【11日詳細】イスラエル 地上部隊の侵攻辞さず 死者2200人超に

イスラエルとイスラム組織ハマスの衝突による死者は、これまでに2200人を超えています。
イスラエルの国防相は、「あらゆる方法で敵を排除する」と述べ、地上部隊による侵攻も辞さないとしていて懸念が高まっています。

※11日(日本時間)の動きを随時更新でお伝えします。

死者2200人超に 地上部隊による侵攻辞さず

パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが今月7日にイスラエル側に大規模な奇襲攻撃を仕掛けて以降、攻撃の応酬は激しさを増し、双方の死者の数はイスラエル側で1200人、ガザ地区で1055人であわせて2200人を超えています。

こうした中、イスラエルのガラント国防相は10日、「いかなる制限もなくなった。あらゆる方法で敵を排除する」と述べて地上部隊による侵攻も辞さないとする考えを示しました。

イスラエル政府は、これまでに30万人の予備役を動員し、軍はガザ地区周辺に35の大隊を展開させているとしています。

11日にはアメリカから最新鋭の武器や弾薬などの支援品がイスラエル南部の基地に届いたと発表しました。一方、イスラエル南部では、いまもハマスの戦闘員とイスラエル軍の部隊の戦闘が散発的に続いています。

また、ロケット弾による攻撃はガザ地区だけでなくイスラエル北部の隣国レバノンからも行われています。イスラエル軍が地上侵攻を開始することになれば犠牲者がさらに増えることは避けられず、事態は緊迫の度を増しています。

パレスチナ 地元メディア「ガザ地区唯一の発電所 稼働停止」

パレスチナの地元メディアは11日、ガザ地区の唯一の発電所がイスラエル側による封鎖の影響で燃料不足に陥り、操業ができなくなったと伝え、「地区の住民の命や健康に対して、深刻な影響を与える」としています。ガザ地区では、実効支配を続けるイスラム組織ハマスに対する報復作戦として、イスラエル軍が空爆を続けるとともに地区を封鎖し、電力などの供給も停止することを発表していて、今後、人道的な危機が広がることへの懸念が高まっています。

アメリカから弾薬が到着

イスラエル軍は11日、アメリカから弾薬が到着したとする映像を公開しました。弾薬の数などは明らかにしていませんが、映像では航空機から弾薬を乗せたとみられる貨物を降ろす様子が確認できます。

また中東地域を管轄するアメリカ中央軍は10日、最新鋭の空母「ジェラルド・フォード」を中心とする空母打撃群がイスラエルに近い東地中海に到着したと発表しました。

これについてアメリカ中央軍のクリラ司令官は「イスラエルに敵対する勢力への強力な抑止のシグナルとなる」とコメントしていて、空母打撃群の展開はイランやイスラエルの隣国レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラをけん制し、事態がエスカレートするのを防ぐ狙いもあるとみられます。

アメリカのバイデン大統領は10日、ホワイトハウスで演説し「イスラエルが市民を守り、自国を防衛し、攻撃に対抗するために、必要なものを確実に得られるようにする」と述べ、イスラエルを全面的に支持する姿勢を強調しています。

イスラエル軍とハマス 攻撃の応酬が激化

ハマスによる大規模な攻撃の報復として、イスラエル軍は10日もハマスが実効支配するガザ地区に激しい空爆を続けています。

これに対してハマス側は10日午後、イスラエル南部のアシュケロンや、最大の商業都市テルアビブの住民に対して、大規模な攻撃を行うとの警告を出し、予告通り午後5時から一斉にロケット弾の発射を始めました。

地元のメディアは、アシュケロンで住宅地などにロケット弾が着弾した様子を伝えていて、けが人がいるとの情報も出ています。

この攻撃についてハマスの軍事部門は声明で、「イスラエルが私たちの市民から住まいを奪い続けるなら、私たちもアシュケロンが住めなくなるまで攻撃し、別の街も同じように攻撃する」と強調しました。

