お墓が放置されていく…「無縁墓」全国半数以上の自治体で

広大な墓地の一角に積み上がる墓石。
名前が刻まれたものもありますが、すべて引き継ぐ人がいなくって放置された墓です。

こうした「無縁墓」が全国の公営墓地にあるものの整理は進まず、自治体が苦慮している実態が総務省の調査でわかりました。
墓は住民の身近な場所にもあり、影響は今後、深刻になっていくと言います。

(社会部 記者 飯田耕太)

公営の「無縁墓」自治体が対応苦慮

高齢化や核家族化が進む中、総務省が全国の公営墓地の状況について初めて調査を行ったところ、引き継ぐ人がいなくなって放置され、「無縁化」した墓があると答えた自治体が半数以上にのぼりました。

自治体が墓石を撤去する際の取り扱いについては法律などに規定がなく、管理する自治体が対応に苦慮している実態が浮き彫りになりました。

総務省行政評価局が行った調査によりますと、公営墓地があると確認できた全国765の市町村のうち、58.2%にあたる445の市町村が「公営墓地や納骨堂で無縁墳墓などが発生している」と答えました。

無縁化する墓の弊害として、自治体からは
▽墓石やブロック塀の荒廃による倒壊などのリスクや、
▽樹木が生い茂ることによる環境の悪化などが報告されたということです。

お墓参りの形跡がない墓

自治体が墓地の使用者を探してもわからない場合、最終的には遺骨を合葬墓などに移して墓石を撤去する必要がありますが、2020年度までの5年間に、そうした整理を行ったのは6.1%の47の自治体にとどまりました。

撤去した墓石の取り扱いについては法律などに規定がなく、自治体によっては墓石を永年保管するなど対応にばらつきがあったということです。

無縁の墓石をまとめた塔

総務省は少子高齢化や核家族化が進む中、引き継ぐ人がいない「無縁化」した墓が増えるおそれがあるとして、厚生労働省に対し、墓石の保管期限や処分の考え方を整理して示すなど、自治体への支援を検討するよう要請しました。

全体の4割以上が「無縁墓」という墓地も

使用者がわからずに放置される無縁墓かどうかは一律の判断基準がないため、墓参りの形跡や年間管理料の滞納、使用者の死亡からの期間などを根拠にしますが、自治体によって対応が異なります。

高松市の中心部にある「姥ヶ池東墓地」では全体の43.6%にあたるおよそ2700区画が「無縁化」しているといい、入り口付近の掲示板でどの墓が無縁墓か分かるよう赤色で示しています。

無縁墓は赤色で表示

こうした墓について、市では使用者に申し出てもらうよう官報と立て札で知らせたのち、最終的には遺骨を移して墓石を撤去する「無縁改葬」を2012年度から5年かけて進めてきました。

しかし、墓石の状況を一つ一つ確認し、撤去するには膨大な労力や費用がかかるとして、いったん見合わせることにしました。

法律などでは撤去した墓石の保管や処分方法が決まっていないため、高松市では市営墓地の一角に塔のように積み上げて保管しています。

ただ、改葬を見合わせたことで、墓地内では今も無縁墓が増え続けていて、墓石が倒れたり、草木が生い茂ってそのままになったりしているところもありました。

前田数成 係長

高松市市民やすらぎ課 前田数成 墓園係長
「高齢化や遠方への引っ越しなど、管理する人が少なくなっていて、無縁墓が今後ますます増えるのは容易に想像が付きます。災害時の危険や墓地の環境悪化につながるため、放置されている墓の改葬を優先順位をつけて進めるほか、無縁墓の発生を防ぐ方法も考えていかなければいけない」

墓の管理は難しい時代に

各地で無縁墓が増える背景には、高齢化に加え、都市部への人口の集中などで墓の管理が難しい人が増えていることも指摘されています。

高松市の市営墓地の近くにある石材店では、最近は墓の使用者が遠方に住んでいたり、高齢だったりして墓参りに行けないという人に代わり、墓の清掃などを行うサービスを始めています。

