原敕晁さんを北朝鮮に拉致で国際手配の容疑者 死亡か

43年前、大阪の原敕晁さんを北朝鮮に拉致したとして、国際手配されている2人の容疑者のうち、韓国籍の元工作員の男が死亡したという情報が日本側に寄せられていたことが、捜査関係者への取材で分かりました。日本の警察当局は確認が取れしだい、容疑者死亡で書類送検する方針です。

大阪の中華料理店の店員だった原敕晁さんは43年前の1980年6月、宮崎市の海岸で消息が途絶え、その後の捜査などの結果、北朝鮮による拉致被害者として認定されました。

日本の警察当局は、貿易会社の面接を装って原さんを宮崎市の海岸に誘い出し、北朝鮮に拉致したとして、北朝鮮の元工作員の辛光洙(シン・グァンス)容疑者と韓国籍の金吉旭(キム・キルウク)容疑者の逮捕状を取り、ICPO=国際刑事警察機構を通じて国際手配していました。

捜査関係者によりますと、このうち生きていれば現在95歳のキム容疑者が数年前に韓国で死亡したという情報が1年ほど前、日本側に寄せられていたということです。

金容疑者は1985年に韓国でもう1人のシン元工作員とともにスパイ容疑で拘束されて服役しましたが、その後、恩赦で釈放されていました。

日本の警察当局は韓国側に死亡診断書などの書類の送付を求め、確認が取れしだい、容疑者死亡で書類送検する方針です。

原敕晁さん拉致事件とは

原敕晁さんが拉致された事件は、中心的な役割を果たしたとみられる北朝鮮の工作員の名を取り「辛光洙(シン・グァンス)事件」とも呼ばれています。

シン・グァンス(辛光洙)容疑者

北朝鮮からの指示を受けたシン・グァンス(辛光洙)容疑者らが、宮崎市の海岸まで誘い出した原さんを工作船で拉致したあと、本人になりすましてパスポートを不正に取得し、さまざまな工作活動にあたったとされています。

2006年、警視庁がシン・グァンス容疑者と、手助けしていた韓国籍のキム・キルウク(金吉旭)容疑者の2人について、拉致容疑で逮捕状を取り、その後、警察庁が国際手配していました。

一方、2002年に日本人の拉致を認めた北朝鮮は、原さんについても拉致を認めたうえで、同じく北朝鮮に拉致された田口八重子さんと北朝鮮で結婚し、拉致から6年後の1986年(昭和61年)に北朝鮮で死亡したなどと説明しています。

北朝鮮による拉致事件では、シン容疑者とキム容疑者を含む男女11人が国際手配され、日本政府はキム容疑者を除く10人が北朝鮮にいるとみて、身柄の引き渡しを求めています。

シン・グァンス(辛光洙)容疑者とは

43年前、原敕晁さんを拉致したとして韓国籍の男とともに国際手配されている北朝鮮の元工作員、シン・グァンス容疑者は、1985年に潜入先の韓国でスパイ容疑で拘束され服役しました。

その後、シン容疑者は、韓国で長期間服役しても思想を変えなかった、いわゆる「非転向長期囚」の一人として、2000年に初の南北首脳会談での合意に基づいて北朝鮮に送還されました。

国営テレビでは、シン容疑者とみられる人物が、2008年9月に行われた建国60年の閲兵式などでこれまでに複数回確認されています。

最後は2016年7月で、南北統一を呼びかけるため、首都ピョンヤンで開かれた行事にほかの「非転向長期囚」らと並んで出席し胸に勲章をつけている姿が映し出され、キム・ジョンウン(金正恩)体制になっても「英雄」として扱われていることをうかがわせていました。

生きていれば現在94歳とみられるシン容疑者について、日本政府は北朝鮮による日本人の拉致事件で中心的な役割を果たしたとみて身柄の引き渡しを求めていますが、北朝鮮側は応じていません。

キム・キルウク(金吉旭)容疑者とは

韓国籍のキム・キルウク容疑者は元工作員で、生きていれば現在95歳になります。

キム容疑者はともに拉致容疑で国際手配されている北朝鮮の元工作員、シン・グァンス容疑者を手助けしていた「補助工作員」とみられ、1985年にシン容疑者とともに韓国でスパイ容疑で拘束され服役しましたが、恩赦で釈放されました。

国際手配された2006年、韓国のチェジュ島の自宅でNHKの取材を受けたキム容疑者は「全部、シン容疑者がやったことで、昔のことは忘れた」などと答えていました。

日本政府は国際手配をしている11人のうち北朝鮮にいるとみられる10人について、身柄の引き渡しを求めていますが、キム容疑者については、主犯のシン容疑者を手助けした共犯者にとどまることなどから、韓国に対して身柄の引き渡しを求めることをしてきませんでした。

松野官房長官「拉致問題 ひとときもゆるがせにできない」

松野官房長官は閣議のあとの記者会見で「報道については承知している。警察からは指摘されている人物の消息を含め、関連情報の収集を行っているとの報告を受けている」と述べました。

そのうえで「時間的制約のある拉致問題は、ひとときもゆるがせにできない人道問題だ。引き続き、すべての拉致被害者の一日も早い帰国を実現すべく全力で果断に取り組んでいく」と述べました。

松村国家公安委員長「情報の収集を行っていると承知」

松村国家公安委員長は閣議後の会見で、「関連する情報の収集を行っていると承知している。個別の捜査手続きの詳細については言及を差し控えるが、すべての拉致被害者の一日も早い帰国の実現と、拉致容疑事案の全容解明に全力をあげるよう、警察を指導していきたい」と述べました。

拉致被害者 家族会代表 横田拓也さん「日米韓で早期解決を」

横田めぐみさんの弟で拉致被害者の家族会代表の横田拓也さんがコメントを出しました。

この中で拓也さんは「加害者側が自由な世界で生きながらえていた一方で、被害者は自由がない世界で苦しい時間を強いられていることに矛盾を感じ、憤りを覚えます」と述べました。

その上で、「日韓の連携により人権問題を解決するというお互いの価値観を共通した土台でこうした情報が共有されていることは、とても意味があることで、日米韓で拉致問題を早期に解決して欲しいです」と述べました。