有名人なりすまし“偽の投資広告” SNSで急増 その手口とは

最近SNSで著名人の写真とともに「儲けたい人に朗報!○○が投資教室を開催」などとうたった広告、見る機会が増えたと思いませんか?

「○○さんが関わっているなら…」などと軽い気持ちでクリックするのはちょっと待って!

その宣伝、実は無断で画像を使用された“フェイク広告”や勝手に名前をかたった“偽アカウント”かもしれません。

取材を進めると、実在する金融機関が、著名人を広告塔に起用して投資を呼びかけているかのように見せかける巧妙な手口も明らかに。著名人のなりすましと偽の広告の実態に迫りました。
(科学文化部 植田祐 / 経済部 斉藤光峻)

前澤氏が無料投資教室?

「拡散希望・Facebook社を責任追及します」

9月初め、起業家の前澤友作さんのSNSの投稿が話題になりました。

何が起きているのか―――前澤さんに直接取材してみると「一向に減らない『なりすまし広告』に非常にうんざりしています」との答え。

前澤さんはことし6月、専門家チームを立ち上げ、自身の写真を勝手に使ったり、名前をかたった偽広告の実態を調査。これまでにおよそ2000の広告の削除要請をフェイスブックを運営するメタ社に行ったと言います。

前澤さんが指摘する偽の広告には、「前澤友作が無料投資教室を開きました」というウソの情報とともに、「100万円で1億円を手早く稼ぐ方法」などと記載されています。

広告をクリックするとLINEの友達登録に誘導される仕組みで、誘導先では暗号資産の取引や、投資名目の銀行振込などを持ちかけるやり取りが行われます。

前澤さんの元には、多くのSNSユーザーからさまざまな声が寄せられています。

「前澤さんご本人のプロジェクトだと思って登録したらだまされた」
「この企画に前澤さんが本当に携わっているのか教えてほしい」

前澤さんは、メタ社に対して肖像権を侵害した広告や詐欺目的の広告の配信停止などを求めたと言うことです。

前澤さんによると、メタ社の日本法人のフェイスブックジャパンからは文書で「問い合わせに回答する主体ではないのでいかなる対応もできない。問い合わせはアメリカの本社にして下さい」という回答があり、前澤さんは9月7日、アメリカのメタ社に直接文書を送りました。

前澤友作さん
「ユーザーからしたら、管轄や責任の所在など知る由もない。本国とのやり取りで生じる時間的・費用的負担については、仕方ないが一定覚悟している」

なりすましアカウントも

経済アナリストの森永卓郎さんは、自身のLINEグループに見せかけた偽アカウントの被害にあいました。

こちらも暗号資産の投資を呼びかけるもので、森永さんが確認した手口は次のようなものです。

いかにも森永さんが講師のように見える写真付きのフェイスブック広告。この広告をクリックするとLINEの投資グループへの入会コードが表示されます。

LINEの投資グループの名前は「森永卓郎ゼミ」。入会すると、森永さんや森永さんのアシスタントを名乗るアカウントが「HEO」という存在しない暗号資産への投資を推奨してきます。

さらに「新しい投資商品について講演会を開くが、参加するには、今までの儲けを払い戻すので5%の手数料を払ってほしい」などと、森永さんの名前をかたり、手数料などをだまし取ろうとしてきたといいます。

森永卓郎さん
「そもそも私はSNSを利用していないので、すべて偽物です。本物かどうかの問い合わせ電話やメールは届いていて、中には4000万円以上だまされたという人もいるようで、本当に困っています。広告が出ているプラットフォーム側に抗議しているのですが、広告は一向になくなりません。広告の審査が甘すぎるのではないかと思っています」

乱立する著名人のニセモノ

今、こうした著名人の写真を無断で使用した偽広告や、本人になりすました偽アカウントがネットや、SNSであふれ、こうした状況に、本人たちが次々に声を上げ始めています。

