大相撲秋場所 大関 貴景勝4回目の優勝 熱海富士との決定戦制す

大相撲秋場所は千秋楽の24日、大関・貴景勝が21歳の平幕、熱海富士との優勝決定戦を制してことしの初場所以来となる4回目の優勝を果たしました。角番の大関が優勝するのは平成28年秋場所の豪栄道以来、7年ぶりです。

秋場所は14日目を終えて3敗で熱海富士が単独トップに立ち、星の差1つの4敗で貴景勝と関脇 大栄翔、そして平幕の高安と北青鵬の4人が追う展開となりました。

千秋楽の24日、先に取組のあった熱海富士が大関経験者の朝乃山に「寄り切り」で敗れて11勝4敗となりました。

一方、貴景勝は大栄翔と対戦し、「送り出し」で勝って4敗を守りました。

そして、高安と北青鵬が敗れたため、貴景勝と熱海富士による優勝決定戦となりました。

貴景勝は立ち合いで左にずれてはたき込みで勝ち、ことしの初場所以来となる4回目の優勝を果たしました。

角番の大関が優勝するのは平成28年秋場所の豪栄道以来、7年ぶりです。

先場所、両ひざのけがで休場した貴景勝は今場所は負け越すと大関から陥落する角番で迎え、初日黒星のあと中盤戦でも連敗して、中日8日目に3敗目を喫しました。

それでも徐々に持ち味の突き押しに力強さを取り戻して、9日目に高校の後輩である豪ノ山に勝利してから白星を伸ばし、11日目に勝ち越しを決めて角番を脱出しました。

そして、13日目には単独トップに立っていた熱海富士に勝つなど、優勝争いに食らいついてきました。

秋場所は横綱・照ノ富士が休場し、1年ぶりに3人が出場した大関陣に注目が集まった中、在位が最も長い貴景勝が力を見せました。

貴景勝「もう一度奮起して夢の横綱に向けて考えてきた」

貴景勝は優勝インタビューでまず「うれしい」と率直に喜びを話しました。

先に熱海富士が敗れたため、優勝決定戦の進出がかかった大栄翔との一番については「押し相撲同士なので、一生懸命やることだけ考えた。特にどうしていこうとかは考えていなかった」と振り返りました。そして優勝決定戦については「絶対負けられないという強い気持ちでいった。右差しを徹底して封じようと思った。ああいう形で決まると思わなかったが、集中してやるべきことをやった」と話しました。

また、両ひざのけがで7月の名古屋場所を休場し、角番で迎えた今場所に臨んだ心境を問われると「ぼくにとってはつらい7月を過ごしてきた。でも、いろいろな人に支えられて、もう一度奮起して夢の横綱に向かってどうしたらいいかと考えてきた。9月である程度の成績を残せたので、無駄じゃなかった」と述べました。

今後に向けては「大事なところでけがをしてしまうのはまだまだ自分に本当の強さが備わっていないからだ。けがをしない強い体作りが横綱の資質だと思っている。もう一度そこを考えて、体が小さいなりに頑張っていきたい」と意気込みを示しました。

さらに優勝を争った熱海富士との対戦を振り返り「素晴らしい若い力士が上がってきた。僕も若いときに強いお相撲さんとやれること自体が楽しかった。自分もそういう気持ちに戻って頑張っていかなければならないと思った。僕よりも関取になるのははやいし、将来必ず強くなると思う。僕は壁になれるように強くなるだけと思っている」と話しました。

熱海富士「悔しい 勝ちたかった」

初優勝を目指したものの、大関・貴景勝との優勝決定戦で敗れた熱海富士は「悔しい。勝ちたかった。本割でも決定戦でも目の前に賜杯があったのにだめですね」と悔しそうな表情で話しました。

一方で優勝決定戦まで優勝を争ったことについては「入門したころから、横綱があの場で相撲を取っているのを見てきた。そこに自分も立てると昔の自分に言いたい」と話していました。

そして、「稽古が足りない。やることがいっぱいある。まだ相撲人生は長いので、もっと強くなりたい」と早くも次の場所を見据えていました。

貴景勝の師匠 常盤山親方「来場所につながる」

大関・貴景勝の師匠、常盤山親方は「休場明けで万全ではない中でよく頑張った。自分の相撲を取り切った結果だと思う。この優勝で気分をよくしているだろう。来場所につながる15日間だった」と弟子をねぎらいました。