《ガザ地区の状況は》

避難者26万人超に 空爆で生活環境悪化

OCHA=国連人道問題調整事務所は10日、イスラエルの報復作戦により、ガザ地区で学校や親せきの家などに避難している人がさらに増え、26万3934人にのぼっていると発表しました。このうち17万5486人はUNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関が設置した学校に避難しているとしています。

OCHAによりますと避難民の数はイスラエル軍が地上部隊を投入してガザ地区に侵攻した2014年の軍事衝突以降、最も多く、人道支援にあたる団体が住まいの確保や食料、それに水などを提供する対応に追われているとしています。

また、イスラエル軍の空爆で複数の通信設備が破壊され、携帯電話やインターネットの利用に支障が出ているほか、下水などの施設が被害を受け、生活用水の利用にも支障が出るなど、衛生環境も悪化しているということです。

ガザ地区の発電所 最大12時間しか稼働できない

イスラエルの有力メディア「ハーレツ」は11日、ガザ地区の当局者の話として「ガザ地区に残っているディーゼル燃料はおよそ30万リットルで、ガザ地区の発電所を最大で12時間しか稼働させることはできない」と伝えています。

また、イスラエルのカッツエネルギー相は10日、SNSに「ガザ地区への電力供給は終わる。燃料の備蓄がなければ数日以内に地区の電力はなくなり、井戸水も1週間以内にくみ上げられなくなるだろう」と投稿し、圧力を強めています。

支援活動のNGO“犠牲になっているのは市民の命”

パレスチナのガザ地区などで女性や子どもなどへの支援活動を行っているNGO、JVC=日本国際ボランティアセンターのエルサレム事務所で代表を務める木村万里子さんがNHKの取材に応じ、「これまでもハマスがロケット弾を発射することはありましたが、今回はハマスの戦闘員がイスラエル領内に入って人質を取るなど、これまでと大きく違うと思う」と話していました。

一緒に支援を行ってきたガザ地区のNGOのメンバーとは定期的に連絡を取り合い、無事が確認できているということですが、「攻撃があった初日の夕方のやりとりの中で、『夜もちゃんと眠れるといいね』とメッセージを送ったのですが、『私もそう願ってるけれどもそれは無理だと思う』という返事が来ました。その後も夜は眠れないから攻撃が少ない昼間に眠るようにしているそうです」と話していました。

在日パレスチナ人「親族の行方わからず心配」

パレスチナ暫定自治区のガザ地区出身のモハメド・ファラジャラさん(27)は8年前にITの勉強のために来日し、今は東京都内でITエンジニアなどとして働いています。

現在もガザ地区に親類が住んでいますが、10月7日以降の空爆でこれまでに10人ほどが亡くなったほか、避難して行方がわからなくなっている親類も数人いるということです。また、現在UAE=アラブ首長国連邦に住んでいる母親が電話で現地の親類とやりとりしているということですが、9日以降、連絡がつかない状況だということです。

モハメドさんは「親戚の安否がとても心配です。悲しいが、感情的になってもしかたがないので、現地と連絡が取れるようになったら励ましたり、お金を送ったりして支援したい」と話していました。

パレスチナ暫定自治政府 駐日代表部 一刻も早い停戦を求める

パレスチナ暫定自治政府の駐日代表部のワリード・シアム代表が11日都内で会見を開き、一刻も早い停戦を求めました。

会見でシアム代表は「私はハマスを代表してはいない。イスラエル側であっても、パレスチナ側であっても、市民を殺害することはあってはならないし、受け入れられない」と強く訴えました。

そして、イスラエル側に対し「報復だとして、罪のない子どもたちを殺すことを今すぐやめるよう強く求める。私が見ているのは、市民が死んでいく様子だ」と声を詰まらせながら訴え、国際社会に対し、停戦に向けた行動を呼びかけました。

