日銀 長期金利の変動幅の運用を柔軟化 0.5%の上限超え容認

日銀は、28日まで開いた会合で金利操作の運用を見直し、これまで0.5%程度としてきた長期金利の変動幅の上限について、市場の動向に応じてこの上限を超えることも容認して金利操作をより柔軟に運用することを決めました。

植田総裁は記者会見で、金利操作にあたっては事実上1%を上限=キャップとする考えを明らかにしました。

賃金の上昇を伴う物価安定目標の達成に向け、大規模な金融緩和策の持続性を高めるねらいがあります。

日銀は、28日までの2日間、金融政策を決める会合を開き、短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度とするイールドカーブ・コントロールと呼ばれる大規模な金融緩和策の枠組みを維持しました。

その上で、金利操作の運用を見直し、これまで「0.5%程度」としてきた長期金利の変動幅の上限について「0.5%程度をめど」としより柔軟に運用することを決めました。

これにより市場の動向に応じて長期金利が0.5%を超えることも容認する形となります。

そして10年ものの国債金利について1%の利回りでの金融市場調節を行うとしました。

これについて植田総裁は記者会見で「長期金利が1%まで上昇することは想定していないが、念のための上限、キャップとして1%とした」と述べ、今後、金利操作にあたって事実上1%を上限=キャップとする考えを明らかにしました。

日銀は国債を大量に市場から買い取って金利を抑え込んでいますが、今後は変動幅の上限を柔軟に運用することで金融緩和策の持続性を高めるねらいがあります。

また、日銀は28日の会合にあわせて3年間の物価見通しを公表し、今年度の生鮮食品を除いた消費者物価指数の見通しは、政策委員の中央値で、前の年度と比べてプラス2.5%と、前回・4月に示したプラス1.8%から引き上げました。

一方、2024年度はプラス1.9%と前回より引き下げ、2025年度については、前回と同じプラス1.6%としています。

日銀は賃金の上昇を伴った2%の安定的な物価上昇には至っていないとして、大規模な金融緩和を継続する姿勢を示していますが、足元の物価が日銀の想定より上振れて推移する中、市場では、今回の決定は日銀がさきざきの正常化に向けた地ならしだという見方も出ています。

鈴木財務相 “物価安定に向け努力することを期待”

鈴木大臣は28日夕方、財務省内で記者団の取材に応じ「具体的な金融政策については日銀に委ねられるべきだが、今回の決定は、YCC=イールドカーブ・コントロールの運用を柔軟化し、金融緩和の持続性を高めるものだと受け止めている。日銀には引き続き、政府との連携のもと、物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて努力することを期待している」と述べました。

また、日銀の植田総裁が記者会見のなかで、今回の決定は為替市場の変動も含めて考えていると説明したことについて、鈴木大臣は「為替相場は基本的にはファンダメンタルズ=基礎的要件に沿って決められていくと思っている。今回の決定が今後どのように為替市場に影響を与えてくるかということは、コメントを控えたい」と述べるにとどめました。

専門家の見解は

東京・千代田区にある「三菱UFJ銀行」の為替のディーリングルームでは日銀の決定を受けて外国為替市場が荒い値動きになると、担当者が状況の確認や顧客からの問い合わせなどの対応に追われました。

「三菱UFJ銀行」の井野鉄兵チーフアナリストは「日銀が決定した内容は若干のサプライズだと思いますし、受け取りようによっては事実上の利上げといっていいと考えている。これまで円安傾向だったがそのあたりを抑制する狙いがあったのではないか」と話しています。

そのうえで「日銀は長らく金融緩和策を続けてきたが、それをやめていく布石の一端だと受け止めている。ただ、明確に金融引き締めに向かっていくということが現時点では見えたといえないと考えているし、そこまではしばらく時間がかかるのではないかと思う」と話しています。

また、日銀の発表を受けて、日本国債の長期金利は一時、9年ぶりの水準にまで上昇しました。

日本国債を取り引きする都内の証券会社のディーリングルームでは、日銀の発表後、投資家からの注文が相次ぎました。

担当者たちはモニターにうつしだされる金利の動向などを注視していました。

「みずほ証券」の大森翔央輝チーフデスクストラテジストは「今回の日銀の決定は大きなフレームワークを変えず今後さらに拡大の余地を残すというジャンプではないが、重い一歩といえる判断だったと思う。一方で、債券市場は一時、金利が大きく上昇したが、その後落ち着いているので、市場から見れば実際の対応がどうなるのかまだわからず、様子見となったのではないか」と話しています。

