大谷翔平 今季終了もベンチに姿 “右ひじ数日中何らかの処置”

大リーグ、エンジェルスは右脇腹を痛めて欠場が続いている大谷翔平選手が、今シーズンの残りの試合に出場しないと発表しました。大谷選手は16日、15日間のけが人リストに入り、投打の二刀流で活躍を続けた今シーズンが終了することになりました。

これはエンジェルスが16日に発表しました。大谷選手は今月4日のオリオールズ戦の前に行った屋外でのバッティング練習で右の脇腹を痛め、その後は11試合欠場が続いていました。

15日の試合後には、クラブハウスの自分のロッカーの私物をすべて片づけて球場を後にしていたことが分かり、今シーズンを終了する可能性があると見られていました。

一夜明けた16日、エンジェルスは大谷選手が今シーズンの残り14試合に出場しないことと、けが人リスト入りしたことを合わせて発表しました。

球団は当初10日間のけが人リストに入ったと発表していましたが、その後15日間に訂正しました。

大谷選手が大リーグでけが人リストに入るのは、2018年10月に受けた右ひじのじん帯修復手術からバッターとして復帰した2019年5月以来で、4シーズンぶりとなります。

また、大リーグで2020年に新設されたツーウェイプレーヤー、「二刀流選手」の枠で登録されているのは大谷選手1人のため、大リーグで二刀流の選手がけが人リストに入るのも初めてです。

エンジェルス プレーオフ進出ならず

エンジェルスは16日のタイガース戦で延長の末、4対5で競り負けて4連敗となりました。

この結果、今シーズンの成績は68勝81敗となり、ワイルドカードでのプレーオフ進出の可能性が無くなりました。

これでエンジェルスは地区優勝した2014年を最後に9年連続でプレーオフに進出できておらず、この日の対戦相手だったタイガースと並んで大リーグで最長となりました。

大谷 試合中のベンチに姿見せる

大谷選手は16日の試合前に15日間のけが人リストに入ったためベンチ入りの登録メンバーから外れ、球団から今シーズンを終えることが発表されました。

大谷選手は試合前の練習はグラウンドに姿を見せませんでしたが、試合が始まると、ベンチで仲の良いサンドバル投手と外野手のモニアック選手の間に座り、笑顔で会話を交わしながら、チームメートがホームランを打つと拍手をして喜んでいました。

球場では大谷選手に気づいたファンが写真を撮ろうと三塁側のベンチの周辺に集まり、騒然とする場面もありました。

大谷選手が試合中にベンチに姿を見せるのは脇腹を痛めて欠場してからは初めてで、今シーズン最後の出場となった今月3日のアスレティックス戦以来となりました。

また、本拠地のエンジェルスタジアムでは、右ひじのじん帯を損傷が判明した先月23日のレッズ戦とのダブルヘッダー以来でした。

監督やチームメートは

エンジェルスのネビン監督は「きのう室内のバッティングケージでスイングした後、感じが良くなかったのでMRI検査を受けに行った。検査の結果を知った時の彼はがっかりしていた。けがと闘い、本当にプレーしたがっていた」と話し、前日の大谷選手の様子を明かしました。

そのうえで「最後のホームスタンドで彼がいてくれたらうれしい。チームには若い選手が多いので、彼やトラウトから多くを学ぶことができる」と話していました。

大谷選手と仲の良いチームメートのサンドバル投手は、今シーズン終了後にFAとなる大谷選手をエンジェルスに引き止めるかと聞かれると「それはもうシーズン中に十分やってきた。あとはこのオフ、彼の判断に任せる」と時折笑顔を見せながら答えました。

また、今シーズン5試合で大谷選手とバッテリーを組んだ23歳のキャッチャー、オホッピー選手は「最前列の席で彼のボールを見ることができたのは幸せだったし、最高のボールを見る機会を得られて本当に感謝している。開幕戦は本当にすごかった」と話しました。

そのうえで「彼はみんな分け隔てなく同じように接する人で、若い自分も10年目の選手のように扱ってくれた。そんなことをする必要はないのに、彼はそうしてくれる。本当に感謝しているし、一緒にいて楽しい人だ」と大谷選手の人柄をたたえていました。