実業家の堀江貴文さんやお笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さん、元棋士で投資家の桐谷広人さんなど、いずれも自身の名前や画像などを無断で使用され、投資詐欺や情報商材の販売などが行われているなどとして注意を呼びかけています。

金融機関の偽広告も

このようななりすましは、著名人だけにとどまりません。

日経平均株価がおよそ33年ぶりにバブル後最高値を更新するなど日本の株式市場が活況になっていたことし6月下旬、大手企業も被害にあいました。

大手証券会社のみずほ証券をかたった偽広告です。

投稿者や写真のロゴはあたかもみずほ証券ですが、投稿内容には「1000円が10万円」「2日で増額60万円」など、誰でも短期間で大きな利益が出せるかのような記載もあります。

みずほ証券によりますと、偽の広告に関する問い合わせが多く寄せられていて、7月下旬ごろには最大で300サイトに偽の広告が表示されていたと言います。

会社によりますと、みずほ証券の名前を語ったSNSやメッセージなどから誘導され、実際に被害にあったと訴えるケースも数件確認されているということです。会社はホームページに注意を呼びかける特設コーナーを設置。

メタ社に対して広告の削除依頼を出しているほか、広告をクリックしたページがあるドメイン管理者にサイト自体の閉鎖を依頼しています。

みずほ証券の担当者
「そもそもみずほ証券の公式のフェイスブックアカウントはないので、だまされないでほしい。広告やサイトを消すことができても、また別のものが出てきて、いたちごっこの状態だ。偽広告には特効薬がないことに困っている」

プラットフォームの責任は

フェイスブックジャパンは、NHKの取材に対して、削除依頼など、具体的な事例については回答できないとした上で、不適切な広告の削除などの対応は、AIや人の手で行っているとして次のように回答しました。

「広告のポリシーで詐欺的または誤解を招く方法を用いている製品、サービスなどの宣伝を禁止しています。しかし、ポリシーに違反する悪質な業者がいることも認識しています。ポリシーをかいくぐる様々な手口が出てきており、閲覧者からの報告ツールを通じて違反の可能性がある広告を検出し、適宜措置を講じています。
また、広告主の行動を監視・調査していて、規定やポリシーなどに従わないアカウントを制限する場合もあります。悪質な行為を行っている業者は、責任を追及し場合によっては、法的措置を取っています。今後とも利用者の皆様に有意義な広告を届けられるようさらに注力していきたいと考えております」

そして、「こうした広告や行為を見かけたら、広告の右上にある『…』(3点アイコン)をタップして報告してほしい。違反広告が配信される前に自動検出するためのシステム改善などに役立てることができます」としています。

また、「LINE」はNHKの取材に「当社提供のサービスにおいて、違法行為や公の秩序に反するおそれのある行為を一切許容しておらず、利用規約において禁止事項として定めている。ユーザーからの通報などで、不適切な行為が発見された場合は、アカウントの利用停止などの措置を行っている。また、著名人からの削除要請に対しては、当社への申告に基づき『なりすまし』などを確認できたら対応している」としています。

その上で「LINEアプリを安心安全に利用してもらうためのルールや注意事項などをまとめたWEBサイト『LINEの安心安全ガイド』の公開など、啓発活動に努めているほか、消費者トラブルについても、国民生活センターと連携して、注意喚起情報を紹介している」としています。

「グーグル」は「プラットフォーム上で許可する広告を規定する厳格なポリシーを有しており、ユーザーを誤解させたり欺いたりすることを意図した広告はポリシー違反となる。ポリシーに違反する広告を発見した場合は削除している」としています。

旧ツイッターの「X」はホームページなどに掲載している利用規約で「ポリシーに違反する広告は、広告の配信停止やアカウントの停止など必要な措置を講じています」としています。

弁護士の見解は

インターネットと個人情報の問題に詳しい板倉陽一郎弁護士は、有名人や企業になりすます偽広告は、▽名誉毀損や▽商標権の侵害にあたり、広告をクリックした先でだまされた場合は当然、▽詐欺罪にもあたるとしています。

