ハワイ マウイ島 山火事1週間 死者は106人に 被害拡大の背景は

ハワイ・マウイ島の山火事は15日で発生から1週間となり、死亡が確認された人は106人に上っていますが、捜索を終えたのは被害を受けた地域全体の32%にとどまっています。

一方、被害が拡大した背景については、複数の要因が指摘されています。

捜索終えたのは被害地域の32%にとどまる

今月8日にマウイ島で起きた山火事では、強風にあおられて市街地に急速に燃え広がり、1週間たった15日現在で死亡が確認された人は106人と、アメリカの山火事の犠牲者としてはこの100年余りで最も多くなっています。

ハワイ州のグリーン知事は、14日のアメリカ・CBSテレビのインタビューで「臨時の通信回線を確保したことによって、連絡がつかない人は2000人台から1300人に減った」と述べました。

被害を調査しているPDC=太平洋災害センターによりますと、2200棟余りの建物が損壊し、そのうちの86%は住宅で、避難する必要がある人は4500人に上るということです。

また、地元の警察によりますと、15日現在で捜索を終えたのは被害を受けた地域全体の32%にとどまっているということで、焼け跡が広いうえに足場が悪いことなどから捜索活動は難航しています。

さらに、壊滅的な被害を受けた観光地のラハイナでは、およそ880万平方メートルが焼失し、火がほぼ消し止められたのは全体の85%と鎮火には至っていません。

外来種の植物 被害拡大の要因か

今回の山火事の被害が拡大した大きな要因と考えられているのがマウイ島をはじめハワイ州の島々で生息面積が広がっている、ギニアキビなど外来種の植物です。

13日の記者会見でアメリカ消防局のトップは、ラハイナを視察した所見として「火災は極めて速く広がった。雑草が火種になって地面に近いところで水平方向に広がり、どのような初期消火も追いつかない速さで建物から建物へと燃え広がった」と分析しました。

こうした外来種の雑草の危険性について今回の山火事が起きる前から指摘していたのがハワイ大学の研究者で、火災と生態系への影響を調べているクレイ・トラウアーニヒトさんです。

トラウアーニヒトさんはNHKの取材に対し「この5年ほど、現場の消防士たちからそれぞれの経験の中で火事の炎がより高温で速く燃え広がり、大きくなっているという話を聞くようになった」と話しました。

そして「ハワイで起きる火災に変化が起きている背景には外来種の草の生育面積が拡大していることがある。これらの草は簡単に着火し、驚くほど速く、高温で燃える」と指摘しています。

こうした外来種の草は、元々は牧草として島に持ち込まれたということで、近年、草の生育面積が広がった理由として2016年にマウイ島でサトウキビ栽培が終わるなどハワイ州の島々で農地面積が減ったことを挙げ「これらの草は耕作をやめた場所を埋めるように広がっていく」と述べました。

トラウアーニヒトさんは今回の火災の教訓として「農業に対する社会的な投資を改めて増やすために何ができるか考えるということだ。地主、土地の利用者、コミュニティーで取り組む必要がある」と提言しました。

複数の要因が重なり被害拡大の見方も

一方、被害が拡大した背景についてAP通信は、専門家の見方として、マウイ島で乾燥した日がことし5月末ごろから続く中、急激なスピードで乾燥が進む「フラッシュ干ばつ」に見舞われ、燃え広がりやすい状態になっていたのではないかと伝えています。

また、アメリカの複数のメディアは、ハワイの南を通過していたハリケーンによる強風で切れた送電線が火元になった可能性を指摘しています。

加えて、有力紙のニューヨーク・タイムズは、消防士などの話として、火災で水道管が破損して消火栓から水が出なくなったため役に立たなかったと伝えていて、複数の要因が重なって被害の拡大につながったという見方も出ています。

バイデン大統領「過去100年で最悪」 近く現地を視察へ

アメリカのバイデン大統領は、今回の山火事について10日、大規模災害にあたると宣言し、連邦職員や軍を派遣して行方不明者の捜索や自宅を失った人たちへの避難場所の提供など支援にあたっています。

さらにバイデン大統領は15日に行った演説で「過去100年以上で最悪の山火事だ。街を破壊し、長く続いてきたハワイ先住民の歴史を荒廃させた」と述べ、支援を続けていくと強調しました。

そして「できるかぎり早くハワイを訪問する」と述べ近く、現地を視察する考えを明らかにしました。

被害地域への立ち入りめぐり混乱 行政の対応が二転三転

マウイ島では山火事のあと壊滅的な被害を受けたラハイナを含む島の西側への立ち入りをめぐり混乱が続きました。

警察は火災が起きて以降、安全を確保するためとして島の西側につながる道路を通行止めにして立ち入りを厳しく制限しています。

12日にはラハイナの住民を対象に一時的な立ち入りを認めると発表しましたが、ラハイナに向かう道路は車が数キロにわたって渋滞し、警察は混乱が生じたとしてその日のうちに住民の通行を禁止しました。

