日本大学 アメリカンフットボール部 臨時の理事会で廃部が決定

薬物事件で、部員4人が逮捕や書類送検された日本大学のアメリカンフットボール部について、大学は15日、臨時の理事会を開き、廃部をすることを正式に決めました。大学は今後、部員に不利益が生じないように新たな受け皿を設けるなど支援するとしたうえで「断腸の思いで下した判断だ」とコメントしています。

この事件をめぐっては、大学の競技スポーツ運営委員会で示された廃部の方針が今月1日の理事会で継続審議となり、大学はその後、部員や保護者への説明会を経て、15日午後、改めて臨時の理事会を開きました。

理事会では、存続を求める部員の代表2人も出席して部でまとめた再建案を示し、およそ3時間かけて議論した結果、アメリカンフットボール部を正式に廃部にすることを決めたと発表しました。

大学は今後、部員に不利益が生じないように新たな受け皿を設けるなど支援するとしたうえで「断腸の思いで下した判断だ。いったん廃部として部の再建を検討する予定だ」などとコメントしています。そのうえで近く部員と保護者に対する説明会を開くとしています。

4年生部員「家を失ったような気分」

アメリカンフットボール部の廃部が正式に決まったことについて、4年生の部員がNHKのインタビューに応じました。

この中で廃部について「フェニックスが無くなるのは、帰る場所を失うようなもので、家を失ったような気分です。とても悲しい気持ちで、大麻に関わった部員たちへの怒りがあります」と悔しさをにじませました。

そして、いわゆる「悪質タックル」をめぐる問題のあと、部内が厳しい管理体制から自由な雰囲気に変わり「自由」の意味をはき違える部員も出ていたとして「自由になったがためにゆるい雰囲気になってしまった。自由と言ってしまうと何をしてもいいのではないかという風潮が生まれた」と話しました。

一方、これまでの大学側の説明にも疑問があるとして「物事が起きるたびに世間の人たちと一緒に知るような感じでした。廃部の方針が最初に出た時も自分たちには監督からメッセージアプリで伝えられただけでした。早く情報が伝えられていれば、自分たちにももっとできたことがあったのではないかと思います」と話しました。

そして「自分は日本一になるためにフェニックスに入りました。フェニックスは大学アメリカンフットボールの象徴だと思うし、歴史を終わらせてしまうのは残念なことです。OBたちには申し訳ないし、このチームにこだわりをもって入ってきてくれた後輩にも申し訳ない思いです。大学側とは全く話し足りないので、大学側と部員全員が話す機会をつくってもらいたい」と今後も引き続き話し合いの場が必要だと語りました。

廃部決定までの経緯

薬物事件を受けてアメフト部の廃部の方針が決まったのは、11月28日に開かれた大学の競技スポーツ運営委員会でした。

関係者への取材によりますと、部を完全になくす「廃部」のほかに、部員は退部するものの部としての形は残す「解散」、そして推薦による学生の確保など優遇措置がある「競技部」から「運動部」への格下げといった案の中から多数の意見を占めた「廃部」の方針が承認されたということです。

あわせて学生や入部希望の新入生に不利益が生じないように教育的な配慮をすることなどが話し合われました。

その後、理事会の審議を経て学長の決裁で廃部が正式に決まることになっていましたが、今月1日の理事会では結論が出ず「継続審議」となり、15日の臨時の理事会で学生の代表も出席して改めて審議されました。

専門家「競技を続ける環境確保を」

企業やスポーツのガバナンスに詳しい名古屋学院大学の坂東洋行教授は「理事会に学生が参加して思いを伝えるということが報道されていたので、学生ファーストということを考えると廃部については見送る想定をしていたので、個人的には廃部になったことに驚いている」と述べました。

これまでの大学側の対応について「大学スポーツにおいて活動停止など学生にとって不利益な処分がある時は、学生の意見を聞かなければいけない。複数もしくは少数の人間が不祥事を起こしたことを受け、その他の学生が犠牲になるのではなく、自分たちがその不祥事をどう受け止めて自分たちでどう解決するかまず学生に話させる。今回はそういった機会を大学が設けるといった手続きが欠けていた」と話しました。

