【解説】ウクライナ軍 阻まれた反転攻勢 “戦術の変更”も

ことし6月から始まったウクライナ軍による反転攻勢はこう着状態に陥り、失敗したとの厳しい見方も出ています。ウクライナ軍の戦いはこれからどうなるのか。
国際安全保障担当の津屋尚 解説委員に聞きました。

※12月20日「キャッチ!世界のトップニュース」で放送した内容です。

Q1. 反転攻勢がうまくいかない要因 いちばんの注目点は?

A1. さまざまな要因があるが、ウクライナの当局者自身が指摘するのは、想定を大きく超える大規模な「地雷原」の存在です。

地雷原は幅20kmにもわたって続いていて、ウクライナ軍が処理をしても、すぐに地雷がまかれるといったことが繰り返されてきました。

Q2. ウクライナが「制空権」をとれなかったことがネックに?

A2. 現代の軍事作戦では、陸と空が一体となって作戦を行うのはいわば常識で、「制空権がない」ということは、自軍の航空機が自由に上空を飛べないことなので、地上部隊は航空戦力の支援を受けられず、進撃は難しくなります。

特にウクライナ軍の場合、強く求めていたF16戦闘機の供与が反転攻勢に間に合わなかった影響はひじょうに大きいと思います。

「欧米の武器支援の遅れ」も大きな要因です。

欧米各国は、供与を決断するまでの時間がかかり過ぎて、必要な時にその兵器が届かないというケースも少なくありませんでした。

さらにもう一つ、ロシアの「人海戦術」もウクライナを苦戦させた要因です。

先週明らかになったアメリカ情報機関の分析によれば、侵攻開始の時点でロシア軍は36万人だったが、実にその9割にあたる31万人余りが死傷したといいます。

プーチン大統領が、自軍の兵士の犠牲を全く意に介していないことを示すものだと思います。

東部の戦線では、ロシア軍が兵士に武器も持たせずに突撃させています。

投入された兵士は最初から死ぬのが前提で、ウクライナ側に弾薬を消耗させ、疲弊させることをねらった作戦だったのだろうと思います。

Q3. ゼレンスキー大統領も示唆した“戦術の変更” 今後は?

A3. ウクライナ軍のザルジニー総司令官がイギリス・エコノミスト誌に寄せた論文を読むと、大規模部隊が素早く前進しながら戦う「機動戦」を想定していたのに、現実には互いの兵力が動かない「陣地戦」になってしまったことを嘆いています。

「陣地戦」は、戦争を長期化させ「消耗戦」になっていきます。

そうなると、人口規模など国力で勝るロシアが有利で、ウクライナとしては、新たなフェーズの戦いに移行しなければならないが、それは簡単なことではありません。

そこで当面は、地上部隊の前進ができない間は、「長距離兵器」を使ってロシア軍の拠点を攻撃し、少しずつ戦力をそいでいくことになるでしょう。

例えば、巡航ミサイル「ストームシャドー」や地対地ミサイル「ATACMS」などが供与されています。

そして、いま注目されるのは、アメリカが近く供与する「GLSDB」という兵器。
使われれば初めての実戦での使用になります。

これまでもウクライナで使われてきた自走式の発射装置「ハイマース」から発射することもできます。射程約150キロでピンポイント攻撃が可能です。

この兵器は、いまアメリカ議会で紛糾している追加予算とは別枠で、すでに予算執行が終わっているので、供与の問題はなさそうです。

ただいずれにせよ、これらの長距離兵器だけでは、ザルジニー総司令官が目指す「陣地戦から機動戦への局面の打開」はできないと思います。

Q4. F16供与の現状は?

A4. 現在ウクライナ軍のパイロットの訓練が続いていて、F16がいつ投入できるかが大きなカギになります。

F16と、ウクライナ軍の今の主力であるミグ29を比較すると、例えば空中戦の場合、ミグ29はミサイルの射程が短いので、ロシア軍機のミサイルの射程圏内に入らないとミサイルが届きません。

これがF16なら、相手の射程圏外から発射できます。

F16が投入されれば、ロシア軍の拠点や防空ミサイルなどを効果的に攻撃できるようになるでしょう。

ただ、それでもこう着を打開するには不十分で、ザルジニー総司令官は「新たな軍事技術が必要だ」と指摘しています。

例えば、大量の無人機によって相手の航空戦力をかく乱させる技術や、多数の地雷を瞬時に見つけて破壊するといった新たな技術のことです。

Q5. “支援疲れ”や“戦争疲れ”も指摘されているが?

A5. 最大の支援国アメリカは、バイデン政権が提出したウクライナ支援の予算案が野党・共和党の反対で議会の承認が得られないままです。

ゼレンスキー大統領が12月、再び訪米して支援継続を訴えたが、ウクライナ支援の予算は年内に枯渇する事態が現実味を増しています。

また、ガザ地区での衝突の影響で、ウクライナ情勢への国際的な関心が低下していることも課題です。

こうした中、アメリカの戦争研究所は、「欧米がウクライナ支援を打ち切ってロシアが勝利した場合、支援を継続するよりもはるかに大きなコストを強いられることになる」とする分析を発表しました。

一方、戦争の終わりが見えない中で、ウクライナ国民の“戦争疲れ”も深刻です。
最前線の兵士たちは疲れ果てていて、弾薬不足に直面する部隊も出てきています。
ウクライナ国内では徴兵逃れや国外逃亡も後を絶たず、兵員の確保も大きな課題です。

一方のロシアは、ウクライナ側の戦意をそごうと、冬になって都市やインフラへの攻撃を強めています。

こうした厳しい状況の中でも、ウクライナが戦い続けられるかどうか。
その行方は、ウクライナ一国だけではなく、世界の秩序に関わってきます。

明らかな侵略行為を世界は許すのかという問題であり、ウクライナをどこまで支え続けるのか、関係国、特にアメリカの動向が注目されます。