急増する投資詐欺 1億円失った人も SNS広告が入り口に

「最初は怪しいと思っていたのに…」

将来に備え、投資で資産を増やしたいと考えていたという関東地方の40代の夫婦。
投資のために振り込んだ1億円もの大金をだまし取られたといいます。

きっかけはフェイスブックに表示された無料の投資相談会の広告。

そこを入り口に、巧妙な手口で投資詐欺へと誘導されていったのです。

(デジタルでだまされない取材班 / 社会部 倉岡洋平 守屋裕樹)

関東地方の40代の夫婦がその広告を見つけたのはことし4月です。

クリックすると、まず数百人が参加するLINEのグループチャットに誘導されたといいます。

そこで「先生」をしていたのは、イギリスに実在する金融機関の副社長を名乗る人物。

さらに「生徒」で、3人の幼い子どもを育てるシングルマザーだという女性が、個別にLINEでメッセージを送ってくるようになりました。「将来のため、一緒に先生から学ぼう」などと、やりとりを重ねるようになったということです。

40代の妻
「先生をしていた人とは直接LINEでつながっているので、気軽に質問もできますし、すごい親身になって教えてくれるという状況でした。最初は自分の証券会社でやっていたんですけど、プラスが出てこの人は相場が読める人なんだって信じ込んでいきました」

最初の投資では、もともと契約していた証券会社を通じてやりとりし、実際に「先生」の指示に従って投資した株で、およそ40万円の利益があったということです。

その後グループチャットで、指定のアプリをスマホにインストールして、別の口座に振り込むよう指示されました。アプリでは振り込んだ金が、FX取引によってどんどん増えているように表示されていたということです。

気づくと入金の総額は1億円にのぼっていました。お金が足りなくなると、追加の融資を持ち掛けられ、詐欺の疑いがあることに気付いたといいます。

しかし現金は引き出せなくなっていて、その後チャットは閉鎖され、「先生」や「シングルマザー」との連絡も途絶えたということです。警察に被害届を出しましたが、振り込んだお金は戻ってきていません。

40代の妻
「頭の中は真っ白になりました。時間をかけて完全に信じ込んでいたので、しばらくご飯も食べられず、夜も寝られませんでした。フェイスブックの広告はふだん友達の投稿があって、その間に挟まっていることもあって、そこにそんな悪い人がいて詐欺広告があるんだいう発想自体が全くなかったです」

40代の夫
「最初は怪しいと思っていたのに、やりとりしているとその不信感みたいなものを、1つずつ外されていく感じがあるんですよね。振り返ってみるとなんでだまされたんだろうと思うんだけれども、その渦中にいると気づけず、かなり焦った状態になっていました。なぜ止められなかったのか、自責の念にかられています」

被害額26億円 10倍以上に

投資に関心を持つ人が増える中、インターネット上には『お金を増やすノウハウやテクニックを紹介する』などと勧誘する広告が多く見られるようになっています。

しかし最近、特に「Facebook」や旧ツイッターの「X」など、SNSに掲載された投資関連広告をきっかけに、詐欺などの被害に巻き込まれるケースが相次いでいます。メディアに登場する著名人の名前や写真を勝手に使用し、コメントなどもねつ造して信じ込ませようとするなど、手口も巧妙化しています。

警察庁によりますと、特殊詐欺のうち、有価証券やFXなど投資名目の詐欺のことしの被害は10月末までに去年の8倍余りの221件。被害額は去年の10倍以上の26億円余りにのぼっているということです。

インターネット広告も、こうした被害の入り口の1つとなっているとみられることから、警察は関係する企業に対し、広告を見る人などへの注意喚起をするよう働きかけているということです。

インターネット広告をめぐる問題に詳しい板倉陽一郎弁護士
「実際に掲載されている広告や、生じている被害を考えても、SNSを運営する海外プラットフォーマーの審査は緩いと言わざるを得ない。見る側も怪しいと思ったら安易にクリックしない、オフィシャルサイトを検索して確認するといった対応が必要です」

“なりすまし広告”も

ネット広告から誘導する投資詐欺の手口の1つが、“なりすまし”です。

投資家 相場師朗さん

自分の名前を広告で悪用されたという投資家の相場師朗さんは「ただ怒りですよ。勝手に名前を使って人をだましているヒマがあったら、ちゃんと働きなさい」と、憤りをあらわにしながら、NHKの取材に答えました。

