万博開幕まで2年 建設業界 “工事の具体的な計画を速やかに”

大阪・関西万博の開幕が2年後に迫る中、建設業界は、海外パビリオンなどの建設を間に合わせるには工事の具体的な計画を速やかに示してもらうことが必要だとしています。

ゼネコンなどで作る「日本建設業連合会」の宮本洋一会長は、先月21日の定例会見で「適正な予算と工期が示された具体的な発注が一日も早く来ることを期待している」と述べ、外国政府が詳細な設計を急ぎ、速やかに発注すべきだという考えを明らかにしました。

こうした背景には、国内で建設の受注が増加傾向となるなか、資材が高騰していることや、調達そのものが難しくなっていることがあります。

「建設物価調査会」が行った都市ごとの建設資材価格の調査によりますと、ことし7月の大阪市での鉄鋼の価格は、2020年の平均と比べて1.5倍以上に上昇しています。

高層ビルの建設などに必要な「鉄骨」は、調達に半年以上かかるケースもあるほか、仮にパビリオンが複雑なデザインだった場合、特注する必要もあり、調達にさらに時間がかかることも予想されるということです。

また、建物の骨格が完成したあとに行われる空調や電気設備といった工事を担う技術者が不足する懸念もあります。

連合会によりますと、国内では、このところ大規模な半導体工場やデータセンターの建設が各地で相次いでいることから、空調や電気設備の技術者が特にひっ迫しているということです。

さらに、建設業界では来年4月から時間外労働の規制が強化されることから人手不足が一層深刻になることも予想されています。

建設業界は開幕に間に合わせるためには十分な工期を確保することが不可欠だとして、博覧会協会に対して工事に関する情報の開示を求めるとともにパビリオンを建設する予定の外国政府に対しても速やかな発注を求めています。

専門家「この1~2か月が正念場」

日本総合研究所関西経済研究センターの藤山光雄副所長は、「タイプA」のパビリオンの建設に向けて必要な書類を提出したのが韓国だけとなっている現状について「来月ぐらいまでの間に申請が出そろわないと開幕までに建設が間に合わないということが現実になりかねず、この1~2か月が正念場になるだろう。各国の希望や現実的なコストを踏まえて、国や博覧会協会がもっと前面に出て積極的に調整する必要がある」と指摘しています。

そのうえで「『とりあえず開幕に間に合わせた』ということにならないようにする必要がある。万が一、魅力のない万博になってしまうと、コストをかけたにもかかわらず成果が得られないことになりかねない。中身を充実させる取り組みも求められることを忘れてはならない」と話していました。

大阪市 担当部署の職員増やし対応も

大阪市は、パビリオンの建設に向けた手続きを迅速に進めることができるよう、昨年度から、担当の部署の職員を従来よりも3人増やして対応にあたっています。

また、パビリオンを対象として、許可の基準をあらかじめ公開しているということです。

大阪市によりますと、通常であれば、基本計画書の提出から建設許可が下りるまでには3か月程度かかるということですが、こうした対応によって、この期間を1か月半から2か月ほどにまで短縮できると見込んでいるということです。

韓国の関係者「最初の段階を踏んだだけ」

大阪市や関係者によりますと、「万博の華」とされる「タイプA」のパビリオンを建設する方針の50余りの国や地域のうち、1日までに建設に必要な書類を提出したのは韓国だけです。

韓国の関係者は、NHKの取材に対し「あくまでもパビリオンを建てるための最初の段階を踏んだだけ」だとしています。

そして、現在の状況について、「施工業者を決めて建設工事を進める段階まで進んでいるわけではない」としています。

韓国は、2030年の万博を第2の都市・プサン(釜山)で開催しようと誘致活動を続けていて、大阪・関西万博では独自のパビリオンで文化や技術力などをアピールする計画です。

工事請け負う建設会社「どれだけの量の工事あるか見えない」

ことし6月から万博施設の鉄筋工事を一部、請け負っている大阪の建設会社の岩田正吾代表取締役によりますと、現場では、おおよそ20%から30%ほどの人員が不足しているということです。

さらに、この夏の厳しい暑さに加え、現場に資材などを運ぶための橋が少なく作業効率が低下しているということです。

そのうえで、海外のパビリオンの建設に向けた準備が遅れていることについては「建設の仕事というのは与えられたミッションをいついつまでにこなすという世界なので、問題の一番は、世間で心配されている工期に間に合うかどうかということ以前に、そもそもどれだけの量の工事があるのか見えていないことだ」と話しています。