また、今回の攻撃を含め、対立の根本的な原因は、長年、パレスチナ問題の解決の糸口が見いだせない中、暴力の応酬が続いていることにあると指摘しました。

そのうえで「イスラエルは、イスラエルとパレスチナの双方に、『将来、互いに共存することは困難』だと考える世代を生み出し続けている。だからこそ今、戦闘をやめなければならない」と述べて、パレスチナ問題の解決に向けても国際社会の継続的な関与が必要だと訴えました。

イスラエル軍 ハマスの幹部2人殺害を発表

ガザ地区に激しい空爆を続けているイスラエル軍は10日、ハマスの幹部2人を殺害したと発表しました。イスラエルのガラント国防相は「われわれは攻撃を空から始めていて、今後は地上からも攻撃をするだろう」と述べて、地上での侵攻に向けて準備していることを示唆しました。

さらに、ガザ地区では病院も被害を受けており、多くのけが人が搬送され医薬品などが不足していて現地の医療関係者から支援の要請が届いているということで、「医療関係者で犠牲になってしまった方もいる中で、それでも医療従事者の方たちはけがをされた人たちを必死の思いで懸命に治療している状況です。今は直接医薬品を届けることができない状態ですが、現地で活動が再開できる状況になったらすぐに支援ができるように準備を進めています」と話していました。

《ハマスとの戦闘続く イスラエルでは》

イスラエル 人質の家族が大統領と面会

イスラエルでは、イスラム組織ハマスの攻撃で、外国人を含む100人以上が人質になっていて、ハマス側はイスラエルが今後、警告なしにガザの住民を攻撃した場合、人質を処刑するとけん制しています。こうしたなか、家族が人質となっている10組ほどが10日、エルサレムでヘルツォグ大統領に面会し、人質となっている家族の情報や、解放のために手を尽くすことを求めました。

このうち、ハマスによる襲撃を受けた音楽イベントに参加した29歳の義理の弟が人質にとられたというジャスミン・オレンさんは、「何の情報もないまま5日がたとうとしていて、私たち家族は皆、正気ではいられません。弟が無事に帰ってくることと、政府が人質の解放のために行動を起こしてくれることを望みます」と、今の心境を話していました。

そのうえで、「政府はハマスに交渉の余地を与えてしまうため、人質の解放を最優先にできないかもしれないが、少なくとも救出の戦略を立てて欲しい」と話し、人質とイスラエル側がとらえているハマスのメンバーなどとの交換も選択肢として検討すべきだと訴えていました。

イスラエル最大の商業都市テルアビブは

地中海に面したテルアビブは、イスラエル最大の商業都市で、普段は大勢の観光客や買い物客でにぎわっていますが、ハマスによる大規模な攻撃以降、多くの商店が営業を取りやめ、街は閑散としていました。

港にあるイベント会場には、市民から寄付された食料や衣類が集められ、前線にいる兵士や攻撃で大きな被害が出たイスラエル南部の人々に送る作業が急ピッチで進められていました。

作業に当たっていた男性は、「毎日300台くらいのトラックや車がここを出発しています。SNSの呼びかけに多くの人が集まってくれています」と話していました。

テルアビブにもガザ地区から発射されたロケット弾の被害が出ていて、中心部にほど近い地区では7日夜、住宅にロケット弾が直撃し、がれきの山が残されていました。

近くに住む37歳の男性は「ロケット弾を迎撃できず、このエリアで直撃を受けるのはこれまでなく異例のことです。近所の人たちはさらなる攻撃を恐れて外出せず、街は死んでしまったようだ」と話していました。

また、テルアビブの郊外で住宅地の道路にロケット弾が着弾した現場では、激しく壊れて焼け焦げになった車が放置され、住民たちが割れた窓ガラスの破片やがれきの片付けに追われていました。

