【詳しく】秋本衆議院議員を逮捕 受託収賄の疑い「私は潔白」

政府が導入拡大を目指している洋上風力発電をめぐり、秋本真利衆議院議員が、事業への参入を目指す風力発電会社の元社長から、会社が有利になるような国会質問をするよう依頼を受け、その見返りにあわせて6000万円余りにのぼる借り入れや資金提供を受けた疑いがあるとして、東京地検特捜部は秋本議員を受託収賄の疑いで逮捕しました。

秋本議員は弁護士を通じて、「国会質問をした謝礼として賄賂を受けたという事実はありません。私は潔白です」というコメントを出しました。

《秋本議員を逮捕 受託収賄の疑い》

逮捕されたのは先月、自民党を離党した衆議院議員の秋本真利容疑者(48)です。

東京地検特捜部の調べによりますと、秋本議員は洋上風力発電事業をめぐり、東京の風力発電会社「日本風力開発」の塚脇正幸元社長(64)からあわせて6000万円余りにのぼる借り入れや資金提供を受けたとして受託収賄の疑いが持たれています。

日本風力開発は洋上風力発電事業のうち、青森県の陸奥湾や秋田県沖の海域などへの参入を目指していて、秋本議員は2019年以降、塚脇元社長から日本風力開発が有利になるような国会質問をするよう複数回にわたって依頼を受けていた疑いがあるということです。

秋本議員は国会で会社側の希望に沿う形の質問を繰り返していて、その見返りとして、中央競馬で借の馬主登録をめぐって、2019年3月ごろに塚脇元社長から3000万円を無利子無担保り入れる「金融の利益」を得たほか、おととし10月ごろからことし6月ごろまでに、2人が設立した馬主組合をめぐって3000万円余りの資金提供を受けた疑いがあるということです。

秋本議員「私は潔白です」弁護士通じコメント

秋本議員は弁護士を通じて、「私は自身の政治的信条に基づいて再生可能エネルギーの普及に向けた国会質問に及んだものであり、塚脇氏から依頼されて日本風力開発の利益を図るために国会質問をしたということは断じてありません。まして、国会質問をした謝礼として賄賂を受けたという事実はありません。私は潔白ですので、今後の取り調べに対して説明を尽くしていく所存です」というコメントを出しました。

一方、塚脇元社長は調べに対し、秋本議員への贈賄を認め、提供した資金について、「国会質問の謝礼だった」という趣旨の供述をしていて、特捜部は贈賄の疑いで在宅のまま捜査を進めるものとみられます。

《参入目指す会社に有利な国会質問を繰り返す》

秋本議員は塚脇元社長からのあわせて6000万円余りにのぼる借り入れや資金提供の前後に、洋上風力発電事業への参入を目指す日本風力開発が有利になるような国会質問をしていました。

日本風力開発は洋上風力発電事業のうち、青森県の陸奥湾での事業への参入を目指していましたが、2019年2月の衆議院予算委員会の分科会では、青森県沖の海域について防衛関連施設への影響を理由に過度な規制をかけないよう求めていました。

秋本議員の発言(2019年2月27日 衆院予算委第7分科会)
「国防は何においても大事だが、支障のない範囲の中であれば、一律にだめよということではなくて、支障のない範囲内で防衛省は経産省や国交省との協議に柔軟に応じ、法律に基づく洋上風力というものが青森県でもしっかり展開されるべきだ。国防を脅かすような形で洋上風力が建つようなことは絶対あってはならないと思う。ただ、過度な、必要でもない規制をかけて、そこには一律建てさせませんというのでは、やはりこれは違った意味での国益を損ねますから、防衛省も国交省や経産省と協議して、地元がちぢこまることがないようにしていただきたい」

また、同じ日の別の分科会では、施行が迫っていた「再エネ海域利用法」について質問し、早くから地元に入って利害関係者と交渉し、多額の資金を投じて関係を築き上げてきた業者と、新法ができてから動き出した業者を同列に扱うのは不公平だと指摘したうえで、「一定程度の努力を払ってきた先行事業者というのは法律よりも先を行っていたわけですから、この事業者に対しては一定程度の何かしらの配慮があってもいいんじゃないか」などと発言していました。

