米中首脳会談 “国防相会談再開”で合意 台湾めぐっては平行線

アメリカのバイデン大統領と中国の習近平国家主席は、日本時間の16日、アメリカ西海岸のサンフランシスコ近郊で1年ぶりに首脳会談を行い、国防相会談を再開させることなどで合意しました。ただ台湾をめぐっては議論は平行線をたどり立場の隔たりも浮き彫りとなりました。

1年ぶりの会談 4時間にわたり議論

アメリカ側の発表によりますと、両首脳は会談で、去年11月以降行われていない国防相会談を再開させることや、米中の軍の司令官どうしが軍事演習や軍の展開について対話を行うことで合意しました。

また、AI=人工知能の安全性を向上させるため、両政府で協議することや、国際的な違法薬物の製造や密売への対応を両国が協力して進めることを確認したとしています。

一方、アメリカ政府高官によりますと、台湾をめぐってバイデン大統領は台湾周辺での中国の軍事的な行動が緊張と懸念を高めていると指摘し、「中国は戦略を考え直す必要がある」と指摘したということです。

また、来年1月に行われる台湾総統選挙に中国が介入しないよう求めたとしています。

中国外務省によりますと、これに対して習主席は「アメリカは台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ」と強調したということです。

また、アメリカ政府高官によりますと、習主席は会談で「アメリカでは2027年や2035年に中国が軍事作戦を計画しているとの報道があるが、そのような計画はない。誰からも私は聞いていない」と強く反論したということです。

台湾をめぐり議論は平行線をたどり、双方の立場の隔たりが浮き彫りとなった形で、米中両国が首脳どうしの合意にもとづき、実際に競争を管理していけるかが問われることになります。

会談冒頭 バイデン大統領「競争が衝突へ転じないように」

バイデン大統領は習近平国家主席との首脳会談の冒頭、「去年、G20にあわせてインドネシアのバリ島で私たちが会って以来、われわれのチームの主要なメンバーはさまざまな問題について重要な議論を交わしてきた。対面での話し合いにかわるものはない。私たちの話し合いはいつも率直であり、感謝している」と述べました。

そして、「わたしは今回の会談を重視している。指導者どうしが互いに誤解をしないことは最も重要だと考えているからだ」としたうえで、「私たちは競争が衝突へと転じないよう、責任ある形で競争を管理していかなければならない」と述べました。

会談冒頭 習国家主席「新しい合意に達すること期待」

習近平国家主席は会談の冒頭、「世界は新型コロナウイルスの感染拡大からは抜け出したが、大きな影響はまだ残っている。世界経済は回復し始めたが力強さに欠け、産業のサプライチェーンは妨げられ、保護主義が台頭するなど、これらの問題が非常に際立っている。世界で最も重要な二国間関係として、中米関係は人類の進歩のために責任を果たさなければならない」と述べました。

そして、「この50年余り、中米関係は順風満帆ではなく、紆余曲折(うよきょくせつ)の中で前に向かって発展してきた」としたうえで、「この地球は中米両国を受け入れることができる。それぞれの成功は互いのチャンスだ。私は中米関係の将来は明るいとかたく信じている」と述べました。

また、習国家主席は「両大国が関わり合わないことはいけないことで、お互いのことを変えようとすることも現実的ではなく、衝突と対抗の結果には誰も耐えることはできない」と述べたうえで、「私と大統領は中米関係をかじ取りする者として人々、世界、歴史に対し、重い責任を背負っている。きょう、私は大統領と中米関係の戦略性、方向性、それに世界の平和と発展の重大な問題について、突っ込んだ意見交換を行い、新しい合意に達することを期待している」と述べました。

さらに、「大国による競争はこの時代の潮流ではなく、両国と世界が直面する問題を解決することもできない」としたうえで、「両国の歴史、文化、社会制度、発展の道が異なることは客観的な現実だ。しかし、双方が相互尊重、平和共存、ウィンウィンの協力を堅持するかぎり、完全に相違を乗り越えて、正しくつきあう道を見つけることができる」と述べました。

習主席 台湾の平和的統一への支持や一方的制裁の撤廃求める

習近平国家主席はバイデン大統領との首脳会談で、台湾の平和的な統一への支持や、一方的な制裁の撤廃を求めました。

中国の国営メディアによりますと、習主席はバイデン大統領との首脳会談で台湾について取り上げ、「台湾問題は常に中米関係において、最も重要で敏感な問題だ」と指摘しました。

そのうえで、「アメリカは『台湾独立』を支持しないという態度をはっきりと具体的な行動で示し、台湾を武装することをやめ、中国の平和的な統一を支持すべきだ。中国は最終的に統一される。統一は必然だ」として、みずからが強い意欲を示す台湾統一について強調しました。

