キム総書記 相次いで軍事施設視察 ロシアとの軍事協力探ったか

北朝鮮のキム・ジョンウン(金正恩)総書記は、16日極東の中心都市ウラジオストクを訪れてロシア海軍の太平洋艦隊などを視察し、ショイグ国防相から巡航ミサイルなどの兵器について説明を受けました。

北朝鮮のキム・ジョンウン総書記は13日、ロシア極東の宇宙基地でプーチン大統領と首脳会談したあとも極東地域に滞在していて、日本時間の16日午前、専用列車で極東の中心都市、ウラジオストク郊外の駅に到着しました。

そのあとキム総書記は郊外の空港でロシアのショイグ国防相の出迎えを受け、戦闘機に搭載でき、ロシア側が極超音速ミサイルだとする「キンジャール」について説明を受けたということです。

国営通信社は、長距離戦略爆撃機ツポレフ95やスホイ34戦闘爆撃機なども披露されたとしています。

また、キム総書記はウラジオストク市内に移動し、ロシア海軍の太平洋艦隊を視察しました。

アジア太平洋地域を管轄する太平洋艦隊は、原子力潜水艦なども保有し、対立するアメリカと向き合う最前線となっていて、キム総書記はショイグ国防相とともにフリゲート艦を視察しました。

また、ロシア海軍の司令官から巡航ミサイル「カリブル」など、装備されている兵器について説明を受けたということです。

キム総書記は、15日もハバロフスク地方で戦闘機などを製造している航空機工場を訪れていて、一連の視察を通じてロシアとの軍事協力について探ったとみられます。

識者 “軍事技術協力は水面下で進む”

北朝鮮のピョンヤンに駐在経験がある元外交官で、ロシア科学アカデミーの朝鮮研究センター、アレクサンドル・ジェービン氏はNHKのインタビューに対し、「ロシアと北朝鮮の首脳会談は4年以上なかったが、その間、国際情勢が大幅に変化したため、今回の会談が不可欠となった」と述べました。

国際情勢の変化については「アメリカ、日本、韓国が事実上、軍事同盟を作り、この3か国は自身の力を1つに合わせることを決めた。ロシアにとって新たな脅威になっている」と述べ、ロシアは日米韓の3か国に対抗するため、中国に加えて北朝鮮とも連携する必要に迫られていると説明しました。

そのうえで、首脳会談をきっかけにロシアと北朝鮮の軍事協力がさらに進み、ロシアと中国が行っている合同演習に、北朝鮮が参加する可能性もあるという見方を示しました。

また、ロシアにとって北朝鮮と首脳会談を行った意義について、「緊密な協力体制を再建したという意味で戦略的だった。アメリカ軍がアジアに展開する中で、北朝鮮は緩衝地帯の役割を果たしている」と述べ、ウクライナ侵攻でアメリカとの関係がいっそう悪化する中、地政学上の重要性が増している北朝鮮との連携を確認できたことは成果だという認識を示しました。

また、焦点となっているロシアと北朝鮮との間の軍事技術協力についてジェービン氏は、「これはそもそも、秘密裏に行われる性質のものだ。さまざまな制限と可能性を考慮したうえで、計画が実現するのだろう」と述べ、協力は水面下で進むという見方を示しました。

そのうえで、北朝鮮からの武器の供与については「首脳会談で協議された可能性は排除できない。北朝鮮には相当の弾薬が備蓄されているだろう」と述べ、弾薬の購入などをめぐり協議された可能性を指摘しました。

キム総書記「ロシアの航空技術 外部の潜在的脅威を圧倒」

北朝鮮は、ロシア極東を訪れているキム・ジョンウン総書記が15日に戦闘機などを製造している工場を視察したことについて、一夜明けた16日に発表しました。

キム総書記は対立を深める欧米を念頭に、「ロシアの航空技術が外部の潜在的脅威を圧倒している」として、ロシアの軍事力をたたえたとしています。

キム総書記は15日に極東ハバロフスク地方の工業都市コムソモリスク・ナ・アムーレを訪れ、ロシア空軍のスホイ戦闘機などを製造している工場を視察しました。

これについて北朝鮮は16日、国営メディアなどを通じて発表しキム総書記はロシアの航空機の製造をめぐり「豊富な潜在力や新しい目標に向かう絶え間ない努力に深い感銘を受けた」としていて、戦闘機の前で撮影した記念写真など52枚が公開されました。

そのうえでキム総書記は対立を深める欧米を念頭に、「ロシアの航空技術が外部の潜在的脅威を圧倒し、急速な発展を成し遂げていることに心から敬意を表した」ということです。

北朝鮮側の発表はロシアの技術力や軍事力をたたえる内容となっていて、ロシアとの軍事技術協力については言及がありません。

キム総書記は「次の訪問地に向けて出発した」としていて、16日はウラジオストクでロシア海軍の太平洋艦隊などを視察する見通しです。

ロシア極東の太平洋艦隊とは

ロシア軍の太平洋艦隊は主にアジア太平洋地域の安全保障に携わり、司令部は極東のウラジオストクにあります。

ロシア国防省の公式サイトには戦略核兵器も搭載できる原子力潜水艦や戦闘機、それに地上部隊などから構成されているとしています。

ロシア国営通信社はことし5月、太平洋艦隊の拠点の1つがあるカムチャツカ半島に、弾道ミサイルを搭載可能な最新鋭の原子力潜水艦が配備されると伝えたほか、14日にも、ウラジオストクで最新のコルベット艦の引き渡し式が行われるなど、ロシアは海軍力を増強し、アメリカなどへのけん制を強めているとみられます。

さらに太平洋艦隊をめぐっては、日本海やオホーツク海などでたびたび軍事演習を行っているほか、中国軍とも日本周辺で合同パトロールを実施し、日本へのけん制も続けています。