この国会質問の翌月の2019年3月ごろ、秋本議員は塚脇元社長から3000万円を借り入れ、中央競馬の馬主になる登録を申請していたほか、おととし10月ごろからは、2人が設立した馬主組合をめぐってあわせて3000万円余りの資金提供を受けた疑いがあるということです。

去年2月17日の衆議院予算委員会の分科会では、第1ラウンドの入札で圧倒的に低い供給価格を示した「三菱商事」を中心とするグループが3つのプロジェクトをいずれも落札したことを受け、第2ラウンドの公募からは入札の評価基準を見直し、運転開始時期の早さに重点を置くよう求めていました。

秋本議員の発言(2022年2月17日 衆院予算委第7分科会)
「今、公示している2回目の公募から評価のしかたというのをちょっと見直していただきたいというのが私の中での結論でございます。やはり次回以降は、運転開始時期というのは、私は非常に大きなファクターだというふうに思います。第2ラウンド以降、早く運転開始しようというところにインセンティブをもう少しきちっと与えないと、政府が掲げている再生可能エネルギーの比率だったり、カーボンニュートラルの数字を達成できない可能性が私は高いんじゃないかというふうに思っています。非常に大事なファクターなので運転開始時期に対するウエートづけを私はもうちょっと見直すべきだろうというふうに思っています。ぜひ萩生田大臣の英断で、第2ラウンドからこの制度の見直しというものをしていただきたい」

これに対し、当時の萩生田経済産業大臣が「去年の12月にスタートしちゃってますので、公募占用指針に明記されている配点の枠組みを今から見直すということになりますと、試合のルールを決めて公示しちゃって、そこに参加している人たちがいらっしゃる以上は、やはり途中でルールを変えるというのはどうかなと私は思っているんです」などと答弁しましたが、秋本議員は入札の評価基準を見直すよう繰り返し求めていました。

秋本議員の発言(2022年2月17日 衆院予算委第7分科会)
「スタートしてルールが決まっているんだからといっても、そこに札を入れてきて、審査の段階に入っているわけではありません。第2ラウンドの見直しというのは、私はこれは政治判断だと思うんです」
「政府の目標を確実に達成するためには、第2ラウンドからルールの変更をしていくべきだ。運転が早くなるということは国民の利益であります」

この国会質問の翌月、政府はすでに始まっていた第2ラウンドのプロジェクトの公募をいったん停止し、8か月後の去年10月27日に稼働時期の早さに重点を置くなどとする新たな入札評価基準を公表しました。

馬主組合をめぐって提供された3000万円余りのうち現金1000万円はこの翌日、衆議院第一議員会館にある秋本議員の事務所で受け渡されていました。

《秋本議員と元社長 どのように関係を深めたか》

関係者によりますと、塚脇元社長は数年前まで、風力発電事業者や関連企業、自治体など、あわせて500余りが加盟する業界団体「日本風力発電協会」の副代表理事を務め、洋上風力の導入促進に向けた政策提言などのロビー活動を行っていました。

日本風力開発 塚脇元社長

当時は年に数回のペースで、再エネ推進に取り組む秋本議員を囲む会が開かれていたということです。秋本議員は2017年11月から自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の事務局長を務めていました。

業界関係者はNHKの取材に対し、「再生可能エネルギーの分野はビジネスにつなげるために国の支援が欠かせないこともあり、日本風力開発は精力的にロビー活動を展開していた。れい明期に思いを持って風力発電事業を立ち上げた塚脇元社長は野心家で、なりふり構わず、自分の会社に有利なルールメーキングを働きかけていた。こうした中で秋本議員と結び付きを深めていったのではないか」と話していました。

また、日本風力開発の関係者は「秋本議員は再エネ議連の事務局長として、業界団体や企業との窓口の役割を果たしていた。資源エネルギー庁にものを言ってくれる人だから、陳情に行くときに重宝していた」と話していました。

《共通の趣味の競馬でも》

さらに2人は共通の趣味の競馬を通じて関係を深めていったとみられています。

関係者によりますと、秋本議員は以前から競走馬を所有していた塚脇元社長に誘われ、2019年3月ごろ、中央競馬の馬主になる登録を申請しました。秋本議員は登録審査に必要な資金として塚脇元社長から3000万円を借り入れ、馬主登録することができたということです。

