新潟 コシヒカリ 新たな品種を開発 “特A” 格付けにも強み?

ことしも新米の季節がやってきました。各地で収穫されたコメの出荷が始まっています。

ただ異常気象ともいえる暑さの影響で、各地で品質の低下が懸念される事態となっています。

そんな中、コメの一大産地である新潟で、暑さに強い“新たな”コシヒカリが誕生しました。おいしさはそのままに、品質の高いコメを作るための武器を兼ね備えていました。

コシヒカリの新品種 その名は? そして特徴は?

新潟大学は28日に会見を開き、開発を進めてきたコメの新たな品種の名称を発表しました。

その名は、「新大(しんだい)コシヒカリ」。新潟大学の略称からとりました。

大学が去年名称を募集したところ、全国から2506件の応募が寄せられたということで、流通や小売業者、大学関係者などでつくる委員会が検討を進めてきました。

「『コシヒカリ』の名称を入れたほうがいい」という意見が多く、こうした意見を尊重したということです。

この品種の特徴は、暑さに強いこと。

高温でも米粒が白濁しにくい新たな品種として、実用化に向けて3年前から実証実験を進めてきました。

新品種 開発の背景には“猛暑”が

開発の背景には、夏の暑さによるコメの品質低下を防ごうというねらいがあります。

特にことしは、気象庁の検討会が「異常気象」と指摘するほどの暑さ。

ことし6月から先月にかけての平均気温は、平年と比べ1.76度高くなり、1898年の統計開始以降最も高くなりました。

新潟県でも夏の記録的な暑さの影響で白く濁ったコメなどが多くなり、これまでの県内各地の検査で評価の低い「3等米」とされる米が増える見込みとなっています。

「新大コシヒカリ」を開発した三ツ井教授(右)

新潟大学では、ことしの記録的な暑さの中でも「新大コシヒカリ」の実証実験を行っていて、11月下旬から12月上旬に結果を報告したいとしています。

新潟大学農学部 三ツ井敏明 教授
「コシヒカリそのままのおいしさを味わえます。『新大コシヒカリ』を多くの皆様に愛されるお米に育てていきたい」

増え続ける銘柄 “暑さへの強さ”ほかにも

「コシヒカリ」や「ひとめぼれ」といった、コメの銘柄は年々増加しています。

農林水産省によりますと、国に登録されているコメの銘柄の数は、ことし928種類。

4年前の2019年から、100以上増えています。

新しい銘柄の中には、新潟大学が開発した「新大コシヒカリ」のように、暑さに強いなどの性質を兼ね備えた品種もあります。

その一つが、富山県のブランド米「富富富(ふふふ)」です。28日は、販売開始を前に新米40トンを乗せたトラック3台が卸業者のもとへ出発しました。

「富富富」は、暑さに弱く、稲が倒れやすいといったコシヒカリの弱点を克服しようと県が開発したブランド米です。

「JA全農とやま」によりますと、ことしは8800トンが収穫できる見込みで、最も優れた1等米の比率は、記録的な猛暑になったことしも例年並みの95%以上を維持できるとしています。

「特A」獲得が次々と 格付けでも“暑さに強い”が存在感

こうした性質を持つ品種は、コメの「格付け」でも強みを発揮しています。

コメを評価する指標の1つ、「食味ランキング」です。

農産物などの品質や安全性を評価している日本穀物検定協会が毎年、公表しています。

同じ炊飯器を使って厳密に炊いたコメを「食味評価エキスパート」に選ばれた担当者が味わって、「外観」「香り」「味」「粘り」「硬さ」「総合評価」の6つの項目で点数をつけます。

そして、最高ランクの「特A(特に良好)」、次いで「A(良好)」「A’(おおむね基準米と同等)」「B(やや劣る)」「B’(劣る)」の5段階で評価しています。

最高の「特A」の評価を受けると、生産者は味のよさを消費者にアピールしやすくなり、ブランド力につながることから、産地ごとの競争が年々激しくなっています。

去年に生産されたブランド米の審査結果がことし2月に公表され、「特A」の評価を受けたのは、40銘柄でした。

品種や産地をみると、「コシヒカリ」では前年の13地域から8地域に減らした一方で、福井県の「いちほまれ」、香川県の「おいでまい」など、暑さに強い品種が新たに「特A」の評価を受けました。

特に、暑さに強い品種で西日本を中心に普及する「にこまる」は6つの産地で「特A」の評価を受け、前の年から2倍に増えています。

30年かけて開発「星空舞」が初の「特A」 鳥取

今回、初めて「特A」の評価を受けた「星空舞(ほしぞらまい)」

高温や病気に強く、稲が倒れにくいことが強みです。

鳥取県がおよそ30年かけて開発を進めてきた品種で、2019年に本格的な生産が始まってから3年で最高評価を獲得しました。

JA全農とっとり 廣畑裕一 米穀部長

JA全農とっとり 廣畑裕一 米穀部長
「特Aをもらうことは簡単ではないと思っていたので正直驚きましたがうれしいです。開発を続けてきた人たちの努力があったから獲得できたと思います。いいものを作ろうという生産者の意欲も高まっているのを感じています」

生産量はまだ少ないものの、ことしはこれまでのところ暑さにも負けず、安定して育っているということです。

県内の自治体ではふるさと納税の返礼品としてもこの品種を扱うなどPRに力を入れていて、今後は作付面積を増やして、3年後には2倍以上の3000ヘクタールを目指すことにしています。

JA全農とっとり 廣畑裕一 米穀部長
「やっと全国の品種と勝負できる位置に立てたと思っています。天候によって品質が変わらず安定的に供給できると思うので、その強みを生かして多くの人に食べてもらえるよう販売も強化していきたいです」。

専門家 “おいしさ以外の強みが大事”

コメの品質に詳しい専門家は、質のいいコメを作り続けていくためには、おいしさ以外の性質がますます大事になっていると指摘しています。

新潟薬科大学 大坪研一 特任教授

新潟薬科大学 大坪研一 特任教授
「米の消費が減っているなかで、かつては消費者が求めるコメを作ろうと、おいしい品種を作ることが非常に重視されてきました。しかし最近の品種は、ほとんどが特Aレベルのおいしさがあります。『おいしくてなおかつ高温に強い、収穫量が多い、病気に強い』などの強みを持つ品種が増えています。特にことしは非常に気温が高くなりましたが、ことしだけの傾向ではないでしょうから、高温耐性などの強みを兼ね備えることが大事になってくると思います」

日本の食を支え続けてきたコメ。

自然の力に負けずおいしさを提供し続けようという全国の生産地の努力に支えられて、私たちの食卓に届けられています。