旧統一教会の解散命令を東京地裁に請求 文科省

旧統一教会をめぐる問題で、文部科学省は13日午前、民法上の不法行為などを理由に、教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求したと明らかにしました。今後は裁判所が文部科学省と教団の双方から意見を聴いた上で解散命令を出すか、判断することになります。

法令違反根拠に請求 オウム真理教などに続き3例目

文部科学省は、旧統一教会について13日午前、東京地方裁判所に教団の解散命令を請求したと明らかにしました。

解散命令の申し立て書を、およそ5000点、20箱分の証拠資料とともに提出し、裁判所に受理されたということです。

提供された映像には、文化庁の職員2人が庁舎内で、東京地方裁判所に提出する証拠資料が入った段ボールを台車に載せて、部屋から運び出す様子が映っています。

文部科学省は12日、解散命令の請求を決定し、質問権の行使や170人以上の被害者らへのヒアリングなどの結果、教団が40年余りにわたり高額献金やいわゆる「霊感商法」などを通じて、多くの人に多額の財産的損害や精神的な犠牲を余儀なくさせたと認定しました。

その上で、献金や勧誘行為などは旧統一教会の活動として行ったもので、「教団の行為は民法上の不法行為に該当し、その被害は甚大だ」などとして解散命令の事由の「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」や「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」にあたるとしています。

行政機関が法令違反を根拠に請求するのはオウム真理教などに続いて3例目で、民法上の不法行為が根拠となるのは初めてです。

解散命令が確定した場合、宗教上の行為は禁止されませんが、教団は宗教法人格を失い、税制上の優遇措置が受けられなくなります。

旧統一教会は、「解散命令を受けるような教団ではないと確信している」と強く反論し、裁判で法的な主張を行う方針を示していて、今後は裁判所が文部科学省と教団の双方から意見を聴いた上で解散命令を出すか、判断することになります。

今後の手続き 東京地裁が解散を命じるか判断

宗教法人の解散命令が請求されると、その法人が本部を置く都道府県にある地方裁判所が審理を担当することになっていて、旧統一教会の場合は東京地方裁判所が解散を命じるかどうか判断することになります。

解散命令請求の審理は通常の裁判と異なり非公開で行われ、裁判所は解散命令を請求した側と教団側の双方の意見を聞いたうえで、命令を出すかどうか判断します。

地方裁判所の判断に対しては請求した側と教団側のどちらも不服を申し立てることができ、審理が高等裁判所や最高裁判所まで続くこともあります。

地裁の判断に対して不服の申し立てがされると、解散命令の効力は停止されます。その後、高等裁判所で解散を命じる判断が出た場合、その時点から効力が生じ、宗教法人の解散に関する手続きが始まることになります。

解散命令が出されると、宗教法人としては解散となり、固定資産税の非課税などの優遇措置が受けられなくなり、財産を処分しなければならなくなります。

財産については
▽清算手続きの結果、借金が残れば清算人が裁判所に破産手続きの開始を申し立てます。
▽財産が残れば法人の規則に従って処分され、規則がなければ他の宗教団体や公益事業のために譲渡するか、国庫に帰属します。

宗教法人は解散しても宗教上の行為が禁止されるわけではありません。引き続き信者が教義を信仰し、任意の宗教団体として活動を続けることは可能です。

裁判所 どう判断? 今後は?

旧統一教会の問題をめぐり、13日、文部科学省は教団の解散命令を東京地方裁判所に請求しました。提出された証拠資料はおよそ5000点、20箱分。何をどう判断したのでしょうか?

【どう証拠を積み上げてきた?】

文部科学省は、去年11月以降、宗教法人法に基づく7回の質問権の行使によって教団から得た資料や、170人を超える被害者らへのヒアリング内容など、情報収集を通じて具体的な証拠の積み上げを行ってきました。

