NASA 地球に帰還のカプセルを回収 小惑星の石など中身の確認へ

日本の探査機「はやぶさ2」のように小惑星に着地して石や砂などを採取したNASA=アメリカ航空宇宙局の探査機のカプセルが地球に帰還し、アメリカの砂漠地帯で回収されました。小惑星の石や砂などの試料を地球に持ち帰るのは日本の「はやぶさ」と「はやぶさ2」に次いで3例目です。

2016年に打ち上げられたNASAの探査機「オシリス・レックス」は地球からおよそ3億キロ離れた小惑星「ベンヌ」に着地して、表面にある石や砂などを採取したあと、地球に向かって飛行していました。

そして、24日、採取した石などが入ったカプセルを地球に帰還させるミッションが行われました。

カプセルは直径およそ80センチ、高さおよそ50センチの円盤のような形で、探査機から切り離されて大気圏に突入したあと、パラシュートを展開してゆっくりと地上に降下し、日本時間の24日午後11時52分、アメリカ西部ユタ州の砂漠地帯に着地しました。

そしてNASAなどの回収チームがヘリコプターで現場に向かい、カプセルは回収されました。

小惑星の石や砂などの試料を地球に持ち帰るのは、日本の「はやぶさ」と、「はやぶさ2」に次いで3例目となります。

カプセルの中にある、密封された容器には採取した試料およそ250グラムが入っていると推定され、このあと、容器がテキサス州にあるNASAのジョンソン宇宙センターに運ばれて特殊なクリーンルームの中で中身の確認が行われます。

試料は、地球の生命の起源や太陽系の成り立ちについて貴重な情報をもたらすことが期待されていて、日本も含む世界中の研究者が解析を進める予定です。

カプセルを切り離した探査機は現在、地球から遠ざかり、新たなミッションとして、別の小惑星の探査に向かっています。

「はやぶさ2」責任者 JAXA津田雄一さんも祝福

「オシリス・レックス」のカプセルが地球に帰還するのにあわせて日本の探査機「はやぶさ2」のプロジェクトの責任者を務めたJAXA=宇宙航空研究開発機構の津田雄一さんも現地を訪れていました。

カプセルが無事、着地する様子を見守った津田さんは「すばらしかった。NASAのチームにはおめでとうと言いたい。地球と小惑星を往復し、『究極の探査』とも言えるサンプルリターンに、また一つ、大きな歴史の1ページが加わったと思う」と祝福していました。

そのうえで「私たちの行ったリュウグウの成果に加え、ベンヌの科学的成果も出ると思うと楽しみだ。ただ、われわれをとりまく宇宙環境の理解と生命の起源を知るには、さらに遠くまで行かなければならない。今回の成果はそのための橋頭保=足がかりができたと考えている」と話していました。

NASA惑星科学部長“『はやぶさ2』チームの協力感謝”

今回、小惑星の石や砂などを地球に持ち帰るミッションに挑んだ「オシリス・レックス」のチームは、同じ、小惑星からの「サンプルリターン」のミッションを成功させている日本の探査機「はやぶさ2」のプロジェクトチームからさまざまなことを学んでいました。

プロジェクトを担当した、NASAのロリ・グレーズ惑星科学部長はNHKの取材に対し「カプセルの回収や開封、小惑星から採取したサンプルをどう評価するかなど多くのことを学んだ。『はやぶさ2』チームのすばらしい協力に感謝します」と述べました。

NASAはこれまでに「はやぶさ2」が採取した、小惑星「リュウグウ」のサンプルの一部をJAXAから受け取り、今回は小惑星「ベンヌ」のサンプルの一部をJAXAに提供することになっていて、グレーズ部長は「2つの小惑星のサンプルを比べることでこうした小惑星が太陽系を周回する中でどのように形づくられてきたのか知ることができる。分析をともに進められることが楽しみだ」と述べて、今後の研究成果に期待を示していました。

日本が世界をリードしてきた小惑星のサンプルリターン計画

小惑星のサンプルリターン計画では、▼2010年6月に日本の探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」から帰還して世界で初めて小惑星の微粒子を地球に持ち帰り、▼2020年12月には「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」の表面の砂や小石を地球に持ち帰るなど、日本が世界をリードしてきました。

日本に追いつこうとNASAも2016年9月に探査機「オシリス・レックス」を打ち上げ、2018年12月には小惑星「ベンヌ」の上空に探査機が到達。

しかし、「ベンヌ」の地表は日本の「はやぶさ2」が着陸した「リュウグウ」と同じように想定以上に岩で覆われ、着陸に適した場所を見つけるのに難航していました。

そこで2019年4月、NASAの研究チームは神奈川県相模原市にあるJAXA宇宙科学研究所を訪れ「はやぶさ2」のチームと情報交換を行いました。

「はやぶさ2」は2019年2月に小惑星の直径6メートルの狭い範囲への着陸を成功させたばかりで、NASAの研究チームは「はやぶさ2」を着陸地点まで精密に誘導する方法などについて助言を受けました。

そして2020年10月、「オシリス・レックス」は小惑星「ベンヌ」に着陸し、表面の石や砂などを採取することに成功しました。

JAXAとNASAはそれぞれが採取した小惑星のサンプルについては事前に協定を結んでいて、▼「はやぶさ2」が採取した小惑星「リュウグウ」のサンプルについては全体の10%にあたる0.5グラムを2021年11月にNASAに提供しています。

一方、▼今回、「オシリス・レックス」が採取した小惑星「ベンヌ」のサンプルについては、全体の0.5%にあたる推定でおよそ1グラムが今後、1年以内にJAXAに提供される見込みだということです。

“カプセル回収がスムーズで驚いた”

2020年、日本の探査機「はやぶさ2」が採取して地球に持ち帰った小惑星「リュウグウ」のサンプル分析のとりまとめを行った東京大学の橘省吾 教授は「はやぶさ2の時とは違って当事者ではないのでサンプルリターンを客観的に楽しみながら見守っていましたが、落下中のカプセルがずっと見えていて着地点もすぐわかり驚きました」と、今回のカプセルの回収がスムーズだったことに驚いたと話していました。

その上で「どちらの小惑星も炭素質であり元素や有機物を調べることで太陽系の始まりや地球の水の起源の解明に役立つことが期待される。2つのサンプルがあることで、共通したことが見つかれば太陽系で普遍的に起きている可能性が高いと言えるだろうし、違いがあれば2つの小惑星がどのような進化の歴史をたどってきたのか情報を与えてくれると思うので分析結果に注目したい」と今後の分析に期待を寄せました。

そして「『オシリス・レックス』の分析チームには日本人の研究者も入っており、『リュウグウ』の分析で培った技術や経験を生かしてサポートしていきたい」と意気込みを語っていました。

橘教授は今後、回収されたサンプルを視察するためNASAに行く予定だということです。

松野官房長官 “宇宙分野での日米協力の深化につなげたい”

松野官房長官は午後の記者会見で「大変喜ばしく、太陽系の初期の歴史や生命の起源の手がかりなど新たな科学的成果が得られることを期待したい」と述べました。

その上で、採取されたサンプルの一部がJAXA=宇宙航空研究開発機構に提供されることについて「『はやぶさ2』の分析の経験を生かして科学的成果の最大化に貢献するとともに、宇宙分野での日米協力の深化につなげたい」と述べました。