近くに住む住民によりますと、ロケット弾が爆発した際に大量の金属片が飛び散り、周囲に止めてあった車や高層階の住宅にも被害が広がったということです。

被害の大きかったアパートに両親が暮らしているという男性は、「私の両親は窓のない部屋に避難していて無事でしたが、それは本当に幸運でした。ハマスが市民に向けてこのようなひどい攻撃をしているのを世界はしっかりと見ています」と憤った様子でした。

《外国人の死者・人質の状況》

外国人にも多くの犠牲者 一部は人質に

各国の発表によりますと、イスラエルでのイスラム組織ハマスによる攻撃で外国人にも多くの犠牲者や行方不明者が出ていて、一部は人質になっているとみられています。

アメリカのバイデン大統領は10日、少なくとも14人のアメリカ人の死亡が確認されたと明らかにしました。バイデン大統領は「まぎれもなく邪悪な行為だ。1000人以上の市民が虐殺された」と述べてハマスを強く非難しました。

タイ外務省によりますと、これまでにタイ人20人が死亡したという現地の雇用主からの情報があるとして確認を急いでいます。また、タイ人13人がけがをしたほか、14人が人質となっているということです。

フランス外務省もこれまでにフランス人8人の死亡が確認されたほか、20人の行方がわからなくなっているとしています。

アルゼンチン外務省によりますとこれまでにアルゼンチン国籍の7人が死亡し、15人の行方がわからなくなっているということです。

フィリピン政府はこれまでにフィリピン人の男女2人の死亡を確認したと発表しました。また、別の1人についても死亡したという情報があるほか、3人と連絡がつかず行方不明になっているとして、確認を進めているということです。

ウクライナ外務省の報道官は11日、SNSでハマスとイスラエルによる一連の攻撃でこれまでにウクライナ人3人が死亡し、9人がけがをしたほか、6人の行方がわからなくなっていると発表しました。

《各国の反応は》

ゼレンスキー大統領 支援を呼びかける

ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、訪問先のブリュッセルで会見し、イスラム組織ハマスによるイスラエル側への攻撃について「ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の最初の数日を思い出す。すべての指導者はイスラエルを訪れ、人々を支援することを提言したい。何かしらの機関ではなくテロの攻撃を受けている人たち、そして亡くなっている人たちへの支援だ」と述べ、各国に連帯を呼びかけました。

EU ボレル上級代表「パレスチナ人への集団的な処罰は不公平」

EU=ヨーロッパ連合の外相にあたるボレル上級代表は10日、緊急に開かれた外相会合のあと会見し「すべてのパレスチナ人がテロリストというわけではないため、集団的な処罰は不公平で非生産的であり、われわれの利益にも反する。ガザ地区で犠牲者が増えているのは事実で、15万人が避難を余儀なくされている。人道的状況は悲惨だ」と述べ、支援の継続が必要だという考えを示しました。

会合では、いくつかの加盟国を除き、圧倒的多数の国が支援の継続に同意したということです。パレスチナへの支援をめぐっては、EUで近隣国についての政策などを担当するバールヘイ委員が9日、SNSに投稿し、パレスチナに対するあらゆる資金の支払いを即時停止し、すべての開発援助プロジェクトを見直すとしていました。

EU フォンデアライエン委員長「人道支援は問題にしない」

EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は11日、声明を発表し、イスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃について、「テロ行為であり、戦争行為だ。とるべき対応は1つしかない。ヨーロッパはイスラエルとともにある。イスラエルが自衛する権利を完全に支持する」と述べました。

その上でパレスチナへの支援をめぐっては「パレスチナの人々に対する人道支援は問題にしない」と強調しました。

この声明に先立ち、EUで近隣国についての政策などを担当するバールヘイ委員が9日、SNSに投稿し、パレスチナに対するあらゆる資金の支払いを即時停止するとしていましたが、EUはその後、撤回していました。今回の声明でフォンデアライエン委員長は資金支援について「EUの資金がこれまでも、そしてこれからもハマスやいかなるテロ組織の手にわたらないよう、資金支援については注意深く見直すことが重要だ」としています。