日本のファン「万全な状態で またプレーを」

大谷選手が今シーズンの残りの試合に出場しないことについて東京ドームに訪れた日本の野球ファンからは「しっかり治してほしい」や「万全な状態でまたプレーして欲しい」などの声が聞かれました。

国立市から家族で訪れた50歳の男性は「大谷選手はファンを大切にしていると思うので、出場しないといけないという使命感もあってちょっと無理して頑張りすぎてしまったのかなと思います。ゆっくり休んで元通りに戻って欲しいしもっと上を目指して欲しいです」と話していました。

小学6年生の娘は「WBCも見ていましたし、いつも二刀流でかっこいいと思っています。なので、けがをしてプレーが見られないのは悲しいですがさらに活躍するかっこいい姿を見たいです」と話していました。

荒川区から来た51歳の女性は「出場しなくなるのは残念だけど大谷選手は120%の力で突っ走っていたので、もう少し休憩しながらでもよかったのかなと思います。体が万全な状態でプレーして欲しいので右ひじの手術をしてもしなくても万全な状態で来シーズンも、これから先も長くプレーしてくれたらうれしい」と話していました。

元プロ野球選手 岩村明憲さん「決断尊重したい」

エンジェルスの大谷翔平選手がけが人リストに入って今シーズンを終えたことについて、元プロ野球選手で大リーグ、レイズで活躍した岩村明憲さんは「決断への衝撃はあったが、大谷選手とエンジェルスが悩んで悩んだうえでの決断だと思うので尊重したい」と述べたうえで「いち野球ファンとしては残念だが、肘にしても脇腹にしても、1日でも早くけがを治して、100%に近い体でまたパフォーマンスを見せてほしい」と話しました。

大谷選手は16日、右脇腹を痛めてから初めて試合中のベンチに姿を見せ選手たちと笑顔で会話を交わしました。

岩村さんは、大谷選手のこの様子について「脇腹を痛めてから、ここまであまり大谷選手自身のコメントが出てこなかったので、不安になっていたファンの気持ちを感じ取って、明るい笑顔を見せてくれたのではないか。大谷選手の優しさだと思う。『明るくリハビリに取り組みます』という意味合いも込められていたのではないか」としています。

また、日本選手として初のホームラン王になることが有力視されていることについては「非常に楽しみにしている。2位の選手とは9本の差があるが、残り10試合あまりを残して今回の決断をしたということはゼネラルマネージャーを含めて球団の人たちが『もうホームラン王は大丈夫だろう』という見方を、大谷選手に伝えているのではないか。これまで日本人のスラッガーと呼ばれる選手たちがホームラン王をとったことはないので、もし獲得したら非常に誇らしい記録になると思う」と期待を寄せました。

さらに、WBC=ワールド・ベースボール・クラシックで日本の優勝に大きく貢献したあとも、投打のフル回転でほとんど休むことなく出場を続けた今シーズンの大谷選手には、「昨シーズンが終わった段階からWBCに向けた調整は始まっていたと思うので、そういう意味では去年の11月ぐらいからずっと稼働しっぱなしという状況だった。今はとにかく休んで欲しい。そして今後はリハビリにモチベーションをおいて、1日でも早く復帰して欲しい」とエールを送っていました。

球団GM 右ひじのけが「数日中に何らかの処置を行う」

16日の試合前に会見したエンジェルスのミナシアンゼネラルマネージャーは、大谷選手がけが人リストに入った理由について、右脇腹の診察とMRI検査を受けた結果、まだ炎症が残っていたためシーズンを終える決断をしたと明かしました。

今後はじん帯を損傷している右ひじの治療を進めるということで、「今後、数日中に何らかの処置を行う」と発表しました。

一方で、「トミー・ジョン手術」のようなじん帯を再建する手術を行うのかなど、治療方法の具体的な内容については「詳細はわからない」として明言しませんでした。

その上で、ミナシアンゼネラルマネージャーは「今後、処置が終わり次第、彼はチームに合流する。彼はチームメートと一緒にいたいと思っていて、最後のホームシリーズにはここにいるだろう」と話し、9月25日から10月1日まで本拠地のエンジェルスタジアムで行われるシーズン最後の試合には、大谷選手がチームに帯同するという考えを示しました。