また、習国家主席はアメリカが実施している中国向けの輸出規制について、「中国の正当な利益を著しく損なっている。中国の科学技術を抑圧することは中国の質の高い発展を封じ込め、国民の発展の権利を奪い取ることだ」と強く反発しました。

そして、「アメリカ側が中国側の懸念と厳粛に向き合い、一方的な制裁を撤廃し、中国企業に公平かつ公正で、差別をしない環境を提供することを望む」として、アメリカ側に制裁の解除を求めました。

「5本の柱 築くべき」習主席が会談で示す 中国外務省

中国外務省によりますと、習近平国家主席はアメリカのバイデン大統領との会談で、「中国とアメリカは新たなビジョンを持ち、共に努力して中米関係の5本の柱を築くべきだ」として、両国がともに取り組むべき5つのことを示しました。

それによりますと、1つ目は「共に正しい認識を確立すること」で、両国がパートナーとなり、互いに尊重し平和共存することを望むとしています。

2つ目は「共に意見の隔たりを効果的に管理すること」で、より多くの意思疎通と対話を行い、意見の隔たりや予想外のできごとに冷静に対処しなければならないとしています。

3つ目は「共に互いに利益のある協力を推進していくこと」で、経済や貿易、農業などの伝統的な分野だけでなく、気候変動やAI=人工知能などの新たな分野も含め、さまざまな分野で協力すべきだととしています。

4つ目は「共に大国としての責任を果たすこと」で、人類が直面している困難を解決するには大国の協力が欠かせず、米中両国は率先して国際社会や地域の問題で協調と協力を強化すべきだとしています。

そして5つ目は「共に交流を促進すること」で、両国の直行便の増加や観光協力の促進、地方の交流拡大、それに教育分野の協力を強化して、両国民の往来と意思疎通を奨励し、支援しなければならないとしています。

「20余りの項目で合意 対話と協力は正しい選択」中国外務省

中国の習近平国家主席とアメリカのバイデン大統領との首脳会談について、中国外務省の報道官は16日の記者会見で、「20余りの項目で合意に達した」と述べ、多くの成果があったと強調しました。

このなかで、中国外務省の毛寧報道官は「戦略的意義と大きな影響のある会談であり、現在の国際関係の中で大きなできごとだ。政治、外交、民間交流、軍事や安全保障など、20余りの項目で合意に達した」と述べ、多くの成果があったと強調しました。

そのうえで「対話と協力は両国にとって唯一の正しい選択だ。両国の関係を安定させる新しい出発点になるだろう」と述べ、関係安定化に向けて期待を示しました。

「各領域の対話と協力強化で合意」中国 新華社通信

中国国営の新華社通信は習近平国家主席とバイデン大統領の首脳会談の結果について、「両国の首脳は各領域の対話と協力を推し進めて、強化することで合意した」と伝えました。

具体的には、「平等と尊重に基づく」として、米中両国の間で軍のハイレベル対話や防衛当局による会談、それに海上軍事安全協議のメカニズム会合を再開させることなどを合意したとしています。

このほか、米中両首脳はAI=人工知能についての政府間対話の立ち上げや、中国とアメリカの薬物の取り締まりをめぐる作業部会の設立も合意したとしています。

さらに、来年の早い時期に航空便を大幅に増加させることや、教育やスポーツ、ビジネスなどの分野で交流を拡大させることにも合意したとしています。

また、中国とアメリカで気候変動対策を強化するための作業部会を立ち上げることも明らかにしました。

会談後 バイデン大統領が会見「これまでで最も建設的で生産的」

会談のあと、バイデン大統領は単独で記者会見し、「これまでで最も建設的で生産的な議論ができたと思う」と述べたうえで、「私と習近平主席の間を含むハイレベルでの外交を維持し、追求していくことになった。私たちはすぐに電話で直接、連絡をとれるようにすることで合意した」と明らかにしました。

そして、「われわれは軍どうしの直接の連絡を再開させる。大きな進展があった」と強調しました。

これについてバイデン政権の高官は、両首脳が去年11月以降、行われていない国防相会談を再開させることで合意したと明らかにしました。

また、米中の軍の制服組トップや司令官どうしが軍事演習や軍の展開について対話を行うことでも合意したとしています。

また、「アメリカは中国とこれからも競争するが、その競争は責任を持って管理する。衝突や偶発的な衝突に陥らない。私たちは協力しあうつもりだ。それが世界が私たちに期待していることだ」と述べました。

