日大アメフト薬物事件 “副学長の対応が信用を失墜” 第三者委

アメリカンフットボール部の部員の薬物事件をめぐる、日本大学の対応を検証した第三者委員会が報告書をまとめて31日に会見し、事実をわい小化する姿勢やガバナンスの機能不全があったとしました。また、副学長が大麻と疑われる植物片を12日間保管した対応が信用を失墜させた最大の原因だと指摘しています。

日本大学は、アメリカンフットボール部の部員2人が逮捕された薬物事件をめぐる対応で文部科学省から指導を受け、外部の弁護士3人からなる第三者委員会を設置して調査・検証していましたが、委員会が報告書をまとめ、31日に会見しました。

この中では、大麻の使用に関する情報提供があった去年10月以降、幹部が必要な報告をしないなど、多数の不適切な行為があったと判断したうえで、その原因や背景として、「立証されていない事実をわい小化し、不都合な情報には目をつぶり、自己正当化する姿勢がすべての場面で顕著だ」と厳しく批判しました。

不適切な行為の1つとして、7月に学生寮で見つかった大麻と疑われる植物片を、澤田康広副学長が警察に報告するまで12日間保管していた対応をあげ、「世の中の常識から、かい離した独自の判断基準で、社会から隠蔽体質を疑わせ、法人の信用を著しく失墜させた最大の原因だ」と指摘しました。

酒井健夫学長や林真理子理事長についても、理事会などに報告しなかった対応は危機管理規程に違反し、「ガバナンスが機能不全に陥っていた」としたうえで、不適切な行為が重ねられた原因だとしました。

第三者委員会の綿引万里子委員長は「“空白の12日間”と言われている対応は大きな問題だった。コンプライアンス意識が全体に欠けており、どう立て直すか、きちんと議論し正面から向き合ってほしい」と述べました。

改善策の提言として、
▽世の中の公正な価値観を理解した事業の確立や
▽コンプライアンスや内部統制の徹底をあげたほか、
▽ガバナンスの改善に向けた経営層の責任と処分は「社会の批判回避のための場当たり的な処分ではなく、適正な手続きが何より大切だ」としています。

林理事長「社会に貢献できる教育機関として再起できるよう」

第三者委員会の報告書が公表されたことを受け、日本大学の林真理子理事長は「大学執行部の判断ミスなどで混乱が大きくなり、学生・生徒、保護者、卒業生につらい思いをさせてしまったことをおわび申し上げます。報告書で指摘を受けたすべての事項を真摯(しんし)に受け止め、社会から信頼され、社会に貢献できる教育機関として再起できるよう誠心誠意努力してまいります」とコメントを出しました。

日本大学は報告書の指摘を受け止め、再発防止策と管理運営体制の再構築を含む改善計画を速やかに策定するとしています。

公表方法や公表の時期は「今後検討する」としています。

日本大学「再起できるよう誠心誠意努力」

第三者委員会の報告書を公表した日本大学は、ホームページでコメントを発表し、「多くの方に多大なる迷惑と心配をかけていることを改めてお詫びします」と謝罪しました。

そのうえで、「報告書で指摘を受けたすべての事項を真摯(しんし)に受け止め、この事案の再発防止策と管理運営体制の再構築を含む改善計画を迅速に策定すると同時に、こうした事態を招いた関係者の責任の所在を明確にし処分を行います。これらの措置については速やかに公表し、社会から信頼され、社会に広く貢献できる教育機関として再起できるよう誠心誠意努力します」としています。

文部科学相“速やかに改善計画の策定や責任の明確化を”

盛山文部科学大臣は、閣議のあと記者団に対し、「報告書を踏まえたうえで、再発防止や管理運営体制の再構築を含む改善計画の策定や関係者の責任の所在の明確化を速やかに進めていただきたい。文部科学省としては、日本大学において再生に向けた取り組みが着実に進められるよう、引き続きしっかりと指導を行っていきたい」と述べました。

報告書「不適切な行為」の原因や背景

90ページ余りの報告書では、「不適切な行為」と判断した対応と、その原因や背景を指摘しています。

多数の“不適切な行為”

