三越伊勢丹に約7億円 追徴課税 免税品の販売めぐり 東京国税局

免税品の販売をめぐり、また、大手デパートに追徴課税です。日本を代表する老舗、デパート大手の三越伊勢丹が客の本人確認を怠るなど、不適切な免税品の販売を繰り返していたなどと東京国税局から指摘され、およそ7億円を追徴課税されていたことが、関係者への取材でわかりました。

追徴課税を受けたのは、デパート大手の「三越伊勢丹」です。

外国人旅行者などに免税品を販売する事業者は、客にパスポートなどを提示させて本人確認を行い、買った免税品は必ず国外に持ち出さなくてはならないことを告知してから販売することなどが求められています。

しかし実際には、こうした確認や手続きが徹底されず、店で販売された免税品が、国内で転売されるケースが相次いでいます。

関係者によりますと、東京国税局の税務調査の結果、三越伊勢丹の「伊勢丹新宿店」などで、客の本人確認を怠るなど不適切な免税での販売が繰り返されていたとみられることが、わかったということです。

中には、日本に半年以上滞在し、制度上、免税品を売ることができない外国人や、提示されたパスポートとは異なる人物が、多数の商品を買い求めるなど、転売目的が疑われるにもかかわらず、免税での販売を行っていたケースがあったということです。

東京国税局は三越伊勢丹に対し、去年3月までの3年間に、本来徴収するべきだった消費税およそ6億4千万円を「申告漏れ」として指摘し、重加算税や過少申告加算税を含むおよそ7億円を追徴課税したということです。

インバウンド需要が拡大する中、大手デパートが、免税品の不適切な販売によって追徴課税を受けるケースがこのところ相次いでいて、NHKの取材に対し、三越伊勢丹ホールディングスは「東京国税局から指摘を受けて、修正申告いたしました。国税当局からの指摘を真摯に受け止め、より厳格な免税販売に努めます」とコメントしています。

大手デパートなどへの追徴課税 相次ぐ

なぜ、大手デパートへの追徴課税が、相次いでいるのか。

日本では、インバウンド需要で、免税品の市場が拡大する一方、安く購入した商品を国内で転売して報酬を得るなどの不正が確認されています。

国は、不正が明らかになった場合、免税品を店で買った本人だけでなく、買い取った転売業者にも納税を義務づけるなど対策を強化しています。

こうした中、国税当局は免税品を買う客や転売業者だけでなく、免税品を販売する事業者の対応にも着目しています。

店舗の窓口での確認などが徹底されていないことも不正が広がる1つの要因ととらえているからです。

去年12月には、アメリカのIT大手、アップルの日本法人が、国内の直営店で、転売目的が疑われる相手に確認不十分なまま免税販売を繰り返していたなどと東京国税局から指摘され、およそ140億円の追徴課税を受けています。

このほか、去年から7月にかけて、大手デパートの「そごう・西武」、「大丸松坂屋」、「阪急百貨店」「阪神百貨店」、流通大手「イオン」のグループ会社などが、同様の指摘を受け、相次いで追徴課税されていました。

免税品の市場規模拡大 対象品目の指定を撤廃

インバウンド需要を取り込もうと日本の免税品の販売は、2014年、対象品目が従来の家電・衣料品などから、化粧品・食料品などの消耗品にも広げられ、2018年には、対象品目の指定が撤廃されました。

免税品の市場規模は、コロナ禍でいったん縮小したものの日本百貨店協会が公表したデータでは、6月の売り上げは、化粧品や高級ブランド品などを中心に全国のデパートで合わせておよそ280億円にのぼり、コロナ過前の2019年の同じ月とほぼ同じ水準にまで回復しています。

政府はことし3月に閣議決定した観光戦略の基本計画で、できるだけ早い時期に年間5兆円のインバウンド消費を目指す方針を掲げ、免税品の販売拡大を図ることにしています。

東京 千代田区のJR秋葉原駅近くにある免税店では、国内ブランドの腕時計やお土産品などの販売が好調で、今週も多くの外国人観光客でにぎわっていました。

店では、免税の対象となる合計5000円以上の商品を購入した客に、会計の際にパスポートの提示を求めて、本人確認や入国時期の確認をしています。

専用の端末で情報を読み取って記録し、出国するまで「TAX FREE」と書かれた袋から商品を出してはいけないことなどを丁寧に説明していました。

40代のフランス人の男性は「日本のメーカーの腕時計を買いに来ました。日本は免税の手続きの際に自分で書類を書いたりしなくていいので、楽だと思います」と話していました。

この店を経営し、大手デパートなどが加盟する全国免税店協会の会長も務める阿部英行さんは「ルールが守れるのならば、日本の免税制度は顧客本位であるという意味でもよいシステムだと思う。一方で不正が横行するのはよくないし、不適切な運用が発覚した場合はそれなりのペナルティが与えられて当然だ。今の制度を何かしら変更することも必要なのではないか」と話していました。

専門家「性善説に基づく 悪用する人たちの逃げ得に」

元札幌国税局長で、租税や税制度に詳しい猪野茂税理士は、免税品をめぐる不正が続く背景の1つとして、「日本独特の免税制度」を挙げています。

ヨーロッパ諸国や韓国、オーストラリアなど、消費税の免税制度がある多くの国では、購入時に税を支払った上で、出国の際の手続きで還付を受ける「リファンド方式」と呼ばれる制度がとられています。

最初から免税で購入できる現在の日本の制度は世界でも珍しく、猪野税理士は「買う人にとって利便性が高く、外国人旅行者にも好意的に受け止められているが、確実に国外に持ち出すことを前提とする“性善説”に基づいていて、転売目的で悪用しようとする人たちの“逃げ得”につながってしまうケースがあるのも実情だ」としています。

猪野税理士は、大手デパートなど大企業を含む事業者側にも免税品の不適切な販売が明らかになっていることについて「特定の商品の大量購入など明らかに転売目的が疑われる状況でも免税で販売しているケースには同情の余地はない。適切な運用に向けた従業員教育の徹底が必要だが、販売する際にすべての不正を見抜くのは難しい面もある」とした上で「観光振興の観点から、今の制度はできていると思うが今後、税率が上がっても公平感が保てるのか、制度をつくる側が考える必要がある」と話しています。