山口 上関町 使用済み核燃料 中間貯蔵施設建設 調査受け入れ

中国電力が山口県上関町に提案した使用済み核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」の建設をめぐり18日臨時の町議会が開かれ、西哲夫町長は建設に向けた地質などの調査を受け入れる考えを表明しました。調査は関西電力と共同で実施され、実際に建設されれば全国で2か所目になります。

中国電力は8月2日、原子力発電所で使い終わった核燃料を一時保管する「中間貯蔵施設」の建設に向けた調査を関西電力と共同で上関町にある中国電力の敷地内で行う意向を明らかにしました。

これを受けて18日午前9時から上関町で臨時議会が開かれ、はじめに西町長が「町の人口は年間で100人減少し、高齢化率も中国5県で一番高い状態だ。このままでは住民支援策も近い将来できなくなる。持続可能なふるさと上関町を次世代につなげることが私の使命で、中間貯蔵施設の調査を私としては受け入れる考えだが議員の意見をうかがい、総合的に判断したい」と述べました。

続いて10人の議員全員が意見を述べ、採決は行われませんでしたが、10人のうち明確に反対を表明したのは3人にとどまりました。

これを受けて西町長は町として中間貯蔵施設の建設に向けた調査を受け入れる考えを表明しました。

町は午前11時前に中国電力にファックスで調査受け入れを回答したということです。

原発から出る使用済み核燃料について、政府は再処理してプルトニウムなどを取り出し、再び燃料として利用する「核燃料サイクル」と呼ばれる政策を掲げていますが、青森県六ヶ所村にある再処理工場は、トラブルなどで完成が大幅に遅れていて、全国の原発では、使用済み核燃料の保管場所の確保が課題になっています。

特に関西電力は、すでにプールの8割以上が埋まっていて、地元・福井県から使用済み核燃料を県外に搬出するよう求められ、ことし中に「中間貯蔵施設」の候補地を確定させると約束していました。

政府も「中間貯蔵施設」の建設を進めるため、交付金を設けるなどして支援しています。

実際に上関町に建設されれば全国で2か所目になります。

西哲夫町長「調査に4つの条件」

山口県上関町の西哲夫町長は議会のあと報道陣の取材に応じ、中間貯蔵施設の建設に向けた調査にあたって4つの条件を守るよう中国電力に申し入れたことを明らかにしました。

具体的には
▽安全や環境に配慮し、一般の交通に支障ないよう注意することと、
▽町民に対して引き続き情報提供を行い、町民から要望があれば先進地の視察研修の実施を検討すること、
▽具体的な計画が策定できたら町民に対し説明会などを開いて丁寧に説明すること、それに
▽周辺自治体にも情報提供を行うことを求めています。

その上で、「議会で町民への説明が足りないという意見があったが、今回はあくまで調査の受け入れであって、施設の建設を容認したわけではない。調査が行われている間に不安な人は説明を受けてほしい」と述べました。

西村経産相「地元に寄り添いしっかりと支援」

西村経済産業大臣は談話を発表しました。

この中で西村大臣は「上関町で中間貯蔵施設の立地可能性調査が開始されることは、 国のエネルギー政策にとって重要だと考えている。政府としても、地元に寄り添いしっかりと支援していく。今後、中国電力には、安全の確保に万全を期しつつ、 周辺市町も含め、丁寧な説明を行っていただきたい。その上で、国も中国電力とともに前面に立ち、地元の意向も踏まえながら、原子力政策に関する理解の促進に主体的に取り組んでいく」としています。

中国電力「丁寧に対応」

中国電力は「環境保全に十分に留意しながら安全第一で施設設置に係る調査・検討を進めていく。また、町民の皆さまなどへの情報提供などについても、要望などを踏まえながら丁寧に対応していく」とコメントを出しました。