その2日後には、住民などの規制区域への立ち入りを円滑に進めるためとして通行証の発行を始め、受け取り所では住民が朝から車で長い列を作りました。

しかし、警察は発行開始から1時間で、対象ではない人が大勢訪れているとして通行証を使う方法自体を取りやめました。

マウイ島の被災した人たちからは、行政の対応が二転三転する中、自宅に思うように戻れないとして、行政当局を批判する声も上がっています。

自宅に戻れないラハイナの人たちは

マウイ島中心部にある郵便局では、立ち入りが禁止されて自宅に行くことができないラハイナの人たちなどが郵便物を受け取るために建物の外に並ぶ姿が見られました。

このうちラハイナ出身の男性は「住んでいた家は、焼け落ちてしまいました。何か残っているものがないかと街に戻りましたが何もありませんでした。わたしは妻の祖母の家で暮らしていたのですが、4世代が暮らした家だったので本当に残念です」と話していました。

そして「まだ行方のわからない友人も大勢います。地域の人たちができることをしようと力を合わせてくれています。なにが起きたかを考えるよりどうやってより早く再建するかを考えたいと思います」と話していました。

また、同じくラハイナにある自宅が焼失したという別の男性は「私は義理の兄の家に身を寄せることができたので幸運でした。ラハイナに戻ることができるまで相当な時間がかかるようなので、どこかに住まいが見つけられればと思っています。すべてやり直しなので人生が変わってしまったかのようです。このシャツくらいしか持ち物はなく、何もなくなってしまいました」と話していました。

そして「もちろんもどかしさを感じますが、私たちはたくさんの支援を受けています。人々はとても親切で、避難所も申し分ありません。これ以上を望むことはできません」と感謝を述べていました。

ツアー会社営む日本人「街は一変 生活再建への不安大きい」

マウイ島でツアー会社を営む日本人の男性は「爆弾が落ちたように街は一変してしまった。今後の生活再建への不安は大きい」などと心境を語りました。

マウイ島で20年間、星空観測ツアーの会社を営む山内良和さん(64)は壊滅的な被害を受けた観光地ラハイナの近くに住んでいますが、自宅は火災を免れて無事で、16日、取材に応じました。

山内さんによりますと、ラハイナは1週間たった現在も封鎖され行方不明者の捜索が続いており、それ以外の地域でも通信状況が悪く、携帯電話やインターネットがつながりづらい状況だということです。

現地の被害について「ラハイナは日本の京都・奈良のように伝統的な建物が多くある場所だったのですが、まるで爆弾が落ちたように街が変わってしまい多くが焼失してしまいました。当時、火が横に飛ぶほどの強風が吹いていて、あっという間に燃え広がってしまったと聞いていて、現地の日本人の中には自宅や職場が燃えてしまった人もいます。今は自宅を失った人の多くが一時的に島内のホテルや島の外の避難所に身を寄せています」と話していました。

発生から1週間がたった中で、心配しているのは主要産業の観光業への影響だといいます。

今回の火災で観光客が激減し、山内さんの会社でもツアー予約の多くがキャンセルになったということです。

山内さんは「今は来てくださいと言える状況ではないが、影響が長期化すると観光業に従事する多くの人にとって仕事がない状況が続いてしまう。島民の生活をどう再建していけばいいのか今後への不安は大きいが、どうにかして早く復興させるしかない」と話していました。

観光客少なくとも4万6000人が島外に避難

山火事の被害を受けてハワイ州はマウイ島西部から観光客を避難させていて、地元当局によりますと、これまでに少なくとも4万6000人が島外に出たとしています。

こうした中、ハワイ州は、マウイ島内のホテルのおよそ500室を避難している人や災害への対応にあたっている関係機関の人たち向けに確保しています。

一方、観光客が減ったことに伴い、島内のレンタカー会社の利用者も大幅に減り、マウイ島の空港近くの空き地には貸し出されるのを待つレンタカーが数多く駐車されています。

マウイ島でレンタカー会社を経営するロビー・スウィフトさんの駐車場には、所有するおよそ60台のレンタカーのほとんどが貸し出されないまま、とめられてます。

スウィフトさんは「ふだんはほとんどの車が貸し出されて、駐車場には3、4台しかありません。観光客の少ない閑散期でも置いてあって5、6台です。予約が次々にキャンセルされていくのはコロナ禍が始まったときの感じと似ています。マウイの被災していない地域は美しい場所であることに変わりありません。コロナの時ほどひどいことにならなければよいと思っています」と話していました。