なでしこジャパンW杯後初の強化試合でアルゼンチンに快勝

サッカー女子の日本代表「なでしこジャパン」は23日、ワールドカップ後、初めての強化試合でアルゼンチンに8対0と快勝しました。パリオリンピックのアジア2次予選が来月から始まるのを前に新たなフォーメーションを試すなど、チームの戦い方の幅を広げるねらいどおりの実戦となりました。

この夏に行われたサッカー女子のワールドカップで、ベスト8に入った日本はワールドカップ後、初めての強化試合として、23日、北九州市でアルゼンチンと対戦しました。

日本は、来年のパリオリンピック出場につながるアジア2次予選が来月から始まるのを前に、チームの戦い方の幅を広げることを目指していて、この試合は中盤の選手の人数を増やしたこれまでよりも攻撃的なフォーメーションで臨みました。

試合は開始直後から世界ランキング8位の日本が世界31位のアルゼンチンを相手に積極的に仕掛けて主導権を握り、前半2分に田中美南選手が、ゴール前で相手ディフェンダーのミスを見逃さずにボールを奪いそのままゴールを決めて先制しました。

その後も日本のペースで試合が進み長谷川唯選手が2得点を挙げるなど前半で4対0とリードしました。

後半も16分に交代で入った直後だった清家貴子選手がこぼれ球を押し込んで追加点を挙げると、その5分後にはカウンターから地元、北九州市出身の杉田妃和選手がゴールを奪いました。

最後まで攻撃の手を緩めなかった日本はこのあと、さらに2点を加えて8対0で快勝しました。

今後、日本は来月16日から国内で強化合宿を行ってパリオリンピックのアジア2次予選に備えます。

2次予選は来月26日から11月1日にかけてウズベキスタンで行われ、日本は同じグループのインド、ウズベキスタン、ベトナムと対戦します。

グループで1位になれば、無条件で最終予選に進みます。

長谷川唯「成長していきたい」

司令塔の長谷川唯選手はワールドカップよりも相手のゴールに近いポジションでプレーをし、2得点を挙げました。

長谷川選手は「最近あまり前のポジションでプレーする機会がなかった。そういった中で結果を残せてよかった。日本でプレーをするチャンスがなかなかないので楽しみにしてくださっていた皆さんの前で勝ててよかった」と話しました。

その上で、来月からはじまるパリオリンピックのアジア2次予選に向けては「難しい戦いになると思うがこのチームなら上に行けると思う。いい準備をして個人個人成長していきたい」と話していました。

キャプテン 熊谷紗希「ふだんどおりできた」

キャプテンの熊谷紗希選手はこれまでのセンターバックから“アンカー”と呼ばれる中盤の守備的な位置に上がってプレーし、チームに安定感をもたらしました。

熊谷選手は「所属クラブでは経験のあるポジションなのでふだんどおりできたかなと思う。求められているのは守備の安定感だと思うのでそこを意識する中でしっかりと抑えられてよかった」と振り返りました。

その上で「パリオリンピックに向けた厳しいアジアの戦いがこれからはじまるのでそこに向けて一つ一つできることを積み上げていくという意味では大切な試合だった。その中でたくさん点も取れて勝つことができてよかった」と話していました。

池田監督「集中力切らさず戦ってくれた」

ワールドカップ後、初めての強化試合で快勝した日本の池田太監督は「見てくれている多くの方にアグレッシブな戦いを見せたいと思っていた。その中で、新しいことに挑戦しつつ、90分間、集中力を切らさずに戦ってくれた」と選手たちをたたえました。

そして、来年のパリオリンピックに向けた戦いについては「アジアは出場枠が2枠しかなく厳しい戦いが続くが、必ず、その枠をつかみ取ることができるように選手たちとコミュニケーションを取りながら、練習やミーティングで課題を洗い出していきたい」と話していました。

より攻撃的な布陣

ワールドカップでは、守備の際、最終ラインに5人を並べて相手を自陣に引き込んだ上で鋭いカウンター攻撃でゴールを奪って結果を出したなでしこジャパン。

23日の強化試合では、より攻撃的な新たな布陣を試し、成果を得ました。

熊谷主将を中盤の底“アンカー”で起用

最も特徴的だったのはキャプテンの熊谷紗希選手を“アンカー”と呼ばれる中盤の底で起用したことです。

なでしこジャパンでは、守りの要として最終ラインのセンターバックとしてプレーしてきましたが、1列前に配置されました。

熊谷選手は、相手のボールを奪う能力にたけていることもあり、この位置に入ることで最終ラインに相手が攻め込む前にボールを奪う機会が増え、攻撃への切り替えのスピードも増します。

試合でも熊谷選手が相手の前線へのパスをはね返す場面が多く見られ、いわゆるゴールに近い位置から攻撃を組み立てる流れを作り出していました。

司令塔の長谷川がより前線でプレー

守備力の高い熊谷選手を中盤の底にあげたことで別のメリットも生まれました。

ワールドカップでは守備にも労力を割かざるを得なかった司令塔の長谷川唯選手がより前めの位置でプレーしました。

長谷川選手は、試合を組み立てるだけでなく高い決定力も誇ります。

その効果はてきめんで、前半39分には長谷川選手が、相手のゴール前に飛び出し、縦パスを受けて得点を奪うなど早速新しい布陣が機能しました。

パリ五輪を目指す戦いへ 主将・指揮官は手応え

なでしこジャパンは、来月からパリオリンピックのアジア2次予選を控えていて、対戦相手が力が上位の日本に対して、守りを固めてくることが想定されます。

そうした中で、しっかりとみずから攻撃を組み立て、得点を奪うことが求められます。

熊谷選手は、新しい戦術について「ワールドカップのスウェーデン戦のように最初の戦術がはまらなかったときのためのバリエーションを増やしたい。ワールドカップまでの戦術も新しい戦術も差がなくできるようになってくればいい」と話しています。

また、池田太監督は試合後「相手に対策をされたときに持てる手を増やしたい。中央の安心感を得つつ、攻撃面では長谷川選手や長野選手が流動的に動いてチャンスを作ってくれたことが一番の収穫だ」と手応えを感じていました。

観客動員に苦戦

なでしこジャパンのワールドカップ後最初の強化試合の観客数は、7200人余りにとどまり、人気回復の面で課題があることを改めて示しました。

サッカー女子は2011年になでしこジャパンがワールドカップで初優勝した際、一気に人気に火がついたものの長く続かず、このところは国内リーグに加え、代表戦でも観客の動員に苦戦しています。

北九州市で行われた23日の強化試合は、なでしこジャパンがベスト8に入ったこの夏のワールドカップの盛り上がりをどう結び付けられるかが、1つのテーマとなっていました。

しかし、なでしこジャパンのゴールラッシュでスタンドがわいた一方で、観客数は7200余りと、収容人数のおよそ50%にとどまり人気回復の面では課題があることを改めて示しました。

今回の強化試合に合わせて日本サッカー協会は、さまざまな普及活動を計画し、試合後には地元の小中学生をピッチに招き選手たちが1人ずつとハイタッチをして回りました。

さらに24日も、選手たちによる地元の子どもたちへ向けたサッカー教室を開くことになっています。

日本サッカー協会の佐々木則夫女子委員長は「2011年のブームは協会としても想像できておらず一過性で終わらせないための準備が何もできていなかった。今回、ワールドカップの盛り上がりを機に再び人気を回復できるようにしたい」などと話していました。