米トランプ前大統領の起訴めぐり 与野党の政治的対立も鮮明に

アメリカのトランプ前大統領は、おととし連邦議会に支持者らが乱入した事件をめぐり、大統領選挙の結果を覆そうとしたとして起訴されました。与党・民主党が「民主主義にそむく犯罪だ」として責任の追及を求める一方、トランプ氏ら野党・共和党は、司法権の乱用だと反発していて、政治的な対立も鮮明になっています。

アメリカでは、おととし1月に連邦議会議事堂にトランプ前大統領の支持者らが乱入した事件をめぐり、司法省が特別検察官を任命してトランプ氏の関与について捜査を続けてきました。

こうした中、首都ワシントンの連邦大陪審は1日、3年前の大統領選挙の結果を覆そうとしたとしてトランプ氏を起訴しました。

トランプ氏は、事実でないと知りながら「選挙で不正があった」などと主張し、選挙結果を確定する手続きを故意に妨げたとして、国家を欺こうとした罪などに問われています。

スミス特別検察官は、議会への乱入事件について「アメリカの民主主義に対する前代未聞の攻撃だ」と述べ、トランプ氏の虚偽の主張が事件につながったと指摘しました。

起訴を受けて、与党・民主党の議会指導部は声明を出し、「民主主義にそむき、アメリカ国民の意思を覆すために前大統領が主導した犯罪の企てだ」として、責任の追及を求めました。

一方、来年の大統領選挙に立候補を表明しているトランプ氏は、起訴は選挙妨害を目的とした司法権の乱用だと反発しています。

また、野党・共和党のマッカーシー下院議長も「司法省は共和党の最有力候補のトランプ氏を攻撃しようとしている」と批判するなど、起訴をめぐって政治的な対立も鮮明になっています。

起訴状 “うそや不正で民主主義の根幹損ねようとした”

アメリカ大統領選挙は、各州で行われる投票の結果、選出される選挙人により、新しい大統領が選ばれますが、副大統領が議長を務める上下両院の合同会議が選挙人の投票を集計し、選挙の結果を確定します。

起訴状は、こうした手続きについて、「アメリカの民主主義の根幹であり、2021年までは、平和的、かつ、整然と機能してきた」としたうえで、「トランプ氏は、うそや不正によって、こうした機能を損ねようとした」と厳しく非難しました。

具体的には、トランプ氏と弁護士ら6人は共謀して、西部アリゾナ州や南部ジョージア州など7つの州で、偽の選挙人を組織し、正当な選挙人だと書類に署名させたとしています。

また、当時のペンス副大統領が選挙結果を確定させる手続きに関与する役割を担っていることを利用して、選挙結果を覆すため、ペンス氏の協力を取り付けようとしたとしています。

その試みが失敗すると、選挙結果の確定手続きを妨害し、ペンス氏に結果を覆すよう圧力をかけるため、集まっていた支持者たちを議会議事堂に向かわせたとしています。

また、起訴状はトランプ氏について、「選挙で敗北したにもかかわらず、権力の座にとどまろうとした」としたうえで、事実でないと知りながら、「大統領選挙に不正があった」と主張したと指摘しています。

その根拠として、ペンス氏やホワイトハウスの弁護士らがトランプ氏に対し、「不正の証拠はない」と伝えていたことや、司法省の幹部もトランプ氏の主張は裏付けがないと繰り返し述べていたことを挙げています。

そのうえで、トランプ氏について、
▽国家を欺こうとした罪や、
▽公的な手続きを妨害しようとした罪など、
合わせて4つの罪で起訴したとしています。

共和党 反発も ペンス前副大統領 トランプ氏を改めて非難

野党 共和党のマッカーシー下院議長は、来年の大統領選挙に立候補を表明しているトランプ前大統領が起訴されたことについて、「世論調査でトランプ氏はバイデン大統領の有力な政敵であることが示されている。司法省は共和党の最有力候補のトランプ氏を攻撃しようとしている」とSNSに投稿し、反発しました。

また、共和党内で大統領候補としてトランプ氏に次ぐ支持を集める、フロリダ州のデサンティス知事は「私は大統領として政府の武器化を終わらせ、FBI=連邦捜査局の長官を交代し、すべてのアメリカ人に公平な司法を確保するつもりだ。私たちの国が衰退している理由の1つは、法の支配が政治化されていることだ」と投稿し、政治的な思惑を背景に起訴が行われたという認識を示しました。

一方、当時、バイデン大統領の当選を正式に宣言する役割を担ったペンス前副大統領は「今回の起訴は、憲法よりも自分自身を優先するような人物は大統領になってはいけないという重要な注意喚起となる」と投稿し、自身に対し選挙結果を認めないよう迫ったトランプ氏を改めて非難しました。

民主党 改めて非難“トランプ氏が主導した犯罪企ての結末”

トランプ前大統領が起訴されたことについて、民主党の上院トップ、シューマー院内総務と下院トップ、ジェフリーズ院内総務は連名で声明を発表し、「あの日の暴力が民主主義にそむき、アメリカ国民の意思を覆すためにトランプ氏が主導した数か月にわたる犯罪の企ての結末だったことを細部にわたって示している」として、トランプ氏を改めて非難しました。

そのうえで、「今回の起訴は、これまでで最も深刻で重大なものであり、大統領を含めて誰1人、法の支配を免れるものはいないということを思い起こさせるものだ」としたうえで、今後の法的な手続きが、外部の干渉を受けることなく進む必要があるという認識を示しました。

バイデン大統領は今回の起訴について、これまでのところ反応を示していません。

トランプ氏 高い支持率保つ

調査会社「モーニング・コンサルト」が、来年の大統領選挙に向けて行っている世論調査によりますと、トランプ氏の共和党内での支持率は7月30日時点で58%となっていて、ほかの候補者を大きく引き離しています。

続くフロリダ州のデサンティス知事は15%にとどまっています。

トランプ氏は、ことし3月に不倫の口止め料をめぐる事件で起訴されたあとも支持を伸ばしています。

また、6月に機密文書をめぐる事件で起訴されて以降も、高い支持率を保っています。

トランプ氏は、2度目に起訴されたあとの6月10日に行った演説で、「起訴されると私の支持率はあがる」などと述べています。