報告書で「不適切な行為」だと判断された対応です。

▽去年10月に保護者から大麻使用の情報があった際、部内だけの判断で使用の事実が認められないと結論づけたこと。

▽11月の部員からの自己申告は、氏名を特定して複数の部員の大麻使用を述べ、具体性があったにもかかわらず、部内の判断で厳重注意処分にとどめたこと。

▽ことし6月に警視庁から大麻に関する情報を得た際、澤田副学長と競技スポーツ部で対応すると決めたことなどをあげています。

“植物片保管の12日間”

また、大麻と疑われる植物片を12日間保管したまま、警察に報告しなかったことについては、副学長、学長、理事長いずれも不適切な行為があったとしました。

▽7月6日に、部員の荷物検査で植物片が発見されたものの、澤田副学長は誰にも相談せず、警察に報告するまで12日間保管したこと。

▽発見の翌日の7月7日、酒井学長は報告を受けましたが、問題視せず警察に提出するよう指示しなかったこと。

▽7月13日に報告を受けた林理事長も、調査を行うよう伝えただけだったことを指摘しています。

大学の“基本的姿勢の不適切さ”

その原因や背景として、まず指摘されたのは、「基本的姿勢の不適切さ」です。

立証されていない事実をわい小化し、時には、ないものとする、不都合な情報には目をつぶり、得られた情報を都合よく解釈して自己正当化する姿勢が、すべての場面で顕著であると指摘されました。

その結果、
▽去年10月以降の情報提供後、アメフト部を所管する競技スポーツ部長が、部内での大麻の使用が一定の広がりを持っている可能性があることを知りながら、責任者である常務理事に報告せず、自己判断で事態を収束させる判断をしている点で、「法人としてのガバナンス上の問題があることは明らかだ」と指摘しています。

また、
▽澤田副学長が大麻と疑われる植物片を12日間保管した点について、植物片が極めて微量で、立件される可能性が低ければ大きな問題ではないという誤った判断基準などに基づいて対応がとられたとしました。

そのうえで「社会から隠蔽体質を疑わせ、信用を著しく失墜させた最大の原因だといっても過言ではない」とし、「副学長である者の刑事責任が問題になる可能性も皆無でない」と指摘しています。

アメフト部の活動停止処分の解除

このほか、アメフト部の活動停止処分の解除については、問題の広がりを調査し、再発防止策をとったうえで活動再開を決定すべきだったと指摘しています。

大学がアメフト部を無期限の活動停止処分としていた8月9日に行われた部の臨時の保護者会で、澤田副学長は、部員や保護者に対して
▽後に逮捕者が出た場合には、廃部になる可能性を説明したうえで、
▽大麻の使用に関与した者や、知っている人物がいないか呼びかけたとしています。

部員や保護者からは、大麻の使用や関与についての情報は上がらず、これをもってアメフト部は関東学生アメリカンフットボール連盟に対して、リーグ戦に参加する意向を伝えたとしました。

翌日の8月10日の執行部会の時点で、澤田副学長やスポーツ競技部長は、
▽複数の部員が大麻を吸っていたとの具体的情報や
▽警察が多数の学生の関与を疑っていることを把握し、
いずれも非常に信憑性が高い情報だったものの、澤田副学長は、これらの情報を執行部会では全く説明せず、部の活動停止処分が解除されました。

報告書では、情報が提供されていれば活動停止処分の解除の判断は変わっていたと強く推測されると指摘しています。

ガバナンスの機能不全

酒井学長や林理事長によるガバナンスが全く機能しなかったことも、不適切な行為の原因だと指摘されました。

▽酒井学長については、澤田副学長の不適切な対応を是正するなど監督義務を果たさず、澤田副学長と競技スポーツ部で対応する方針を了承したことは、危機管理規程に違反する行為に加担したものだとし、「決裁権者としての責任は重い」としています。

▽林理事長については、常務理事や総務部などに対し、調査の指示を出さず、理事会や監事への報告もしなかったことは、著しく不適切な対応であり、危機管理規程や役員規程に違反するものだと指摘しています。

そして、林理事長や酒井学長が、理事会の招集や監事への報告を行わなかったことが、田中英壽元理事長後の新体制が十分機能しなかった原因となったと指摘しています。