エンジェルスは、15日のタイガース戦に敗れて今シーズンの地区優勝の可能性が無くなっています。

大谷選手のロッカーは16日もグローブやスパイクなどの野球道具が一切置かれておらず、練習着やユニフォームのズボンがハンガーにかけられたままになっていました。

大谷選手は今シーズン終了後にはエンジェルスとの契約が終わりFA=フリーエージェントとなるため、その去就に関心が高まっていますが、まずは来シーズン以降の復帰に向けて損傷した右ひじのじん帯に対し、どのような治療を選択するのか注目されます。

球団GMと大谷の代理人 ことばを選び回答

エンジェルスのミナシアンゼネラルマネージャーはこの日の会見で日本語で外科手術を意味する「surgery」という単語を避け、手術以外に治療や処置という意味も含む「procedure」ということばを繰り返し使いました。

会見で記者から大谷選手が今後受ける治療について「それは結局surgery(手術)なのか?」と問われた場面でも、ミナシアンゼネラルマネージャーは「procedure(治療や処置を含む)という意味で使っている。詳細はわからないが、翔平はできるだけ早くそれを行って、来シーズンに向けた準備を進めたいと思っている」とことばを選んで回答し手術を行うかどうかについては明言は避けました。

実際には、主な4つの選択肢のうち3つが患部にメスを入れる手術と呼ばれる方法で、手術以外の選択肢として行われるのは一般的にPRP療法に限られます。

大谷選手の代理人を務めるネズ・バレロ氏も今月4日に取材に応じた際、この「procedure」ということばを繰り返し使ったうえで「皆さんに共有したいのは彼の状態はいい、彼は大丈夫だということ。5年前に痛めたじん帯は無傷で問題ない」とひじのけがの程度が決して重くないことを強調しました。

復帰までの期間などに影響することから大谷選手がどの治療法を選択するのか、その決断に注目が集まっています。

大谷の右ひじのじん帯修復には4つの選択肢

大谷選手が損傷した右ひじのじん帯を修復するには、主に4つの選択肢があります。
1、トミー・ジョン手術
2、人工じん帯の移植手術
3、1と2を合わせたハイブリッド手術
4、PRP療法

このうち、1のトミー・ジョン手術は損傷したじん帯を切除して自分自身の主に手首のけんを患部に移植する方法です。

大谷選手自身も前回、右ひじのじん帯を損傷した大リーグ1年目の2018年10月にこの方法で手術を受けていて、これまでパドレスのダルビッシュ有投手や現役最多の通算255勝をあげているアストロズのバーランダー投手など速球を持ち味とする多くの投手が経験しています。

復帰までには1年から2年近くかかるのが特徴で、大谷選手も前回のトミー・ジョン手術から復帰したのは1年9か月後の2020年7月で、本格的な復帰は手術から2年半がたったおととしのシーズン開幕でした。

一般的には2回目のトミー・ジョン手術は、1回目よりもさらに長いリハビリ期間が必要とされていて、大谷選手が2回目の手術に踏み切れば、ピッチャーとしての復帰は早くても再来年、2025年のシーズン、リハビリの進捗(しんちょく)によっては2026年にずれ込む可能性もあります。

2の人工じん帯の移植手術は、1のトミー・ジョン手術よりも新しい術式で「インターナル・ブレース」と呼ばれる人工じん帯を患部に移植して損傷したじん帯を強化する方法です。

術後3か月ほどでスローイングを再開でき、復帰までの期間が7か月前後と早いのが特徴で、近年この方法を選択する投手が増えています。

一方で、まだ症例が少なく、手術を適応できる損傷の種類が限られることなどもデメリットとして挙げられます。

3はトミー・ジョン手術の一種で、人工じん帯の移植手術を同時に行うハイブリッド方式の手術です。

患者がリハビリ期間が短い人工じん帯の手術を希望した場合でも執刀医が実際に患部にメスを入れた場合にそれだけでは不完全だと判断するケースがあり、その場合はこの方法が採用されます。

