかったことは、後の起訴取り消しの決め手となったため、なぜ強制捜査や起訴の前に判断できなかったのかが争われました。

原告側は「警察と検察は、輸出規制に当たるかどうかを定めた経済産業省の省令について、国際的なルールとは異なる誤った解釈をしていた。規制対象の要件となる、殺菌能力を調べる実験も不十分だった」と主張しています。

一方、被告側は「経済産業省と同様の解釈に従っており、捜査は合理的だった。有識者への聴取結果なども踏まえていて、原告側が主張する実験をしていなかったとしても不合理ではない」と主張しています。

2.捜査に携わった当事者たちの証言

裁判では、担当した現役の警視庁公安部の捜査員が、事件について「まあ、ねつ造ですね」と証言したほか、「輸出自体は問題なく、立件しなければならないような卑劣な客観的事実があったわけではない」と述べました。

また、当時担当した別の捜査員も「捜査幹部がマイナス証拠もちゃんと反証していれば、こういうことは起きなかったと思う」と証言しました。

被告側は、この2人の証言について「具体的な根拠はなく、伝聞や感想、臆測が含まれていて信用性がない」と反論しているほか、警視庁の2人の上司や、起訴を担当した検事も法廷に出て、おおむね被告側の主張に沿う証言をしています。

このうち検事は「当時の判断自体に間違っていたところがあるとは、私は思わない。それに関する謝罪はない」と述べました。

こうした証言について、裁判所がどう判断するのかも注目されます。

3.警察の取り調べのあり方

原告側は、元取締役の島田順司さんが逮捕された直後の取り調べを問題視しています。逮捕すると、警察は容疑者に容疑を認めるかどうかを聞き、弁解録取書を作成します。

島田さんに対するこの手続きについて、原告側は「捜査員は、あらかじめ容疑を認める内容の弁解録取書を作成し、弁解を聞くこともなく署名を迫った。島田さんから修正を求められると、修正したふりをして署名させた。のちに島田さんが気付き強く抗議すると、捜査員は新たな録取書を作成し、前の録取書を裁断機で破棄して隠蔽した」と主張しています。

一方、被告側は「捜査員は任意の段階で聞いた内容を基に下書きをつくり、弁解を聞いたうえで完成させた。読み聞かせて見せたところ、島田さんは納得した様子で署名したが、その後、修正を頼まれたので修正した。最初の弁解録取書は不要だという誤った認識で破棄した」と反論しています。

「警察の取り調べのあり方」をめぐっては、誘導的な取り調べだったかどうかについても争われています。