ガザ地区 医療 危機的状況に イスラエル 批判和らげたい思惑も

イスラエル軍の地上侵攻が続くガザ地区ではイスラエル軍の攻撃や燃料不足によって医療提供体制が危機的な状況に陥り、多くの死者が出ていて国際的な批判が高まっています。
こうしたなかイスラエル軍はガザ地区最大のシファ病院に必要な保育器と人工呼吸器を提供する準備を進めていると発表し、国際的な批判を和らげたい思惑もうかがえます。

35病院のうち25病院 稼働できない状態

ガザ地区で地上侵攻を続けるイスラエル軍は14日、イスラム教のモスクの中にイスラム組織ハマスが構築したとする地下トンネルを発見したほか、武器の製造場所や対戦車ミサイルの発射場所などあわせて200か所を空爆したと発表しました。

一方、ガザ地区の保健当局によりますとイスラエル軍の攻撃と燃料不足のためガザ地区にある35ある病院のうち25の病院で医療活動ができない状態に追い込まれています。

このうち最大のシファ病院は新生児7人と患者27人のあわせて34人が死亡し、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは14日、10人ほどの新生児が保育器を使えず、ベッドで寝かされ、危険な状態だとする映像を伝えています。

パレスチナ赤新月社 “南部アマル病院も発電機停止”

また、パレスチナ赤新月社は南部のハンユニスにあるアマル病院でも発電機が停止したと発表し、治療中の90人の患者のうち、25人はいつ命を落とすか分からない状況だとしています。

この病院では、9000人の市民が敷地内に避難しているということです。

イスラエル軍 “シファ病院へ保育器 人工呼吸器の提供準備”

こうしたなか、イスラエル軍は14日未明、シファ病院に対し、必要な保育器と人工呼吸器を提供する準備を進めているとした音声や動画をSNSを通じて発表しました。

イスラエル軍の調整官とシファ病院の責任者との間で交わされたとする電話の会話のなかでイスラエル軍側は「私たちはあなたたちが希望するなら子どもや患者を避難できるよう手伝う」と提案するとともに「私たちは保育器を病院に提供することもできる。病院の入り口に置いておくが助けになるか」と尋ねました。

これに対しシファ病院の責任者は「それは助かる。人工呼吸器が必要な子どもたちも数人いる」と述べ、結局、病院側がイスラエル軍に対し、合わせて37の保育器と4つの人工呼吸器の提供を求める内容となっています。

さらにイスラエル軍はシファ病院に提供するとみられる保育器の動画や写真を公開し、担当者が「われわれの敵はハマスであり、ガザの人々ではない」と述べています。

ガザ地区の保健当局によりますとシファ病院ではイスラエル軍の攻撃や燃料不足によって新生児と患者のあわせて34人が死亡し、国際社会の批判が高まっていて、イスラエル側はガザ地区の住民に寄り添う姿勢を強調することでこうした批判を和らげたい思惑もうかがえます。

シファ病院医師「状況はとても悪く 非人道的」

危機的な状況が続いているガザ地区最大のシファ病院に残る国際NGO「国境なき医師団」の医師は、「状況はとても悪く、非人道的だ」と述べた上で、患者の安全な避難が保証されなければ、病院を離れることはできないと訴えています。

国境なき医師団は、現地時間の13日午前に収録されたというシファ病院に残る医師からのメッセージをSNSに投稿しました。

この中で医師は、電気も水も食料もない危機的な状況とともに、病院の前には多くの遺体が残され、けが人もいるものの、そうした人々を搬送しようとした救急車が攻撃され、病院に運ぶことができないと窮状を伝えています。

また、患者を銃撃した狙撃兵もいて、けがをした3人を手術したとも証言しています。

病院には、600人の入院患者と37人の新生児がいて中にはICU=集中治療室での治療が必要な患者もいるとしています。

医師は「患者たちを置いてはいけない。病院を去ろうとした人が爆撃され、狙撃兵に殺されたのを見てきたので、安全に退避できるルートの保証が必要だ。もしそれが保証され、まず患者を避難させるのであれば、私たちも避難する」と訴えています。