また、来年からは時間外労働の規制が強化される「2024年問題」を控え、これについては「建設業者は何とか間に合わせるよう頼まれることが多く、これまでは無理して間に合わせてきた面もあるが、今後はもう八方塞がりだ。結果的に万博ができなくなってしまうんじゃないかと非常に不安だ。国のプロジェクトとして万博を成功させるためにどうすればいいのか、強いリーダーシップを持って方向性を示してもらう必要がある」と話しています。

吉村知事 “海外パビリオン建設に新しい選択肢も”

大阪府の吉村知事は記者会見で、大阪・関西万博の海外パビリオンの建設手続きが遅れていることについて、「冷静に見極めて、参加国が設計から建設までを自前で行う『タイプA』で、できるところはやってもらいたいし、難しいのであれば、早い段階で、『タイプA』と、博覧会協会が建物を建築し、参加国が建物を借り受けて単独で入居する『タイプB』の間のような新しい選択肢を早めに示し、その国が表現したい未来社会がパビリオンで展示できるようにしていくべきだ」と述べました。

そのうえで、「2025年4月に開幕する予定でみんなが動いているので、遅らせるつもりはない」と述べました。

海外パビリオンの遅れ 博覧会協会が対応急ぐ

「タイプA」と呼ばれる海外パビリオンの建設準備が遅れていることから、万博の実施主体の博覧会協会は対応を急いでいます。

準備が遅れている背景には、建設資材や人件費の高騰に加えて、各国のパビリオンの複雑なデザインがあると指摘されています。

このため協会は、参加国と建設業者の間の予算面でのギャップを埋めるため、参加国に対して、予算の積み増しや、デザインの簡素化によるコスト削減などの提案を行っています。

また、建設に向けた手続きや実際の工事をスムーズに進めるための対策も始めていて、参加する国や地域ごとに担当者を配置したほか、建設に詳しく、外国語に対応できる人材を置いたサポート窓口を今後、新設することにしています。

さらに「突貫工事」となった場合は、工事関係者を会場の夢洲に運ぶための通勤バスの増便などを検討するとしています。

このほか特に準備が遅れている国や地域に対して、あらかじめ別の場所でつくったパーツを現地で組み立てる方法で協会側が建物を建てる案も提示しています。

この案では、内外のデザインは参加国に委ねることを基本とし、建設にかかる費用は負担してもらうことにしています。

ただ、この場合「万博の華」とも呼ばれる海外パビリオンの独自性が損なわれてしまうおそれもあります。

協会では「タイプA」を建設する方針の国や地域に対し、作業の進捗(しんちょく)状況について聴き取りを進めていて、今月末までに実情を把握したい考えです。

その上で、それぞれの意向や進捗状況などに応じて対応策を講じていくことにしています。

一方、建設に向けた準備が遅れていることをめぐって西村経済産業大臣は先月28日、万博の工事について来年4月から建設業界で始まる時間外労働の上限規制の適用外にできるかどうかを議論していることを明らかにしました。

これに対して、加藤厚生労働大臣は「単なる業務の繁忙については認められないと認識している」と述べたほか、大阪府の吉村知事も「現時点では『ルールの中で何ができるのか』ということを考えるべきだ」と述べるなど慎重な意見が相次ぎました。

関西経済同友会代表幹事「魅力減らないよう努力を」

大阪・関西万博では、50余りの国や地域がみずから費用を負担してパビリオンを建設することになっていますが、準備の遅れが指摘されていて、博覧会協会は、特に手続きが遅れている国や地域に対して、協会側が組み立て式で建物を建てる選択肢を提示するなど対応を進めています。

これについて、博覧会協会の副会長を務める、関西経済同友会の角元代表幹事は2日の記者会見で「当初、考えていたパビリオンがつくれれば百点満点だが、一方で期限もある。当初、思っていた形でなくても工夫の余地はあるはずなので、関係者は万博の魅力が減らないよう努力してほしい」と述べました。

また、1850億円になると見込まれる会場建設費をめぐり、資材高騰の影響などでさらに上振れするとの懸念が出ていることについて、角元代表幹事は「さらに建設費が上振れするという話は聞いていない。経済界としては3分の1の負担に向けて走り回っているのでこれ以上の負担は難しい。今の予算の中で工夫してやってほしいということに尽きる」と述べました。