佐渡ヶ嶽審判部長「ああいう相撲は見たくなかった」

日本相撲協会の佐渡ヶ嶽審判部長は大関・貴景勝について「大関の責任は果たしたが、決定戦でああいう相撲は見たくなかった」と話していました。

一方、熱海富士については「ここまで一番若手で頑張ってきた。成長している」と評価しました。

そして、「上位陣が平幕に負けない強さを持ってほしい。そのためには稽古しかない」と力士たちの奮起を期待していました。

八角理事長「責任果たしたが ちょっとがっかり」

日本相撲協会の八角理事長は優勝決定戦を制した大関・貴景勝について「最後の最後で責任を果たしたが内容が内容だったのでちょっとがっかりした。精いっぱいだったんじゃないか」と厳しいことばを交えながら評価しました。

そして、横綱を目指すにあたり必要となるものについては、「稽古量でしょう」と話していました。

一方、敗れた熱海富士については「ああいういなしが来るとは思っていなかっただろう。一生懸命やったし、来場所でしょう」と今後に期待を込めました。

また、「満員御礼が続いてお客さんの期待にも応えられてはいると思う」と15日間を振り返りました。

「11勝4敗」での優勝は4回目(昭和24年以降)

11勝4敗での優勝は平成29年秋場所の横綱・日馬富士以来で、1場所15日制が定着した昭和24年以降では4回目です。

4回目の優勝 貴景勝とは

4回目の優勝を果たした大関・貴景勝は兵庫県芦屋市出身の27歳。身長1メートル75センチ、体重165キロの体から繰り出す強烈な突き押しが持ち味で、勝っても負けても表情を変えず淡々と土俵に向かう精神力が強みです。

小学生で相撲を始め、中学時代には全国大会の決勝で、現在、平幕の阿武咲を破り、中学生横綱となりました。

高校は多くの関取を輩出している埼玉栄に進み、卒業後に貴乃花部屋に入門して平成26年秋場所で初土俵を踏みました。

平成30年の秋場所後には、貴乃花親方が日本相撲協会を退職して貴乃花部屋がなくなったため千賀ノ浦部屋、今の常盤山部屋に移籍しました。

その直後、小結で迎えた九州場所で13勝2敗の好成績で初優勝し、ここから3場所連続でふた桁勝利を挙げて4年前の春場所後に大関に昇進しました。

以降はけがに苦しみ、一度、関脇への陥落も経験し、大関復帰を決めた場所でも左胸に大けがをしました。

それでもその年の11月場所では看板力士が次々休場する中、強じんな精神力でただ1人の大関として土俵を締め続け、2年ぶりの優勝、さらにことしの初場所では3回目の優勝を果たしました。

続く春場所は横綱昇進が注目されましたが、取組中に左ひざの半月板を損傷して途中休場し、この時もけがに泣かされて子どものころからの夢を果たせませんでした。

さらに左ひざをかばって相撲を取っていたことで右ひざも痛めて、ことし7月の名古屋場所は休場し、秋場所は7回目の角番で迎えていました。

重ねてきた“準備”が浮上のきっかけに

「しっかり準備してやる」

貴景勝が常々、口にすることばの1つです。

けがから復帰する場所に臨むにあたって、ことば通りに重ねてきた準備が4回目の優勝につながりました。

貴景勝がけがをしたのはことし3月の春場所。前の初場所で3回目の優勝を果たし、子どものころからの夢だと語る横綱昇進を目指して臨みましたが、取組中に左ひざを痛めて休場を余儀なくされました。

下半身を使って突き上げて力強く相手を押し込む相撲を持ち味とする貴景勝にとってひざは生命線の1つです。

続く夏場所は8勝7敗で勝ち越して角番を脱出したものの師匠の常盤山親方が「ひざは決してよくはない」と話すぎりぎりの状態でした。

さらに、痛めていた左ひざをかばっていたことで右ひざに負荷がかかり、ことし7月の名古屋場所の前には両ひざの半月板損傷と診断されました。

人一倍、大関としての責任を口にする貴景勝でしたが、ここで下した決断は4年ぶりとなる初日からの休場でした。

場所前に相撲を取る稽古ができなったことで「100%を出せない状態を繰り返すのは良くないし、しっかり治したほうがいい。秋場所で勝負しよう」と考えました。

「相撲は小学校3年からやっているので体を作っていけばやれる自信はある」と相撲の稽古の再開は遅らせてもリハビリに加え、ふだんから稽古で重点を置くしこ、すり足、スクワットなどの基礎運動を入念に行い、ひざの回復と体作りを優先してきました。

