工藤会トップの2審 総裁は無罪主張 ナンバー2は一転関与認める

北九州市の特定危険指定暴力団「工藤会」が市民を襲撃した4つの事件で、殺人などの罪に問われ、1審で死刑判決を言い渡された組織トップの総裁ら2人の2審の裁判が始まり、総裁は、引き続き、すべての事件で無罪を主張した一方、ナンバー2は、2つの事件について一転して関与を認め「独断で指示した」などと主張しました。

特定危険指定暴力団「工藤会」は、平成10年から26年にかけて北九州市などで漁協の元組合長を射殺したほか、看護師や歯科医師など3人を拳銃や刃物で襲い、合わせて4つの事件を相次いで起こし、組織のトップ、総裁の野村悟被告(76)とナンバー2の会長の田上不美夫被告(67)が殺人などの罪に問われています。

1審の福岡地方裁判所はおととし8月、工藤会を厳格に統制された組織だとした上で、野村被告に4つの事件に首謀者として関与したと認定して死刑判決を、田上被告には無期懲役を言い渡していました。

13日、福岡高等裁判所で2審の裁判が始まり、2人はいずれも上下黒のスーツ姿で法廷に入りました。

裁判の冒頭、弁護側は「1審判決は直接証拠がないにもかかわらず推認に推認を重ねたもので、客観性を欠いた理屈による判決だ」と述べました。

その上で、野村被告について、いずれの事件でも共謀の事実はないと1審に続き無罪を主張しました。

一方、田上被告については、看護師と歯科医師がそれぞれ刃物で襲われた2つの事件への関与を一転して認め「トップに連絡や相談もしないまま指示をして実行させた」と主張しました。

検察は「1審の判決は合理的、常識的であって、工藤会の組織の実態に即している。田上被告の新たな主張には、野村被告の刑事責任を免れようとする強い動機がある」などと主張し控訴を退けるよう求めました。

13日の審理では漁協の元組合長が拳銃で殺害された事件で実行役の元暴力団員の証人尋問が行われ、元暴力団員は「自分の個人的な事件です。関係のない総裁と会長が自分のために主犯のように言われている」と述べました。

福岡高裁 早朝から警戒態勢

福岡高等裁判所の敷地内や周辺では、早朝から警戒態勢が取られ、腕章をつけた警察官の姿が多く見られました。

そして、午前9時過ぎ、野村悟被告と田上不美夫被告をそれぞれ乗せたとみられる車が、警察車両に先導されながら裁判所に入りました。

敷地内では、傍聴券を求める人たちが長い列を作りました。

裁判所によりますと、用意された58の傍聴席に対して385人が並んだということで、抽せんの倍率はおよそ6.6倍でした。

法廷がある建物の10階は、傍聴券を持たない人の立ち入りが禁止されるなどの対応が取られる中で午前10時、裁判が始まりました。

上下黒のスーツ姿で法廷に

午前9時55分ごろ、野村被告と田上被告はともに上下黒のスーツ姿で法廷に現れ、一礼して席に座りました。法廷には透明なパネルが設置され、傍聴席との間が仕切られました。

午前10時に開廷すると、冒頭、市川太志裁判長が「法廷で不規則発言は禁止されています。即時、退廷を命じることがあるので、ご注意ください」と述べて審理が始まりました。

2人の被告は、落ち着いた様子でしたが、検察が、弁護士の主張に対する反論を述べると、厳しい視線を向けていました。

途中、野村被告が左耳につけた補聴器を気にしながら検察官に対し、「聞こえない。マイクを近づけてくれたらいいです」などと発言し、裁判長から「大きな声で」と促された検察官が書面を読み上げ直す場面もありました。

