バス事業120年 2030年度に運転手3万6000人不足か 背景と今後は

運転手の不足などで全国でバスの減便が相次ぐ中、業界団体は2030年度には3万6000人の運転手が不足するという試算をまとめました。

運転手不足に拍車をかけるとされているのが「2024年問題」。運転手の環境を改善するため、来年4月から労働時間の上限が引き下げられることなどが決まっていて、どう対応するかが各地のバス会社の課題となっています。

「このままではヤバい」

神奈川県の大手バス会社です。

来年度の労働規制強化で最大、数十人の運転手不足が懸念されています。

そこでこの夏から、運転手の採用に社を挙げて乗り出しました。

訴えたのは、

人財不足で、このままではヤバい

率直に、厳しい現状を伝えることにしたのです。

会社が制作したポスター

全600両余りの路線バス車内には運転手募集のポスターを掲示。

さらに、親会社の列車で、車内広告すべてをバスの運転手募集で埋めるというキャンペーンも打ちました。

車内に全面広告を展開

こうした取り組みもあって、これまで参加者がほとんどいなかった日もあった採用説明会には多いときで十数人が来るようになりました。

会社の担当者
「人手不足が首都圏でも厳しい状況だと知っていただきたいというねらいがございました。また新しい施策というのを考えていきます」

バス事業120年も迫る“2024年問題”とは

120年前の明治36年9月20日は、日本で初めてバスが運転された日といわれ、業界団体は「バスの日」としていますが、バス会社は、今、厳しい経営を強いられています。

先週、大阪府の4つの市町村を中心に運行している「金剛バス」が、運転手の不足を理由にことし12月に路線バス事業を廃止することを明らかにしました。

そして、運転手不足にさらに拍車をかけるとされているのが「2024年問題」です。

運転手の労働環境を改善するために来年4月から労働規制が強化され、バスの運転手の年間の労働時間の上限が3300時間に引き下げられるほか、退勤から次の出勤までの休息時間は、今より長く確保することが求められます。

これにどう対応するかが各地のバス会社の課題となっています。

2030年度に“運転手3万6000人不足”

日本バス協会は運転手の確保について、全国のバス会社778社に聞き取りを行いました。

それによりますと、2023年度は全国で12万1000人の運転手が必要なのに対し、実際の運転手は11万1000人で、1万人不足しているとしています。

高齢化などを背景に担い手不足は今後も続き、運転手は2030年度には9万3000人まで減少し、不足する数は3万6000人まで増える見通しだということです。

全国では地方だけでなく、都市部でも運転手の不足が原因で路線バスを減便するケースが相次いでいます。

これについて日本バス協会は「賃金や労働条件の改善などさまざまな取り組みを行っているが、運転手を確保できなければさらなるバスの減便や廃止の拡大は避けられない」としています。

新たな勤務制度の模索

一方、働き方を変える事で、運転手を確保する取り組みも始まっています。

こちらは愛媛県のバス会社。

コロナ禍で採用を控えた影響もあって、運転手不足に陥った事から、3年前、新たな勤務制度を始めました。これまでバスの運転手は終日乗務するのが基本でしたが、勤務時間の一部だけ運転する業務にあてるようにしたのです。

この制度を利用している、真田誠司さんです。

乗客の多い朝の通勤時間帯だけ路線バスに乗務しています。

運転手の仕事以外は、行政向けの書類の作成など、事務作業を行っている真田さん。かつて、一日中バスを運転していた時より早く帰宅できるようになり体の負担が減ったといいます。

真田さん
「帰ってから家族と過ごす時間が増えたりだとか、時間を有効活用できるようになりました」

この会社では、ほかにも朝だけの短時間勤務など多様な働き方を認め、運転手の離職の防止や、新たな採用につなげようとしています。

日本バス協会の会長でもあるこの会社の社長は、バスの運転手の確保は全国共通の課題だと訴えています。

清水一郎社長
「2024年問題ってのは物流の問題として捉えがちですけど、これは働き方の問題なんですけど、本当にバスの方が厳しいんじゃないかというぐらい深刻です。われわれとしてはこの問題を喫緊の課題だというふうに考えています」

外国人ドライバーも?在留資格「特定技能」に追加を検討

タクシーやバス、トラックのドライバー不足に対応するため、国土交通省は「自動車運送業」を外国人の人材を受け入れるための在留資格「特定技能」に追加することを検討しています。

「特定技能」は人手不足が深刻な業種で外国人の人材を受け入れるため、4年前・2019年に設けられた在留資格です。

国土交通省はタクシーやバス、トラックの業界団体からの要望を踏まえて「自動車運送業」を「特定技能」に追加することを検討していて、出入国在留管理庁と協議を行っています。

ただ、バスとタクシーでは、乗客を乗せるために必要な第二種運転免許の試験は日本国内で、日本語でしか受験することができないなど課題もあります。

国土交通省は今後、状況に応じて運転免許制度を所管する警察庁との協議も検討したいとしています。

バスはあって当たり前と考えがちですが、人手不足は事業の存続にも関わる深刻な問題です。

公共交通機関を今後どうしていくのか、行政や私たち利用者を含めてもっと議論しなければならない時期にきています。