車上生活続けた時期も… 1人暮らし高齢者の住まい どう確保?

単身の高齢者が増加するなか、賃貸住宅への入居を断られるケースが多いとして、支援の在り方を議論している国の検討会は、入居後の見守りも行う住宅を普及させるなど、大家が家を貸しやすくする環境整備を進めるなどとする素案を示しました。

単身高齢者増加 “死亡事故に対する不安”

今回の国による住宅確保の議論の背景の一つとなっているのが高齢者の増加です。

内閣府がまとめた最新の令和5年版の高齢社会白書によりますと、65歳以上の高齢者の数は、2010年におよそ2900万人だったのが2020年にはおよそ3600万人に増えていて、今後、総人口が減少する中で高齢者の割合が増加していくと推定しています。また、1人で暮らす65歳以上の高齢者は2010年に479万人だったのが2020年には671万人に増えていて、さらに2030年には795万人にまで増加する推計されています。

一方で国土交通省が令和3年度、大家などの賃貸人187団体に対して行った意識調査では、およそ7割が高齢者の入居に対して拒否感を示したということです。また、高齢者に対して入居制限を行っている大家などもいて、その理由を尋ねたところ「屋内での死亡事故等に対する不安」が90.9%と最も多く、次いで「住宅の使用方法等に対する不安」が3.9%、などとなったということです。

高齢者などの住宅確保に取り組む居住支援法人への相談件数も増加傾向にある一方、孤立死にともなう遺品の処分の負担などから賃貸住宅への入居を断られるケースが少なくなく、安心して生活を送るための住まいの支援が課題となっています。

さらに高齢者のほかにも障害者や刑務所を出所した人などが入居が拒否されるケースがあり、今回、国土交通省、厚生労働省、法務省の3省で検討会で対策について議論が進められてきました。

検討会 大家の不安を解消する取り組み進める

国土交通省と厚生労働省、それに法務省による専門家の検討会は21日、とりまとめの素案を示しました。それによりますと、支援が必要な人は住宅だけでなく、家族や地域から孤立するなど複合的な課題を抱えていることから、住まいの確保から入居後の暮らしまで一貫して支援することや孤立死などへの大家側の不安を解消する取り組みを進めるとしています。

具体的には、市町村の住宅と福祉の部局や支援団体が連携した相談体制を構築することや居住支援法人が見守りなどのサポートも含め住宅を管理する仕組みを作るほか、居住支援法人の経済的な支援の方法や、事業継続モデルの構築も検討すべきとしています。

委員からは「相談者のニーズにあわせて、さまざまな支援につなぐために地域にコーディネーターを置くことが重要ではないか」とか「居住支援法人によっては住宅の管理まで対応できないところもあり、見守りや遺品の整理などのサービスも広めていくべきだ」などといった意見が出されました。

検討会では21日の意見を踏まえて、年内に報告案をとりまとめることにしています。

車上生活を続けた時もあった男性は

関東地方に住む74歳の男性は去年、連帯保証人がいないことなどを理由に賃貸住宅への入居を断られる経験しました。男性はもともと持ち家で暮らしていましたが、一緒に住宅ローンを組んでいた家族に先立たれて返済が苦しくなり、去年の夏、家を手放しました。そして、1人で暮らせる賃貸のアパートなどを探し始めましたが、不動産業者からは「保証人がいないと難しい」と紹介を断られ、物件は見つからなかったと言います。男性はやがて部屋探し自体が嫌になり、半年以上、所有していた車での車上生活を続けた時期もあったということです。

男性
「一時はもう、どうなってもいいやという気持ちになった。自分の力だけでは部屋を借りることができない、どうにもならなさを感じた」

そうした生活も限界が近づいていたことし6月、男性は自治体からの紹介で、居住支援法人が男性の見守りを行うことを条件にしてマンションに入居することができたといいます。最近では、週に2回の清掃の仕事を始め、趣味の釣りを楽しむ余裕もできたということです。

男性
「住むところがあるだけで気持ちに余裕が生まれ、生活は全然違います。高齢で収入がさらに少ない人が賃貸住宅への入居でさらに苦労すると思うので、高齢であっても、もう少し簡単に部屋が借りられるようになってほしい」

居住支援法人「大家への経済的な支援が必要」

居住支援法人は、都道府県ごとに指定されていて、入居先が見つからない高齢者などに住宅の情報提供や相談などのサポートを行っています。

このうち、男性に部屋を紹介した都内の居住支援法人では、部屋を借りる高齢者への見守り支援サービスを行うことを条件に、高齢者の入居に理解してくれる大家を増やす取り組みを行っています。具体的には地域のNPOなどと連携して、月に一度、契約している高齢者のアパートなどを訪問し安否確認や生活相談に乗っていて、この日は、法人のスタッフが男性の自宅を訪れ、体調の変化などを聞き取っていました。

こうした見守り支援などを条件に法人では高齢者の入居に理解してくれる大家を探し、今では単身の高齢者でも利用できる物件を数十件程度確保できたということです。ただ、認知症や孤立死した場合など、高齢者の入居そのものにリスクを感じる大家が多いのは今も変わらず、抜本的な対策の必要性を指摘します。

居住支援法人「高齢者住まい相談室こたつ」の松田朗室長は次のように話していました。

松田朗室長
「孤立死では遺品の片付けや原状回復に相当な費用がかかったり、事故物件の扱いになったりするリスクがある一方、それに対する大家への支援や補助は非常に少なく、高齢者の入居に難色を示すのはしかたのない状況だと思います。まずは大家への経済的な支援が必要なほか、地域で暮らす高齢者を介護や医療従事者などと、社会で支えていく仕組み作りも大家の不安を取り除くためには有効だと思います」

専門家 “入居拒否が起こらない体制づくり必要”

高齢者の問題に詳しい、みずほリサーチ&テクノロジーズの主席研究員で、日本福祉大学の教授の藤森克彦さんは次のように話していました。

藤森克彦さん
「孤独死や死後の残置物の処理などへの不安などから大家が入居を拒むという問題が生じている。退職をきっかけに収入が減った高齢者が家賃を低くするために引っ越したり、3階とか4階に住んでいた高齢者が階段をのぼれなくなって1階に引っ越すケースも多く聞いていて、1人暮らし高齢者が増える中、入居拒否が起こらないような体制づくりが必要だ。昔は家族が行っていたような高齢者の見守りや葬式などを地域や居住支援法人など社会全体で行う体制を作り大家の不安を軽減していくことが重要で、住宅確保の支援と福祉の支援を連携して行っていく必要がある。また、国だけでなく地方でも高齢者のほかに障害者や外国人など、どういう人が住まいの確保に困っているかを分析し、対策を検討していくことも重要だ」