そのうえで今回の日銀の決定を受けた住宅ローンなどへの影響については、「住宅ローンなどは短期金利に影響されるため、これまでの金利の動向をみていると、大きな影響はないのではないか。今後の日銀の判断や海外投資家の動向などに注目したい」と話しています。

ロンドン市場でも驚き

日銀が金利操作をより柔軟に運用すると発表したことはロンドン外国為替市場でも驚きをもって受け止められましたが、円相場は落ち着いた値動きとなっていて1ドル=139円台前半での取り引きとなっています。

日銀がきょうまで開いた金融政策を決める会合で、金利操作をより柔軟に運用することを決めました。

東京外国為替市場では円相場が一時、1ドル=141円台まで値下がりし、その後、円を買い戻す動きが出て1ドル=138円台前半まで円高が進む荒い値動きとなりました。

28日のロンドン外国為替市場でも、投資家のあいだで日銀の決定は驚きをもって受け止められましたが、落ち着いた値動きとなっていて1ドル=139円台前半での取り引きとなっています。

市場関係者は「日銀の決定は驚いた。投資家のあいだでは、イールドカーブ・コントロールという金利操作の枠組みの事実上の撤廃に向けた動きが始まったという受け止め方も少なくない」としたうえで「発表内容がわかりにくかったため、トレーダーの多くが戸惑い、荒い値動きとなったのではないか」と話していました。

また、別の市場関係者は、「日銀の決定は円買い要因だが、アメリカ経済の回復が力強いことから、ドルも買われやすく、一方的に円が買われる展開にはなっていない」と話していました。

経済部 市原将樹デスクに聞く 今回の決定をどう見る?

Q.日銀の今回の決定、改めてどういう内容なんでしょうか。

A.シンプルに言うと、2%の物価目標の達成に向けて粘り強い金融緩和を続けていくための運用を見直すという内容です。

こちらは、「イールドカーブコントロール」と呼ばれる今の枠組みです。

短期金利はマイナス0.1%、長期金利は0%程度に抑える金融緩和策です。

ただ、日銀は長期金利を抑え込むために国債を大量に購入していて、市場機能への副作用も指摘されています。

そこで、長期金利はプラスマイナス0.5%までの変動を許容しています。

今回の決定では、市場の動向に応じてこの上限0.5%を超えることも認めています。

これまで以上に金利の上昇を許容し柔軟な対応を可能にしているわけです。

Q.この結果をどう見ますか。

A.今回、日銀は物価の見通しを上方修正しました。

これは最近の物価の高止まりを踏まえた対応とみられます。

植田総裁は先月、金融政策の枠組みの変更は「物価が上昇する合理的な確信が持てれば、十分な理由になる」と述べていますが、緩和の枠組み自体は維持したことから、まだ安定的な物価上昇には確信を持つことができていないと見られます。

ただ、物価が上昇すれば金利も上がる可能性もあります。

日銀は国債を購入して金利上昇を抑える手法を用いていますが、今の運用では長期金利が0.5%を超えそうになると国債の大量購入を迫られるなど、負担になる面もあります。

そこで、物価や金利の上昇に先んじて柔軟な対応を可能にし、金融緩和策の持続性を高めたい狙いがあるとみられます。

Q.市場の受け止めはどうでしょうか。

A.金利の上昇を許容するという点が強く意識され、荒い取り引きとなっています。

外国為替市場では、今後、金利が上昇し、海外との金利差が縮小するという見方から円を買う動きが強まっていて、円高ドル安が進んでいます。

また、株式市場では、金利上昇による景気への影響を懸念して株価は値下がりしています。

債券市場でも長期金利の上昇の動きが見られます。

しばらく状況を見極める必要がありますが、仮に円高や金利上昇が続けば、企業は輸出と輸入を通じてプラス・マイナスさまざまな影響が出てくることが考えられます。

また、貸し出し金利や住宅ローンなどが上昇する可能性もあります。

Q.今後の展開、注目点は?

A.最大の注目点は、日銀がいつ金融緩和の枠組み自体を転換し、正常化に向かうか、ということです。

欧米など世界各国が利上げを続ける一方、金融緩和策の維持を続ける日本は特異な状況です。

今回の見直しは、金融政策の正常化への第一歩、地ならしの意図があるという見方も出てくると予想されます。