【29日 詳細】戦闘休止の再延長に双方が合意できるか焦点

イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘休止は新たに延長された期間に入り、28日、ガザ地区で人質として拘束されていたイスラエル人など12人が解放された一方、イスラエルで収監されていたパレスチナ人30人が釈放されました。
戦闘の休止期間は少なくとも29日まで続きますが、休止の再延長を模索する動きも伝えられ、双方の駆け引きが続いているものと見られます。

※イスラエルやパレスチナに関する日本時間29日の動きを随時更新でお伝えします。

戦闘休止の再延長に双方が合意できるか焦点

イスラエルとパレスチナのガザ地区を実効支配するハマスは今月24日から4日間にわたって戦闘を休止したあと、さらに2日間、休止を延長することで合意しました。

戦闘休止は29日で6日目を迎え、イスラエルのメディアは次に解放される見通しの人質のリストをイスラエルが受け取ったと伝えていて、合意が守られれば、戦闘の休止は少なくとも29日までは続く予定です。

この5日間でイスラエル人と外国籍の人質あわせて81人が解放され、イスラエルの刑務所に収容されていたパレスチナ人あわせて180人が釈放されています。

こうしたなか、アメリカのCIA=中央情報局とイスラエルの対外工作活動を担う情報機関モサドのトップが、仲介役を担うカタールの首相やエジプトの情報機関のトップと話し合うため、28日、カタールを訪れたと複数のメディアが伝えました。

アメリカの有力紙はCIA長官の訪問の目的はこれまで解放されている女性や子どもだけでなく、男性や軍の関係者の解放も求めるためだと報じています。

また、中東や欧米の一部のメディアは29日、戦闘休止をさらに数日間延長するための交渉が進められていると伝えています。

一方、イスラエルの有力メディアは、イスラエル側はあわせて10日間を超える戦闘休止には応じない方針だと伝えていて、休止の再延長に双方が合意できるかどうかが焦点となっています。

イスラエル主要紙“ガンツ前国防相が首相にふさわしい” 5割超

イスラエルの主要紙、「マーリブ」は今月15日から16日に行った世論調査のなかでイスラエルの現役の首相と、野党の党首のどちらが首相にふさわしいかを尋ねました。

その結果、野党党首で人質の解放を優先することを訴えている▽ガンツ前国防相と答えた人は52%だったのに対し、▽ネタニヤフ首相は27%、▽わからないが21%でした。

イスラエル銀行 戦闘影響でGDP見通しを下方修正

イスラエルの中央銀行、イスラエル銀行は27日、ことしと来年のGDPの見通しについて、いずれも前の年と比べた伸び率がプラス2%になると明らかにしました。

先月の予測に比べると、
▽ことしのGDPは0.3ポイント、
▽来年については0.8ポイント、それぞれ下方修正しました。

理由については、イスラエルではイスラム組織ハマスとの戦闘で、予備役に多くの人が招集され労働力の供給が減ったことや個人消費の落ち込みなどから、経済への影響がことしだけでなく来年まで長期化するためだとしています。

また、戦闘が与える財政への影響については、ことしから2025年までの期間で、1980億シュケル、日本円でおよそ7兆9000億円にのぼるとしていて、このうち半分以上を軍事費が占めるとしています。

一方、大きな被害が出ているパレスチナのガザ地区では、ILO=国際労働機関が先月末時点で雇用全体の61%にあたる18万2000人が仕事を失ったと推計していて、戦闘が長引く場合にはイスラエルとパレスチナ双方で経済的な影響がさらに拡大することが懸念されます。

釈放されたパレスチナ人「手放しでは喜べない」

ヨルダン川西岸のパレスチナ暫定自治区のベツレヘム近郊では、釈放が発表されたハニン・マサイドさん(27)の家族や親せきなどが自宅に集まって、テレビのニュースを見ながらマサイドさんの帰りを待っていました。

日付が変わった29日の午前2時ごろ、自宅に到着するとマサイドさんは、集まっていた家族などと抱き合って再会を喜びました。

また、集まっていた人たちは歓声をあげたり、車のクラクションを鳴らしたりして、喜びを表していました。

自宅に戻ったマサイドさんは「突然釈放されてとてもうれしいです。ただ、ガザ地区では多くの人が犠牲になっていて手放しでは喜べません」と話していました。

家族によりますと、マサイドさんはSNS上で「イスラエル軍によるガザ地区への地上侵攻で住民が犠牲になっている」という趣旨の書き込みについて問題視されたとみられ、イスラエル当局に今月10日から拘束されていたということです。

イスラエル当局は裁判所の判断なしにパレスチナ人を刑務所に事実上、無期限で収容することを可能にする「行政拘束」と呼ばれる措置をとっていて、国際社会からは批判の声があがっています。

ガザで拘束12人解放 イスラエル収監のパレスチナ人30人釈放

イスラエルとパレスチナのガザ地区を実効支配するハマスは今月24日から4日間にわたって戦闘を休止し、イスラエル軍によりますと、27日までにハマスがイスラエル人と外国籍の人質合わせて76人を解放した一方、イスラエル側は刑務所に収容していたパレスチナ人150人を釈放しました。

