中国「恒大グループ」米裁判所に破産法適用を申請 巨額の債務

巨額の債務を抱えてデフォルト=債務不履行に陥っていた、中国の不動産大手、「恒大グループ」は17日、アメリカの裁判所に連邦破産法の適用を申請しました。アメリカで保有する資産を保全しながら、経営の再建につなげるねらいがあるとみられます。

負債総額 約48兆円

中国の不動産大手、「恒大グループ」は、中国国内をはじめアメリカなどからも大規模な資金調達を行い不動産開発を進めてきましたが、中国政府による規制強化などの影響で経営危機となり、デフォルトに陥りました。

7月に発表した決算では、去年が日本円でおよそ2兆円の最終赤字、おととしが9兆円余りの最終赤字と、2年連続で巨額の赤字に陥り、去年12月時点の負債総額は、48兆円余りにのぼることを明らかにしています。

こうした中、「恒大グループ」は17日、アメリカの裁判所に、連邦破産法15条の適用を申請しました。

適用されれば、アメリカ国内では、訴訟や資産の差し押さえなどを回避することができるようになるため、会社としては、アメリカで保有する資産を保全しながら、債権者との間で債務再編をめぐる交渉を進め、経営の再建につなげるねらいがあるとみられます。

ただ、債権者との交渉は難航しているとみられていて、再建に向けた道筋は不透明な状況です。

中国では、不動産市場の低迷が長期化する中、不動産会社や関連する企業の経営に対する不安が強まっていて、中国経済全体への影響も懸念されます。

開発中の現場は…

「恒大グループ」の多くのプロジェクトは、経営難に陥った結果、おととし2021年から各地で中断しています。

プロジェクトのうち、上海中心部から車で1時間余りの場所にある江蘇省太倉では2017年からテーマパークや商業施設とともにあわせて3万戸の高層マンション群の開発が進められてきました。

こちらのプロジェクトも2年前、工事が止まりました。開発を手がける企業によりますと、その後、工事は再開され、一部の購入者への引き渡しも行われたということです。

しかし、今日、現場を訪れると、一部のマンションでは住人の姿が見られましたが、空き地のままの場所が目立ち、建物の建設が完了していない様子もあちこちで確認できました。

また、テーマパークの予定地では放置されたままの洋風の建物が見られ、人が訪れる様子はなく、あたりには雑草が生い茂っていました。

1年近く遅れてことし5月からマンションに住み始めたという60代の男性は、「以前は上海にいましたが、上海のマンションは高くて買えないので、上海から近いこの場所にマンションを買いました。しかし、商業施設の中には何もありませんし、たばこも水さえも近くで買えません。不便なことばかりです」と話していました。

「恒大グループ」はサッカー競技場の土地の使用権の返還などを行い資金を集め、工事の再開や住宅の引き渡しを進めるとしています。

こちらは首都・北京の郊外にある大型の商業施設。この工事も、2年ほど前から中断されたままだということです。

この大型商業施設は恒大グループがすでに建設したマンションに併設する予定でした。

現場は誰でも入れる状態になっていて、エスカレーターや手すりなどが未完成のまま放置されているほか電気の配線がむきだしのところもあり、危険な状態です。

工事現場の近くで廃品回収をしているという女性は、「恒大グループのお金がなくなってここの工事も止まった。内装はけっこう進んでいたので関連業者の損失は大きかったようだ」と話していました。

SNSで批判相次ぐ

「恒大グループ」のアメリカでの破産申請が中国のネットメディアで伝えられたあと、中国のSNSでは一時、関連ニュースが検索ランキングでトップになりました。

目立ったのは「恒大グループ」への不満をあらわにした投稿です。

このうちSNSのウェイボーには、「中国国内の多くの庶民は購入した家の工事は止まったままだ。しかし、ローンの返済をしなければならない」とか「恒大グループの家を買った人は苦しんでいる。誰が庶民の権利を守るのか」といった書き込みが相次いでいます。

このほか、「バブルが吹き飛んだ」などと経済全体への影響を懸念する書き込みも見られます。

なぜアメリカで破産法申請?

