“子どもを泣かせず髪を切る” 美容師が続けた15年の試行錯誤

「子どもの髪を切ってくれるところが見つからないんです」

きっかけは、子どもの親からの相談でした。

“散髪が苦手”

そう感じる子どもたちを支え続ける美容師には、ある失敗経験がありました。

(大阪局 泉谷圭保ディレクター)

「次はチョキチョキしていくよ」

その美容室は、京都にありました。

美容師の赤松隆滋(49)さんを取材させてもらったのは、ことし7月のこと。

店を訪れるお客さんの5人に1人は、散髪が苦手な子どもたちだといいます。

ヘアカットする赤松さん

この日、やってきたのは、6歳の男の子。耳や首の周りを触れられるのが苦手です。

赤松さんはまず、ゆっくりと抱っこして、椅子に座らせました。

そして、髪の毛が散らばらないようにする散髪用の「ケープ」を巻くとき、こう声をかけました。

巻いていい?

すると、男の子も答えます。

いいよ

赤松さんが心がけているのは、一つ一つ確認をとることです。

ハイ、これもうできた

じゃあ次は、チョキチョキしていくよ

次にすることを、その都度伝えるのです。

何をどれくらいするのか。

見通しが立つことで、子どもたちは安心します。

泣かずに切れてるな。はい、できたー!ありがとう

あのときの失敗

赤松さんが活動を始めたのは15年前のこと。

「子どもの髪を切ってくれる美容院が見つからないんです」

地域の保護者から相談を受けたのがきっかけでした。

引き受けたのは、発達障害があり、音に敏感な男の子でした。

音には気をつけていたはずでした。

しかし、

“ヴィイーーン”

バリカンのスイッチを入れたときでした。

その子はパニック状態になってしまったといいます。

赤松さん
「その失敗があったから真剣に勉強しようと思ったし、その子と真剣に向き合わないとっていう」

以来、専門的な知識を学び、試行錯誤を重ねてきました。

今では府外から来るお客さんも。

隣県の奈良県から訪れたという子どもの母親は「ここなら子どもが泣かずに切ってもらえるから」と話していました。

奈良県から訪れた親子

“怖くないんだよ”っていうアプローチ

子どものペースや苦手なことをふまえて散髪する独自のスタイルを編み出した赤松さん。

いま、これまでの経験を論文にまとめ、美容師向けのマニュアルを発表しようとしています。

赤松さん
「子どもたちに配慮して“怖くないんだよ”っていうアプローチが出来たらカットできるはずなんです。マニュアルを作ることによって、実践してくれる美容師が増えたらなと」

赤松さんは子どもたちへの接し方に悩む美容師にアドバイスも続けています。

この日は、和歌山県の美容師からの相談が寄せられました。

はさみを怖がる8歳の男の子に、どう接したらいいのか。

オンラインでつなぎ、相談内容を一緒に検討しました。

相談者
「襟足はバリカンとかも触って欲しくないと、上も触って欲しくないっていうことで『しない』と約束すると、すんなり座ってくれて、、」

赤松さん
「終わった後に『散髪させてくれて、ありがとうね』がちゃんと伝わっているかで、また次、変わるね」

相談者
「なるほど。切らせてくれた僕も嬉しいということを伝えるとわけですね」

赤松さん
「これからも子どもに寄り添っていって、いろんな人をハッピーにしてあげて欲しい」

赤松さん
「嬉しいですよ。同じ志を持ってやってくれる仲間が増えるっていうのは本当に嬉しい。ついつい困った子ってみられるんですけど、じゃなくて困っている困り事を持っている子どもたちなんで、少しでも理解している美容師とかが増えていけば、多分この子たちは過ごしやすくなる。そうなってほしいと思ってやっています」

支援の輪、全国に広げたい

赤松さんは9月、長野県にいました。

美容師を対象にした講演には、およそ30人が参加しました。

講演する赤松さん

この子が座席から立ったのは、何か理由があるのかな?という目線に変えるだけでも変わると思います」

長年、発達障害の子どもも含めて、子どもたちを支援してきた経験を伝えました。

参加した人たちは、

「ちょうどそういうお子さんをカットする機会があって、講習会ちょうど受けたいなって思うタイミングであったので良かったです」

「もうちょっと自分に出来ることがあるんだなと。子ども目線でやっていくことの大切さはすごい感じました」

赤松さん
「ちょっとでもやって見ようかな、という方が増えてくれたらうれしいですね。子どもたちを受け入れてくれるお店を増やしたい、ただそれだけなんです」

考えに賛同して散髪に取り組む美容院は、現在、全国に70あるということです。

赤松さんは今後、実技講習の開催も検討していて、支援の輪をさらに広げたいと考えています。