2人はさらに、おととし秋に馬主組合を設立し、競走馬の購入などを通じて多額の資金のやりとりをするようになっていったということです。

サラブレッドの競りを主催する組合などのホームページには、衆議院第一議員会館で受け渡された現金1000万円をもとに秋本議員が購入したとされる3頭の馬の写真や競りにかけられた際の映像などが掲載されています。

衆議院第一議員会館で受け渡された現金1000万円をもとに秋本議員が購入したとされる2頭のサラブレッドは、いずれもことしの夏地方競馬でデビューしました。

このうち、ことし6月にデビューした「パープルビューティ」は、4戦目として先月8日に北海道の競馬場で行われたレースに出走し、11頭中3着の成績でした。

秋本議員をよく知る人物はNHKの取材に対し、「秋本議員は競馬場のガラス張りの観覧席に献金してくれた人などを連れて行っていて、同伴していた秘書からは月2回以上は支援者らと競馬場に行っていたと聞いた。秘書や懇意にしている人に、『このあいだのレースで100万くらい大勝ちした』とか、『ほら、俺の馬来ただろ』などと自慢しているのも聞いた」と話していました。

さらに、洋上風力発電などの再生可能エネルギーの普及に力を入れるようになったいきさつについては「原発はガチガチに固まっていて新人議員は入っていけない世界だが、再エネはこれから開拓していく業界で、原発に代わる利権になり得たので突っ込んでいったのだろう。再生可能エネルギー関連の献金が増えたのは2014年ごろからで、再エネ業者からの献金額が徐々に増えていく中で、『風力発電だ、洋上だ』と言い始めた感じだ」と話しました。

《専門家 “金融の利益も賄賂にならないことはない”》

東京地検特捜部は今回、塚脇元社長が貸し付け秋本議員がのちに全額返済した3000万円を、無利子無担保で借り入れる「金融の利益」を得たとして賄賂にあたると認定しました。

元検事の高井康行弁護士は「賄賂というのは非常に幅が広いもので、提供された資金を利息をつけてきちっと返したとしても、借りた側は『お金を借りられる』『借りられた』という『金融の利益』を受けたことになるので、例え倍返しだったとしても賄賂にならないということはない」と指摘しています。

また、受託収賄にあたるかどうかを判断するうえでポイントとなる「請託」について、高井弁護士は「ことばによって明示的に行われる必要なはなく、特定の内容のお願いが暗黙のうちになされていれば、それで足りるとするのが判例の考え方だ。資金の流れや議員が会社に有利な国会質問をした時期などを時系列的に細かく並べると、『この時期にこういう内容の請託があった』とおおよそ推定がつくようになり、それに見合う供述があれば立証できる」と指摘しています。

そのうえで、「国会での質問は国会議員の職務権限の中核であり、請託とみなされる行為と国会質問の因果関係をきちっと立証していく緻密な捜査が必要になる」と話していました。

《記者解説:洋上風力発電事業への影響は》

社会部の守屋裕樹記者の解説です。

Q.事件の構図は?

A.ポイントは秋本議員が行った複数の国会質問です。

日本風力開発は国家プロジェクトの洋上風力発電事業のうち、青森県の陸奥湾や、秋田県沖の海域などへの参入を目指していました。

秋本議員はこのうち青森県沖の海域について、2019年2月の国会質問で防衛関連施設への影響を理由に過度な規制をかけないよう求めていました。

また、会社が秋田県沖の事業の受注に失敗したあとの去年2月の国会質問では、入札の評価基準を見直すよう繰り返し求めていました。

特捜部は、これらの国会質問はいずれも塚脇元社長の依頼を受けて行ったもので、提供された多額の資金はその見返りだったと判断し、捜索段階の収賄容疑から、より法定刑が重い受託収賄に切り替えて逮捕しました。

Q.どのように資金提供を受けていた?

