リビア洪水 5000人以上死亡か WMO“原因は「メディケーン」”

北アフリカのリビアでは大雨による洪水で東部で大きな被害がでていて、地元メディアはこれまでに5000人以上が死亡し、数千人の行方が分からなくなっていると伝えています。現地では道路や通信が寸断され、救助活動が難航していて、被害の拡大が懸念されています。

北アフリカのリビア東部、デルナなどでは低気圧の影響による大雨で11日、広い範囲で洪水が発生し、住宅地では建物が流されるなど大きな被害がでています。

リビアは国が東西の政治勢力で分裂状態にあり、地元メディアなどは東部を統治している政府幹部の話として、これまでにデルナだけで5000人以上が死亡し、数千人の行方が分からなくなっていると伝えています。

デルナでは大雨によって、市街地の上流にあった2つのダムが決壊したことが、被害の拡大につながったとしていて、周辺の都市でも被害が出ているということです。

こうした中、国際的な支援団体、IFRC=国際赤十字・赤新月社連盟の現地の責任者は12日、デルナや周辺の4つの都市で、合わせて1万人近くの行方が分からなくなっているという見方を示しました。

リビアでは長引く国の混乱でインフラの整備や改修が進んでおらず、被災した地域では道路や通信が寸断され、救助活動が難航していて、被害の拡大が懸念されています。

WMO“原因は「メディケーン」”

リビアの洪水について、WMO=世界気象機関は「メディケーン」と呼ばれる、台風のような低気圧によってもたらされた大雨が原因だとしています。

「メディケーン」は、地中海を意味する「メディタレーニアン」とハリケーンを組み合わせたもので、今回は「ストーム・ダニエル」と名付けられています。

WMOによると「ストーム・ダニエル」は9月上旬にギリシャで発生し、先週、ギリシャ中部では24時間に750ミリという平年の18か月分の大雨を降らせました。

ギリシャの国営通信社は、少なくとも15人が死亡したと伝えています。

リビアにはその後、さらに勢力を強めて上陸したということです。

「メディケーン」について、イギリスのレディング大学の気象学の専門家は「年に1回から3回ほどしか発生しない比較的珍しい現象だが、高潮や強風、洪水などをもたらし、上陸すると甚大な被害を及ぼす場合がある」と説明しています。

専門家 “メディケーン直撃で被害拡大の可能性”

気象に詳しい京都大学防災研究所の榎本剛教授も「メディケーン」と呼ばれる発達した低気圧が影響したとしています。

榎本教授によりますと、「メディケーン」は台風や熱帯低気圧に似ているということです。

▽中心に「ウォームコア」と呼ばれる暖かい空気があり、台風の目のようなものができることや、
▽半径は200キロ程度と小型なのが特徴で、気象衛星が普及した1980年代ごろから多く観測されるようになりました。

地中海地域ではこれまでも「メディケーン」による大雨が相次いでいて、おととしにはシチリア島に接近し1日に300ミリの雨が降ったところもあったということです。

「メディケーン」はこの時期から冬にかけて地中海の西部で最も多く発生し、リビアに近づくケースは少ないということです。

今回は地中海の海水温が高い状態で発生したため発達していたとみられ、ふだん雨が少ないリビアに「メディケーン」が直撃したことで被害が拡大した可能性があるとしています。

榎本教授は「現地ではこの時期は乾燥するため、予想外の大雨と受け止められていると思う。過去の『メディケーン』の中でも最も大きな被害になるのではないか」と話していました。

気象庁 “偏西風の蛇行でメディケーン発達か”

気象庁によりますと、ヨーロッパの上空では9月5日ごろから偏西風が北へ大きく蛇行し、「ブロッキング高気圧」と呼ばれる大規模な高気圧ができました。

これにより地中海の南側には高気圧の縁を回って上空の寒気が流れ込み、ギリシャでは大規模な洪水が発生しました。

寒気はおよそ1週間にわたってリビアの上空にも流れ込んだため上昇気流が起こりやすい環境が続き、「メディケーン」の発達につながったとみられるということです。