【Q&Aで詳しく】IMF 途上国支援で増資へ 中国の影響力拡大は

IMF=国際通貨基金は、多額の債務を抱える途上国への支援を拡大するため、今月、増資を決め資金基盤を強化する方針です。
一方、IMFでの発言権に直結する加盟国の出資比率は見直さず、日本はアメリカに次ぐ2位を維持する見通しです。

IMFは先月の理事会で、資金基盤を強化するため加盟国に対し、50%の増資を求める案を承認しました。

増資は多額の債務を抱える途上国への支援の拡大がねらいで、今月15日までに190の加盟国が投票を行い、全体の議決権のうち賛成が85%以上となれば正式に決定されます。

一方、IMFでの発言権に直結する加盟国の出資比率の見直しについては見送られます。

出資比率は現在アメリカが17.43%でトップ、次いで日本が6.47%、中国が3位の6.40%となっていますが、日本は2位を維持する見通しです。

比率の見直しは中国などが要望していましたが、アメリカや日本は合意には時間がかかるとして現状維持を求めてきた経緯があり、中国の影響力拡大などを警戒したのではないかという見方も出ています。

ただ、IMFは加盟国の経済規模を出資比率に反映させることは重要だとしていて、2025年6月までに再検討して決定する方針で、今後の議論によっては日本が中国などに抜かれ、IMF内での存在感の低下につながる可能性があります。

【専門家Q&A】

IMFは、国際金融の安定や世界経済の成長を促すために設立された国際機関です。

IMFの増資の実施は2016年以来で、その背景などについて、第一生命経済研究所の西浜徹主席エコノミストに聞きました。

Q.IMFが増資に踏み切るねらいは?

A.コロナ禍以降、途上国・新興国からIMFへの支援要請が増え、それに応える必要性が高まっている。支援を求める国も低所得国だけでなく、中所得国に広がり、支援額自体も大きくなった。

これまで、IMFは途上国に支援する際、借り入れに依存してきたが、欧米各国の中央銀行の利上げによって金利が上昇する中、これ以上借り入れを増やせば、金利負担によってみずからの首を絞めることになるため、増資を行うという結論に至ったのだと思う。

Q.出資比率の見直しに踏み込まなかった要因は?

A.たとえば国連では、投票権は1国1票だが、IMFでは出資比率に応じて投票権が決まる。経済規模に応じて出資額を増やせば、中国が当然2位となる。

途上国・新興国側からは比率の見直しを求める声があったが、そうなればアメリカにとっては既存の秩序がドラスティックに変化することになる。

支援強化の緊急性を踏まえ、いわば激変緩和措置として出資比率は維持し、次に増資を行う時に議論しようということで落ち着いたのではないか。

Q.出資比率の見直し 日本への影響は?

A.経済規模に応じて出資比率が決まる今の仕組みでは、日本の出資比率は低くなり、発言権が低下することは避けられない。中国だけでなくインドも存在感を増している。

現状では日本は副専務理事のポストのうち1つを持っているが、これを維持できるのか、そして、ポストを増やしすぎない形で途上国や新興国にどう配分していくのか。

日本政府には、国際協調やそのルール作りを主導する経済外交の観点から、しっかりと交渉していく努力が求められる。

Q.国連事務総長“IMFは先進国寄り” どう受け止めるか?

A.既存の世界秩序は、第2次世界大戦後、先進国を中心に形づくられてきたが、世界経済のありようは大きく変わっている。アメリカの首都ワシントンやニューヨークに拠点を置く国際機関は、この変化に適応できていない。

特に、ロシアによるウクライナ侵攻や、イスラエルとイスラム組織ハマスとの軍事衝突をめぐって、国際機関が存在感を示せず、機能不全に陥っていると指摘されている。

世界経済の変化に合わせ、途上国や新興国が主体的に国際機関に関わる仕組みを含めて、議論を積み重ねていく必要性がこれまで以上に高まっている。