ハワイ マウイ島の山火事 発生から1か月 生活の再建進まず

ハワイのマウイ島で起きた大規模な山火事は現地時間の8日で発生から1か月になります。これまでに115人の死亡が確認されるなど壊滅的な被害を受けた町の中心部はいまも住民の立ち入りが厳しく制限されていて、生活の再建が進められない状態となっています。

ハワイのマウイ島では先月8日、島の西部で起きた山火事がハリケーンに伴う強い風にあおられて急速に燃え広がり、かつてハワイ王国の首都が置かれたラハイナの中心市街地が壊滅的な被害を受けました。

警察などによりますと、これまでに115人の死亡が確認されましたが、依然として連絡がとれない人が100人あまりいて、炎から逃れようと大勢の人が飛び込んだ海での捜索が続けられています。

公共施設などに設けられていた避難所は閉鎖されましたが、6日現在も5800人あまりがホテルなどで避難生活を送っています。

ラハイナの中心部をはじめ、火事で焼けた一帯はがれきの中に危険物が残されているおそれがあり、安全が確保されていないとして、いまも立ち入りが厳しく制限されています。

住民たちは自らの住まいに行くことや亡くなった家族の葬儀すらできていない人がほとんどで、生活の再建が進められない状態となっています。

一方、マウイ島の行政当局には山火事の危険を知らせるために防災サイレンを鳴らさなかったことなど、発生当初からこれまでの一連の対応に、住民から批判の声も上がっています。

ラハイナを見渡す高台に115本の十字架

壊滅的な被害を受けたラハイナを見渡す高台には、これまでに死亡が確認された人の数と同じ、115本の十字架が設置されています。

廃材などを利用してつくられた十字架は、町を見下ろすように並べられ、行方不明者を表す黄色のリボンがワイヤーに結びつけられています。

入り口には「ラハイナ・メモリアル」と記した紙が掲げられ、「遺族は自由に十字架に失った家族の名前を書いたり花をささげたりしてほしい」と書かれています。

時折、遺族や住民たちが訪れ、十字架の前で涙を流したり、抱き合ったりして失われた命に思いをはせていました。

十字架のひとつに大きな写真をくくりつけている人たちがいました。

写真に写っているドナ・ゴメスさん(71)は先月8日、ラハイナの自宅近くで山火事に巻き込まれて亡くなりました。

孫のテハニ・クハウルアさんは「祖母は頑固で、誰の指図も受けない人でした。あの日も何人もの人に『逃げて』と言われましたが祖母は何世代にもわたって受け継がれた家を守りたかったのです。最終的に逃げることを選び、遺体がみつかったのはその途中の道でした」と祖母の最期について語りました。

115本の十字架は、ラハイナの住民が思い立ち、土地の使用許可をとったうえで山火事から2週間が経った先月22日から手作業で設置しました。

発案したスニア・シュネアさんは「すべてが手作りです。永遠にここに残せるものをと思い、つくりました」と話していました。

また、作業にあたったマシュー・シュバイツァーさんは「人々が訪れ、十字架に愛する人の名前を書き込んでくれています。ラハイナの人々がこうした取り組みを受け入れてくれたこと、忘れないようにと思ってくれていることがわかりほっとしています」と話していました。

また、マシューさんの妻のショーニーンさんは山火事から1か月が経つことについて、「はじめはみんなが一緒に戦っているのだからお互いを助け合わなければと力がみなぎっていました。いま少し落ち着いたことで感情が押し寄せてきています。失ったものの大きさや人生が大きく変わってしまったことにがく然としています」と声を震わせながら話していました。

島を挙げて避難した人たちへの支援が続く

マウイ島では島を挙げての避難した人たちへの支援が続いています。

このうちハワイ大学マウイ校の食堂では大学で調理を学ぶ学生たちやボランティアの人たちあわせて15人が避難している人たちに配布する食事、500食の準備をしていました。

ラハイナのレストランで働いていたシェフたちが呼びかけて寄付金を募り、山火事の翌日から1日3食をつくっています。

用意した食事は、住民が避難生活を送るホテルなどの宿泊施設ごとに分けられ、それぞれの場所に車で運ばれました。

参加していたシェフのクリスタ・ガルシアさんは「このような形でコミュニティーのために仕事ができることを誇りに思います。人々のおなかを満たすことでその人の1日がよりよくなり、ほかの誰かがその人のことを思っているという希望を与えることができます」と話していました。

被害を免れた場所も 支援物資が行き届かず

ラハイナの被災地域のなかには奇跡的に被害を免れた場所もあります。

こうした場所では自宅にとどまって生活している人も少なくありませんが、周辺の道路は通行が厳しく規制されていて支援物資が行き届いていません。

マウイ島西部選出のハワイの州議会議員エリー・コクランさんはこうした地域に住む人たちのために公園にテントを張って支援センターを設けました。

ボランティアが支援物資をまとめて置いていき、近所の住民が必要なものを取りに来たり、助けが必要な人の自宅まで届けたりする拠点となっています。

ここで住民の相談にものっているコクランさんは「なぜ火事が起きた場所のもっとも近くに住んでいる人たちへの支援が進まないのか、疑問です」と話していました。

この日、コクランさんの支援センターを訪れていたビル・サイファーズさんの自宅の周辺も火事の被害を免れました。

サイファーズさんは火事当日、避難するときに見た光景について「ゴルフボールの大きさの火の玉が上空をビュンビュンと、SF映画のようにあらゆる方向に向かって飛んでいました。この地域が焼けなかったのは奇跡です」と話していました。

サイファーズさんは、勤め先のレストランが焼失し、仕事がないため、いまはボランティアで支援物資を運搬するなどして、地域の人たちを助けているということです。

サイファーズさんは「先ほども声を出して泣いている男性を見て、ペットボトルの水を『どうぞ』と手渡してハグをしました。それ以外、どんな声をかけられるでしょうか。男性は大切な人を失ったに違いありません。私はとにかくできることをして誰かにやさしくすることしかできません」と話していました。

観光客に人気のシェイブアイス店は

先月8日に起きた山火事で壊滅的な被害を受けたラハイナでは、観光客に人気だった飲食店もほとんど焼失しました。

このうち日本の観光客にも人気で行列が絶えなかった、かき氷のようなスイーツのシェイブアイスの店は、ラハイナに出していた2つの店舗と倉庫が焼けてしまいました。

2つの店舗であわせて19人の従業員が働いていましたが、このうち17人が火事で自宅や車を失ったということです。

このうち、車で移動ができる従業員は今も営業を続ける島のほかの地域にある店に移って仕事をしているものの、多くは仕事もできない状態が続いているということです。

店ではクラウドファンディングを募り、従業員や被災者への支援に充てることにしています。

山火事が起きて以降、島を訪れる観光客は大幅に減少していて、シェイブアイス店のエミ・ヨシダさんは「客足はかんばしくありません。島全体が、多くのビジネスを失いました。経済が動いていなければ被害を受けた人たちを支援することもできず、とてもつらいです」と話していました。