ウクライナ “クリミア ロシア黒海艦隊へ攻撃成功”狙いは?

ウクライナ国防省は22日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアにあるロシア黒海艦隊の司令部への攻撃が成功したと発表しました。

領土の奪還を目指して反転攻勢を続けるウクライナ軍は、このところクリミアにあるロシアの軍事施設への攻撃を強めています。

ウクライナ国防省 “ロシア黒海艦隊司令部への攻撃 成功”

ウクライナ国防省は22日、ロシアが一方的に併合した南部クリミアの軍港都市セバストポリにあるロシア海軍の黒海艦隊の司令部に対する攻撃が成功したとSNSで発表しました。

黒海艦隊の司令部への攻撃について、ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長は地元のメディアに対して、ロシア側では少なくとも9人が死亡、16人が負傷し、けが人の中には軍の司令官も含まれていると主張しています。

軍がクリミアにあるロシア軍の施設への攻撃を強めていることについて「ロシアの防空システムが十分に機能していないことを示すものだ」と強調しています。

ウクライナ軍は23日もロシア軍施設への攻撃を続けているとみられ、ウクライナのメディアは黒海艦隊の施設の付近で火災が起きていると伝えているほか、地元のロシア側の幹部も、防空システムが作動しミサイルの破片が落下したと、SNSに投稿しています。

ロシア国防省“兵士1人の安否確認できていない”

ロシア国防省も22日、黒海艦隊の司令部の建物がミサイル攻撃を受け、兵士1人の安否が確認できていないとしています。

クリミアへの攻撃 8月から9月にかけ活発に

ロシアが一方的に併合したウクライナ南部クリミアでは、8月から9月にかけて、ウクライナ軍による攻撃が活発になっています。

ウクライナ軍は9月13日、ロシア海軍の黒海艦隊が拠点とする軍港都市セバストポリに、イギリスから供与された巡航ミサイル「ストームシャドー」などで攻撃を行いました。これによってドックで修理中だった潜水艦「ロストフ・ナ・ドヌー」や、揚陸艦「ミンスク」に損傷を与えたと伝えられています。

またイギリス国防省は「ドックは、残骸の撤去作業などで何か月もの間使用できなくなり、黒海艦隊にとって運用面で重大な課題を突きつけた」としています。

ウクライナ側はその翌日14日、クリミア半島の西部エウパトリヤ近郊にあるロシア軍の最新鋭の地対空ミサイルシステム「S400」を攻撃したと発表しました。クリミアでは、先月もS400が破壊されたばかりで、クリミア周辺の防空に力を入れるロシア軍に深刻な影響を与えたとみられます。

またウクライナ国防省情報総局は、特別作戦を実施して黒海にある天然ガスなどの掘削施設を奪還したと今月11日、発表しました。この施設には、船の動きなどを追跡できるレーダーシステムがありロシアが軍事目的で使用していたとしています。

情報総局は特殊部隊が施設に踏み込んで奪還したとする映像をSNSに投稿し「これはウクライナにとって戦略的な意味がある。ロシアは黒海の海域を支配できなくなった。ウクライナはクリミアの奪還に何歩も近づいた」と作戦の意義を強調しています。

クリミア攻撃激化 ウクライナ政府高官「3つのねらい」

ウクライナのポドリャク大統領府顧問は、今月18日、NHKのインタビューに応じ、ウクライナ南部のクリミアで攻撃が活発化していることに関連し、ウクライナの軍や特殊部隊には3つのねらいがあると明らかにしました。

1つ目のねらいについてポドリャク氏は「クリミアの空を穴だらけにすることだ」と述べ、効果的に攻撃を進めるためにもまずは、クリミアにあるロシア軍の防空システムを破壊することが重要だと指摘しました。

そしてポドリャク氏は、ロシア軍はクリミアに200以上の備蓄倉庫などを持ち、前線への供給の80%がクリミアを通じて行われているとした上で「補給路を破壊することでロシアの戦闘能力も大幅に引き下げられる」と述べクリミアからの補給路を断つことが2つ目のねらいだとしています。

3つ目のねらいについては、ウクライナ産の農産物輸出に欠かせない黒海の制海権をロシアから取り戻すことだとした上で「われわれの無人艇は、ロシアの黒海艦隊を非常に効果的に脅かしている。今後も脅威は増す」と述べ攻撃は続くと強調しました。

一方、クリミアへの攻撃が増えた背景についてポドリャク氏は「ウクライナには、クリミアにあるロシアのすべての違法な軍事施設を攻撃する権利があると民主主義の国々がようやく理解したためだ」と述べ、クリミアへの攻撃に欧米側から支持が得られたことを挙げました。

そして「クリミアが解放され始めればロシアは間違いなく国内で重大な政治的な問題に直面する」として作戦の意義を強調しました。

一方、ポドリャク氏は、ロシア軍は1800キロ近くに及ぶ前線に非常に多くの兵士や兵器を投入していると指摘し「複数の方向で同時に攻撃をすればロシアは集中できなくなり、ロシア軍の防衛線を突破する機会が生じる」と述べ、東部や南部の複数の攻撃軸に沿って同時に反転攻勢を続ける重要性を指摘しました。

クリミア奪還の試み「ロシアにとってレッドライン」

ウクライナ南部クリミアを巡って、ロシアのプーチン政権は、2014年3月、住民投票で圧倒的多数の賛成を得たとして、一方的な併合を宣言しました。

それ以降、クリミアはロシアにとって海軍の黒海艦隊が駐留する戦略的に重要な拠点であるとともに、プーチン大統領にとってもみずからの力を誇示する象徴的な場所となっています。

プーチン大統領は、これまでもたびたびクリミアを訪れ、ロシアの領土として発展させる姿勢を示してきましたが、ことし3月、軍事侵攻後でははじめてクリミアの軍港都市セバストポリを訪問しました。

これに先だって行われたクリミアのロシア側のトップとの会議でプーチン大統領は「安全保障の問題が優先事項だ。われわれはあらゆる脅威を阻止する」と強調していました。

クリミアを含む領土の奪還を掲げるウクライナはこのところ、セバストポリを拠点とする黒海艦隊やクリミア周辺の防空の要である地対空ミサイルシステムなどの軍事施設を標的にした攻撃を活発化させています。

プーチン政権は、こうした攻撃に警戒を一段と強めているとみられます。

政権内でも強硬派として知られる安全保障会議のメドベージェフ副議長はことし3月、ウクライナがクリミア奪還に向けて重大な攻撃を行う場合を念頭に「核抑止力の原則に規定されたものを含むあらゆる防衛手段を使う根拠になる」と述べ、核戦力を使用する可能性に触れけん制しています。

プーチン政権に近い、政府系シンクタンク「ロシア国際問題評議会」の会長をつとめたアンドレイ・コルトゥノフ氏もことし3月、NHKの取材に対して「クリミアを奪還する試みはロシア指導部にとってはもちろんレッドラインだ」と指摘しています。