【詳しく】高校生の採用試験がスタート 求人倍率は過去最高

来年春に就職を希望する高校生の採用試験が16日から全国一斉に始まりました。人手不足などを背景に、求人倍率は全国平均で3.52倍と過去最高で、バブル期を超える「売り手市場」となっています。

このうち菓子の製造販売を行う東京 港区の会社では、16日から適性検査と面接の採用試験を始めました。

会場には机やいすが準備され、高校生たちは企業の担当者から試験のスケジュールについて説明を受けたうえで、緊張した表情で適性検査に臨んでいました。

この会社では去年秋、賃金を月額でおよそ3万円引き上げたうえで今月からさらにおよそ2万円上積みしました。

結局、去年より10人ほど多いおよそ40人の応募があったということです。

厚生労働省によりますと、来年3月に卒業する高校生のうち就職を希望している生徒は7月末時点で12万6069人と、去年の同じ時期に比べて5.5%減少しています。

一方で、企業からの求人は去年の同じ時期と比べて10.7%増加していて、求人倍率は全国平均で3.52倍と統計を取り始めた昭和60年以降、最も高くなりました。

都道府県別でみると最も高かったのが
▽東京の10.99倍で、
次いで
▽大阪の6.94倍、
▽広島の4.31倍となっています。

厚生労働省によりますとコロナ禍からの経済活動の再開などによって人手不足の企業が求人を増やしている一方で、就職希望者の減少などから求人倍率が上がっていて、ことしの高校生の就職活動はバブル期を超える「売り手市場」となっています。

賃金引き上げて人材を確保 背景に人手不足

人手不足などを背景に高校生の求人倍率が過去最高となる中、賃金を引き上げて人材を確保しようという企業もあります。

全国のデパートや駅などで土産用の菓子の販売を行う東京 港区の会社では、コロナ禍が落ち着き、外国人観光客が増加していることや新規ブランドの立ち上げに備えて若い人材を確保しようと大幅な賃上げに踏み切りました。

具体的には去年10月に全社員に対象に月額およそ3万円のベースアップを行ったうえで、今月からさらに2万円上積みして高卒者の初任給はおよそ17万円から22万円に引き上げました。

また、採用担当者が就職イベントに積極的に参加して高校生に仕事の内容や魅力を伝える機会を多く作ったといいます。

その結果、ことしはおよそ30人の募集に対し去年から10人ほど多い、およそ40人の応募があったということです。

菓子の製造販売を行う「シュクレイ」の採用担当、高橋祐太さんは「高校生や保護者が企業を選ぶうえでは、給料や売り上げが高かったほうが安心してもらえると思います。企業間の競争も激しくなっていますが、来年もさらに待遇面を変えていきたいと思います」と話していました。

高校生の就活 課題は“早期の離職”

高校生の就職活動をめぐっては、就職から早い時期に離職する人が多いのが課題となっています。

厚生労働省の調査によりますと、2019年に高校を卒業して就職した人のうち、3年以内に離職した人の割合は35.9%に上りました。

これは、大学を卒業して3年以内に離職した人と比べて4.4ポイント高くなっています。

また、民間の研究機関、リクルートワークス研究所が2020年に行った調査では、高校卒業後、正社員の仕事につき、20代後半までにその仕事を辞めた人は59.4%にのぼり、このうち35.7%がパートやアルバイトなどの非正規雇用になっていたことが分かりました。

その要因として
▽学校などで自分のキャリアを考える機会が少ないことや、
▽高校生の就職活動の仕組みで学校が推薦する一部の会社しか職場体験や採用試験を受けないケースが多く、ミスマッチが起きていることなどをあげています。

離職防ぐため 就活の支援会社も対策

高校卒業後の早期の離職を防ごうと、高校生の就職活動を支援する会社も対策に乗り出しています。

就職支援会社「ジンジブ」では、複数の会社から高校卒業1年目の新入社員を月1回程度集めて、職場での悩みを話し合ったり自分のキャリアについて考えたりする研修会を行っています。

今月の研修会では新入社員5人ほどでグループを作って人間関係をテーマに、苦手な人と出会ったとき、どう向き合うべきかなどを議論していました。

また、仕事に対するモチベーションを維持してもらおうと毎月、目標を設定し、どのくらい達成できているか確かめたうえで、今後どんな取り組みが必要か年間を通して考えるようアドバイスしています。

研修会に参加したウェブ関連会社の入社1年目の男性社員は「会社には同期社員が3人しかいないのでこの研修で会った人たちは第2の同期のような感じがします。みんなで一緒に頑張ろうみたいな話もして大変励みになります」と話していました。

研修で講師を務める「ジンジブ」の鶴岡靖晃さんは「高校卒業して1年目の社員は先輩や上司と年齢が離れているケースが非常に多く、コミュニケーションがうまく取れなかったりしています。この研修会で同じ立場の仲間を作ってお互い相談や励まし合いをしながら成長していってほしいです」と話していました。

この会社では転職を希望する人には、非正規ではなく自分の希望の仕事に就けるよう、営業やパソコンのスキルを学ぶ、リスキリングの講座を今月から新たに開講することにしています。

この講座を担当する「ジンジブ」の青柳幸世さんは「転職するにあたって自分はスキルも経験もないという自信のなさが重なってなかなか正規雇用で就職して前に進むのが難しい状況にある人もいます。講座を受けてもらって経験や自信につなげてほしい」と話していました。

専門家「仕事考えられる情報と機会の提供が大切」

就職活動の段階から高校生により多くの企業と接点を持ってもらうことで早期の離職を防ごうという模索も進められています。

大阪府では、昨年度から生徒が応募できる会社を1社に限る「1人1社制」の慣習を見直し、2社まで応募できるよう変更されました。

和歌山県でも2021年度から複数の会社へ応募を可能になっています。

また、各地のハローワークでも高校卒業後仕事で悩んでいる人や若者の定着に悩んでいる企業の担当者からの相談を受け付けています。

高校生の就職活動に詳しいリクルートワークス研究所の古屋星斗主任研究員は、「高校生の就職活動は多くの地域で学校が指定する1つの会社しか受けられず、その会社に夏休みに職場体験するというのがスタンダードになっていて、会社を比べて選ぶ仕組みになっていない。いろいろな会社がある中でどういった働き方が自分に向いてるかとか、どういった人と一緒に働きたいかなどを考えて選ばないと仕事は長続きしないが、情報がない状態で就職活動を行っているのが悪影響を与えている可能性がある」と指摘します。

その上で「1人1社制のような仕組みを前例踏襲で続けるのではなくて、しっかりと高校生たちが仕事を考えられる情報と機会を提供するのが大切だ。また、高校1年生や2年生の段階からも、地域の企業などを巻き込んでさまざまな社会人と対話しながら自分がフィットする働き方やこういう人生をおくりたいかということを考える機会を設ける必要がある」と話しています。