アメリカ大統領補佐官「イランの“共犯関係” 情報を精査」

アメリカ・ホワイトハウスで安全保障政策を担当するサリバン大統領補佐官は10日、記者会見で「今回の攻撃において、われわれは当初からイランが広い意味で共犯関係にあると言ってきた。彼らはハマスに資金や訓練、それに装備品を提供してきたからだ。そして、そのすべてがわれわれが目の当たりにしたことの一因になっている」と指摘しました。

その上で「イランが攻撃を事前に知っていたのかや計画を支援したり、攻撃を指示したりしたのかという点については確認できていない。われわれが持っている情報を精査している」と述べました。

松野官房長官「外交努力続け 邦人の安全確保に万全期す」

松野官房長官は午前の記者会見で「ハマスなどのパレスチナ武装勢力による攻撃について、特に罪のない一般市民に対する攻撃や誘拐は、どのような理由であれ正当化することはできず、強く非難する。日本政府として事態の沈静化に向けて、さまざまな関係者と意思疎通をしているところだ。今後もG7を含む国際社会と連携しつつ、外交努力を続けていく」と述べました。

また在留邦人への対応について「イスラエルの空港で、一部の商用便の運航停止が発生しているため、出国を希望される方に対し、運航状況に留意するよう呼びかけているところだ。今後も緊張感を持って邦人の安全確保に万全を期していく」と述べました。

超党派の議員連盟「テロ行為を強く批判」

超党派の国会議員で作る「日本イスラエル友好議員連盟」の会長を務める自民党の中谷・元防衛大臣は声明を発表し「ハマスなどによる攻撃や誘拐は、むこの一般市民をも標的とする極めて野蛮かつ卑劣なテロ行為であり強く非難する。議員連盟として、この苦難の時にイスラエルと、イスラエルの人々との連帯を改めて示す」としています。

外務省 岡野事務次官 パレスチナ武装勢力の攻撃は「テロ攻撃」

外務省の岡野事務次官は11日午後、外務省で、イスラエルのコーヘン駐日大使と会談しました。

外務省によりますと、この中で、岡野次官はイスラエルの国民に連帯の気持ちを示し、ハマスなどパレスチナ武装勢力による攻撃を日本政府として初めて「テロ攻撃」と表現して「断固非難する」と述べました。

その上で「残虐な無差別攻撃は正当化できず、イスラエルが国際法に従って自国と自国民を守る権利を有するのは当然だ」と伝えました。そして、事態の早期沈静化に期待を示し、地域の安定のため緊密に意思疎通していくことで一致しました。

ニューヨークでイスラエル支持する1万人規模のデモ

イスラエル国外で世界最大規模とされるユダヤ人コミュニティーがあるアメリカ・ニューヨークで、10日、イスラエルを支持するデモが開かれました。警察によりますと、およそ1万人が集まり、イスラエル国旗を身にまとった参加者たちは誘拐された人だとする写真を掲げながら「ハマスは人間の盾を使うのをやめろ」などと訴えていました。

イスラエルに家族がいるという男性は「イスラエルで、われわれの仲間が極めて野蛮な方法で虐殺された。本当に恐ろしい、予測のできない時代で、私にできることは同じように恐怖を感じている人たちと一緒に祈ることだ」と話していました。

デモが行われたニューヨーク中心部の道路には人があふれ、長時間にわたって通行止めになる事態となりました。

イラン精鋭部隊の元司令官「支援が戦争の質に影響」

イランの精鋭部隊、革命防衛隊で周辺国での作戦に関わってきた元司令官のキャナニモガダム氏は10日、首都テヘランでNHKの取材に応じました。

革命防衛隊がハマスに対して行ってきた軍事支援については、「ガザ地区は完全に閉じられていて、どんな兵器やミサイル、それに兵士も送れない」としながらも、「サイバー空間などを通じた技術移転や財政支援によって、彼らがミサイルや無人機を自分たちで作れるように後押ししてきた」と説明しました。