A.特捜部はあわせておよそ6000万円にのぼる借り入れや資金提供を受けた疑いがあるとみています。このうち3000万円は秋本議員が中央競馬の馬主になる登録をした際の借り入れです。

馬主登録の審査は預貯金などの資産が一定額以上あることが要件となっています。

特捜部は、秋本議員がのちに全額返済しているものの、必要な時に無利子無担保で借りることができた「金融の利益」が賄賂にあたると判断しました。

また、残りのおよそ3000万円は2人が設立した馬主組合をめぐって提供され、競走馬の購入費などにあてていたとみられていますが、特捜部はこうした資金提供についても、組合を実質的に管理する秋本議員への賄賂だったと判断しました。

このうち1000万円は議員会館の秋本議員の事務所で現金で受け渡されていたことがわかっています。

Q.脱炭素社会実現の鍵とされる洋上風力発電事業への影響は?

A.去年2月の秋本議員の国会質問のおよそ8か月後、入札の評価基準が見直され、価格の面だけではなく、運転開始時期の早さをより重視する仕組みになりました。

これについて、複数の業界関係者は「地元対策などで先行している日本風力開発のような企業が有利になるルール変更だったのではないか」とか「動き出していた次の入札を止めてまでルールを変えたのは異例だ」などと話していました。

国会質問が評価基準の見直しに与えた影響の解明も今後の捜査の焦点になります。

《政府・各党の受け止めは》

岸田首相「現職の国会議員が逮捕されたことは大変遺憾」

岸田総理大臣は訪問先のインドネシアで記者団に対し、「現職の国会議員が逮捕されたことは大変遺憾なことだ。われわれ国会議員は改めて襟を正して、国民のために緊張感を持って職務にまい進しなければならない」と述べました。

その上で、「任命責任はまさに捜査が進んでいる最中で、今の段階で触れることは控えるが、脱炭素化とエネルギーの安定供給を両立させるために、再生エネルギーは大変重要なものだ。引き続き透明性を持って『再エネ政策』に取り組んでいかなければならない」と述べました。

松野官房長官「再エネ 透明性持って取り組んでいく」

松野官房長官は午前の記者会見で「捜査機関の活動内容に関する事柄であり、政府として答えることは差し控える。再生可能エネルギーについては2030年度に36%から38%にするとした目標の実現に向けて最大限導入していくことが政府の基本方針であり、引き続き関係省庁で透明性を持って取り組んでいく」と述べました。

自民 茂木幹事長「大変遺憾 厳粛に受け止め」

自民党の茂木幹事長はコメントを発表し、「大変遺憾に思っている。厳粛に受け止め、今後の捜査の推移を見守りたい」としています。

立民 泉代表「離党で済むものではなく議員辞職すべき」

立憲民主党の泉代表は記者団に対し、「自民党を離党したからといって済むものではなく、議員辞職すべきだ。洋上風力発電業界に加え、国会質問の場も汚したという意味で、まさに汚職であり、こういう利権政治をまっとうな政治に変えねばならない。自民党にも責任があり、岸田総理大臣も政治責任が問われる」と述べました。

公明 山口代表「ゆゆしき事態 信頼を根本から揺るがしかねず」

公明党の山口代表はコメントを発表し、「現職の国会議員が逮捕されたことはゆゆしき事態だ。被疑内容が事実とすれば、健全な政治プロセスや再生可能エネルギー行政への信頼を根本から揺るがしかねず、極めて遺憾と言わざるをえない。今後、捜査を尽くし真実を明らかにしてもらいたい」としています。

共産 小池書記局長「国会で追及する場を求めていく」

共産党の小池書記局長は東京都内で記者団に対し、「岸田総理大臣は、疑惑が報道されて以来、全く説明責任を果たそうともせず、秋本議員を離党させ、疑惑にふたをするような態度をとっていて許されない。自民党として議員辞職を迫るべきだ。ほかの野党とも力を合わせ、国会で追及する場を政府に対して求めていく」と述べました。

国民 玉木代表「国会で徹底解明を求めていきたい」

国民民主党の玉木代表は記者団に対し、「これまで進めてきたいわゆる再エネ事業そのものに対する信頼を根底から覆すもので極めて重大な事件だ。ある種の『再エネ利権』のようなものが生まれ、利権の温床になっているのではないかという疑惑であり、ほかにも同様の事案がないか、国会で徹底解明を求めていきたい」と述べました。