JASRAC音楽文化賞 レコードのラッカー盤生産の長野の企業など

JASRAC=日本音楽著作権協会が音楽文化の発展に貢献した人や団体に贈る、ことしの「JASRAC音楽文化賞」に、近年人気が高まっているレコードの生産に欠かせない「ラッカー盤」を世界で唯一生産している長野県の企業などが選ばれました。

この賞はJASRACが地道な音楽文化の発展に貢献した個人や団体を表彰するもので、ことしは3つの企業と団体が選ばれ、17日、東京 港区で贈呈式が行われました。

このうち長野県宮田村の「パブリックレコード」は、レコードの生産に必要な「ラッカー盤」の生産を世界で唯一続けている企業です。

JASRACによりますと、「ラッカー盤」を生産していたアメリカの企業の工場が2020年に火災に遭ったため、長野県のこの企業が世界で唯一、現在も生産を続けていて、近年人気が高まっているレコードの文化を根底で支えていると評価されました。

贈呈式で記念の盾を贈られた奥田聖社長は、「世界に1社となってしまい、大きな責任とプレッシャーを感じているが、今後も微力ながら音楽文化に貢献できるよう頑張りたい」とあいさつしました。

この会社が生産するアルミの円盤にラッカーを薄く塗装した「ラッカー盤」はレコードを生産する型を作るための原盤で、レコードを生み出すためには欠かせないものです。

近年、デジタルにはない音質の魅力などからレコードの人気は若者を中心に高まっていて、日本レコード協会のまとめによりますと、協会に加盟する企業の去年のレコードの出荷枚数は213万枚余りと10年前の2012年のおよそ5倍に急増しています。

贈呈式のあと奥田社長は、「レコードの需要が少ない時期もあったが、必要としてくれた人がいたので続けてこられました。今の人気が続いてレコードを聴いてくれる人が増えるとうれしいです」と話していました。

このほか、ことしの「JASRAC音楽文化賞」には、▼シャンソンの祭典「パリ祭」を60年前から開いてきたパリ祭実行委員会と、▼愛知県で地域住民によるオペラを上演している三河市民オペラ制作委員会が受賞しました。

ラッカー盤製造「必要とする人がいるかぎり」

長野県の南部、伊那谷にある宮田村の「パブリックレコード」は昭和51年に設立され、その6年後、「ラッカー盤」と呼ばれるレコードを作るための原盤の製造を始めました。

レコードは溝に刻み込まれた波形を針で読み取り音として復元しますが、このレコードを大量生産するために必要なのが「ラッカー盤」です。

アルミ板に「ラッカー」と呼ばれる塗料を0.2ミリと薄く均一に塗ったものです。

「ラッカー盤」をもとに作られた型で塩化ビニールをプレスすることでレコードが大量生産されています。

「ラッカー盤」はわずかなホコリの付着も許されません。

塗料をコーティングする際は温度や湿度などが完全に管理された部屋で行われ、片面ごとに1日乾燥させるなど手間がかかる作業です。

CDの登場で需要は長らく落ち込んでいましたが、レコード人気の再燃で現在は最盛期と同じ年間およそ12万枚製造しています。

製造にあたる人員も15人と増やしました。

これまでアメリカにも製造工場がありましたが、3年前の火災で焼け、今は世界で唯一の製造企業となりました。

「パブリックレコード」の社名は「みんなのための記録・記憶を残す」という思いから名付けられたということで、かつては地元の学校の演奏会や卒業記念に制作するレコード作りにも携わってきたということです。

奥田聖社長は「レコードを必要とする人がいるかぎり、『ラッカー盤』を作り続けていきます。世界で唯一、供給する会社としてプレッシャーも感じますが、皆さんに喜んでもらえるいい製品作りをしたいです」と話していました。