自転車通行帯は、平成28年に国土交通省と警察庁が策定したガイドラインで3種類の形態が定められています。
車道と歩道の板挟み 自転車通行帯の実態は
街中でよく見かける青い表示。
車道に示されている自転車の「通行帯」です。
道路の制限速度や交通量によって3種類に分かれているのを知っていますか?
自転車は、この上を通ることになっていますが…
自転車通行帯について取材をすると、ある実態がわかってきました。
(大阪放送局記者 木村真実)
自転車通行帯は3種類
●「自転車道」
・自転車が走る道路と車道を縁石などで構造的に分離したもの
・車の制限速度が60キロ以上の道路に整備される
・幅は2メートル以上
●「自転車専用通行帯」
・車道上に青い塗装などで自転車が走る部分が表示されているもの
・車の制限速度が50キロ、または、1日の交通量が4000台を超える道路
・自転車だけが走行でき、車やバイクは通行することができない
・幅は原則1.5メートル以上
●「車道混在型」
・自転車の通行位置と方向を矢羽根型の表示などで示しているもの
・車の制限速度が40キロ以下、かつ、車の交通量が4000台以下
・車もこの上を通行することが可能
・幅は75センチ以上
このように、車の制限速度や交通量によって整備すべき自転車通行帯の目安が示されていて、道路管理者は、どれを整備するのか選ぶことになっています。
大阪府内の整備の実態は、9割が…
自転車産業振興協会によりますと、1世帯当たりの自転車保有台数が、大阪府は1.3台と全国で1位になっています。
たしかに、街なかでは買い物や子どもの送り迎えなどで自転車が往来しているのをよく見かけます。
大阪府は、自転車の安全を確保するため、2025年度までの10年間でおよそ200キロに渡って自転車通行帯の整備をする計画を立てていて、これまでに119キロの整備が終わっています。
ところが、このうち9割以上のおよそ114キロに渡って整備されている「車道混在型」は、国のガイドラインに定められた形態での整備ができていないというのです。
大阪市も同様で、21.5キロ整備されている「車道混在型」すべてが、ガイドラインに定められた形態での整備になっていませんでした。
これらは、車の制限速度が50キロとなっているなど、本来は、車やバイクが通行することができない「自転車専用通行帯」の整備が求められている道路だったのです。
大阪の町を見てみると、観光客が多く訪れるあべのハルカスの前の道路も、買い物客が多い大阪・梅田の駅前の道路も、あちらこちらで「車道混在型」の矢羽根の表示が目につきますが、いずれもガイドラインに従った整備ができていない通行帯でした。
車との距離が近い、事故の恐れも
この「車道混在型」は、ほかの通行帯と違って、車もこの上を通行することができるため、車との距離が最も近くなります
あべのハルカスの前の道路で取材をしている時も、自転車のすぐ脇を車が通過していました。
自転車の利用者からも危険を感じると言った声が聞かれました。
ほぼ毎日自転車を利用している20代の男性
「自転車は車両だと言われますが、結構危ないと思います。車にすれすれを通られたときがあったので、そのときは結構怖かったです」
警察庁によりますと、去年(2022年)、大阪府で自転車と車の事故は7038件と全国で最も多くなっています。
通行帯での事故がどの程度起きているのか、内訳はありませんが、過去5年(2018年~2022年)さかのぼっても毎年、大阪が最多となっています。
通行帯を走っていた自転車で死亡事故も
去年3月には、死亡事故も起きていました。
警察などによりますと、大阪・忠岡町の府道で、通行帯の上を自転車で走っていた当時72歳の男性が、後ろからきた車にはねられて死亡しました。
現場は、車の制限速度が50キロの道路。
しかし、そこには「自転車専用通行帯」ではなく、「車道混在型」が整備されていました。
自転車に乗っていた男性の横を走っていた車の左側のドアミラーが男性の右腕にぶつかって転倒し、さらに、後ろから来た別の車にはねられたということです。
この事故の裁判の判決で、最初にぶつかった車の運転手に執行猶予のついた有罪判決が言い渡されました。
ガイドライン通りに整備ができない、その理由は
大阪府では、2025年度までに整備を予定している残りの80キロについても、ほとんどが「車道混在型」で、ガイドライン通りに整備にするのは難しいといいます。
なぜ、このような状況になっているのか…。
大阪府の担当者は頭を悩ませていました。
ガイドライン通りに整備ができない最大の理由は、通行帯を整備するための道幅が確保できないことです。
自転車専用通行帯の整備に必要な幅は、1.5メートル。
昔からある道路は、沿道に住む人に配慮して道路を整備したため、余裕を持った道幅になっていないといいます。
また、複数の車線があって一見、自転車専用通行帯の整備ができそうな道路でも、ある程度の区間、連続して整備しないとかえって交通に混乱が起きるため、「車道混在型」にせざるを得ないというのです。
大阪府道路室道路環境課 井上英樹課長
「大阪の土地は、住宅が密集していたり、工場が建ち並んでいたりするので、計画を進めるのは難しい。府民には、通行帯の整備の現状を知っていただき、自転車を利用する方には、ルールを守って自転車に乗っていただくように心がけてほしい」
大阪府では、できる限り安全な道路にするため暫定的に「車道混在型」の整備を進めているとしていて、将来的には用地を確保するため土地の買収などするほか、新たに作る道路ではガイドライン通りの整備を検討しているということです。
難しい整備、どう解決する?
ガイドライン通りに整備をするにはどうすれば良いのでしょうか。
道路環境の整備に詳しく、国のガイドラインの策定にも携わっている、大阪公立大学大学院の吉田長裕准教授に聞きました。
通行帯の整備は、全国的な課題となっているといいます。
その中でも、車線を50センチ狭めたり、路肩のスペースを活用したりして、なんとか1.5メートルの幅を確保しているケースや電柱をなくして通行帯を整備しているケースがあるということです。
このほか、複数車線があっても交通量が減っている道路では、1車線を自転車用に使うことも検討してほしいと話しています。
また、通行帯の整備が進められなくても、制限速度を落とすことで重大な事故を防ぐことはできると指摘しています。
大阪公立大学大学院 吉田長裕准教授
「様々な取り組みが徐々に全国の自治体などで実施されているが、必ずしもそのノウハウが共有されてないのが大きい課題。望ましい道路整備につなげていくためにどうあるべきなのか、関係者の方々の中で、会議を開いたり共有したりして、突破口を見つけて頂きたい」
国土交通省の会議では、ガイドラインの改訂に向けて話し合いが進められていて、通行帯の整備の事例や課題について情報収集した上で、整備のステップの具体例を示すことができるように検討が重ねられているということです。
取材後記
自転車は車道を走らなければならないことを分かってはいるものの、車道は怖いので歩道を走ってしまう…。
そんな人も多いのではないでしょうか。
歩行者と車の板挟みになる自転車。
自転車も安心して車道を走れる通行帯の整備が進むことを願います。
(12月1日 ほっと関西で放送)