9人死亡 笹子トンネル事故から11年 現場近くで追悼慰霊式

山梨県の中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落し、9人が死亡した事故から11年の2日、現場の近くで追悼慰霊式などが行われました。

2012年12月2日、山梨県大月市の中央自動車道の笹子トンネルで天井板が崩落して3台の車が下敷きになり、9人が死亡、3人がけがをしました。

事故から11年の2日、遺族やトンネルを管理する中日本高速道路の役員などが、トンネルの出入り口付近に建てられた慰霊碑を訪れ、事故が起きた午前8時3分に黙とうをささげました。

このあと場所を移して行われた追悼慰霊式には、およそ50人が参列しました。

中日本高速道路の小室俊二社長が「皆様の尊い命、かけがえのない人生を奪うという、あってはならない事故を引き起こしてしまいました。心から深くおわび申し上げます。社員に事故を直接知らない世代が増えていく中、ことし初めて開催したご遺族との対話の機会を生かすなど、安全を最優先に自立的に行動できる人材の育成を継続して進めます」と述べました。

事故で亡くなった松本玲さんの(当時28歳)父親の松本邦夫さんは、「かけがえのない家族を失った深い悲しみは消えることはありません。娘は生きていれば何歳になっていたのかなどと、同じ世代の方を見るたびに思い出します。事故の原因や責任を明らかにするためにも、組織を罰することができる『組織罰』の制定が必要だと感じ続けています」と、追悼のことばを述べました。

対策必要な道路インフラの割合 減らず

全国の道路や橋では5年に1度の点検が義務化され、劣化した橋の補修などの対策が行われていますが、対策が必要な道路インフラの割合は大きくは減っておらず、専門家は「損傷が深刻になる前に手当てを進め、効率的な維持管理をすることが重要だ」と指摘しています。

笹子トンネルでの崩落事故のあと、国は全国のトンネルや橋などの道路インフラに5年に1度の点検を義務づけ、2014年度から2018年度にかけて1巡し、2019年度からの2巡目の点検が今年度で終わる予定です。

結果は状態に応じて「1」から「4」の4段階に分けられ、「3」は早期に「4」は緊急に補修などの対策が必要です。

国土交通省によりますと1巡目の点検で「3」以上と判定された割合は
▽トンネルで41%
▽橋で10%
▽落石対策などの道路付属物で15%
でした。

これに対し2巡目で4年が終了したことし3月末時点で「3」以上と判定されたのは
▽トンネルが30%
▽橋が8%
▽道路付属物で12%
と大きくは減っておらず、中には1巡目よりも増えている地域もあります。

背景には高度経済成長期以降に整備されたインフラが多く、老朽化する橋やトンネルが急激に増えていることが指摘されています。

損傷が深刻化する前にいち早く補修

全国各地で道路インフラの点検や補修が進むなか、直した橋よりも新たに壊れたり壊れそうになる橋の数が多く、“いたちごっこ”の状況となる地域も出てきています。

国は橋やトンネルなど道路インフラについての点検結果を
▽「1」(健全)
▽「2」(予防保全段階)
▽「3」(早期措置段階)
▽「4」(緊急措置段階)に分けています。

長野県では管理するおよそ3800の橋のうち、早急に補修などが必要な「3」以上の判定が1巡目で983件だったのに対し、2巡目では4年目を終えたことし3月末時点で1071件とおよそ1割増えました。

県によりますと1巡目の点検を受けてこれまでに378か所で対策を終えた一方で、1巡目で「2」以下だった466か所の橋が新たに「3」以上になり、結果として数が増えたということです。

このうち1巡目に「2」と判定された上田市の国道143号線にかかる橋の点検では、2巡目で床板の亀裂の幅が広がっているのが確認され、新たに「3」と判定されました。

点検のたびに対策が必要な橋が増え続けると試算されることから、県では、例えば塩化物を含んだ凍結防止剤と橋の劣化の関係など、これまでの点検データを詳細に分析して、損傷が深刻化する前にいち早く補修を行う方法を検討していくことにしています。

長野県建設部の新田恭士部長は「いたちごっこというよりむしろ状態の悪い橋の数の割合がどんどん増えて、管理上、非常に危機的な状況になると心配している。壊れてから直すのではなく、健全な状態のうちにある程度、手当てをすることで壊れるスピードを抑えるなど対策を進めたい」と話しています。

“補修の優先度を考え維持管理を”

急速に進む道路インフラの老朽化について、専門家は傷んだ施設の対策だけでなく、傷む前に手当てをする“予防保全”も進めることが重要だとした上で、優先順位をつけて効率的に維持管理することが求められると指摘しています。

インフラの維持管理に詳しい北海道大学の長井宏平教授は、橋やトンネルの老朽化の現状について、「このままでは直さなければならないインフラが膨大になって、対応が追いつかない危険な状況になる。一方、行政の予算にも限りがあるので、効率的な維持管理を考えて劣化のスピードを抑えていく必要がある」と話しています。

具体的には「早めに手を打つ“予防保全”をすることで安全性が高まり、長期的に補修の予算が減ることも考えられる。都道府県や自治体など管理者は、施設の構造的な劣化を診断するだけではなく、長期的な予算や重要度など補修の優先度を考え、維持管理していくことが求められる」と話しています。

そのうえで長井教授は「橋のどの場所が傷みやすかったかなど、過去のデータを抽出することで今後の劣化予測につなげることができる。人口や交通量の変化などほかのデータと組み合わせてインフラの使われ方の将来像を予測することで、維持管理の優先度を多角的に決めていくことが期待される」として、自治体などが大学や研究機関と連携して蓄積されたデータを生かすための取り組みを、進めるべきだと指摘しました。