【詳細】日銀会見 長期金利の変動幅 運用柔軟化のねらいは

日銀は、28日まで2日間開いた金融政策決定会合で金利操作の運用を見直し、これまで0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限について、市場の動向に応じて0.5%を超えることも容認し、金利操作をより柔軟に運用することを決めました。

記者会見での植田総裁の発言の詳細をお伝えします。

15:30 日銀 植田総裁の会見始まる

日銀の植田総裁の会見が午後3時半から始まりました。

植田総裁は「長期金利の変動幅はプラスマイナス0.5%程度を維持した上でイールドカーブ・コントロールをより柔軟に運用する」などと今回の決定内容を説明しました。

「粘り強く金融緩和を継続する必要がある」

今回の会合で日銀は金利操作の運用を見直しましたが、その理由について植田総裁は「賃金の上昇を伴う形での2%の物価安定の目標の持続的安定的な実現を見通せる状況にはなっておらず、イールドカーブ・コントロールのもとで粘り強く金融緩和を継続する必要がある。経済・物価をめぐる不確実性が極めて高いことに鑑みると、この段階でイールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化し上下双方向のリスクに機動的に対応していくことで、この枠組みによる金融緩和の持続性を高めることが適当であると判断した」と述べました。

「長期金利1%までの上昇想定していない 念のための上限」

植田総裁は長期金利の上限について認識を問われると「ここまでの足元の長期金利の動きを見ると、0.5%を下回る水準でわずかだが推移してきている。今後、仮に0.5%を超えて動く場合には長期金利の水準や変化のスピードなどに応じて機動的に対応することになる」と述べました。

その上で「そうしたもとで長期金利が1%まで上昇することは想定していないが、念のための上限、キャップとして1%としたところだ」と述べました。

「2%の物価安定の目標の実現 見通せる状況には至らず」

植田総裁は「ことしの春の労使交渉で賃上げは昨年を大きく上回るものが実現し、企業による価格転嫁の動きには変化の兆しが見えている。ただ現時点では2%の物価安定の目標の持続的・安定的な実現を見通せる状況には至っていないと考えている。目標の実現に向けて変化の芽を大事に育てていくことが重要だと考えている」と述べました。

「基調的な物価上昇率が2%に届くにはまだ距離がある」

植田総裁は今後の物価の見通しについて「当面はインフレ率が下がっていき、どこかで底を打ってまた上がってくるという見通しを持っているが、まだなかなか自信がない面もある。基調的な物価上昇率が2%に届くというところにはまだ距離があるという判断は変えていない」と述べました。

「今回の措置は前もってリスク対応を考えての措置」

植田総裁は今回の政策の修正が緩和の縮小にあたるのか、認識を問われると「上振れリスクが顕在化してから何か対応するということだと後手に回って、すごい混乱してしまったり、あるいは副作用が大きくなる、あるいは最悪の場合にいやいやイールドカーブ・コントロールを離脱するというリスクもゼロではない」と述べました。

その上で「今回の措置は前もってリスク対応を考えての措置で、イールドカーブ・コントロールの持続性を高め、金融緩和全体の枠組みの持続性も高める。物価目標達成に資する措置だと考えている」と述べました。

「柔軟化と書いているが修正とそれほど意味は違わない」

植田総裁は今回の決定は政策の修正なのかという質問に対し「柔軟化というふうに公表文には書いているが、それは修正とそれほど意味は違わない」と述べました。

「市場の見方がもう少し反映される余地を広げる措置」

植田総裁は今回の措置について、長期金利の形成を一定程度市場に委ねるものなのかと問われると「基本的には程度の問題はあるがイエスだ。経済物価情勢が上振れた場合にそれを反映する形で長期金利が上がっていくことについては0.5と1の間でそれを認める。そこに上昇していくことを容認しようという姿だ」と述べました。

その上で「イールドカーブ・コントロールを完全に自由にするなら、YCCの撤廃に近いわけだが、そうではなくてスピード調整などを入れつつ、根拠のない投機的な債券売りのようなものがあまり広がらないような形でコントロールをしつつ、しかしベースとしては市場の見方がもう少し反映される余地を広げようという措置だ」と述べました。

「副作用避けるため 前もって手を打っておく意味合い」

植田総裁は「現状で金利が1%に到達するのが適当とは考えていない。将来、今の物価の見通しから上振れた場合やリスクが顕在化した時に、長期金利が0.5%を超えて上昇する余地を前もって作っていこうというための修正ないし柔軟化だ。なぜ今やるのかというと、そういうリスクが目に見えてたところでやろうとすると極めて副作用が強くなる。それを避けるために前もって手を打っておこうという意味合いだ」と述べました。

「長期金利を1%より上に調整するかは物価経済情勢次第」

植田総裁は長期金利の上限をさらに引き上げる可能性があるか問われたのに対し「長期金利が1%に迫ってきた時にさらに上に調整する可能性があるかについては、そのときの物価経済情勢次第でどうするかということを改めて考えるというふうにお答えするしかないと思う」と述べました。