【どんな行為が確認された?】

文部科学省が注目したポイントの1つが、教団の損害賠償責任を認めた判決32件です。

この中では、期間は遅くとも昭和55年ごろから多くの人に行った「献金勧誘行為」や「物品販売行為」などが違法だと認定されている、としています。

その不法行為の根拠として、次の3つの手法のいずれかを共通して認めている点をあげました。

1. 教団の教義と明らかにせずに伝道活動などを行った。

2. 先祖の因縁により重大な不利益を被るなどと告げる、いわゆる「因縁トーク」で不安をあおった。

3. 不相当に高額な献金をさせた。

こうした内容は、献金などに関するマニュアルにも記載されているほか、同様の手法を経験した被害者も複数いるとしています。

【被害の規模は?】

文部科学省は以下を示した上で、被害の規模は「相当甚大だ」と指摘しています。

◆民事裁判32件の判決

▽被害者…169人

▽被害の総額…およそ22億円

▽1人あたりの平均金額…およそ1320万円

◆和解や示談が成立した人も含む全体

▽被害者…およそ1550人

▽解決金などの総額…およそ204億円

具体的な事例もあげています。

『過度な経済的負担』の例として、「家族や会社などに無断で、資産を献金などに費やした」ケースや、「生活に困窮した結果、借金や家財道具の質入れを余儀なくされた」ケースなどをあげています。

また、『精神的苦痛』に関する例として、「常に金策に追われ、終わりの見えない不安な毎日を強いられた」ケース、『親族などへの影響』では、「家族間の信頼関係が失われた」「両親の献金により貧困に苦しみ大学への進学を断念した」といったケースもあったとしています。

【何が「解散命令の事由」に該当?】

文部科学省は、こうした事実をもとに、宗教法人法で定められた解散命令の事由のうち、次の2つにあたるとしています。

▽教団の行為が、民法上の不法行為に該当し被害が甚大であることから、解散命令の事由の1つである「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」に該当すると判断しました。

また、
▽教団が財産的利得を目的として献金の獲得などにあたり多くの人に財産的、精神的犠牲を余儀なくさせたことは、生活の平穏を害し公益的役割に反しているとしてもう1つの事由である「宗教団体の目的を著しく逸脱した行為」にも該当するとしています。

【想定される争点は?】

「法令違反」の要件として民法上の不法行為が含まれるかどうか。そして信者の行為が宗教法人の行為、つまり組織的な行為であり、かつ継続的に行われたと評価できるかという点です。

▽『民法の不法行為』については、文部科学省が解散命令請求を行う方針を表明した12日、教団が見解を発表し、「解散命令請求が認められる法令違反の要件には民法の不法行為は入らない」などと主張し、請求について強く批判しました。

一方、文部科学省は「宗教法人の法人格は民法を根拠としていて、公益に資することを理由に法人格を与えられている」ことなどから、法令違反の対象に民法の不法行為は入ると主張しています。

▽また『組織性』については、これまで教団は「高額献金などの問題について民事裁判で代表役員や幹部らが指示をしたと認定されたものがない」などとして、宗教法人としての行為とは評価できないと主張してきました。

これに対し文部科学省は、献金について教団本部から各教会へ指示が出され、各教会が献金の獲得などに関与していたことや、献金や物品販売の売り上げが賞罰の対象になっていたことなどから、社会通念上、旧統一教会の業務や活動として行ったもので宗教法人の行為と評価できると主張しています。

▽『継続性』については、旧統一教会側は「2009年のコンプライアンス宣言以降は大きく改善している」と主張していますが、文部科学省はきのう記者団に対し「コンプライアンス宣言以降に不法行為に当たる献金事例が相当数ある」と述べ、継続性についても該当すると説明しています。

【事実認定が判断の“分かれ目”に】

文部科学省がこのタイミングで解散命令請求に踏み切ったのは、およそ1年にわたる慎重な検討の結果、教団の民法上の不法行為などを裏付ける客観的な証拠がそろったと判断したためです。

その結果、旧統一教会は「不法行為や目的逸脱行為による財産獲得の受け皿として機能したもので、宗教団体の法人格の趣旨に反することは明らかだ」として解散命令請求の判断に至りました。

今後は、東京地方裁判所が文部科学省と教団の双方から意見を聴いた上で解散命令を出すか、判断することになりますが、初めて民法上の不法行為を根拠に請求されたことについて専門家は次のように話しています。

憲法が専門で宗教法人法に詳しい近畿大学の田近肇 教授は、「過去に法令違反を根拠に請求されたオウム真理教や明覚寺の場合は刑事事件化されていて、裁判所が詳しい事実認定をしていたのに対し、今回はそれがなく旧統一教会の行為が本当に組織性や悪質性、継続性があるのか、裁判所が改めて事実を認定していく必要がある。その分、裁判所の審理に時間がかかるなど影響があるのではないか」と話しています。