さらに、台湾については,
「私は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調した」と述べました。

会談では2人で散歩の様子も

今回の会談ではバイデン大統領と習近平国家主席が2人で並んで、言葉を交わしながら、会場の敷地内の庭を散歩する様子も見られました。

会談の状況について記者団から質問されると、バイデン大統領は両手の親指を立て「うまくいっている」という身ぶりを示して応じました。そして、習主席も記者団に向かって手を挙げて、呼びかけに応じていました。

習主席「38年前の私の写真 バイデン大統領が見せてくれた」

中国の習近平国家主席とアメリカのバイデン大統領の首脳会談に同席した中国外務省の華春瑩報道官は、旧ツイッターの「X」に、両首脳が談笑する様子を撮影した写真と、習主席が、かつてサンフランシスコの名所、ゴールデンゲートブリッジを訪れた際の写真を投稿しました。

投稿では、バイデン大統領が習主席にスマートフォンで写真を見せ「この若者を知っていますか」と尋ねたのに対し、習主席が「はい、これは38年前のことです」と答えたとしています。

これについて、アメリカの団体が主催した夕食会であいさつした習主席は、「私が1985年に初めてアメリカを訪れた際の写真を、バイデン大統領がどこからか探して私に見せてくれた」と紹介し、会場の笑いを誘っていました。

中国側としては、両国の友好ムードを演出したい思惑もあるとみられます。

習主席 会談後に「米中の協力必要」民間交流活性化を呼びかけ

中国の習近平国家主席は、サンフランシスコの友好団体などが主催した夕食会で演説し、「世界の未来には、中国とアメリカの協力が必要だ」などと述べた上で民間交流の活性化を呼びかけました。

中国の習近平国家主席は、アメリカのバイデン大統領との首脳会談を終えたあと、日本時間の16日午後、中国との交流を担う現地の友好団体などが主催した夕食会で演説しました。

この中で、習主席は、1985年に初めてアメリカを訪れ、中西部アイオワ州でホームステイした思い出を紹介し「両国は歴史も文化も社会制度も違うが、国民はともに親切で勤勉であることが分かった」などと振り返り、民間交流の重要性を強調しました。

そのうえで習主席は、「世界の未来には、中国とアメリカの協力が必要だ。民間の力を結集して、ともに両国の友好という偉大な事業を完成させよう」と述べ、両国関係の安定に向けて民間交流の活性化を呼びかけました。

一方、習主席は演説の中で、「中国はアメリカの内政に干渉しないし、アメリカに取って代わろうという意図もない。アメリカも、中国の内政に干渉すべきでない」とも述べ、台湾や南シナ海の情勢などを念頭に、アメリカに対し関与を強めないようくぎを刺しました。

アメリカ ロシアとも接触するか注目

一方、ロシア外務省のザハロワ報道官は15日に行った会見の中で、APECの首脳会議をめぐり、「アメリカから水面下ではあるが、われわれと現実的で非公式な対話を行う用意があるというシグナルがでている」などと述べ、アメリカ側から何らかの対話の打診が内々にあったと主張しました。

APECの首脳会議にはロシアからはプーチン大統領は出席せず、代わりにオベルチュク副首相が出席することになっています。

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻によってアメリカとロシアの対立が深まるなか、両国の間で何らかの接触が見られるか注目されます。

上川外務大臣「米中関係の安定は極めて重要」

上川外務大臣は、訪問先のサンフランシスコで記者団に対し、「米中両国の関係の安定は国際社会にとって極めて重要だ。日本としては同盟国であるアメリカとの強固な信頼関係のもと協力を進めつつ、中国に対して大国としての責任を果たしていくよう働きかけていきたい」と述べました。

松野官房長官「中国とあらゆるレベルで緊密に意思疎通図る」

松野官房長官は16日午前の記者会見で、「米中両国の関係の安定は国際社会にとっても極めて重要だ。日本としては引き続き、同盟国のアメリカとの強固な信頼関係のもと、さまざまな協力を進めつつ、中国に対し大国としての責任を果たしていくよう働きかけていきたい」と述べました。

一方、実施に向けて調整が進められている日中首脳会談については、「現時点で何ら決まっておらず、議論の内容を予断することは差し控える。わが国として主張すべきは主張し、諸懸案も含めて対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力するという建設的かつ安定的な関係の構築を進めていく方針のもと、中国とはあらゆるレベルで緊密に意思疎通を図っていきたい」と述べました。

中国外務省 日中首脳会談は「提供できる情報ない」

調整が続けられている岸田総理大臣と中国の習近平国家主席の首脳会談について、中国外務省の毛寧報道官は16日の記者会見で、「提供できる情報はない」と述べるにとどまりました。