その上で、広告を掲載するプラットフォーム側の責任について次のように話しています。

弁護士 板倉陽一郎さん
「偽広告は明らかにいろいろな法律に違反するので、あまりにも長く放置しているとなれば、民法上の不法行為にあたるだろうし、偽広告の目的が刑事罰にあたるような行為であれば共犯であるとか、場合によっては共同正犯というところも考えられなくはないだろう」

そしていまのSNS上の広告は、偽広告が圧倒的に多い割合で存在しているとして、SNSの利用者に対しては…。

「有名人が何か言っている広告を見たら公式サイトなども確かめてほしい。迷惑を被っている有名人は『ニセモノです』という情報を発信していることもある。消費者被害の全般に言えるが自分にだけに突如おいしい話が来るということはありえないので、そういったものはどこか眉唾だと思って見たほうがいい」

偽広告の広告主は?調べてみると

こうした著名人の偽広告、いったい誰が、何のために作っているのか。

前澤さんの写真を勝手に使い、「5秒で結果が出る 年収4000万超えます」などと、フェイスブックでまったくのウソを並べたこちらの広告。

専用のサイトで広告主を調べると、インドネシアにある「金物店・ホームセンター」だという表示。

金物店が投資の広告を出すこと自体、疑わしい行為ですが、さらにアカウント名は「SBI証券」とデタラメばかり。事業者の所在地とされているインドネシアの住所を調べてみると、そこはただの倉庫でした。

詳しい話を聞こうと、記載の国際電話の番号に電話をしてみましたがつながりませんでした。

また、YouTubeで見つかった前澤さんのフェイク広告も調べました。

広告の詳細な情報を知ることができるグーグルの機能で調べると、広告主は、ベトナムに本社がある広告代理店だということがわかりました。ホームページによると、SNSの広告制作やマーケティング事業などを手がけている会社で、住所は、ベトナムに実在するオフィスビルでした。

こちらにもメールを送りましたが、返事はありませんでした。

この動画広告をクリックすると精巧に作られたニセモノのニュースサイトに飛ばされました。

サイト内には「前澤さんが暗号資産の新プロジェクトを立ち上げた」、「暗号資産の取引所に3万円を入金すると、自動で取引が行われて利益が出る」などという全くのウソがニュース風に書かれています。

さらに、サイト内にある他のニュースやコメントなど、どのリンクをクリックしても、なぜか名前やメールアドレスなどを入力するフォームに誘導されます。

ネット広告の専門家で、クロスワーク株式会社の笠井北斗さんは、最近は海外の広告業者が関係しているケースも増えているとみられると指摘します。

ネット広告の専門家 クロスワーク株式会社 笠井北斗さん
「偽広告を出しているのは主にもうけ話を情報商材として販売している一部の悪質な事業者だと考えられます。最近は海外事業者のアカウントを使って広告を出稿するケースが目立っていて、こうした偽広告を排除せずに広告手数料でもうけているプラットフォームにも大きな責任があると思います」

“楽に稼げる”を疑って!

だまされないためには、笠井さんは“楽に稼げる”などとうたった広告は、まず疑うことが重要だとしています。

笠井北斗さん
「著名人の名前や顔写真が掲載されている無料で稼げる系の広告をまずは開かないことが重要で、もし開いてしまった場合はLINE登録しないよう注意してほしいです。しかし、まずは偽広告を徹底排除する必要があり、それが一番簡単で早い問題解決の方法です。今回、多くの著名人が声を上げているわけですが、消費者の皆さんには、悪質広告事業者と彼らから利益を得ている広告プラットフォーマーに対して声を上げていただければと思います」

生活の一部となっているSNSに潜む悪質な広告をどのようにして排除していくのか。

プラットフォーム側の責任が問われるのは当然ですが、私たち1人1人も、身近な脅威を避けるために、情報が本当なのか見極める慎重さが求められています。