福岡県警 1審後 警備や保護対策強化

工藤会トップの野村被告とナンバー2の田上被告の1審の福岡地方裁判所の判決は、おととし8月に言い渡されました。

野村被告は、判決が言い渡された直後、裁判長に向かって強い口調で「公正な判断をお願いしたけど全然、公正じゃないね」「生涯、後悔する」という趣旨の発言をしました。

被告の発言などを受けて、福岡県警は司法関係者に危険が及ぶおそれがあるとして、警備や保護対策を強化しました。

被告側はいずれも、1審判決の翌日に控訴しましたが、およそ1年後の去年7月、1審の弁護士全員を解任しました。

後任には長年、死刑廃止運動に取り組み数々の著名な事件を担当してきた弁護士などが就任し、去年12月に控訴趣意書が提出されて1審判決から2年余り経過した13日、2審の審理が始まりました。

工藤会 現状は

工藤会をめぐっては、警察の徹底的な取締りの結果、構成員がピーク時の4分の1まで減るなど組織の弱体化が進んでいますが、警察当局は一部が首都圏に進出しているとみていて全国で唯一の「特定危険指定暴力団」の指定を継続するとともに、取締りを強化しています。

福岡県警察本部によりますと、工藤会の県内の構成員は、去年末の時点でおよそ180人と、ピークだった平成20年末と比べ、およそ4分の1まで減っています。

このうち、およそ半数が服役または勾留されていると把握しているということです。

北九州市にあった主要な事務所の撤去も相次ぎ、3年前、本部事務所が解体されたほか、野村被告の出身組織でもある「田中組」の事務所も、ことし4月までにすべて撤去され、組織の弱体化が進んでいるとみています。

一方、近年、組織の一部が経済規模の大きい首都圏に資金獲得のために進出しているとみて連携や取締りを強化しているということです。

福岡県公安委員会は、全国で唯一となる「特定危険指定暴力団」の指定について「暴力的要求行為が継続するおそれがある」として去年12月、10回目の延長を行いました。

また、警察は、工藤会の関与が疑われる過去の未解決事件の捜査も続けています。

去年7月には11年前に北九州市八幡西区で男性が刃物で刺された事件で、傘下組織の幹部らが殺人未遂の疑いで逮捕されたほか、去年9月には12年前に福岡県福津市で建設会社社員の自宅に銃弾が撃ち込まれた事件で、傘下組織の当時の幹部らが銃刀法違反などの疑いで逮捕されました。

また、去年10月には、10年前に京都市で「餃子の王将」を展開する会社の社長が銃撃され殺害された事件で、工藤会傘下組織の幹部が実行役として殺人などの罪で逮捕・起訴され、警察は指示した人物がいるとみて捜査を続けています。

「暫定トップ」交代

これまでの徹底的な取締りで野村被告をはじめとする工藤会の主要幹部の多くが収監されたり勾留されたりしている中、福岡県警は、トップの野村被告が不在の中で、序列が最も高い「暫定トップ」がこのほど交代したと判断しました。

そして、新たに暫定トップについたとされる48歳の幹部に対し、今月7日、事務所の使用を制限したり、過去に工藤会が起こした事件で出所祝いや功労金などを払うことを禁じたりする、暴力団対策法に基づく仮命令を出しました。

市民を襲撃した4つの事件とは

野村被告と田上被告は、工藤会が市民を襲撃した4つの事件に関わったとして殺人や組織犯罪処罰法違反などの罪に問われています。

最も古い事件は、25年前の平成10年、北九州市小倉北区の繁華街で、漁協の元組合長が至近距離から銃撃され殺害された事件です。

港湾建設工事などの利権が事件の背景にあるとされています。

平成24年には、長年、暴力団の捜査を担当した福岡県警の元警察官が銃撃され腰や太ももに大けがをしました。

元警察官は野村被告ら工藤会幹部と直接、話ができる数少ない警察官でした。

平成25年には、野村被告が通っていた美容外科クリニックの看護師が帰宅途中に福岡市博多区の歩道で刃物で刺されて大けがをしました。

事件前、野村被告は、接客や施術について看護師への不満をもらしていたとされています。

平成26年には、北九州市小倉北区で病院に勤務する歯科医師が、出勤時に胸や腹などを刺され、大けがをしました。

歯科医師は1つ目の事件で殺害された漁協の元組合長の孫でした。