2歳未満の子育て時短勤務に給付金 賃金の1割相当支給へ 厚労省

厚生労働省は、2歳未満の子どもを育てながら時短勤務をしている人に対し、賃金に上乗せして賃金の1割に相当する額の給付金を支給する方針を示しました。時短勤務によって収入が減る状況を改善することで、子育てしやすい環境づくりにつなげたい考えです。
一方、時短勤務を利用した場合、適正に評価されなかったり、出世ルートから外されたりするなど、いわゆる「マミートラック」という課題も指摘されています。

男女とも時短勤務を利用しやすい環境めざす

育児・介護休業法では、3歳未満の子どもがいる男女が希望すれば、企業側は所定の労働時間を原則1日6時間まで短縮する、いわゆる時短勤務の制度を設ける必要があります。

11日に開かれた厚生労働省の審議会で、時短勤務によって賃金が減る分を補てんしようと、2歳未満の子どもを育てながら働く人に対し、賃金に上乗せして時短勤務中の賃金の1割に相当する額の給付金を支給する案が示されました。

厚生労働省は、男女ともに時短勤務を利用しやすくすることで子育て環境を整え、少子化対策につなげるとともに、出産後も仕事を継続する人を増やしたい考えです。

これまでの審議で委員からは、給付金によって離職せずに働き続けられる人が増えると評価する意見が出た一方で、時短勤務がキャリア形成にマイナスに働かないようにしなければならないといった意見も出されていました。

この給付金制度は再来年度、2025年度から実施する予定で厚生労働省は年明けまでに具体的な制度設計を進め、来年の通常国会で関連法案を提出する方針です。

低い利用率 理由は「収入が減るため」が最多

【時短勤務とは】

時短勤務は、育児・介護休業法で、3歳未満の子どもがいる従業員が希望すれば、企業側は所定の労働時間を原則1日6時間まで短縮する措置を設ける必要があります。

ただ、時短勤務を子どもが何歳になるまで認めるかは企業側に委ねられているため、3歳を超えて認めている企業も多くあります。

【利用率は】

厚生労働省は昨年度、小学4年生未満の子どもの育児をしながら正社員として働いている男女、それぞれ1000人を対象にアンケート調査を行いました。

その結果、一番年少の子どもの育児の中で時短勤務の制度を「利用している」または「以前は利用していた」と回答した人は、
▼男性は7.6%
▼女性は51.2%でした。

【利用のハードルは】

このうち時短勤務を利用したことがないと回答した人に複数回答でその理由を聞くと、男女ともに「収入が減るため」が最も多くなりました。

詳しい内訳は、男性については
▼「収入が減るため」が32.2%
▼次いで「会社で制度が整備されていなかったから」で24%
▼「制度について理解していなかったから」が15%でした。

女性では
▼「収入が減るため」が38.1%
▼次いで「会社で制度が整備されていなかったから」で17.7%
▼「キャリア形成のために、通常通りの時間で勤務したかったから」が10.9%
▼「両立支援制度を利用しなくても育児ができる働き方だったから」も同じく10.9%でした。

【働き方の変化で不利益も】

また、時短勤務や残業免除の制度を利用している人に働き方などで不利益に感じるものを尋ねると、「不利益に感じるものはなかった」と回答した人は
▼男性で22.6%
▼女性で41.5%でした。

「わからない」と回答した人は
▼男性で34.5%
▼女性で23.2%でした。

その一方で男性で不利益に感じるものとして、最も多かったのは、
▼「責任のない役職に変わった」が15.5%
▼次いで「業務負荷が減った」が14.3%
▼「時間あたりのアウトプット・成果で評価されなくなった」が9.5%でした。

また、女性は
▼「勤務時間にあわせて、仕事量が変わらなかった」が最も多い16.4%
▼「時間あたりのアウトプット・成果で評価されなくなった」が13.3%
▼「責任のない役職に変わった」が7%でした。

課題は「負い目」と「マミートラック」 適正な評価は

働く女性の転職支援を行う都内の会社には、時短勤務の働き方に不満を感じ相談に来る人が相次いでいます。

このうち、卸売業の会社で時短勤務を利用している30代の女性は、1歳と4歳と男の子を育てながら働いていますが、早めに仕事を切り上げることで他の社員に迷惑をかけているのではないかという負い目を感じているといいます。

女性は会社からテレワークも認められていますが、社内でどうしても仕事が終わらない場合に限られ、他の社員には認められていないため、自分だけ特別視されているように感じてしまうといいます。

そこで、転職支援の会社に相談しテレワークやフレックス制などが全社員に認められていて、育児をしながら時短勤務でなくフルタイムで働ける会社に転職を決めました。

女性は、「自分だけ特別という環境がすごく嫌で、時短勤務で会社の利益に貢献しているのかと不安を感じています。フルタイムに戻ってたくさん仕事して、いろいろなことにチャレンジしたい気持ちもあるので、転職を決めました」と話していました。

