日本の家庭で出会ったイスラエルとパレスチナの若者はいま…

イスラエル・パレスチナ情勢が激しさを増していますが、京都府綾部市に現地の人たちとかかわりのある家族がいます。

その家族はイスラエルとパレスチナの双方から紛争で親族を亡くした若者を日本に招いて交流する「中東和平プロジェクト」の一環として、双方の若者をホームステイで受け入れていました。

ひとつ屋根の下で過ごした若者たちは無事なのか?

家族が取材に応じ、今の心境を語りました。

綾部市に住む佐々木崇人さん(45)。

4年前の2019年、「中東和平プロジェクト」に参加し、イスラエルとパレスチナの双方から当時20代の女性をホームステイで受け入れました。

イスラエルからはミハル・エリーザーさん。
パレスチナからはルアンダ・アクタムさん。

2人はいずれも当時、大学で法律などを学んでいました。

佐々木さんは当初、2人がうまく関係を築けるか不安でした。
この頃も、パレスチナのガザ地区をめぐる武力衝突が散発的に起きていたからです。

しかし、それは杞憂に終わりました。

1日早く到着していたミハルさんは、ルアンダさんに覚えたばかりの箸の使い方を丁寧に教えるなど、現地の情勢とは関係なく、交流を深めていきました。

ミハルさんは3日間、ルアンダさんは2日間という短い滞在期間でしたが、2人は佐々木さんの家族とともに、近所のゲームセンターでプリクラを撮ったり、浴衣の着付けを体験したりと日本の文化や日常生活を楽しんだといいます。

佐々木崇人さん
「2人が国や地域ということをどれほど意識しているのかは分かりませんでしたが、少なくともこの場所ではそうしたことを意識せずに話をしていました。ここでの出会いを大切にして、お互い仲良く過ごしたいという気持ちがあったのだと思います」

笑顔で過ごしていた2人でしたが、現地の緊張がうかがえる場面もありました。

夜に花火をしようと提案しましたが、気が乗らない様子だったといいます。

妻 佐々木万里子さん
「それはあんまりという反応でした。そのとき、私たちが日常で楽しむ花火は、この子たちにとっては恐怖になるんだなと感じたんです。火を使って『バーン』とか『ボーン』とかいうものは、彼女たちにとっては全然違うんだなと。悪かったなと、そのとき思ったことをよく覚えています」

帰国後も交流は続いたが

佐々木さんは、イスラエルのミハルさんとは、SNSを通じて時々連絡を取り合ってきました。

「ミハル、ハッピーバースデイ」

誕生日にお祝いの動画を送ると…。

ミハルさんからは「夫とすしを作りました」というメッセージが届くなど、日常のやりとりが続いていました。

しかし、今月7日にイスラム組織ハマスがイスラエル側に大規模な攻撃を仕掛けたことから、佐々木さんがミハルさんのSNSを確認すると、先月22日を最後に更新が途絶えていました。

一方、パレスチナのルアンダさんとは連絡先の交換ができなかったため、安否を確認する手段はないということです。

募る不安

2人は今、どうしているのか。

現地の情勢が緊迫化する中、佐々木さんの家族は不安を募らせています。

佐々木さんは今月11日、連絡がつくミハルさんに安否を尋ねるメッセージを送りました。

すると、翌日の未明に返信がありました。

ミハルさん
「これまでイスラエルで過ごした時間はこんなに困難で恐ろしいものではありませんでした。私たちはこのような痛みを経験したことがありません。夫は徴兵され、私は生まれたばかりの娘とともに暮らしています。私たちのために、中東の平和のために祈ってください。私たちのことを考えてくれてありがとう」

佐々木崇人さん
「彼女たちを受け入れていなければ現地の情勢には無関心だったかもしれませんが、受け入れたことで今、とても気になっています。何より2人の安否が気がかりなので、元気でいてくれればと、それだけを願っています」

「中東和平プロジェクト」とは

佐々木さんが参加した「中東和平プロジェクト」は、綾部市や東京・渋谷区、横浜市などあわせて53の自治体が加盟する「世界連邦宣言自治体全国協議会」がおよそ20年前から行っている事業です。

イスラエルとパレスチナの双方から紛争で親族を亡くした若者を日本に招いて交流するというもので、若者たちは一般の家庭に2人一組でホームステイするなどして、お互いに顔を合わせて生活します。

日本の文化や平和について一緒に学ぶ体験を通して相互理解につなげるねらいがあるということです。

この事業は現地の情勢が悪化して中止になった年もありましたが、これまで13回にわたって行われ、9つの自治体であわせて100人以上を受け入れたといいます。

イスラエルとイスラム組織ハマスの攻撃の応酬が続くなか、協議会は12日、「民間人を含む多数の犠牲者が出ており、憂慮すべき事態となっている」として、即時停戦を求める声明を駐日イスラエル大使と駐日パレスチナ常駐総代表部の大使にそれぞれ送りました。

協議会の事務局を務める綾部市は「平和に向けた活動を続けてきた立場だからこそ、声を上げなければならないと考えた」と話しています。