その上で、今回のハマスによる大規模攻撃について「これまでと異なり、高性能の無人機や防空システムをくぐり抜けるロケット弾が使われている。われわれの支援が間違いなく戦争の質に影響を与えている」と述べ、イランの支援によりハマスの兵器開発能力が向上した成果だと誇示しました。

一方で、ハマスの戦闘員たちが動力付きのパラグライダーを使って、ガザ地区を囲む壁を越え、イスラエル側に侵入したとされることなどについては、「われわれも驚いている」と述べ、ハマスが独自の戦闘方法を編み出しつつあるという見方を示しました。

専門家「数か月 場合によっては年単位の準備か」

鈴木特任准教授は今回のハマスの攻撃について、「これだけの大規模な作戦を進めるためには数か月、場合によっては年単位の準備が必要なはずだ。一方で、イスラエル側は、ガザ地区からは飛しょう物はくるが、厳しい封鎖を地上から越えられることは考えておらず、イスラエルにとってはありえない、想定していなかったことで、それだけハマスの作戦の立て方が巧妙だった」と分析しています。

そして背景について、ガザ地区で封鎖が続く中、「貧困や怒り、悲しみが人々の中に渦巻いていて、それがイスラエルが設置した壁を突き破って出てきてしまったのが今回の事態だ」と述べました。

また、ガザ地区は人口密度が高く、その分、高層の建物を建てることで人々の住居を確保してきたとガザ地区の状況を説明した上でイスラエル軍が地上部隊で侵攻した場合、「地の利があるのはハマス側で、イスラエル側にも死者が出る一方、イスラエル側は攻撃を防ぐために遮蔽物をなくすため、高い建物を攻撃しさらなる市民の死者が出る」と述べ、双方で犠牲者が増えることへの懸念を示しました。

そしてイスラエルとハマスの双方が行った攻撃で市民の犠牲者が多く出ていることに国際社会として責任を問うべきだとした上で「報復という文脈で暴力を使えば、終わりの見えない争いに再びはまりこんでいくことになる」と話し、一刻も早い戦闘の停止と、国を問わず、交渉に向けた仲介努力が求められていると述べました。

そしてパレスチナのヨルダン川西岸地区などでも衝突が相次ぐ中、今回のガザ地区やその周辺の暴力の応酬を経て、双方の「憎しみ」が地域全体に広がりさらなる犠牲者が出ることを懸念し、「だからこそ早期の停戦や根本な問題の解決が求められている」と話していました。

国連 ガザ地区封鎖「国際人道法で禁止」

イスラエル・パレスチナ情勢に関連し、スイスのジュネーブに本部がある国連人権高等弁務官事務所のターク人権高等弁務官は10日、緊急の声明を発表しました。この中では「われわれは爆発寸前の火薬庫のような状況に直面している。イスラエル人とパレスチナ人の命が失われ、双方の地域社会に計り知れない苦しみがもたらされている」としています。

その上で、イスラエルによるガザ地区の封鎖について「生活必需品の供給を遮断し、民間人の命を危険にさらすような封鎖は、国際人道法で禁止されている」と批判しました。

また、イスラム組織のハマスを名指しすることは避けつつ、「パレスチナの武装勢力に対して、拘束されている民間人を即時に無条件で解放するよう求める。人質を取ることは国際法で禁じられている」と指摘しています。

さらにイスラエル側に対して、ガザ地区への空爆により、住宅や学校、国連機関への被害が相次いでいるとして、民間人や民間施設への攻撃をやめるよう呼びかけています。

「オスロ合意」調停役 新たな和平合意の実現を訴える

イスラエルとパレスチナの二国家共存への道を開いた1993年の「オスロ合意」で調停役を務めたノルウェーの元外交官、ヤン・エゲランド氏がNHKのオンラインインタビューに応じ、アメリカとアラブ諸国などの主導による新たな和平合意の実現を訴えました。