この日は市内に住む足の悪い高齢者から依頼を受け、墓前に花を供えて手を合わせたり、墓石を拭いてきれいにした墓の様子を写真に収めたりしていました。

柏原和代さん

石材店従業員 柏原和代さん
「コロナ禍もあって、最近はお盆やお彼岸でもお参りに帰って来られない人は年々増えている印象です。体力的に難しいという人も多いので、依頼者の思いをご先祖さまに伝えてあげられるよう気持ちを込めて対応しています」

また、墓の維持が困難になった場合などに墓石を撤去して墓を返し、遺骨は管理しやすい別の場所に移す「墓じまい」も増えています。

厚生労働省の衛生行政報告例によりますと、「墓じまい」を含む全国の改葬数は2021年度には11万8975件で、5年連続で10万件を超えています。

墓地荒廃は住民にも影響

無縁墓は地域の身近な場所にもあり、厚生労働省の調べでは、全国におよそ87万区域ある墓地のうち、およそ9割は個人や集落などが運営しています。

ところが、個人の敷地に墓地が無許可で設置された場合など、行政が把握したり、指導したりすることが難しくなるということです。

高松市松島町の住宅街の道路脇には、市が「地元管理墓地」として扱う集落の墓地があり、100基以上の墓があります。

しかし、ここでも無縁化した墓の管理が課題になっていて、地元の人によりますと、毎年手入れされているのは3分の1ぐらいで、多くは所有者がわからない状態だということです。

近くに住む脇谷さゆりさんの自宅の前には、高さおよそ2メートルほどある大きな墓石があり、4年ほど前からだんだん斜めに傾いて危険な状況が続きました。

前の道路は近所の人や子どもも通るため、墓が倒れて誰かがけがをしてからでは遅いと、脇谷さんは市に撤去してもらうよう掛け合ったということです。

しかし、個人の所有にあたる墓の対応まではできないとしてそのままになり、最終的には地元の人の間で協議してクレーンで墓石を横に倒す応急的な措置をとることになりました。

横に倒した約2メートルの墓石

市からは地元住民の間で管理組合などを作って自主的な運営を勧められたと言いますが、所有者の特定が進んでいないため組合の設立には至らず、今後の管理には不安を感じると言います。

脇谷さゆりさん

脇谷さゆりさん
「ほかにも傾くなどした無縁墓がいくつもあり、野ざらしの状態です。南海トラフの巨大地震や風水害で墓が次々に倒れたり、あふれた川の水で流されてきたりするのではないかと思うと不安でたまりません。市や国には集落墓地も含めた管理のあり方を考えてほしい」

今回の総務省の調査でも「集落墓地の管理はいずれ行き届かなくなることが懸念されるものの、自治体が管理を行うことは公平性の観点から慎重にならざるをえない」としつつ、事態は一層深刻になるおそれがあるとして、墓地管理の適正化を地域社会の課題と捉えることが重要だと結論づけています。

専門家「彼岸に墓について話し合いを」

小谷みどり 代表理事

墓や葬送の成り立ちに詳しいシニア生活文化研究所の小谷みどり代表理事は「日本の墓地でいちばん多いのが集落墓地で、これから過疎化が進んで、倒壊しそうな墓石を誰が管理し、責任を持つのかといった問題はより深刻になる。墓には単に遺骨の保管場所というだけでなく、亡くなった人と向き合う場所としての意義があるが、ライフスタイルも変わり、家族の縁が薄れる人も大勢いる中、墓のあり方や死者をどう葬るかということを社会全体で考える時期に来ている」と話していました。

その上で、「これから秋の彼岸を迎えるが、墓の問題は死者や今を生きる人どうしのつながりの表れだということを認識し、自分たちがどうしたいか、今後どうするかということは元気なうちに、家族や周りの人とぜひ話し合っておいてほしい」と話していました。