アルツハイマー病新薬 年間約298万円で保険適用対象に 中医協

アルツハイマー病の原因物質に直接、働きかける新薬「レカネマブ」の価格について、中医協=中央社会保険医療協議会は、患者1人当たり年間およそ298万円と設定し、保険適用の対象とすることを決めました。

日本の製薬大手「エーザイ」がアメリカの「バイオジェン」と共同で開発した、認知症の原因の1つ、アルツハイマー病の新しい治療薬「レカネマブ」はことし9月に国の承認を受けて、中医協で保険適用に向けた議論が進められてきました。

その結果、中医協は13日の総会で、「レカネマブ」の価格について、患者1人当たり年間およそ298万円と設定し、保険適用の対象とすることを決めました。

今月20日から適用される予定です。

この薬を使用できるのは認知症を発症する前の「軽度認知障害」の人や、アルツハイマー病の発症後、早い段階の人で、年間で最大およそ3万2000人の使用が見込まれるということです。

新薬「レカネマブ」 今後の注意点は

「レカネマブ」はアルツハイマー病の原因物質に直接働きかけ、取り除くための初めての薬です。

保険適用の対象となることが決まり、まもなく臨床の現場で使えるようになることから、患者の間では期待が高まっていますが、一方で注意点もあります。

1つ目の注意点は薬の投与対象となる患者が限られることです。

認知症の原因となる病気にはさまざまな種類がありますが、レカネマブが使えるのは「アルツハイマー病」の患者で、脳に「アミロイドβ」という異常なたんぱく質がたまっていることが確認できた人に限られます。

また、認知症は、軽いものから、
▽認知症と診断される前の「軽度認知障害」
▽軽度の認知症
▽中等度の認知症
▽重度の認知症と進行して認知機能が低下していきますが、今回、薬の投与対象となるのはこのうち、「軽度認知障害」と「軽度の認知症」の人だけです。

認知症の専門医によりますと、レカネマブの投与対象となる患者は認知症患者全体の1割未満とみられるということです。

2つ目の注意点は副作用です。

製薬会社の治験の結果によりますと、およそ10人に1人の割合で
▽脳がむくんだ状態になったり、
▽脳内でわずかな出血が起きる副作用が確認されたりしているほか、
▽中には、より危険性の高い脳出血が起きた人もいて、注意が必要だということです。

3つ目は通院の負担です。

レカネマブは点滴で投与する薬で、一度治療を始めると患者は2週間に1度、原則1年半の間、点滴を受けることになります。

また、副作用を早く見つけるため、脳の画像診断などの検査ができる医療機関で治療が行われることになっていて、対応できる医療機関は限られるということです。

エーザイ「適格な当事者に届けられるよう全力」

「レカネマブ」の価格が設定され、保険適用の対象とすることが決まったことを受けて、「エーザイ」は13日、東京 文京区の本社で会見を開きました。

この中で内藤晴夫CEOは「レカネマブ」を今月20日に発売することを説明し、「改めて責任の重さを痛感している。添付文書やガイドラインに従って、安全性を十分確保しつつ有効性が発揮されるよう、適格な当事者に薬を届けられるよう全力を尽くしていく。認知症治療薬の研究開発は失敗の連続だったが、失敗を繰り返すうちに多く学んできたことが成功につながったのではないか。創薬の道のりをかみしめている心境だ」と述べました。

若年性認知症の家族会「保険適用で使いやすくなる」

アルツハイマー病の新たな治療薬「レカネマブ」が保険適用の対象となることが決まったことについて、都内にある若年性認知症の家族会「彩星の会」の森義弘代表は「保険が適用されれば該当する人にとっては使いやすくなるのでうれしく思っています」と話していました。

また、「レカネマブ」の価格が患者1人当たり年間およそ298万円に設定されることについては、「私たち家族会の患者は若年性の認知症で、年齢が若いので、たとえ価格が高くても将来のことを考えれば、薬を使って症状の進行を穏やかにしたいと家族なら誰もが思うはずだ。将来的に使いやすい値段になってほしい。また、症状が軽い段階で薬が使えるように、健康診断などで該当する人を早く見つけることができるシステムができてほしい」と話していました。

認知症専門医「新薬に対応できる医療システムの構築を」

アルツハイマー病の新たな治療薬「レカネマブ」が保険適用の対象となることが決まったことについて、認知症の専門医で新潟大学脳研究所の池内健教授は「薬自体はすでに承認はされていたが、やはり保険適用にならないと実際の臨床では使えないので、これで適切な方にこの薬を届けることができるようになるだろう」と話しました。

また、「レカネマブ」の価格が患者1人当たり年間およそ298万円に設定されることについては「保険適用となったことで患者やその家族が実際に負担する金額は小さくはなるが、それでもやはり高い薬であることは間違いないと思う。この値段に見合った効果が認められるかを医学的な面だけでなく、介護をする人の負担や社会参加への影響の面など、実際の臨床のなかで広く検証していく必要がある」と話しました。

今後の課題については「効果が見込める方を検査で適切に選別して、治療薬を届けることが必要になるが、そのためには検査ができる病院の情報や地域における医療機関の連携が大切になってくる。新しい治療薬に対応できるような認知症医療システムを早期に構築していかなければならない」と指摘しました。