その上で、「直感的には霊感商法は詐欺ではないかと思うかもしれないが、通常の宗教活動との境界線はどこにあるのか改めて問われると判断が難しく、その意味で裁判所は難しい判断を迫られる」と指摘した上で、「法律論よりもむしろ、文部科学省が請求を決めた具体的な中身に関する事実認定が、命令を出すかどうかの判断の分かれ目になる」との見方を示しました。

過去には “オウム真理教” “明覚寺” 教団幹部が刑事罰受ける

これまでに国や地方自治体などの所轄庁が「法令に違反し、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」という理由で解散命令を請求した事例は、1995年のオウム真理教、1999年の明覚寺の2件があります。

いずれも地方裁判所が解散命令を出したあと教団側が不服を申し立て、最高裁判所まで争われた結果、最終的に解散命令が出されました。請求から解散命令の確定まで、オウム真理教が7か月、明覚寺は3年かかりました。

このうち、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教については、東京地方検察庁と東京都が請求し、最高裁判所が「大量殺人を目的として毒ガスであるサリンを大量に生成することを計画した上、多数の信者を動員し、計画的、組織的にサリンを生成した。法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる」などとしました。

また、和歌山県に本部があった明覚寺は、教団幹部などが詐欺事件で有罪判決を受けたことなどが解散命令の根拠となりました。

いずれも教団幹部が刑事罰を受けていますが、旧統一教会に関しては過去に幹部の刑事責任が問われたことはなく、民法の不法行為を根拠に解散命令が請求されるのは初めてです。

弁護士グループ “教団の資産流出を防ぐ対策必要”

旧統一教会への解散命令請求を受けて、元信者らの救済にあたってきた弁護士グループが記者会見を開き、被害者の救済のため、教団の資産の流出を防ぐ対策が必要だと訴えました。

「全国霊感商法対策弁護士連絡会」は13日、都内で記者会見を開きました。

事務局長の川井康雄 弁護士は「政府が旧統一教会による被害を直視し、解散命令請求を行ったことは被害の抑止や救済の大きな一歩になる。遅きに失した部分はあるが、評価したい」と話しました。

一方、解散命令が出されると財産を処分しなければならないことから、「教団が資産を流出させる危険性が高まっている。流出した場合、被害救済の道は非常に困難になってしまう」と指摘し、教団の財産を保全する特別措置法など対策が必要だと訴えました。

代表世話人の山口広弁護士は「旧統一教会が所有する不動産の名義を関連企業に変えることは極めて簡単なことで、危機感がある」と話していました。

盛山文科相 “財産保全はまず被害者が主体的に”

盛山文部科学大臣は閣議のあとの記者会見で、旧統一教会に対する解散命令を請求したことを受け、今後行われる裁判に向け、万全の対応をとっていく考えを示しました。

盛山文部科学大臣は「本日、担当職員が東京地方裁判所に解散命令の請求の手続きを行い、受理された。今後は裁判所で審理が行われることになるが、文部科学省で万全の対応をとっていきたい」と述べました。

また、被害者などから教団の財産を保全するための法整備を求める声が出ていることについて「いろいろな声が出ていることは承知しているが、財産の保全は、被害を受けている方がまずは主体的に行うのがいいだろうと思っている。また『法テラス』などの支援の仕組みもあり、そうしたところも活用してもらいたい。政党間の動きも見ながら今後の対応になっていくのではないかと考えている」と述べました。

このほか記者団から「解散命令の請求に向けた対応が遅かったのではないか」と問われ、「反省すべき点は多々ある。われわれは昨年の事件が起こるまで旧統一教会の活動でこれだけ深刻な課題や多数の被害者が存在することを残念ながら、十分に把握、認識していなかった。これからのやり取りや動きを見ていただきたい」と述べました。

小泉法相 “関係省庁と連携し 全力で対応したい”

小泉法務大臣は、閣議のあとの記者会見で「依然として旧統一教会に関するさまざまな問題を抱えて困っている人が相当いる。1つのステップを踏んだが、被害を被り今も苦しんでいる人が厳しい状態に置かれたままなので、関係省庁と連携して法務省としても全力で対応したい」と述べました。