今回、恒大グループは、アメリカで連邦破産法15条の適用を申請しました。

適用されれば、アメリカ国内で債権者からの訴訟や強制的な差し押さえなどを回避することができるようになります。

恒大は7月、負債の総額が去年末で2兆4374億人民元、日本円で48兆円余りにのぼることを明らかにしています。

会社では、不動産関連の事業の大半は中国国内で行っているとしていてアメリカ国内で保有する資産は限定的だとみられます。

一方、アメリカドルや香港ドル建ての債務も抱えていて債務の一部の返済などをめぐり債権者との、交渉が難航しているとされています。

このため、アメリカで連邦破産法15条を申請して、資産を保全し、債権者による差し押さえなどを回避することで、今後、債権者との債務再編についての交渉を進めるねらいがあるとみられます。

8月下旬には、債務再編の計画について、債権者との協議や投票が行われることになっていて、どこまで賛同を得られるかが当面の焦点となります。

恒大グループ “破産の申し立てではない”

アメリカで連邦破産法の適用を申請したことについて、恒大グループは18日夕方、コメントを発表しました。

この中で、恒大グループは、グループのアメリカドル建ての債券はニューヨーク州の法律に準拠しているとした上で、今回の申請について、「香港やバージン諸島といったオフショアの債務再編に関する通常の手続きであり、破産の申し立てではない」とし、経営破綻ではないと強調しました。

低迷続く中国不動産市場

中国の不動産市場は低迷が続いています。

7月15日に発表されたことし1月から7月までの不動産開発投資額は、前の年の同じ時期と比べて8.5%減少し、下落幅は、前の月(6月)までの7.9%から拡大しました。

また、16日に発表された先月の新築住宅価格指数は、主要70都市のうち49都市で前の月から下落。

下落した都市の数は前の月から11都市増え、全体の7割を占めました。

不動産関連企業の経営悪化で、住宅の建設が止まり、住宅の購入者への引き渡しが行われない事態も相次ぎ、消費者の間では購入を控えようという動きが広がっています。

中国の不動産は、関連産業も含めるとGDP=国内総生産全体の4分の1程度を占めると試算されていて、市場の低迷が中国経済全体に影響を及ぼしています。

7月17日に発表されたことし4月から6月までのGDP=国内総生産の伸び率は、去年の同じ時期と比べてプラス6.3%でしたが、前の3か月と比べた伸び率は、0.8%にとどまり、回復の勢いは大きく減速しました。

住宅販売の低迷に伴って、関連する家具や家電といった耐久財の消費も低調だったことが要因となりました。

中国では、企業の景況感や、若年層などの雇用環境が改善せず消費者の節約志向が広がっていて、不動産の関連企業の業績悪化が顕著になる中、市場の低迷はさらに長引くとの見方が強まっています。

中国政府は、不動産関連企業に対する金融支援の延長などの対策を打ち出しているものの、効果は限定的なものにとどまっていて、今後、追加の対策が打ち出されるかが注目されます。

専門家 “日本の景気回復へのマイナスも”

中国経済に詳しい丸紅中国の鈴木貴元 経済調査チーム長は、「恒大グループ」のアメリカでの連邦破産法の適用申請が中国経済に与える影響について、「中国の不動産不況が何らかの形で底を打ち、回復局面に行くと期待されていた中で今回の問題が起きたことでこれまで売り上げが落ちてこなかった企業についても破綻したり、資金問題が起きたりするケースが増えることは十分考えられる」と分析しました。

また、多くの投資家はリスクを一定程度織り込んで「恒大グループ」に投資しているとして、世界経済に大きな影響を及ぼすことはないとした一方、「中国の内需が冷え込むことによって世界の景気に悪影響を及ぼし、景気の下振れリスクが出てくる可能性はある。不動産の低迷から投資の下押しが起き、設備機械の輸出などが低迷することによって、日本の景気回復にマイナスになることが大きく懸念される」と指摘しました。

その上で、今後の見通しについて、「一時的に資産を保全し、債権者と話し合いをしながら業務整理を進めていくことになるが、非常に巨大な企業なので、どこまで債権者が納得するかなかなか難しいだろう。進め方によっては今後、中国のほかのデベロッパーの債権処理にも影響するので、納得のいく整理をどう進めるのか、大きなケースとして注目される」という見方を示しました。