復帰までの期間は通常のトミー・ジョン手術と同様で、1年から2年が必要とされます。

ツインズの前田健太投手は、おととし9月にこのハイブリッド方式のトミー・ジョン手術を受け、1年7か月後のことし4月にいったん復帰しました。

しかし、そのあと右腕の筋肉に張りの炎症が出たためおよそ2か月間けが人リストに入り、ことし6月に再び復帰して今シーズンここまで5勝をあげています。

4のPRP療法は、自分の血液から血小板を取り出して損傷した患部に注射することで回復を促します。

手術ではないため体へのダメージが少なく、自分の血液を使うため副作用が出にくいのが特徴で、いわゆる保存療法と呼ばれます。

大谷選手は大リーグ1年目の2018年6月にも右ひじのじん帯に損傷が見つかった直後にこのPRP療法を選択し、バッターとしては7月に、ピッチャーとしては9月に復帰しました。

しかし、復帰登板でじん帯に別の損傷が見つかったため、シーズン終了後の10月にトミー・ジョン手術を受けました。

効果に個人差があることも知られていて楽天の田中将大投手はヤンキース時代の2014年に右ひじのじん帯損傷が判明した際にこのPRP療法を選択して復帰し、現在も右ひじの手術は行っていません。

大谷選手の今シーズンの歩みと成績

今シーズンの大谷選手は、開幕前の3月にWBC=ワールド・ベースボール・クラシックの日本代表で投打の大黒柱として活躍し、日本を優勝に導くとともに大会MVP=最優秀選手に輝きました。

アメリカと戦ったWBC決勝のわずか9日後にはエンジェルスで開幕投手を務め、そこから文字どおり投打のフル回転でほとんど休むことなく出場を続けました。

6月と7月には驚異的なペースでホームランを量産し、2か月連続で月間MVPを受賞。

7月27日にはタイガースとのダブルヘッダーでの第1試合で先発登板し、1安打に抑えて大リーグで自身初の完封勝利を挙げ、その45分後に始まった第2試合では指名打者として2打席連続でホームランを打つ離れ業をやってのけました。

しかし、この試合をきっかけに筋肉のけいれん、いわゆる「つった状態」を理由に試合途中で交代する場面が増え、右手中指のけいれんで4回でマウンドを降りた8月3日の試合後には「一番の理由は疲労じゃないかと思う」と珍しく疲れを口にする場面もありました。

そして、先発登板した先月23日のレッズ戦で異変を訴えて2回途中でマウンドを降り、MRI検査で右ひじのじん帯損傷が判明。

ピッチャーとしての今シーズンを終了しました。

その後は志願してバッターとしては出場を続けましたが、今月4日に新たに右脇腹を痛め、その後は欠場が続いていました。

WBCの優勝に続いてエンジェルスでも「このチームで優勝したい」と初のプレーオフ進出、そしてワールドシリーズ優勝を目指した1年は、投打ともにシーズン終盤のけがによって不本意な形で終えることになりました。

日本人選手で初の本塁打王が有力視

それでも、大谷選手がここまで投打に残している成績は圧倒的なものです。

バッターとしては135試合に出場して打率3割4厘、ホームラン44本、95打点、20盗塁をマーク。

ホームラン数はリーグトップで打率と打点はともにリーグ4位で、すでに規定打席に到達しています。

アメリカンリーグのホームラン王争いでは2位につけるホワイトソックスのロバートJr.選手が35本で、大谷選手に追いつくためには残り14試合でホームランを9本打つ必要があるため、大谷選手の日本選手として初のホームラン王になることが有力視されています。

一方、ピッチャーとしては23試合に登板して10勝5敗、防御率3.14の成績をマークしました。

132イニングを投げて167奪三振を奪い、規定投球回には到達できなかったものの、大リーグで史上初めて2年連続で「ふた桁勝利、ふた桁ホームラン」を達成しました。

アメリカのメディアは毎年11月に発表される今シーズンのMVP=最優秀選手についても、アメリカンリーグは大谷選手の受賞が確実だと伝えていて、受賞すればおととし以来、2年ぶりとなります。