さらに双方は戦闘休止の期間を2日間延長し、戦闘休止5日目となった28日もガザ地区で拘束されていたイスラエル人10人と外国籍2人の、合わせて12人の人質が解放された一方、イスラエルで収監されていたパレスチナ人30人が釈放されました。

こうした中、ガザ地区の保健当局は地区北部にある最大の病院、シファ病院で28日、人工透析が再開したと発表しました。保健当局は患者が透析を受ける写真を公開し地区内に搬入された支援物資などによって人道状況が改善したとしています。

双方による新たな合意が守られれば、戦闘の休止は少なくとも29日まで続きますが、ハマスの幹部は地元メディアに「人質にしているイスラエル人の兵士について解放交渉をする用意がある」と述べるなど、休止をさらに延長したい意向を示しています。

WHOテドロス事務局長“衛生状況悪化で持続的な停戦必要”

WHO=世界保健機関のテドロス事務局長はSNSで、ガザ地区における衛生環境の悪化などによって、さらに多くの人が命を落とす可能性があるとして持続的な停戦が必要だと訴えています。

WHOのテドロス事務局長は、29日、旧ツイッターのXに「ガザでは130万人が避難所で生活している。過密状態で、食料や水、衛生設備などが不足している」として、感染症のリスクが高まっていると投稿しました。

そのうえで、テドロス事務局長は「爆撃よりも多くの人が病気で亡くなる可能性がある。持続的な停戦がいま必要だ。これは民間人にとって、生きるか死ぬかの問題だ」として停戦が必要だと訴えました。

“戦闘休止の再延長を模索する動き”

アメリカやイスラエルのメディアが、アメリカのCIA=中央情報局とイスラエルの対外工作活動を担う情報機関モサドのトップが、仲介役を担うカタールの首相やエジプトの情報機関のトップと人質のさらなる解放について話し合うため、28日、カタールの首都ドーハを訪れたと報じるなど、戦闘休止の再延長を模索する動きが伝えられています。

その一方で、イスラエルの有力メディアハーレツは関係者の話として、イスラエル側は10日間を超える戦闘休止には応じない方針だと伝えていて、休止の条件などをめぐり、駆け引きが続けられているものと見られます。

イスラエルがあくまでもハマスの壊滅を目指すとしている中、強い不信感を抱く双方が戦闘休止の再延長に合意できるのか、予断を許さない状況です。

米 ブリンケン国務長官「戦闘の休止の延長を望む」

アメリカのブリンケン国務長官は29日、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘休止は人質の解放とガザ地区への人道支援の拡大につながるとして、さらなる延長に向け働きかけを続ける考えを示しました。

NATO=北大西洋条約機構の外相会合に出席するため、ベルギーのブリュッセルを訪れているアメリカのブリンケン国務長官は29日、記者会見を行いました。

この中でブリンケン長官は「戦闘の休止の延長を望む。なぜなら人質の解放や人道支援の拡大につなげることができるからだ。それは私たちが望んでいることであり、イスラエルも望んでいることだ」と述べ、ガザ地区での戦闘の休止のさらなる延長に向け、引き続き働きかけを行う考えを示しました。

ブリンケン長官はこのあと、イスラエルやヨルダン川西岸のパレスチナ暫定自治区を訪問し、双方の政府要人などと会談する予定のほか、UAE=アラブ首長国連邦も訪れることにしています。

岸田首相 エジプトのシシ大統領と会談 引き続き緊密に連携

岸田総理大臣は29日夜、ガザ地区と境界を接するエジプトのシシ大統領と電話で会談し、事態の早期沈静化に向けて引き続き緊密に連携していくことを確認しました。

この中で岸田総理大臣は、11月はじめにガザ地区から日本人やその家族が退避した際のエジプトの協力に感謝を示すとともに、エジプトやカタール、それにアメリカの尽力で実現した戦闘休止や人質の解放などは状況改善への重要なステップだとして歓迎の意を伝えました。

これに対しシシ大統領は、日本による人道支援への謝意を示し、現地情勢をめぐるエジプトの考え方などを説明したということです。

そして両首脳は事態の早期沈静化に向けて引き続き緊密に連携していくことを確認しました。

ハマス 戦闘休止期間延長向け「イスラム聖戦」と協力か

ガザ地区から28日に解放された人質をめぐって、ハマスと連帯関係にあるパレスチナの武装組織「イスラム聖戦」はこの日「われわれはイスラエル人の拘束者数人を引き渡した」とする声明を出しました。

ハマスが公開した、人質を赤十字に引き渡す映像ではハマスとイスラム聖戦の戦闘員が人質を挟むように両側に付き添って歩き、引き渡したあとには双方の戦闘員が抱擁を交わすなどイスラム聖戦の存在を印象づけています。