イスラエル軍 “病院地下に人質監禁の疑い” ハマスは否定

一方、イスラエル軍は特殊部隊が急襲したガザ地区北部にあるランティシ病院を撮影したとする映像を公開しました。

映像には、イスラエル軍の報道官が、病院の近くにあるハマスが使っていたトンネルの入り口だとする場所を案内し、このトンネルが病院の地下の空間につながっていたと説明する様子が写っています。

また、映像には地下の空間の床に何丁もの銃やロケットランチャーのほか、イスや女性の服、ロープなどが置かれている様子も写されていて、報道官は「この場所で人質が監禁された疑いがある」と述べ、地下の空間に人質が連れ込まれていた可能性があるという見方を示しました。

この映像について、ハマスは、SNSで事実と違うと否定した上で、「病院への攻撃を正当化できるものではない」として非難しています。

バイデン大統領「病院は保護されるべき」

アメリカのバイデン大統領は、イスラエル軍の地上侵攻によりガザ地区の病院で医療活動が難しくなっていることについて「病院は保護されるべきだ」と述べて懸念を示すとともに、こうした懸念についてイスラエル側にも伝えたと明らかにしました。

イスラエル軍は、ガザ地区最大のシファ病院の地下にイスラム組織ハマスの重要な拠点があると主張して地上部隊を周辺に展開し、激しい戦闘を続けていて、病院では燃料不足で医療活動の継続が難しくなっています。

こうしたなか、アメリカのバイデン大統領は13日「病院については行き過ぎない行動がとられるべきだ。病院は保護されるべきだ」と述べて懸念を示すとともに、イスラエル側にこうした懸念を伝えていることを明らかにしました。

またホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は記者会見でイスラエル側も懸念は理解しているとしたうえで病院が医療活動を続けられるよう燃料を提供する用意があるとアメリカ側に伝えてきたと明らかにしました。

一方で、イスラエル軍は病院側と連絡が取れていないと説明しているとして、アメリカとして病院が保護されるよう引き続き働きかけていくとしています。

サリバン補佐官はまた「イスラエル軍は市民を盾にとるテロ組織のハマスと対じしているが、だからと言って国際法に従うという責任が小さくなるわけではない」と述べ、イスラエル側にくぎを刺しました。

専門家「病院はインフラの根幹 攻撃は地区全体への圧力」

イスラエル軍の攻撃によりガザ地区の病院で被害が拡大していることについて、パレスチナ情勢に詳しい東京大学の鈴木啓之特任准教授は「シファ病院含めガザ地区の病院は地域のインフラの根幹で、攻撃はガザ地区を拠点としているハマスなどの武装勢力への圧力であり、地区全体に対しての圧力だ」と説明しました。

イスラエル軍が攻撃の理由として、シファ病院の地下にハマスの重要な拠点があると主張していることについて「住民に感知されずにハマスのメンバーが病院や学校の近くに潜んでいることはあり得るとは思うが、一方でそれを証明すること、さらにそれが民間の病院や学校を攻撃する理由になり得るかはやはり疑問だ」と述べました。

また、イスラエル軍がハマスの拠点があると説明したガザ地区のランティシ病院を撮影したとする映像については「最後のシーンでカレンダーを指さしながら作戦が展開されて以降ここにテロリストの名前、見張り役の名前が書いてあるといった内容が話されていたが、アラビア語を見る限り曜日が書いてあるのみで、若干の違和感を覚える」と指摘しました。

そのうえで「たとえハマスの拠点があるとしても、病院を攻撃対象にすることに、国際的に非難の声が上がることは十分に理解できる」と批判しました。

一方、病院に対する地上部隊による攻撃の可能性について、鈴木特任准教授は「国際世論が非常に過敏になっている状態でイスラエル軍としても病院への圧力をかけつつも、一方で国際世論を刺激しないような形で軍事作戦の展開を模索している。それでもなお病院の中に兵を入れるという判断をするならば、病院の内部から攻撃がされるなど、新たな展開があった場合と考えられる」と分析しました。