関西電力「必要な対応をする」

調査を中国電力と共同で行う関西電力は、「中間貯蔵施設の設置にかかる調査や検討について、中国電力の求めに応じ、必要な対応をしてまいります」とコメントしています。

関西電力では今後、現地でボーリングの調査などを半年程度かけて行うとしています。

全原協会長 米澤光治 敦賀市長「今後の動向を見守りたい」

全原協=全国原子力発電所所在市町村協議会の会長を務める福井県敦賀市の米澤光治市長は「原子力施設に関わる事項は何よりもその自治体の判断が尊重されるべきと考えており、今後の動向を見守りたい」というコメントを発表しました。

山口 村岡知事「安心安全が確保されるのか最大の関心」

山口県上関町の調査受け入れについて、山口県の村岡知事は18日夕方、記者団の取材に応じ「町の判断について私が評価を申し上げるのは控えるべきだと思っている。私の立場からすれば安心安全がきちんと確保されるのかが最大の関心事だ。そうした観点でしっかり見ていきたい」と述べました。

そのうえで、現時点では賛成も反対もないとして、県としては中国電力などによる調査が終わり詳細な計画が示された段階で判断する考えを示しました。

また、中間貯蔵施設が建設された場合に関西電力の使用済み核燃料が県内に運び込まれることについて「いろんな不安や懸念が生じるのは当然のことだ。当然、事業者の方がしっかりと汗をかいて進めるのであれば理解を得る努力をしなければいけないことだ」と述べました。

福井 杉本知事「推移を見守っていかなければ」

山口県上関町が「中間貯蔵施設」の建設に向けた中国電力と関西電力の調査を受け入れたことについて、関西電力の原発が立地する福井県の杉本知事は「地域ごとにいろいろな課題があるので、冷静に進めていただければと思っている。これから調査などが進むということなので推移を見守っていかなければいけない」と話していました。

臨時議会での議員の発言は

無所属の柏田真一議員は「実現すれば工事の発注や物品購入、作業員の宿泊などの仕事が期待でき、町の経済効果が見込まれると期待している。町財政の現状を考えれば、調査・検討は早急に了承すべきだ」と賛成する考えを示しました。

一方、無所属の清水康博議員は「核燃料サイクルが確立されていないにもかかわらず、よそから使用済み核燃料を持ってくることにかなりのリスクを感じる。なぜここまで住民の気持ちに寄り添わず、急ぎ足でことを進めようとしているのか全く理解できない」として反対の考えを強調しました。

反対派 町長囲むなど 役場周辺は一時騒然も

臨時議会開会前の18日朝、上関町役場の前では「中間貯蔵施設」の建設に向けた調査に反対する住民などが、「上関に核のゴミは不要」などとする横断幕を掲げて抗議活動を行いました。

そして午前8時半ごろ、西町長が役場の駐車場に到着すると、反対住民たちが「一部の人間ですべてを決めるな」などと声をあげて車を取り囲み町長が車から出られない状態となりました。

警察が出動して離れるように呼びかけましたが、反対する人たちともみ合いになるなど役場周辺は一時、騒然となりました。

しばらくの間、もみ合いが続き、町長は到着からおよそ30分後の午前9時前に役場に入りました。

臨時町議会の傍聴席抽せんの倍率は4.5倍

上関町の臨時議会では開会1時間前の午前8時に傍聴券の抽せんの受け付けが行われ、希望する人たちが詰めかけました。

町によりますと、用意された20席の傍聴席に対して90人が傍聴を希望し、抽せんの倍率は4.5倍になったということです。

今後の流れ

今回、町が受け入れを表明したのはあくまで中間貯蔵施設の建設に向けた「調査」で、建設そのものではありません。

今後、中国電力と関西電力は、少なくとも1か月の準備期間を経て調査を始め、敷地が中間貯蔵施設を建設するのに適しているのか、半年程度をかけて文献調査やボーリング調査を行うことにしています。