イスラム聖戦は先月8日の声明で30人以上を人質にとっていると主張していて、イスラエル側が人質が10人解放されれば戦闘休止期間を1日延長するとしている中、休止期間を延長したいハマスが人質の人数を確保するため、地区内のほかの武装組織と協力を進めている可能性もあります。

ハマス幹部「イスラエルの戦闘再開の脅しは国内へのアピール」

イスラム組織ハマスの政治部門の幹部は28日夜、レバノンの首都ベイルートで記者会見し「イスラエルによる戦闘再開の脅しは国内向けのアピールだ」と述べ、イスラエル側の揺さぶりには動じないと強調しました。

またこの幹部は、「イスラエル軍はガザ地区の土地の8割には踏み入ることができていないし今後も踏み入ることはない。敵の損失は今後数日で増加するだろう」と述べて、戦闘の再開も示唆しました。

このほか、ガザ地区の病院が機能せずに、治療を待つ人が増え続けているとして、「各国にさまざまな分野の野外病院の設置と、けが人や患者の受け入れを呼びかける」として国際社会にさらなる人道支援を求めました。

一方、ガザ地区で人質になっていたイスラエル人の女性が解放される前に書いたものだとするハマスへの感謝の手紙を紹介し、人質を丁重に扱っていることをアピールしました。

G7外相「休止のさらなる延長 必要に応じた将来の休止を支持」

G7=主要7か国の外相は日本時間の29日、声明を発表しました。

それによりますと、「人質の解放とガザ地区への人道支援の増大を可能にした敵対行為の休止を歓迎する」としています。

そして、今回の動きを「残るすべての人質が帰還することや、ガザ地区で進む人道危機に全面的に対処するための重要な一歩だ」とし、「休止のさらなる延長や必要に応じた将来の休止を支持する」としています。

一方、今月19日にイエメン近くの紅海で、日本郵船が運航する自動車運搬船「ギャラクシー・リーダー」が、イエメンの反政府勢力フーシ派に乗っ取られたことについて、「一般市民への攻撃や国際航路、商業船舶への脅迫をただちに停止し、運搬船と船員を解放するよう求める」としています。

釈放されたパレスチナ人女性「状況を世界に知らせるのが義務」

イスラム組織ハマスとイスラエルによる合意に基づき刑務所から釈放された、ヨルダン川西岸のラマラに住む、ハナン・バルグーシさん(59)が28日、NHKの取材に応じました。

ハマスとイスラエルがガザ地区での戦闘休止を2日間延長したことについて、バルグーシさんは、「2日では十分ではない。カタールやエジプト、アメリカによって休止期間が延長され、戦闘が終わるとともに刑務所に収容されたすべてのパレスチナ人の釈放を常に願っている」と訴えていました。

またバルグーシさんは刑務所に収容されているパレスチナ人が直面している厳しい状況についても明らかにしました。

バルグーシさんによりますとハマスによる大規模攻撃が起きた先月7日以降に収容されたパレスチナ人の女性は身体検査を受ける際に複数の刑務官の前で裸にさせられ、なかには「20人の兵士がおまえを暴行する準備ができている」などと脅されていた人もいたということです。

こうした中、自身が釈放されたことについて、「息子4人と兄がいまだに収容されている。さらに出所後に、ガザ地区が破壊されたことを知り胸が張り裂けそうだ」と話していました。

一方、釈放される際に刑務所の幹部から収容されているパレスチナ人の状況についてメディアに話せば「今度は無期限に収容する」と伝えられたということです。

それでも今回、取材に応じた理由についてバルグーシさんは「占領者イスラエルがパレスチナの少女たちにどんな仕打ちをしているのか世界に知らせるのは私の義務だ」と強調していました。

ガザ地区南部では依然燃料不足が深刻

戦闘の休止にともなってガザ地区には燃料や食料などの人道支援物資が運び込まれていますが、多くの人が身を寄せる南部では依然として燃料不足が深刻で住民たちは知恵を絞って生活を続けています。

NHKガザ事務所のサラーム・アブタホンカメラマンが28日、ガザ地区南部のラファで撮影した映像では、電力と燃料の不足からミシンを動かせなくなった仕立て屋がミシンの先に自転車を取りつけ、ペダルを手で回すとミシンが動くように改造し、なんとか営業を続けている様子が映っています。

仕立て屋の男性は「ふだんは電気で動かしますが人力で動かせるようにしました。電力不足で、その場しのぎのアイデアです。多くの避難者が衣服を補修したがっているんです」と話していました。

多くの人が避難しているガザ地区南部のラファなどでは食料や飲み水だけでなく、衣服や靴などの日用品なども不足しているということで寒さが厳しくなる時期を前に人道危機のさらなる悪化が懸念されています。

靴などの修理店の男性は「いまは人々は新しい靴を買うお金などなく古いものを修理して履いています。多くの避難者がいて、ものも不足しています。私の家には25人が身を寄せていて彼らのためにも仕事をして稼がなければ」と話していました。