相場さんは20年ほど前から投資の教室を開いているほか、「株は技術だ」をモットーに、現在全国放送のラジオのレギュラー番組を抱え、若者から高齢者まで多くのリスナーに投資の指南をしています。

しかし、ことし3月から夏ごろにかけて、「相場師朗を名乗る人物に金をだましとられた」という自分には全く身に覚えのない被害の訴えが、相次いで寄せられたということです。

その手口は、インスタグラムなどSNSの広告で、「相場さんの著書を無料でプレゼントする」などとうたい、アクセスした人たちを、LINEのグループチャットに誘導。

チャットには、相場さんになりすました人物のほか、アシスタントの女性、「サクラ」とみられる多くの生徒役がいて、毎日のように株取引に関する「講義」が行われていたといいます。

その「講義」の中で偽の相場さんからFX取引などを勧められて金を振り込んだという人たちから、確認をしたいという電話などが相次いだのです。多い人では、被害額は数千万円にのぼるということです。

相場師朗さん
「自分の名前を使われた以上にそれによって被害に遭い、その方たちがいまも苦しんでいることが許せません。早くだました犯人が捕まり、解決してほしい。広告を載せたSNSのチェックも甘いと思う」

2000万円 振り込んだ女性は

偽の相場さんから勧められ、わずか3か月の間に現金2000万円以上を振り込んでしまったという40代の女性によると、インスタグラムの広告を通じて申し込むと、実際に、相場さんの著書が自宅に届いたということです。

女性は当初、「詐欺ではないか」と疑っていたものの、グループチャットには連日、「先生のおかげでもうかりました」などという生徒役からのメッセージの投稿がありました。

女性は、アドバイスに従って投資すると実際に利益が出ることがあり、チャットでの指導も非常に丁寧だったことなどから、しだいに本物の相場さんだと信じるようになってしまったということです。

しかし、金を振り込んだあと、メッセージに「既読」がつかなくなり、アシスタントの女性とも連絡が取れなくなったことからだまされていたことに気づいたということです。

40代の女性
「インスタグラムで自然な広告が目にとまって申し込みましたが、だまされたと気づいたときは頭が真っ白になりました。一生懸命仕事をして貯めていたお金なので少しでも手元に戻ってきて欲しい」

増加するSNS広告

広告大手「電通」などの調査によりますと、2022年の国内でのインターネット広告費の総額は、3兆912億円と広告費全体の43.5%を占め、おととしと比べて3860億円増加しています。デジタル化の進展を背景に、インターネット広告費は2012年からの10年間で3.5倍に急増しています。

また、去年のインターネット広告費のうち、SNSや動画投稿サイトを利用した「ソーシャル広告費」は8595億円で、おととしと比べて955億円増加しています。

対策は 専門家に聞く

インターネット上の金融トラブルなどに詳しい成蹊大学の高橋暁子客員教授は、被害が相次ぐようになった背景について「物価高などもあり、投資でなんとかお金を増やしたいという心理が広がっていて、うまい話に飛びつきやすくなっている。そのことがさらに詐欺を増やすという悪循環につながっているのではないか」と語りました。

高橋客員教授に被害に遭わないために気をつけるべきポイントを聞きました。

1、「うまい話」は信用しないこと

「楽してもうけられる」とか「金が得られる」という話は最初から疑う必要があり、詐欺の手口には流行もあるので、ニュースなどを通じて知る習慣をつけることが必要。

2、検索やビデオ通話で確認を

著名人などをかたっているケースでは、その人の名前で「検索」すると、偽物による広告に対しての「警告」などがヒットすることも多い。

LINEなどのチャットは、閉鎖的な空間で、被害の証拠も消されやすいが、「ビデオ通話をしたい」と持ちかけて、相手の反応を確認することも有効。

相談窓口は

公的機関などの相談先です。詐欺的な投資勧誘などに関する相談は、金融庁の「金融サービス利用者相談室」で受け付けています。電話番号は0570-016811です。

また、「消費者ホットライン」の「188」(いやや)にダイヤルすると、消費生活センターなどの最寄りの相談窓口を紹介してもらえます。

法律に関する問い合わせは「日本司法支援センター=法テラス」でも受け付けています。連絡先は0570-078374(おなやみなし)です。

(12月17日 おはよう日本で放送予定)