調査の結果、敷地が建設に適していると判断した場合、電力会社が具体的な計画を策定し町などに示すということです。

町としては調査の結果を待ち、結果をもとに改めて町議会で議論したい考えです。実際に建設されれば青森県むつ市に続いて全国で2か所目になります。

中間貯蔵施設めぐる課題は

原発を持つ電力会社が「中間貯蔵施設」の建設を進めようとする背景には、日本の原子力政策の柱となっている「核燃料サイクル」の行き詰まりがあります。

「核燃料サイクル」では、使用済み核燃料は「資源」とされていて、再処理してプルトニウムなどを取り出して再び燃料として使うことが前提となっています。

しかし、再処理を行うことになっている青森県六ヶ所村の再処理工場は、トラブルや不祥事などで完成時期が大幅に遅れ、運転開始の見通しは不透明なままで、各地の原発で発生している使用済み燃料は行き場を失っているのです。

各地の原発にあるプールの容量もひっ迫しつつあり、このうち、国内最多の7基の原発を有する関西電力は、地元・福井県から使用済み核燃料を県外に搬出するよう求められています。

きっかけは、今から26年前の1997年に当時の福井県知事が「原発の恩恵を受けている消費地と痛みを分け合ってほしい」として関西電力に県外での中間貯蔵施設の建設を要望したことでした。

その後、歴代の福井県知事もこの方針を引き継ぎ、関西電力は、電気の販売エリアである関西地方などの自治体を中心に建設候補地を探してきましたが、決められずにいました。

そして現在の杉本知事が、全国で初めて運転期間が40年を超える原発の再稼働に同意する2か月前の2021年2月に、関西電力は「2023年末までに県外での候補地を提示できない場合は、40年を超えて運転する3基を停止させる」と約束しました。

3基とは、国内で現在もっとも古い高浜原発1号機と、来月、再稼働を計画している高浜原発2号機、それに、40年を超える原発で初めて再稼働した美浜原発3号機です。

関西電力は、ことし6月には、使用済み燃料のうち5%程度をフランスに搬出する計画を伝え、県との約束を果たしたという認識を示しましたが、福井県は「県民にはわかりにくく、具体性に乏しい」などとして、計画への賛否などを明らかにしていませんでした。

一方で、中国電力と共同で中間貯蔵施設の建設に向けた調査を行う方針を表明したあとは「関西電力の取り組みが進んでいる印象を持った。プロセスを見守っていきたい」と一定の評価を示しています。

ただ、上関町での建設に向けた調査にはボーリング調査などにおよそ半年かかるほか、実際の建設には山口県の同意も必要になることから、福井県に期限として示していたことし中に、建設候補地として提示することはできない見通しです。

専門家「核燃料サイクル政策 見直しを含めた議論を」

原子力委員会の元委員長代理で原子力政策に詳しい長崎大学の鈴木達治郎教授は、上関町が中間貯蔵施設の建設に向けた調査を受け入れたことについて、「突然出てきた話で透明性がない。上関原発がうまくいっていないことで地域振興のために地元の方は中間貯蔵を引き受けようという話になっている可能性が高いが、実現すればそれなりのメリットはあるかもしれないものの、不透明な立地の進め方だと現地での対立構造が消えず、地元の方々にとっても非常に不幸なことだ。なぜ中間貯蔵が必要かということについての基本的な理解がまずないと、なかなか理解が得られないのではないか」と話していました。

また、関西電力が共同で調査する方針を示していることについては、「中国電力と関西電力の思惑が一致したということだと思うがなぜ上関町に使用済み核燃料を持って行くことになったのかの説明が十分でなく透明性がない。どこでもいいから引き受けてくれる場所があれば持って行きますというやり方をしている限りは、今回の計画がうまくいったとしても不信感が残ってしまい、信頼を裏切るようなやり方だ」と指摘しました。

そのうえで、「再処理工場が動かない限り、使用済み燃料の行き先がはっきりしないので、本来の中間貯蔵の役割を果たせなくなる恐れもあるというのが立地を難しくしている原因だ。ずっと長く置かれることに対する不安ではないが、使用済み燃料が現地にとどまってしまう、下手すると半永久的に置いていかれるのではないかというのは嫌だと思う。核燃料サイクル政策そのものについて、見直しを含めた議論を行う必要があるのではないか」と話していました。