京都府内のホテルに設けられた「ご一行様」の看板。
甲子園に出場している学校の生徒の宿舎です。
土浦日大高校(茨城)で応援団を兼ねている生徒会が偶然、見つけました。
「あの強豪校!仙台育英が泊まっている」と声を発した生徒たち。
去年、東北で初めて優勝を果たした仙台育英高校と同じホテルとわかり、落ち着かなかったと言います。

甲子園がつないだエール
ふとしたことがきっかけに知り合った高校生。
甲子園に出場する野球部の応援で関西を訪れていました。
泥だらけになりながらボールを追う選手たちに大きな声援を送っていた高校生が大舞台の裏で交わしたある“約束”がありました。
(甲子園取材班 角田彩子)
看板が縁で


土浦日大高 応援団長兼生徒会長 橋場まりあさん
「最初知った時はびっくりしました。去年優勝した仙台育英さんと同じホテルでうれしいと思いました。また同時に、自分たちもここまで勝ち上がってこれたんだと実感しました」
生徒たちは朝食や夕食の会場で何度も顔を合わせるようになりました。
さらに試合がある日は、お互いのチームの健闘を祈って見送りや出迎えをするようになり少しずつ会話も増えていったと言います。
土浦日大から仙台育英に「交流会をしませんか?」と提案し、準々決勝の前日に最初の交流会を行うことになりました。

仙台育英 生徒会長 大久保ゆりさん
「このような経験は初めてだったので、最初は驚きましたが、声をかけてもらい、素直にうれしかったです」
最初の交流会

準々決勝の前日に交流会が開かれ、合わせて20人ほどが参加。
学校生活や文化祭、それに野球部の話など、予定していた30分はあっという間に過ぎたと言います。最後にアルプス席で応援する際、身につける物にお互いのメッセージを書き合うことにしました。

そのメッセージは「決勝で会いましょう!」。
土浦日大は春夏通じて初めての優勝を目指し、仙台育英は大会連覇がかかっています。
どちらも学校の歴史を塗りかえる快挙です。

土浦日大の橋場さんは仙台育英のうちわにメッセージを仙台育英の大久保さんは土浦日大のポロシャツに記しました。
SNSでも交流深める
交流会で意気投合した生徒たちは、SNSでも自然と交流を深めていきました。
試合中の応援の様子をテレビの中継を見かけると「何度も映っていた。格好よかった!」とメッセージを送ったほか、互いの勝利に祝福の言葉を何度もやりとりしました。
準決勝の前日にも

準決勝を翌日に控えた前夜、再び集合しました。
互いのチームが勝ち進んでいて次の試合に勝てばアルプス席からエールを交換できます。
この日は学校での話だけではなく家族や友人のことなども話し、会話は弾みました。
就寝時間の近くまでのおよそ30分間、互いに健闘を誓い合いました。

土浦日大高 橋場まりあさん
「仙台育英さんは強豪で少し怖いイメージがありましたが、みんなフレンドリーで印象が変わりました。たまたまホテルが同じで交流することができてうれしいです。この出会いを大事にして、今後も交流していきたいです」
仙台育英 大久保ゆりさん
「土浦日大さんのことはあまり知りませんでしたが、交流するようになり調べてみました。仙台育英を応援することはもちろんですが土浦日大も応援しています。土浦日大さんに応援してもらえてとても心強いです」
宿泊施設もサポート
こうした生徒たちの交流を宿泊施設も後押ししていました。

ホテルの広報担当 森澤龍太さん
「このような交流はあまり聞かないですし、とてもすばらしい交流だと思います。ホテルでも甲子園の話題で盛り上がっていて、泊まっている学校が勝ってくれると私もうれしいです。できる限りのサポートしたいと思っています」
来年こそ“エール交換を”

準決勝では仙台育英が勝って、連覇まであと1勝としました。
一方で土浦日大は惜しくも敗れ、決勝でのエールの交換は実現しませんでした。

仙台育英 生徒会長 大久保ゆりさん
「決勝で戦うという約束は果たせませんでしたが、たまたまホテルが同じでつながることができました。この偶然を大事にしてこれからも交流していきたいです。準決勝の後『一緒に戦っている』というメッセージをもらい、決勝も頑張ろうと改めて思いました」

土浦日大高 応援団長兼生徒会長 橋場まりあさん
「約束を果たせなかったことは率直に悔しいですが、出会いはとても貴重な経験でした。今後もこの出会いを大切にして交流を続けていきたいです。決勝の舞台では私たちの思いとともに、戦ってほしいです」
ふとしたことがきっかけで、お互いのチームを応援するようになった生徒たち。
戦い抜いた選手だけでなく、応援する生徒たちも『偶然が友情に変わる』。
甲子園はそんな場所なのかもしれません。