国連で人道問題担当の事務次長を務めたあと、現在は国際NGO・ノルウェー難民評議会の事務局長としてガザ地区への人道支援などに当たっているエゲランド氏は、「イスラエル軍によるガザ地区への包囲と空爆に、240万人もの罪のない市民は持ちこたえられないだろう。その43%は15歳未満の子どもだ」と述べました。

そして「現地には60人近いスタッフがいるが、支援物資の備蓄は数日間で底をつく。短期的には上下水道や病院を動かすための電気、より長期的には食料と、空爆で家を失った18万人から19万人の住まいが必要だ」と述べたうえで、支援物資を運び込み、市民が安全地帯に逃れるための、人道回廊と呼ばれる避難ルートが必要だという考えを示しました。

そして、30年前の「オスロ合意」を振り返って「当時は双方に楽観的な見方があふれ共同プロジェクトも多かったが、合意を実行に移すのに時間がかかりすぎ、その間に平和を望まない勢力が力を増してしまった。恨みや対立、憎しみがこれまでになかったほど増幅してしまった今、人々や指導者たちの間の信頼を再構築する必要があるが、長い時間がかかるだろう」と述べました。

その上で、問題の解決に向けて「アメリカと、エジプトをはじめとするアラブ諸国など、国際社会の調停のもとで双方が会談し、新たな『エルサレム合意』を目指すべきだ。イスラエルの安全と、パレスチナ人の人権、尊厳、正義、そして未来への希望を保証するものだ。それはまだ実現可能だが、簡単ではない。国際社会による多大な努力が必要になる」と訴えました。

《SNSでは偽情報拡散も》

「X」に偽情報拡散か EUがマスク氏に対応求める

旧ツイッターの「X」では、ハマスによるイスラエルに対する大規模な奇襲攻撃が起きた直後に「ハマスの戦闘員がイスラエルのヘリコプターを撃墜した」などとするコメントとともに、戦闘員が携行型ミサイルでヘリコプターを撃ち落とす様子を撮影したように見える動画が拡散するなど、偽情報だと指摘される投稿が相次いでいます。

事態を受け、EUでデジタル分野を担当するブルトン委員は10日、Xを所有する起業家のイーロン・マスク氏に対応策を打ち出し、EU側に伝えるよう文書で求めました。

ブルトン氏は「XがEU域内で、違法なコンテンツや偽情報の拡散に利用されている。武力衝突とは関係の無い古い画像やビデオゲームからの軍事的な映像が使われているという複数の報告がある。明らかに虚偽や、誤解を招く情報だ」と指摘しました。

そのうえで「違法なコンテンツの指摘を受けた場合には適宜対処し、取り除かなくてはならない。コンプライアンス違反が発覚した場合には罰金などを科す可能性がある」などと警告しています。

これに対して、マスク氏はXに投稿し「すべてをオープンソースにし、透明性を確保することがわれわれの方針であり、EUもこうしたことを支持しているはずだ。EUが指摘する、Xで広がっているとする違反を一般の人にわかるように示してほしい」とEU側に反論しています。

イランとイスラエル SNS上で非難の応酬

ハマスを支持するイランとイスラエルの間では、SNS上での非難の応酬も起きています。

イランの最高指導者ハメネイ師は10日、旧ツイッターの「X」で「イスラエルの首脳たちとその支持者たちは、ガザ地区の人々の虐殺はより大きな災いを自分たちにもたらすことを知るべきだ」と英語で投稿したのに続いて、ヘブライ語で「イスラエルの抑圧者たちよ、10月7日の敗北は取り返せない。この災いは自分で招いたものだ」と投稿しました。

これに対し、イスラエル政府もXへの投稿で「キーボードの裏に隠れているとき、勇敢でいるのは簡単だ。あなたとその友人のハマスは野蛮な行動をすぐに後悔することになるだろう」と応じるなど、非難の応酬が激しさを増しています。