そして迎えた秋場所「ひざのよい悪いはまったく理由にならないまでにいい。実力があれば勝つし、負けたら弱いだけ。そういう意味で全力でいける」と言えるまで上向きました。

持ち味の突き押しも徐々に力強さを取り戻し、後半戦は期待の若手で同じく突き押し相撲を持ち味とする豪ノ山や、ここのところ2連敗を喫していた新関脇の琴ノ若を圧倒しました。13日目には星の差1つで追っていた単独トップの熱海富士に厳しい攻めを見せて勝っていました。

日本相撲協会の八角理事長も「よく勝負して足を運んだ」とたたえるなど、ひざのけがに苦しんだ大関の姿はもうありませんでした。

そして千秋楽では大栄翔との激しい押し合いを制して優勝決定戦に回り、再び熱海富士に勝って4回目の優勝をつかみとりました。

貴景勝は秋場所が始まる前に「自分の相撲人生は上がったり落ちたりでいいことがあれば悪いことも常に隣合わせでやって来た。ことしも出だしはいいことから始まったがまた、けがをして今がある。いいことが続くように頑張るだけかな」と話していました。

ひざのけがを乗り越えるために重ねてきた準備が浮上のきっかけとなり、貴景勝が再び栄光をつかみとりました。

秋場所千秋楽 中入り後の勝敗

中入り後の勝敗です。
▽御嶽海に錦富士は錦富士が「寄り切り」。
▽琴勝峰に遠藤は遠藤が「切り返し」。
▽金峰山に妙義龍は妙義龍が「寄り倒し」。
▽翠富士に碧山は翠富士が「肩透かし」で勝ちました。
▽輝に王鵬は輝が「押し出し」。
▽千代翔馬に竜電は千代翔馬が「小手投げ」。
▽阿武咲に剣翔は阿武咲が「押し出し」で勝ちました。
▽佐田の海に湘南乃海は佐田の海が「寄り切り」で勝ち越しました。
湘南乃海は負け越しです。
▽隆の勝に大翔鵬は隆の勝が「押し出し」。
▽平戸海に玉鷲は平戸海が「押し出し」で勝ちました。
▽正代に宝富士は正代が「上手投げ」で勝ち越しました。
宝富士は負け越しです。
▽熱海富士に朝乃山は朝乃山が「寄り切り」で勝ちました。
熱海富士は4敗に後退し、優勝決定戦に持ち込まれました。
▽琴恵光に明生は明生が「押し出し」。
▽北勝富士に阿炎は阿炎が「はたき込み」で勝ちました。
▽豪ノ山に翔猿は豪ノ山が「押し出し」。
▽錦木に宇良は宇良が「とったり」で勝ちました。
▽琴ノ若に若元春は琴ノ若が「寄り倒し」で勝ちました。
若元春は2けたの勝ち星をあげることはできませんでした。
▽北青鵬に大関 豊昇龍は豊昇龍が「渡し込み」で勝ち越しました。
▽大栄翔に大関 貴景勝は貴景勝が「送り出し」で勝って優勝決定戦に進みました。
▽大関 霧島に高安は霧島が「引き落とし」で勝ちました。

貴景勝と熱海富士の優勝決定戦は貴景勝が「はたき込み」で熱海富士に勝ってことしの初場所以来4場所ぶり4回目の優勝を果たしました。

朝乃山「歓声の中で相撲取れる喜びでいっぱい」

本割の対戦で熱海富士に勝った大関経験者の朝乃山は「お互いに大一番で、ああいう歓声の中で相撲が取れる喜びでいっぱいだ」と振り返りました。

4敗だった力士4人のうち、関脇・大栄翔は大関・貴景勝に敗れて「勝ちたかった。来場所までしっかり稽古して臨みたい。頑張ります」と淡々と話していました。

高安は結びの一番で大関・霧島に敗れて優勝決定戦には進めませんでしたが、「精一杯やった。来場所、その次の場所に向けてもっと努力していきたい」と前を向きました。

7日目から8連勝中だった北青鵬は新大関・豊昇龍に敗れ「13日目までは優勝の意識はなかったがきのう勝ってどうしても意識した。経験にはなったが、本当に悔しい」と話していました。

一方、勝って勝ち越しを決めた豊昇龍は「勝ち越せてよかった。来場所に向けてこの気持ちを忘れないようにしたい」と話していました。