「今回の決定はYCCの持続性を高める動き」

植田総裁は今回の決定について「これは政策の正常化へ歩みだすという動きではなく、YCC=イールドカーブコントロールの持続性を高めるという動きであるということは、繰り返し申し上げてきたとおりだ」と述べました。

「マイナス金利の引き上げ まだだいぶ距離がある」

植田総裁はマイナス金利の扱いについて「基調的なインフレ率がまだ2%に達していないので、マイナス金利をそこから引き上げて短期の政策金利を引き上げていくというところには、まだだいぶ距離があると思っている」と述べました。

「金融市場の変動を抑える中で為替市場の変動も考えている」

植田総裁は、今回の決定は為替の変動についても考慮したのかと問われたのに対し「日本銀行としては当然だが、為替をターゲットとしていないことに変わりはない。ただ、副作用の話をするなかで金融市場のボラティリティー=変動をなるべく抑えるというところの中に、今回は為替市場のボラティリティーも含めて考えている」と述べました。

「インフレ期待の変化などが予想を超える物価上昇につながった」

植田総裁は物価見通しが上振れし続けている理由について問われると「インフレ期待が変わってきたとか、物価、賃金設定のノルムが変わってきたとか、そういうことが少しずつは起こってきて予想を超える物価上昇につながり、それを必ずしも当てられていないということだと思う」と述べました。

その上で「今後はその点について、もう少しきちんと見ていきたいと思う」と述べました。

16:30 日銀 植田総裁の会見終了

日銀の植田総裁の会見は午後4時半に終了しました。

日銀 植田総裁会見の注目点

【長期金利の事実上の上限は1%?】
今回、日銀は長期金利の変動幅の上限について「0.5%程度をめど」としより柔軟に運用することを決めました。

これにより市場の動向に応じて長期金利が0.5%を超えることも容認する形となります。

会見のポイントは日銀が長期金利の上昇をどこまで許容するのかという点です。

これについて日銀は、10年ものの国債金利について1%の利回りでの金融市場調節を行うとしていますが、事実上、長期金利の上限を1%と見ているのかどうか、そしてこれを超えそうな場面では国債を大量に買い入れて金利を抑え込むという対応をとるのか、この「1%」の意味について植田総裁がどう説明するのかがポイントとなります。

【正常化に向けた地ならし?】
第2に、今回の決定がさきざきの正常化に向けた地ならしなのかという点です。

日銀は、大規模な金融緩和を継続する姿勢を示していますが、物価が想定より上振れて推移する中で、今後、金利の上昇圧力が高まれば国債を大量に買い入れて金利を抑え込むことを迫られます。

日銀は今回の金利操作の見直しは金融政策の持続性を高めるねらいがあるとしていますが、この先の金融政策の正常化を見据えた対応なのか、さらに、イールドカーブ・コントロールと呼ばれる金融政策の枠組みの見直しも視野に入っているのかこれについて植田総裁がどう発言するのか注目です。

【物価の見通し】
日銀は28日の会合にあわせて3年間の物価見通しを公表し、今年度の消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、前の年度と比べてプラス2.5%と、前回・4月に示したプラス1.8%から大きく引き上げました。

一方、2024年度はプラス1.9%と前回より引き下げ、2025年度については前回と同じプラス1.6%としています。

先月の会見で植田総裁は、物価の先行きについて「企業の価格設定や賃金引き上げの影響含め、不確実性は極めて高い」と述べていましたが、今回示した物価の見通しについてどういう認識を示すのか、そして2%の物価安定目標にどこまで近づいたと見ているのか、こうした点もポイントとなります。

当面の金融政策運営のポイント

今回、日銀が決定した当面の金融政策運営のポイントです。

短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度とするイールドカーブ・コントロールと呼ばれる大規模な金融緩和策の枠組みについては維持しました。

その上で、金利操作の運用を見直し、これまで「0.5%程度」としてきた長期金利の変動幅の上限について「0.5%程度をめど」とし、より柔軟に運用することを決めました。

これにより市場の動向に応じて長期金利が0.5%を超えることも容認する形となります。

そして、10年ものの国債金利について1%の利回りでの金融市場調節を行うなど大規模な国債の買い入れを継続するとしています。

日銀は大量の国債を市場から買い取って金利を抑え込んでいますが、今後は変動幅の上限を柔軟に運用することで金融緩和策の持続性を高めるねらいがあります。

また、日銀は28日の会合にあわせて3年間の物価見通しを公表し、今年度の生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、前の年度と比べてプラス2.5%と、前回・4月に示したプラス1.8%から引き上げました。

一方、2024年度はプラス1.9%と前回より引き下げ、2025年度については前回と同じプラス1.6%としています。