ほかにもこの会社の元には、時短勤務というだけで適正に評価されなかったり、出世ルートから外されたりするなど、いわゆる「マミートラック」に関する相談も多いといいます。

「マミートラック」は、まるで“陸上のトラック”を走るように、同じ場所をぐるぐる回っているようなことから、こう呼ばれています。

会社がことし8月にサービスを利用する育児中の働く女性107人に行ったアンケート調査では、フルタイムの人で46%が満足していると回答した一方、時短勤務の人は30%にとどまりました。

アンケートでは、時短勤務の人から、キャリア形成できるような機会を提供して欲しいとか、管理職として認めて欲しいといった意見もあったといいます。

転職支援会社「mog」 稲田明恵社長
「育児しながら仕事も頑張っているのに評価されないという苦しみが、時短勤務の人の満足度を下げていると考えられる。まずはこんなに多くの人がマミートラックで悩んでいることを知ってもらい、テレワークやフレックス制などで育児をしながらフルタイムでも働きやすい環境を整えることが大事だ」

厚生労働省が示した給付金については、「時短勤務を利用することで給与が下がる現象は起きていて、生活の安定という側面では、安心して就業に戻れるという前向きな意味合いはある。ただ、時短勤務している人が仕事に対する満足度が高くない実態がある中では、給付金で時短勤務を選択する人が増えた場合、対策がとられなければマミートラックで悩む人が増えるリスクがあると思う」

やりがいある働き方へ 模索続ける企業

時短勤務の社員にやりがいを持って働いてもらえるよう、模索を続ける会社もあります。

大手デパートでは、時短勤務の社員もフルタイムで働く社員と人事評価に差をつけず、望む人には管理職にも登用する人事制度を設けることで、いわゆる「マミートラック」が起きない取り組みを進めています。

また、子育ての状況などに応じて時短勤務の時間を1日5時間から6時間45分まで3つのパターンから選ぶことができ、仕事が忙しい時期には一時的にフルタイムと同じ時間に戻すことも可能にしています。

3年前からは、フルタイムに戻ったあとでも早めに帰宅できるよう、閉店後まで勤務する遅番勤務を通常より減らせる勤務体系も設けました。

横浜市内の店舗で働く川上早奈江さんは4年前、時短勤務の管理職として高級ブランド品売り場のマネージャーになりました。

川上さんには、小学5年生と中学3年生の2人の子どもがいますが、子どもを保育園に迎えにいく必要があった時は、1日の労働時間を5時間まで減らしていました。

そして、下の子どもが小学生に入学してからは、労働時間を段階的にのばし去年からはフルタイムで働いています。

川上さんは、「子どもが熱を出して急に休まなければならないこともあり、時短勤務中に管理職になる迷いもありましたが、今までやったことがないマネージャーという仕事にチャレンジしたい気持ちがありました。制度を使って徐々に労働時間を延ばすことで、家族も慣れていくことができたと思います」と話していました。

時短勤務の導入が始まった1991年ごろは、時短勤務を利用して働く管理職はほとんどいませんでしたが、こうした取り組みの結果、現在は育児のため労働時間を調整しながら働く管理職は会社全体で41人にまで増えました。

また、1991年には女性の平均勤続年数がおよそ6.2年でしたが、現在ではおよそ25.9年まで伸びたということです。

デパートでは顧客に母親も多いことから、子育てする女性管理職が増えたことで、母親目線での接客や企画がより充実するようになったということです。

高島屋ダイバーシティ推進室 三田理恵室長
「以前は時短勤務を取っている社員にできるだけ難しい仕事を与えないなどの配慮をしていましたが、もっと活躍できるような仕組みや風土が必要だという声があって、一人一人のニーズを拾っていくことが必要ではないかという考え方に変わりました。家庭の状況や子どもの事情に加え仕事でどうありたいかなどを聞いた上で、一番ベストな働き方を選べる制度運用にしていきたい」

専門家「勤務時間の長さより成果で評価を」

労働行政に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティングの矢島洋子 主席研究員は、時短勤務をしている人への給付金について、「時短勤務の取得を男性にも広げる効果が期待されるという点でメリットがある」と評価しました。

そのうえで、「いまは長く働いてる人がよく頑張っていて偉く、その人がどれだけアウトプットをしているのか、貢献をしているのかまで見ずに、時間だけで評価している側面がある。働く時間の長さではなく、成果で評価することを進めると同時に、時短勤務の人も成果をあげればきちんと評価されるべきだ。短時間勤務の人にどのように仕事をしてもらい、適正に評価するのかが、ますます重要な課題になってくる」と指摘しています。

さらに、「社員全員の長時間労働の見直しをさらに進め、男女ともに仕事と子育ての両立が可能な働き方をしながらキャリアアップもしていける職場環境作りが期待される。国もその運用のあり方を企業に求めていくことが非常に重要だ」と話していました。