現役部員や入部を希望する新入生への対応については「学生にはスポーツをする権利、競技をする権利がある。廃部という結果だけを伝えると精神的なストレスを受ける可能性があるので心のケアが必要だ。そして廃部という事実をもってなにもさせないのではなく、いったんリセットして新しい形で、別の形で競技を続ける環境を大学として確保すべきだ。スポーツする権利を奪うことに対して、代替策を提示すべき」と述べました。

日大アメフト部とは

日本大学アメリカンフットボール部は、戦前の1940年に創部された関東の強豪で、83年の歴史がある名門チームです。

チームカラーの赤と「フェニックス」の愛称で知られ、1959年から2003年まで40年以上監督を務めた篠竹幹夫氏の指導のもと、「ショットガン」と呼ばれるパスを多用する攻撃のフォーメーションで日本のアメリカンフットボール界を席けんしました。

そして、1978年からは学生日本一を決める「甲子園ボウル」を5連覇し、歴代優勝回数は関西学院大に次ぐ21回、日本一を決める「ライスボウル」でも優勝4回と輝かしい実績を誇っています。

卒業生が社会人リーグのトップチームでも活躍し、長く日本のアメリカンフットボール界をけん引する存在でした。

しかし、5年前の2018年、関西学院大との定期戦で起きた重大な反則行為、いわゆる『悪質タックル』をめぐる問題で指導法やチームの管理体制について大きな批判をあびて当時の監督などが辞任しました。

その後、新たな監督を公募するなどして立て直しを進め、2020年には3年ぶりとなる「甲子園ボウル」出場を果たしました。

関東学生アメリカンフットボール連盟などによりますと、2023年7月末時点で部員とスタッフが合わせて122人いました。全国トップレベルの選手がスポーツ推薦で入学するなど有望な選手も在籍していて、関係者によりますと関西など地方から来た部員を中心に30人ほどが学生寮で生活していたということです。

今シーズンは悪質タックル問題を受けて休止されていた長年のライバル、関西学院大学との交流戦が4月に5年ぶりに行われ、関東学生リーグ1部の上位チームで戦う「TOP8」でリーグ戦の開幕を迎える予定でした。

しかし、今回の薬物事件を受けて部は無期限の活動停止処分となり、連盟はリーグ戦の出場資格を停止して今シーズンの7試合すべてが中止となりました。

日本大学は、来シーズンリーグ1部の下位チームで戦う「BIG8」への降格が決まっています。

大学スポーツ 過去の廃部

学生スポーツをめぐっては、これまでも部員が起こした事件をきっかけに大学の名門チームが廃部や解散となったケースがあります。

【国士舘大剣道部】
1999年、強豪として知られた国士舘大学の剣道部が男子寮として使っているアパートで当時、4年生の部員が1年生の部員を殴ったり蹴ったりして死亡させる事件が起き、部が解散を申し出ました。

2年後、事件についての裁判が終わったことや死亡した部員の遺族から活動再開の要望を受けたことなどから学内サークルとして活動が再開され、その後、部として活動を再開しました。

【近大ボクシング部】
2009年世界チャンピオンなどを輩出した近畿大学ボクシング部の部員2人が同じ大学の学生に殴ったり蹴ったりする暴行を加え現金を奪ったとして逮捕されました。これを受けて、大学は部を無期限の活動停止としていましたが、事件の重大性を考慮して廃部としました。

その後、部員だった学生たちが地元の清掃活動などボランティア活動に取り組んできたことや、部の活動再開を願う署名が4万人以上、寄せられたことなどから、2012年に活動再開が発表されました。

日大が澤田副学長の後任を発表

日本大学は15日、アメリカンフットボール部での薬物事件の対応をめぐり、年末で辞任する澤田康広 副学長の後任として、歯学部特任教授の中島一郎氏を選んだと発表しました。

中島氏は1月に就任する見通しで、任期は今年度末までとされています。また、ほかの副学長2人や常務理事4人のあわせて6人から月額報酬の20%相当額を3か月間、自主返納するという申し出があり、受け入れたということです。

日本大学は「本学のガバナンス不全により多くの人に迷惑をかけおわび申し上げる」としています。